先週末、日経平均のPER(株価収益率)が、ついに野田政権時代の水準にまで低下。アベノミクスの失墜があらためて浮き彫りに

 先週、東京株式市場の取引終了後、重要な株価指標について、大変興味深い数字が出てきました。現在の株価が割高であるのか、それとも割安であるのか、これを判断するためには、「企業の利益に対し、現在のプライス(株価)がいくらであるか」、という点が重要となってきます。PER(株価収益率)というのがこれにあたり、相場において、非常に重要な指標となっています。

 このPERは、だいたい15・5〜16倍ぐらいだと、割高でも割安でもなく、株価にとってちょうど居心地のいい水準である、というのが世界的な常識です。

 さて、日経平均株価は3月になっても低迷を続け、先週またしても大幅に下落しました。この先週の終値が1万4224円だったのですが、問題はPERで、先週の取引終了の時点で、日経平均の予想PERはついに14倍を割り込み、13・94という数字を記録しました。PERが13倍台というのは、明らかに割安な水準です。つまり、日本株は売られ過ぎ、ということです。

 問題は、このPER13倍台という状況はいったいいつ以来か? ということなのですが、アベノミクス相場と呼ばれるものが始まって以降、PERがここまで低下したことはただの一度もありませんでした。日経平均のPERが13倍台というのは、13・80という数字を記録した2012年11月15日以来のことです。ところで、この2012年11月15日という日付は、まさに野田首相(当時)が衆議院の解散を表明し、それを受けて安倍氏が日銀に対し大規模な金融緩和を要求すると言いだして、アベノミクス相場と呼ばれるものの起点となった日付ということになっています。

 つまり、先週の取引終了において、日経平均株価は、ついに野田政権のとき以来となるPER13倍台という水準にまで落ちたことになります。

 これは、アベノミクスへの期待が完全に剥落したという以外のなにものでもありません。

 株価というのは先行きへの期待値で動きます。現状、日本の上場企業の業績は大変良く、史上最高益更新のところが続出しています。しかし、いまや相場において問題となっているのは、来年の業績です。

 4月から始まる消費税の増税によって、国内の消費が大幅に冷え込むのは目に見えているわけですが、そのようなことは、当然ながらマーケットは織り込み済みです。

 国内の売上が低迷しても、世界最大の市場である中国において売上を伸ばせるならば、国内の低迷など軽くチャラにすることができます。

 つい先日、クロネコヤマトが、中国郵政と提携し、中国全土で宅配サービスを開始すると発表しました。また昨日は、日産自動車が虎の子の高級車であるインフィニティについて、年内に中国での生産を開始するという報道が出ました。

 トヨタから資生堂カルビーなど様々な業種に至るまで、日本企業は中国での販売促進のため大攻勢に入ろうとしています。まともなら、来年更なる最高益更新は間違いないところです。

 しかし、そもそも1月下旬に始まった投機筋による日本株への攻撃、その端緒となったのはなんだったか? それはダボス会議において、中国との関係について問われた安倍首相が、あろうことか日中関係第一次大戦前の英独関係に譬えたことでした。これで、安倍氏に対する警戒感が高まり、東京市場は投機筋による激しい攻撃を受けることになったわけです。

 そして先週、ついにPERが14倍を割り込み、2012年11月15日以来となる水準にまで落ち込みました。

 アベノミクスの失墜はもはや明らかです。

原発ゼロの日本において、日立・東芝・三菱重工は、いずれも過去最高益を更新となった

東京都知事選もいよいよ投開票日が目前に迫ってきましたが、一方で、この都知事選の時期は、株式市場においては決算シーズンでもありました。脱原発が争点となるなか、原子力村の中核として知られた日立・東芝三菱重工の決算はいったいどのようなものだったのでしょうか? 昨年9月に大飯原発が停止して以降、日本全国で原発ゼロの状況が続いています。そうである以上、原発プラントメーカーとして知られたこれらの企業の決算はさぞかし悪かったと予想する人もいるかと思います。ところが、3社とも、決算の内容は素晴らしいものでした。日立・東芝三菱重工のいずれもが、連結営業利益、あるいは純利益で過去最高益を更新となったのです。

