たった10年間で日本の貿易の内容はまるで別の国のように変わっている、このことからもTPPと原発には反対すべき!

 昨日の日経平均株価は、前日の終値からマイナス1・39%下落し、1万1309円で取引を終えました。売買代金は1兆7834億円です。

 ちなみに、昨日は、北米・中南米の株価下落に始まり、その後アジア・太平洋地域でも軒並み株価が下落しました。更にその後、ヨーロッパ市場でも株価は軒並み下落し、北米・中南米・アジア・太平洋・ヨーロッパで、株価が上昇したのは、フィリピンだけです。

 何故こんなにも株価が下落したかと言いますと、主に2つあります。まず1つ目は、FRBです。アメリカのFRBは先月の29日と30日に開かれたFOMC(日本で言うところの金融政策決定会合にあたるもの)の議事録が公開されたのですが、それによると、昨年9月からFRBが行っているQE3と呼ばれる大規模な金融緩和に関して、そのリスクやコストを指摘する声が相次ぎ、当初は2014年末まで行うと見做されていたQE3について、これを前倒しでやめる可能性が示唆された、ということです。

 これは要するに、現在の世界的な株高は、アメリカの大規模な金融緩和による余剰マネーが各国市場に流入しているものなので、だからFRBが資金を引き揚げると、それに合わせて投機マネーも減る・・・という憶測なのですが、しかし、FRBが金融緩和するまでもなく先進国はどこも余剰マネーだらけでして、そのうえ、ここが重要なのですが、アジア太平洋の新興諸国は、今年に入って輸出も、生産も、消費も、すべて相当に伸びています。という訳で、現在の株高は、明らかに実需に根差したものなのです。しかも今後は、3月5日になされる中国の新指導部の正式発足を受けて、インフラ投資も一段と活発化する見込みで、投資の条件は揃い過ぎるほど揃っているのです。

 ところで、株価が下落したもう1つの理由は、CTAに関する情報にあります。昨年末にお伝えしたように、CTAというのは、金融工学の粋を集めたコンピュータのプログラムによってロボットが自動売買するという恐ろしいヘッジファンドですが、このCTAが清算に追い込まれるのではないか? という憶測が突如流れたのです。一部英米メディアでは報道もされまして、それを受けて昨日、CSの株式市場分析専門番組「ラップ・トゥデイ」では鎌田泰幸経済解説員がそれらの記事の分析を行ったのですが、それによると、この憶測は、どうにも根拠の乏しいものであり、本当かどうかよく解らない、というのが鎌田さんの見解でした。

 ちなみに、これを受けて、コモディティ市場も軒並み下落しました。原油などのデリバティヴ、更には金や銀などの鉱物資源までかなりの下落です。CTAというのは、これらコモディティにもポジションを取っていますが、しかし金や銀まで大幅に下落するというのはどうにも不自然です。

 現在の株式市場は、以前から申し上げているように、中国の全人代、そして日銀の次期総裁人事の人選という2つの大きなイベントを前に、ひたすら様子見ムードなわけですが、それは一方で、全人代で出てくる内容と日銀の総裁人事を見極めた後で有望株を買うために、ポートフォリオを整理すべく、一旦株を売っておきたいという空気に満ちている状況でもあります。投資家であれば、昨秋以降猛烈に上場してきた株について、ここで一度利益確定の売りを行い、そのうえで3月以降に予想される上昇相場に備えたいというのは、おそらく誰もが考えることです。

 そのような状況のなか、この根拠の極めて薄いCTAの清算説が流れるというのは、ヘッジファンドの特性を考えれば、当のCTA自身が意図的にリークしたものではないか、という疑念は拭えません。ワザと市場に対し悪影響を与える情報をリークして、売り局面を作る、そうして株価を一旦下落させたところで、後日、リークした当の本人たちが割安になった株を買い上げるというのは、ヘッジファンドの常套手段です。もちろん、CTAとは違う別の系列のヘッジファンドのリークかもしれませんが、いずれにしろ同じことです。そして、過去数年間における彼らヘッジファンドの手口を考えれば、間違いなく、今後の上昇局面で最大限の利益を上げるため、一旦意図的に売りの状況を作ったというのが真相ではないかと思います。

 ともかく、そういう次第ですので、昨日の東京市場の売買には、特に見るべき内容というのはありません。

 さて、ここからは、日本の貿易の内容の変換について見ていきたいと思います。実は、日本の貿易の内容は、20世紀と今とでは、まるで別の国のように違うものになってきているのです。

 かつて、日本にとって最も重要な貿易相手は、アメリカでした。そしてそれは、業種別で言えば、自動車です。昨日レポートした、「中国向け輸出の真実について、紋切型同盟は伝えないけど日中間の貿易の真実はこういうことになっている」という稿でもお伝えしたように、かつての日本の貿易といえば、アメリカを相手に自動車を売る、それが最も多額の黒字を稼ぐ手段でした。

