東京オリンピックは、中国や欧米の富裕層による資産運用の場を化している

アベノミクスというのは、リフレ政策によってつまるところ不動産ブームを起こそうとしているわけであり、2013年の年初から、日本の不動産市場は、とりわけ中華圏の富裕層たちの間で熱い視線を注がれ、また欧米ヘッジファンドも日本の不動産への注目は高いものがありました。

ところで、日本の不動産に対する注目と言ってもその大部分は東京であり、この東京の物件に対する外国人投資家の関心は、2020年東京オリンピックの開催決定により益々加速する次第なのです。

日本においては、東京オリンピックを景気回復の起爆剤に、などという声が盛んに聞かれますけど、しかし東京オリンピックによる経済効果というのは具体的にどういうものなのかというと、建設業界においては東京オリンピックの決定が資材価格の高騰や労働力不足を招き、それにより公共インフラ事業の入札も不調になるなどの例が見られ、実体経済へに対してはむしろマイナスなのではないか、という声も聞かれるほどです。

それに対し、不動産投資に関しては話が別で、これは益々過熱する一方となっています。とりわけ、香港・台湾・シンガポール・中国本土の投資家からは熱い視線で注がれ、この東京オリンピックで儲けようと意気込む例が実に数多く見受けられるのです。

週刊ダイヤモンド』2014年1月18日号は、これについて大々的な特集を組みました。この特集号によると、まずマンション(億ション)ですが、この利回りについて、日本と中華圏では大きな格差があり、中華圏の利回りがおよそ「1・0〜3・0%」であるのに対し、日本は実に「5・0〜5・5%」もあり、なので中華圏の投資家にとって、日本のマンション(億ション)利回りは大変魅力的に映るのだそうです。

また、利回り以外でも、商業用ビルなどを含めた各不動産の値上がりを期待したキャピタルゲイン狙いで、大量の資金を東京の不動産に振り向ける動きが活発化しています。それにしても、何故彼らはここまではっきりと値上がり期待を持てるのでしょうか? 『週刊ダイヤモンド』によれば、「日本人の中には東京の不動産市況の底打ちですら懐疑的に見ている人々が救くない」のに対し、「アジアの富裕層の方が日本の不動産を楽観視していて」、とりわけ「東京五輪に対する期待感は日本人よりも大きく、基本的に20年まで不動産価格は上昇していると確信している」というのです。

更に、日本在住の中国系不動産会社幹部の言葉として、次のような見解が引用されています。

「北京では10年くらい前から高齢化のせいで不動産価格が下がると言われ続けたけど、都市への人口流入は減らず、不動産も高騰したまま。日本も同じ。東京は人口が減っていない。(中略)五輪が決まったのだから、下がるはずがない」。

このように、東京の不動産市場について非常に強気なのですが、これには勿論、東京オリンピックに加えて、アベノミクスによるリフレ政策があります。日銀は2%の物価目標が達成され、しかも2%で常時安定が見込めるまで現行の金融緩和を続ける、と明言しています。これまでデフレだったものがインフレになり、そこにオリンピックが加わることで、世界の主要都市のなかで最も駄目な不動産市場だった東京が、一気に注目度としてナンバーワンに躍り出たのです。このナンバーワンというのは比喩ではなく、アーバンランド・インスティテュートというところの調査によって、東京の期待度は本当に第1位になっているのです。

さて、中華圏の投資家という場合、多くは民間の富裕層であるわけですが、しかし彼らだけでなく、中国政府も東京の不動産への投資にはとても意欲的です。これは何も、政府系ファンドだけではありません。ここ最近、欧米メディアにおいては、中国政府や中国共産党の高官が、タックスヘイブンを通して資産を外国にプールしているという記事が注目を浴びていますが、政府系ファンドにしても、彼らはしばしば偽名を使って投資してきます。この東京の不動産への投資にしても同様で、彼らは実名が出ないようなかたちで東京の不動産の購入を行っているわけです。

一方、欧米勢も黙ってはいません。リフレ政策と東京オリンピックへの期待というのはもちろん欧米勢も共有していることであり、『週刊ダイヤモンド』によると、米投資ファンドのなかでは、フォートレスが1500億円超、セキュアード・キャピタルも1500億円超、更にローンスター、グリーンオーク・リアルエステート、GEキャピタル・リアルエステート……、など具体的なファンド名や金額まで記してあります。