まず、このなかではトップバッターとなった東芝ですが、4−12月期の業績は連結営業利益が1553億円で過去最高益を更新。今後の動向次第では、更なる上昇修正も十分に見込める内容です。

さて、注目の電力・インフラ部門について、彼らはこのように記しています。

「国内の原子力発電システムや火力・水力発電システムは減収になったもの、太陽光発電システム、鉄道システム、自動車向け事業等の増収により、社会インフラシステム全体が伸長し、部門全体として増収となりました」。

「損益面では太陽光システム等が増収により増益となりました。一方、火力・水力発電システムは好調を維持したものの減益となり、海外の原子力発電システムが悪化した結果、部門全体として減益となりました」。

要するに、業績の足を引っ張っている原子力発電をやめて、増収増益の太陽光システム発電等に事業を集中すれば、東芝のこの部門の業績が大幅に好転することは明らかです。

そして、決算では触れられていませんが、実は東芝は、地熱発電設備では世界シェア1位なのです。また東芝は、省エネ家電の分野でも非常に高い競争力を持っています。企業の側が区分するセグメントではなく、省エネ・環境という項目で見ると、東芝がいかに脱原発の恩恵を受けるかがよく解ります。

1月26日付けの日経新聞電子版の記事によると、東芝の省エネ・環境関連製品の売上は絶好調であり、前年度は6700億円であったものが、今年度は1兆3000億円と倍増する見込みです。これだけの急成長というのは、まさに凄いの一言であり、そうである以上、原発をやめるという決断があるならば、東芝のこの分野はさらに飛躍的な成長を遂げることは間違いありません。

次に日立ですが、日立は今回、昨年秋に算出した業績を上方修正してきまして、2014年3月期の連結営業利益は5100億円となる見込みで、過去最高益更新が確実となりました。

ちなみに、この企業、かつてはテレビや電子レンジなどを盛んに売っていたので、総合電機というイメージが強いですけど、実はいまや日立は完全にインフラが事業の中核を成しています。情報通信インフラ、都市交通インフラ、建設機械、などが売り上げのかなりの部分も占めます。それと、半導体やハードディスクドライブなどの電子部品です。

インフラに関しては、新興国を中心にまさに成長産業の代名詞でもあり、また電子部品の分野も、エコカーによって自動車の電子化が進んでいるのでこちらも成長期待が高いです。

それと、日立といえば、再生可能エネルギースマートグリッド、省エネ、電気自動者向けのリチウムイオン電池及び充電システム、なども幅広くやっています。そして、高効率の天然ガス火力に関しては、つい先日三菱重工との事業統合を果たしたばかりで、こちらも成長分野。特に中国は、これら日立の技術は喉から手が出るほど必要としています。

という訳で、東芝同様、日立にも原発は絶対に必要ありません。というより、これだけ成長期待の高い事業をたくさん抱えている以上、投資家からの注目は非常に高いです。原発さえやらなければ、物凄い優良企業といえます。

最後に三菱重工ですが、今回三菱重工も業績の上方修正をしてきまして、三菱重工の2014年3月期の連結純利益は1500億円の見通しとなり、過去最高益更新が確実となりました。

注目のセグメント別の業績ですだけど、三菱重工の「エネルギー・環境」部門は、受注、売上、営業損益、いずれも前年同期を上回ります。特に受注に関しては、9376億円から1兆4000億円と大幅増となりました。何より火力プラント向けのガスタービン受注が、前期比で倍になり、業績に大きく貢献。

ちなみに、実は三菱重工風力発電の分野において日本でトップであり、しかもヨーロッパの風力発電の雄ヴェスタス(この企業は昨年1年間で株価が5倍になった)と業務提携をしており、風力発電を重要な成長分野と位置付けています。