 このことは、21世紀に入って最初の年である2001年の統計を見ても、アメリカ向けの輸出は群を抜いて高く、そしてその内訳も、自動車の比率が最も高くなっています。

 しかしその後、中国が急速に成長し、貿易総額において、アメリカを抜きました。昨日の稿でお伝えしたように、日本から中国向けの輸出は、機械・素材・部品こそが主力であり、自動車の占める割合は、低いのです。ちなみに、これは重要な復習となりますが、日本と中国との貿易のキーは香港であり、実のところ、日本から香港向けの輸出は、香港経由での中国向け輸出であって、そして、この香港経由中国向け輸出においても、機械・素材・部品こそが重要であるという内訳は、なんら変わるものではありません。

 そして、これも重要な復習になりますが、中国(+香港)向け輸出は、今年は大幅に伸びるのです。もちろん理由は、中国経済の回復どころか、その大幅な拡大に依ります。そのことが解りきっているからこそ、昨秋以降、東証において、機械・素材・部品メーカーの株価は、急上昇しているのです。

 しかし、それだけではありません。機械・素材・部品が主要な輸出品というは、台湾・韓国向けの場合も同様であり、更には、ASEAN向けでの同様です。

 一方で、アメリカ向け輸出は、依然として自動車が主力です。

 さて、貿易戦略を考える場合、当然ながら具体的な金額が重要になってきます。2011年と2012年は、南欧債務危機、また中国政府による4兆元の景気対策の反動などから、世界全体の景気が悪くなり、中国その他が大量の過剰在庫を抱えてしまったことが日本の輸出低迷の最大の原因であるわけですが、現在、中国などはこの過剰在庫が急激に生産に投入されており、更にその後見込まれる経済の拡大に併せて、今後は輸出の伸びが見込まれているわけです。だからこそ日本からの輸出も拡大基調に移行するわけで、そのため、かつてとの比較においては、不況だった2011年と2012年ではなく、2010年の統計を用います。この統計と、2001年の統計を比較すると、非常に興味深いことが解るのです。

 そこで、一口に機械・素材・部品といっても、それは具体的には、原動機・分離機・建設機械・鉄鋼・繊維・ゴム(タイヤ)・化学製品、など色々あるわけですが、残念ながら、正確な金額の比較はできません。というのも、たとえばゴムですが、この製品の場合、2010年の統計では、「ゴム製品」としてちゃんと金額が書いてあるものの、しかし2001年の統計では、ゴムは「ゴムタイヤ・チューブ」となって、製品別ではなんと「その他」に分類されているのです。また繊維にしても、2010年の場合、「繊維用糸・繊維製品」「繊維機械」などとあるのですが、2001年の場合は、「繊維及び同製品」のなかに纏められているだけです。財務省がこのへんの区別をどのようにしているのか解らない以上、正確な金額が出せません。但し、詳細に観察したところから、どの程度伸びているかというのは概算で解ります。

 そうして見てみると、これら機械・素材・部品というのは、10年間の間で、物凄く伸びています。それはもちろん、2001年以降、中国をはじめとするアジア向けの輸出が、物凄い勢いで増加したことによるものです。

 ちなみに、部門別の輸出総額の推移は正確には出せないものの、一方で、国別・地域別の推移は正確に解ります。そして、アメリカ向け輸出とアジア向け輸出では明らかに内容の違いがある以上、この国別・地域別の金額の推移を通して、「自動車から機械・素材・部品へ」という、日本の貿易の中身がいかに変わったかが、よく見てとれると思います。まず、以下は、2001年における、アメリカ向け輸出の総額と黒字額、それと、アジア向け輸出の総額と黒字額です。

     2001年
   アメリカ向け輸出   14兆7110億円  
         黒字額    7兆0395億円
    アジア向け輸出    19兆7321億円
         黒字額    1兆7450億円

 次に、以下は、2010年における、アメリカ向け輸出の総額と黒字額、それと、アジア向け輸出の総額と黒字額です。

      2010年
    アメリカ向け輸出   10兆3739億円
         黒字額    4兆4625億円
    アジア向け輸出    37兆8274億円
         黒字額   10兆3162億円

 お解りいただけたでしょうか? 2001年から2010年の間に、アメリカ向けは、輸出が4兆3371億円減り、黒字も2兆5770円減っているのです。概算では、輸出と黒字、共に3分の2に縮小しています。

 一方で、アジア向けはどうでしょうか? アジア向けの場合、2001年から2010年の間に、輸出は18兆9530億円増え、黒字も8兆5712億円増えているのです。伸び率で言うと、とりわけ黒字は強烈に伸びており、およそ10年間の間に、10倍近く増えています。

 しかも、中国やAEAENの成長は、これまで何度でも申し上げてきたように、これからが本番です。これらアジア新興諸国の成長も、これまでのものは所詮プレリュードに過ぎず、20億社会は、いよいよこれから、本格的な成長期を迎えようとしているのです。そして、だからこそ、これらの地域への主要は輸出品である、機械・素材・部品などの株価が、猛烈に上昇しているのです。