しかし通常の投資ファンドだけでなく、超富裕層の資産管理などを行うファミリーオフィスも、東京の不動産に目をつけ、このファミリーオフィスを通して超富裕層の資産がヘッジファンドへと解り、そうしてヘッジファンド経由で超富裕層の資産が大量に東京の不動産や日本株に流れ込んできているのだそうです。

記事によると、ロックフェラーをはじめ、超富裕層のファミリーオフィスが、昨年9月以降、相次いで来日しているそうなのですが、9月といえば東京オリンピックの開催が決まった時期であり、そうである以上、これらの資産が狙っているのも、実物の不動産、及び不動産株であると予想されます。

という訳で、本来スポーツの祭典である筈の東京オリンピックが、中国政府高官やロックフェラーなど主要国の富裕層たちによる資産運用の場と化している、というのがここまでの状況なのです。

ところで、前回申し上げたように、先週後半突如として始まった日本株の下落に関して、業種別で特に目立って下落幅が大きいのは不動産・銀行・保険であるわけで、そして不動産と銀行というのはセットですが、ここに来て何故これらの業種が最も下落しているのか、その正体についての重要なヒントがここには隠されています。

ヘッジファンドの情報に詳しい関係筋によると、ここに来て、東京都知事選に関する問い合わせがかなり殺到しているそうなのですが、有力候補の細川元首相は、立候補する以前の段階において、東京オリンピックの開催に反対していました。立候補した後ではこれを引っ込めて、環境に最大限に配慮し、且つコンパクトなオリンピックというコンセプトを打ち出していますが、細川氏が当選した場合、東京オリンピックの運営に関して、猪瀬元知事のときから方向転換というのが予想されます。しかし、具体的にどうなるかというのは未知数であり、そうなると、これは市場において様々な思惑を呼び、売り買いに影響を及ぼすのには十分です。

一方で、細川候補には小泉元首相が強力にバックアップしていて、当選した暁には両者相俟って、安倍政権に強くプレッシャーをかける方針でいます。田中秀征氏がロイターのインタビューで言及しているように、細川都知事誕生となると、自民党内で安倍おろしが始まるという話もあります。そうなると、アベノミクスが掲げるリフレ政策そのものも方向展開があるのではないか、という憶測は当然流れるでしょう。

しかしそれだけではなく、ダボスでの発言にあるように、安倍首相は中国との関係を悪化させる一方であり、欧米各国においては、尖閣諸島沖での軍事衝突発生の懸念が急速に膨らんでいます。仮に尖閣有事となると、中国勢による東京の不動産投資の巻き戻しが起こるのではないか、という連想が働いている可能性も否定できません。

但し、リフレ政策に関しては、これは実際には政府ではなく日銀が行っていることで、政策において日銀の独立性というのはいまだ担保されている以上、安倍政権が続こうか崩壊しようが、黒田東彦さんが総裁でいる限り、リフレ政策は継続されると考えるが普通です。また、細川候補に関しても、いまや東京オリンピックの開催そのものには反対しておらず、なので細川都知事が誕生したとしても東京オリンピックは開催される方向であることになんら変わりはないわけです。

ちなみに、この不動産や銀行セクターの下落に関しては、日銀による追加の金融緩和に対する期待の剥落、ということを言う市場関係者もいます。今年に入って間もない時期に日銀が追加緩和に踏み切るのではないか、という思惑は確かに市場にはあったのですが、しかし黒田総裁の発言を普通にチェックしているなら、年明けから暫くの間に日銀が追加緩和に踏み切るというのはあり得ないことであり、なのでこの材料はかなり強引という気がします。

それはさておき、ヘッジファンドとしては、顧客が東京の不動産への投資に対し非常に積極的であることは熟知しているわけですから、安倍首相の失言と東京都知事選が重なったことで、このタイミングを逃すものかとここぞとばかり投機的な空売りを連発している、という側面もあろうかと思われます。

もちろん、トルコやインドなど一部の新興国への不安というのはいまもって根強いものがあり、それが世界のマーケットを揺るがしている部分は否定できません。しかし、そんな中にあってもリターンを追求するのがヘッジファンドであり、そうである以上、ダボスでの安倍発言、そして東京都知事選と、日本は何かと話題が豊富ですので、これらを材料にしてここぞとばかり投機的な仕掛けを施してリターンを得ようとしている、という面は相応にあるのではないでしょうか。

つまり、典型的なマネーゲームであり、急落した後では急激な買戻しが入る、というわけです。