勿論高効率の火力発電に関しては高い技術力を誇っており、この分野で日立と業務提携をはかり、火力プラントに特化した新会社を設立したというのは前述のとおりです。

さて、これら一連の数字から、日立・東芝三菱重工は、そのいずれもが脱原発の恩恵を大変大きく享受する企業であることは明らかです。株式市場は、当然このことを解っています。

細川元首相が東京都知事選への出馬を表明した1月なかば、株式市場では脱原発の恩恵を受けるとされる銘柄の物色が盛んにおこなわれました。その際、ジャスダックマザーズ市場でエナリスなどのベンチャー企業の株が急騰した一方で、これら伝統企業の株も買われたのです。

1月15日、ブルームバーグは、次のような報道をしています。

ガスタービン関連:日立製作所 (6501):前日比4.1%高の867円、三菱重工業 (7011)が4.8%高、川崎重工業(7012)が5.3%高など。脱原子力発電所を掲げ細川護煕元首相が東京都知事選への立候補を表明し、原発が争点の一つになる可能性が高まり、脱原発政策で恩恵を受けるとみられた」。

日本が脱原発を決定するなら、高効率の天然ガス火力、再生可能エネルギー、省エネ、これらが伸びることに疑いの余地はないので、そうである以上、これらの企業が脱原発の恩恵を受ける銘柄として物色されるのは至極当然です。

ちなみに、これらの企業、いずれも製品やシステムの輸出もしているので、だから最高益更新と言っても単に円安効果ではないのか? と見る向きもあるかもしれませんが、それは違います。このことは、ソニーやキャノンと較べるとよく解るのです。

ソニーもキャノンも、いずれも日本を代表する輸出企業ですが、しかしその決算はひどいものでした。まず昨年7月、まだワン・クォーターが過ぎただけであるにも拘らず、いきなりキャノンは通期の業績見通しを下方修正し、それを受けて株価は急落、これはマーケットにおいてキャノン・ショックと呼ばれました。

そして秋になると、今度はソニー・ショックが市場を襲います。ソニーはパソコンなどの家電、スマホなどの通信機器、ゲーム機、更には音楽・映画などのエンターテインメント事業など色々なことをやっていますが、そのすべての部門において業績の下方修正を発表したのです。更に今回の冬の決算はそこからさらに業績が悪化し、ついにパソコン事業の売却を余儀なくされました。

一方で、日立・東芝三菱重工は、ソニーやキャノンとは逆に、夏から秋に、そして秋から冬になるほど業績は上向くばかりで、そうして上方修正の連続となり、ついに過去最高益を更新となったのです。

ちなみに、自動車業界でも、トヨタマツダ三菱自動車富士重工などは過去最高益更新となる一方で、そうではないところもあります。商社でも、伊藤忠商事が最高益を更新した一方で、最大手の三菱商事三井物産などはそこまで行っていません。要するに、たとえ円安でも、駄目なところは駄目だし、良いところは良いのであって、すべては経営次第であり、重要なのは絶えざるイノベーションなのです。

日立・東芝三菱重工に関しては、おりしも、大飯原発が停止して、日本が原発ゼロになるとともに業績もドンドン上向いていった訳で、そうである以上、日立・東芝三菱重工は、まさに原発ゼロの恩恵を最大限に受ける企業であるということは、もはや明らかです。

日本株に対する投機筋の攻撃は益々激化、下落銘柄の数は歴代最多を更新する信じられない全面安

昨日、日経平均株価は、610円安という今年最大の下落となり、終値は1万4008円、かろうじて1万4000円台を保ったというところです。一方で、先物の方はもっと売られ、640円安の1万3920円となり、こちらは節目の1万4000円台をついに割り込みました。