 つまり、日本の貿易の内容は、21世紀に入ってからというもの、それ以前の20世紀とは、まったく変わったのです。

 いいですか? ただでさえ貿易総額でアメリカを抜き世界一の貿易大国になった中国は、2020年までには、GDPでもアメリカを追いぬくのです。また、AEAENにしても、とりわけ成長著しいベトナムインドネシア・フィリピンのいわゆるⅤIP3ヶ国だけで、これも2020年には中間層が現在の7倍になると見込まれているのです。無論、タイやマレーシアなども、同様に物凄い勢いで成長しています。

 そうである以上、2020年までの間に、日本がこれらアジアの新興諸国から稼ぐ黒字額は、いずれ20兆円規模になるものと推察されます。また、そうであるならば、今後数年間における日本の最大の成長産業は、疑いなく、機械・素材・部品などです。

 一方、アメリカ相手には、かつてのような黒字は到底望むべくもない情勢です。

そうである以上、どうしてTPPに参加する必要があるのでしょうか? TPPには、ISD条項により公的医療制度や共済が危機に曝され、また遺伝子組み換え食物により食の安全が脅かされるという面が大きいわけですが、貿易の面から見ても、TPPに参加する理由などどこにもありません。TPPは、実質的には、殆ど日本とアメリカとの自由貿易協定です。衰退する一方のアメリカと自由貿易を結ぶ理由などないのです。

 ちなみに、貿易黒字に関してはこのような次第ですが、では貿易赤字についてはどうなのでしょうか? 言うまでもなく、日本の赤字の主要な要素は化石燃料の輸入です。そして、この化石燃料については、福島の事故以降、原発の稼働停止に伴い、天然ガスの輸入額が急増しており、これが日本の貿易赤字を膨らませる要因になっている、だから原発を再稼働すべきだと、大手メディア・経済学者・金融アナリストなどの紋切型同盟は盛んに言っております。しかし、本当にそうなのでしょうか? 本当にそうなのかというのは、つまり、福島の事故が起こる以前は、化石燃料の輸入は増えていなかったのか? ということです。以下は、2001年から2010年における、化石燃料の輸入額の推移です。

   2001年   8兆5236億円
   2010年  17兆3989億円

 一方、次は、話題に上がっている天然ガスの輸入額の推移です。

   2001年   1兆5939億円
   2010年   3兆4718億円

 という訳です。天然ガスも、そして化石燃料全体でも、福島の事故などに関係なく、その輸入額は、過去10年間で、猛烈に増えているのです。しかし、それにより、日本の貿易収支は悪化したのでしょうか? 以下は、貿易収支の推移です。

   2001年   6兆5637億円の黒字
   2010年   6兆6346億円の黒字

 見ての通り、殆ど変っていないのです。という訳で、このことから、化石燃料、とりわけ天然ガスの輸入増を理由に、これが日本の貿易収支を圧迫しているという論理は、まったくデタラメであることが解ります。

 つまり、21世紀に入ってからの日本というのは、化石燃料輸入の増加分を、アジア向け輸出の増加で相殺してきたことが、はっきりと解ります。ちなみに、以下は、2001年から2010年における、化石燃料輸入の増加額と、アジア向け輸出の増加額です。

    化石燃料輸入増加額       8兆8573億円
    アジア向け輸出の黒字増加額   8兆5712億円
 
 ご覧の通り、金額的には殆ど同じことが解ります。このことからも、先程申し上げたこと、21世紀に入って以降の日本というのは、増大する化石燃料の輸入コストを、アジア向け輸出の黒字の増大により相殺し、そうしてファイナンスしてきたことがはっきりと読み取れるわけです。

 そうであれば、日本の進むべき道筋は明らかです。黒字に関しては、機械・素材・部品などのメーカーが、今後更にアジアの新興諸国からいくらでも稼いでくれます。一方で、福島の事故があろうとなかろうと増大していたに決まっている化石燃料の輸入に関しては、再生可能エネルギーの技術・省エネの技術、などの輸出により、ファイナンス出来ることは間違いありません。

 大気汚染というのは、中国だけの問題ではありません。中国の後を追いかけて成長を続けるASEANにとっても、この問題はいずれ付きまとうものですが、そもそも、このような環境汚染といえば、高度成長期の日本にもありました。いわゆる公害というやつです。但し、中国やASEANは、人口が日本とは比較できないほど多いため、その分深刻さも増すわけですが、一方で、20世紀の日本は、この問題を技術開発により自力で解決したのであり、しかも技術はいまもって世界一です。

 これらの技術は、確実にアジアの新興諸国から黒字を稼げるものです。そうであるならば、中国・ASEANとしては、日本の技術で環境汚染が改善されて良かったねえ、日本とすれば、これらの技術で黒字を稼げて良かったねえ、おまけに脱原発までやっちゃって良かったねえ・・・と、すべて良いではありませんか。