膨らみ続ける日本の貿易赤字は、スマートフォンの輸入の急速な拡大が最大の原因である 〜10・0%増えた輸入のうち化石燃料の増加は僅か2・7%に過ぎず、一方スマホなど通信機の輸入は58・6%も増えた〜

 6月19日、財務省から、5月の貿易統計が発表され、9939億円の赤字となりました。この赤字は、5月としては過去最大のものです。円安などを背景に、輸出は非常に伸びたのですけど、しかし輸入もまた増えたために、このような巨額の赤字を計上することになりました。

 その詳細ですけど、中国(中国本土+香港)が、輸出・輸入ともに、相変わらずぶっちぎりでトップです。これは以前にも言いましたが、日本から香港向けの輸出というのは、その殆どは香港を経由しての中国本土向け輸出なのです。この5月に関しても、香港向けの輸出総額は、3398億円にのぼりまして、これはアメリカ向け輸出の実に3分の1に相当します。人口700万人しかいない香港に、アメリカ全土の3分の1にあたる需要がある筈もなく、だから香港向け輸出は、基本的に中国本土向けの輸出です。

 という訳で、それも含めて見ていきますと、日本から中国向けの輸出は極めて快調に伸びています。本土と香港を合わせた全中国向けの輸出は、1兆3863億円で、本土向けが8・3%、香港向けは実に36・1%と、驚異的な伸び率です。これはもちろん、円安に依るところもあるわけですが、しかしそれ以上に、中国の内需は非常に底堅い、ということです。というのも、輸出が30%以上伸びたところなど、香港以外ではベトナムしかないのです。ただ、ベトナムと香港では、金額がまるで違います。ベトナム向けの輸出は、871億円に過ぎません。そうである以上、香港を経由しての中国向け輸出の伸びこそが、まさに日本の輸出の伸びの最大の牽引役であるわけです。

 さて、問題は、輸出ではなく、輸入です。9939億円という巨額の赤字を計上した輸入の大幅な増加、この背景はいったい何なのか? それこそが最大の要であるわけですが、この日本の貿易赤字については、以前から、原発の稼働停止に伴う燃料コスト増ということが盛んに言われてきました。しかし実は、これは大したことはないのです。化石燃料総体を金額で見ても、昨年同時期からはたった2・7%しか増えていないのです。当時と比べて、為替は20%以上円安になっている以上、相応に燃料の買い付けコストも増して、輸入額が大幅に増えていてもおかしくないのに、しかし増加は、僅か2・7%に過ぎないのです。何故か? 実は、懸案の天然ガスなどは、昨年同時期と比べると、輸入量そのものは、9・8%も減っているのです。だから、化石燃料総体で見ても、2・7%の増加にとどまっているのです。

 その一方で、すべての物品を通した全体の輸入額は、昨年同時期からは、10・0%も増えています。それを考えると、たかが2・7%に過ぎない化石燃料の輸入増は、極めて抑制されたものである、というのが真実です。だから、化石燃料の増加分などは、円安効果と中国経済の拡大による輸出の伸びで、完全に吹き飛ぶようなものなのです。

 では、いったい何がこんなにも日本の輸入を増やし、赤字を拡大させたのか? 答えは、通信機、要するに、スマートフォンです。この輸入額は、実に58・6%も増えており、財務省の計算による増減寄与度ランキングでも、通信機はぶっちぎりの1位なのです。ちなみに、2位は何かと言うと、これが半導体等電子部品です。だから、つまるところ、日本の貿易赤字の拡大は、これら電機機器の輸入の増加が、その最大の原因なのです。

 ちなみに、これらの電機機器、具体的にどこの国から輸入しているかというと、それはもちろん、中国、韓国、台湾などです。ところで、アジア諸国からのスマートフォンの輸入と言えば、真っ先に思いつくのはサムスンかもしれませんが、しかし、日本においては、アップルの製品こそ、最も普及しているのです。

 アップルと言えばアメリカの企業、というイメージでしょう。ところが、アップルの製品の日本への輸入は、アメリカからの輸入ではありません。アップルというのは、長年に渡り自社工場を一切持つことなく、ファブレスという製造工程のもとで、製品を作ってきました。一言でいいますと、アップルの製品というのは、中国で作られているのです。だから、アップルの製品を輸入することは、中国からの輸入、ということになるのです。

 通信機に関して、中国から日本への輸入は実に71・9%も増えていまして、これが輸入分の増減寄与度のトップ、また韓国、台湾などからの通信機の輸入がこれに続いて第2位です。

 そして、韓国、台湾からは、半導体等電子部品の輸入も増加しており、これが通信機に次いで増減寄与度の第3位となります。