一方で、東証一部における下落銘柄の割合は、歴代最多を更新しました。昨日、東証1部全体で上昇したのはたった13銘柄のみで、下落銘柄は実に1764銘柄を数えます。先週月曜に、リーマンショックやユーロ危機をも上回るレコードを記録したわけですが、昨日は更にそれを更新したことになります。

ところで、株価の水準を見定めるにはいくつかテクニカル指標があって、そのうちの1つに、200日移動平均からの乖離率というのがあります。これは、過去200営業日の全株価の平均値を算出し、現在の株価がこの平均値からどれだけ上昇しているか、あるいは下落しているかという乖離を示すものです。実はアベノミクス相場と呼ばれるものが始まった2012年11月以降、日経平均は過去に一度も200日移動平均を下回ったことがなく、常に200日移動平均より上の水準であったのですが、しかし昨日、アベノミクス相場が始まって以来初めて、ついにこの200日移動平均を割り込みました。

いったい、ここまで派手に下落する経済的要因が何かあるのか? というのが問題ですが、相変わらず、そのような要因はないのです。確かにトルコやインドといった一部の新興国は経済が減速していますが、しかし昨日、トルコの通貨リラはドルに対して久々に上昇し、またインドの株価指数も上昇したのです。にも拘らず、東京市場はレコード更新の全面安となったのです。これはどう考えてもおかしいと言わざるを得ません。経済要因では、とても説明のつかないほどの全面安です。

東証一部の売買代金は実に3兆6314円となりました。これは今年最大であり、それほどに巨大な売りが発生したことになります。

では、ここからは具体的に見ていきましょう。まずは業種別騰落率からです。言うまでもなく、33の全業種が下落したのですが、特に下落幅の大きかったのは以下の業種です。

非鉄金属   −7・20%
2機械     −6・29%
3ゴム     −6・15%
4鉄鋼     −6・12%
5建設     −6・09%

あえて言うなら、インフラ・設備投資関連にまつわる業種が多いという印象ですが、しかしそれがすべてでもありません。

さて、次に個別株ですが、これも明らかに常軌を逸した状態になっています。以下は、昨日の売買代金の上位3銘柄です。

ソフトバンク   3457億円
トヨタ      1003億円
3みずほ       806億円

1位がソフトバンクということ自体は、とりたてて珍しくありません。問題は、その代金です。ソフトバンクたった1銘柄で実に3457億円も集めているのです。これはいくらなんでも資金が集中し過ぎであり、どうかしていると言わざるを得ないのですが、その一方で、論理的には、この日ソフトバンクが異常なほど資金を集めた理由は説明がつきます。

というのも、昨日は東証1部上場およそ1800銘柄のなかで上昇したのはたった13銘柄に過ぎず、99%が下落という相場にあって、ソフトバンクは数少ない上昇銘柄の1つなのです。トヨタやみずほをはじめ、時価総額の大きな主力株は軒並み下落なのですが、そんななか、主力のなかではただソフトバンクだけが上昇したのです。それも、微増でなく、「2・08%」というしっかりした上昇です。

その一方で、何故ソフトバンクだけがしっかり上昇したのか、その理由はまったく解っていません。なんだか訳が解らないけど、ソフトバンクだけは上昇した、というのが偽らざるところです。

とにかく昨日は、訳が解らないまま、手当たり次第なんてもかんでもメチャクチャに売られた、という感じなのですが、そんななか、ソフトバンクだけは訳が解らず異様なまでに大量の資金を集めて上昇した、ということになります。

さて、最後になりますが、昨日は取引間終了後、トヨタパナソニック、日立という、まさに日本を代表する企業の決算発表があったのですが、いずれも、過去最高益を更新、ないしは通期での過去最高益更新が確実、という好決算でした。

日立に関しては、昨年の10−12月期は、国内の稼働原発ゼロ、新規原発建設ゼロ、外国の原発受注ゼロ、という原発ゼロ尽くめであったものの、しかしそんなことは関係なく、10−12月期の純利益は945億円となり、過去最高益をあっさり更新です。企業にとって原発は多大なリスクを伴う以上、業績面から見ても、日立は明らかに原発はやめるべきです。

ところで、過去最高益更新というのはなにもこの3社に限ったことではなく、輸出関連企業のなかにはいくらでもあるのです。それぐらい、好決算が続出しているにも拘らず、投機筋による猛烈な売りがとどまるところを知らないのが、現在の東京市場です。

アベノミクス、ついに終わりの始まりか? 日本株への投機筋の攻撃、収まる気配はまるでなし

1月23日から始まった株価の下落、いまだまったく収まる気配はなく、依然として東京市場は大混乱のさなかにあります。週明け初日の2月3日、日経平均株価は295円安の14619円となり、今年の安値を更新しました。ちなみに、市場関係者の間の多くは、昨年7月以降何度となく上値抵抗線となっていた1万4800円がいまや下値抵抗線であり、ここを突破して下落することはないのではないか、という意見がかなり多かったのですが、しかし節目とされた1万4800円の防衛ラインはあっさりと破られ、株価の下落はまったく歯止めがかかりません。そうである以上、先物の方はもっと値を下げ、1万45600円まで下げています。

これにより、年初からの日経平均株価の下げ幅は、ついに10%を超えました。

「世界中見渡しても、日本ほど株価が下落している国は見当たらない。これはもう異常事態です」。

投資間向けの番組「アクロス・ザ・マーケット」における岡村友哉さんの相場解説は、この言葉から始まりました。以前から申し上げているように、新興国不安からの世界的な株安と言いながら、実際のところ日本株の下落幅は突出しているのです。一方で、為替はそれほど動いていません。この3日に関しては、朝方102円を割り込んで101円台に突入したものの、しかし東京市場の取引が始まると若干ながら為替は円安方向へと動いたのですが、しかしそれにもかかわらず、株はひたすら売られるという始末だったのです。

「金曜日のナイトセッションを見ていた人なら解ると思いますが、為替とか関係なく、日経平均先物がバンバン売られるわけですよ」。

「東京の場合、メイン市場はもちろん昼の筈なんですが、しかし意志をもって動いているのは、このロウソク足が大きくなるのはナイトセッションの方で、こちらで大きくなっている」。

ヘッジファンドに関しては、夜間の取引で先物が下げると、もちろん日中は下げて始まることが予想されるわけですが、それを見越して利食いを狙って、積極的に日本株を崩そうとしている」。

以上はいずれも、岡村さんの解説ですが、もはや主体となっているのは完全にシカゴの先物市場などのナイトセッションで、そこでヘッジファンドが積極的に日本株を崩しに来ているとい見方、これは先日紹介した瀬川さんの見解、「東京株式市場は、投機筋の攻撃に曝されている」ということと一致します。

さて、先物主導で下げている以上、指数への寄与度の高いソフトバンクファーストリテイリングといった銘柄はどうしても下げがきつくなるのですが、こういう目立つ銘柄はこのような局面においてはとりわけ狙い撃ちされやすいものです。しかし、それはさておき、ここはまず冷静に、業種別騰落率を見てみましょう。全面安となった以上、33業種すべて下落したのですが、それにしても、特にどの業種が大きく下落したのか、それを知ることは相場を理解するうえでとても重要です。以下は、昨日の業種別騰落率の下落率の上位です。

 1証券・商品    −4・20%
 2その他金融    −4・13%
 3電気・ガス    −3・73%
 4情報・通信    −3・67%
 5倉庫・運輸    −3・05%

株価が下落すれば証券会社の株が売られるというのは誰にでも解ることで、これについて解説の必要はないと思いますが、しかしそれはさておき、見て解るように、見事なほど内需系の産業がズラリと並んでいます。新聞等では、トルコやインドなどの新興国不安から株価が下落していると言いますが、しかし新興国の経済の失速とこれら日本の内需産業がいったい何の関係がありますか? なかでも、地域独占の電力会社などまるで関係ありません。それ以外でも、日によっては不動産とか、保険とか、そういうところが下落率の上位に来るのが最近の相場なのです。

また、個別株で見ると、昨日は不動大手の三菱地所が、「−2・90%」、ゼネコン大手の鹿島建設が「−6・28%」と非常に大きく下落し、市場関係者の目を引きました。

つまり、メディアは新興国発の世界経済への不安と言いながら、実際のところは、不動産、保険、電力、倉庫、といった内需系の銘柄こそ最も下落幅が大きいのです。そして、言うまでもなく、これらこそはアベノミクスの恩恵を受けるとされる代表的なところです。

要するに、アベノミクス関連と呼ばれる銘柄こそ最も株価が下落している、というのが最近の相場の偽らざる姿なのです。

瀬川剛さんは、投資家向けの番組「マーケット・ストリート・ラップ・トゥデイ」において、次のように言いました。

新興国不安というのはきっかけに過ぎず、いま起きているのは日本固有の独自要因からで、それにより相場全体が自己崩壊をきたしている」。

そうなると、この一連の株価の下落は始まったのが、まさにちょうどダボスでの安倍首相の失言があった時期と一致するというのは偶然ですますことは出来ません。また、一方で、この一連の株価下落は、東京都知事選の公布の時期とも一致します。どれだけ関係があるかどうかはともかく、東京都知事選が公布し、選挙戦がスタートしたのと同時に、日本株に対する投機筋の攻撃もスタートした、ということになります。

そして既にご存知の通り、細川候補は、小泉元首相の後押しを受けて、何よりも国政を変えることを最大の主眼として選挙戦を行っているのです。既に元経済企画庁長官の田中秀征氏はおろか、第一次安倍内閣の経済ブレーンであった高橋洋一氏も、細川候補の原発ゼロの政策への支持を鮮明にするなど、国政改革、打倒・安倍の気運は高まりつつあります。

一連の株価急落の背景にいったい何があるのか? それはもちろん推理するしかないのですが、しかし繰り返しますが、アベノミクス関連と呼ばれる銘柄こそ、最も株価が大きく下落している、これは現在の相場の真実です。

市場参加者としては、あらゆる可能性を考慮する必要があります。「日本固有の独自要因から、相場全体が自己崩壊をきたしている」という瀬川さんの指摘、そしてそこを突かれて東京市場が投機筋の猛烈な攻撃に曝されているのなら、現在起こっていること、それはアベノミクスの終わりの始まりではないのか? これは頭に入れておく必要があるかと思います。

一方で、現在はちょうど決算シーズンでもあるわけですが、輸出関連を中心に業績は非常に良く、通期見通しの上方修正をする企業も続々と出ています。株価というのは結局のところ企業業績によって裏打ちされるので、そうである以上、日本株全体が崩れるということはまず考えられません。現在起こっている投機筋の攻撃は、ある特定の要因に端を発するもので、そしてそこで狙い撃ちされている象徴的な銘柄が、アベノミクス関連であるということです。

東京オリンピックは、中国や欧米の富裕層による資産運用の場を化している

アベノミクスというのは、リフレ政策によってつまるところ不動産ブームを起こそうとしているわけであり、2013年の年初から、日本の不動産市場は、とりわけ中華圏の富裕層たちの間で熱い視線を注がれ、また欧米ヘッジファンドも日本の不動産への注目は高いものがありました。

ところで、日本の不動産に対する注目と言ってもその大部分は東京であり、この東京の物件に対する外国人投資家の関心は、2020年東京オリンピックの開催決定により益々加速する次第なのです。

日本においては、東京オリンピックを景気回復の起爆剤に、などという声が盛んに聞かれますけど、しかし東京オリンピックによる経済効果というのは具体的にどういうものなのかというと、建設業界においては東京オリンピックの決定が資材価格の高騰や労働力不足を招き、それにより公共インフラ事業の入札も不調になるなどの例が見られ、実体経済へに対してはむしろマイナスなのではないか、という声も聞かれるほどです。

それに対し、不動産投資に関しては話が別で、これは益々過熱する一方となっています。とりわけ、香港・台湾・シンガポール・中国本土の投資家からは熱い視線で注がれ、この東京オリンピックで儲けようと意気込む例が実に数多く見受けられるのです。

週刊ダイヤモンド』2014年1月18日号は、これについて大々的な特集を組みました。この特集号によると、まずマンション(億ション)ですが、この利回りについて、日本と中華圏では大きな格差があり、中華圏の利回りがおよそ「1・0〜3・0%」であるのに対し、日本は実に「5・0〜5・5%」もあり、なので中華圏の投資家にとって、日本のマンション(億ション)利回りは大変魅力的に映るのだそうです。

また、利回り以外でも、商業用ビルなどを含めた各不動産の値上がりを期待したキャピタルゲイン狙いで、大量の資金を東京の不動産に振り向ける動きが活発化しています。それにしても、何故彼らはここまではっきりと値上がり期待を持てるのでしょうか? 『週刊ダイヤモンド』によれば、「日本人の中には東京の不動産市況の底打ちですら懐疑的に見ている人々が救くない」のに対し、「アジアの富裕層の方が日本の不動産を楽観視していて」、とりわけ「東京五輪に対する期待感は日本人よりも大きく、基本的に20年まで不動産価格は上昇していると確信している」というのです。

更に、日本在住の中国系不動産会社幹部の言葉として、次のような見解が引用されています。

「北京では10年くらい前から高齢化のせいで不動産価格が下がると言われ続けたけど、都市への人口流入は減らず、不動産も高騰したまま。日本も同じ。東京は人口が減っていない。(中略)五輪が決まったのだから、下がるはずがない」。

このように、東京の不動産市場について非常に強気なのですが、これには勿論、東京オリンピックに加えて、アベノミクスによるリフレ政策があります。日銀は2%の物価目標が達成され、しかも2%で常時安定が見込めるまで現行の金融緩和を続ける、と明言しています。これまでデフレだったものがインフレになり、そこにオリンピックが加わることで、世界の主要都市のなかで最も駄目な不動産市場だった東京が、一気に注目度としてナンバーワンに躍り出たのです。このナンバーワンというのは比喩ではなく、アーバンランド・インスティテュートというところの調査によって、東京の期待度は本当に第1位になっているのです。

さて、中華圏の投資家という場合、多くは民間の富裕層であるわけですが、しかし彼らだけでなく、中国政府も東京の不動産への投資にはとても意欲的です。これは何も、政府系ファンドだけではありません。ここ最近、欧米メディアにおいては、中国政府や中国共産党の高官が、タックスヘイブンを通して資産を外国にプールしているという記事が注目を浴びていますが、政府系ファンドにしても、彼らはしばしば偽名を使って投資してきます。この東京の不動産への投資にしても同様で、彼らは実名が出ないようなかたちで東京の不動産の購入を行っているわけです。

一方、欧米勢も黙ってはいません。リフレ政策と東京オリンピックへの期待というのはもちろん欧米勢も共有していることであり、『週刊ダイヤモンド』によると、米投資ファンドのなかでは、フォートレスが1500億円超、セキュアード・キャピタルも1500億円超、更にローンスター、グリーンオーク・リアルエステート、GEキャピタル・リアルエステート……、など具体的なファンド名や金額まで記してあります。

しかし通常の投資ファンドだけでなく、超富裕層の資産管理などを行うファミリーオフィスも、東京の不動産に目をつけ、このファミリーオフィスを通して超富裕層の資産がヘッジファンドへと解り、そうしてヘッジファンド経由で超富裕層の資産が大量に東京の不動産や日本株に流れ込んできているのだそうです。

記事によると、ロックフェラーをはじめ、超富裕層のファミリーオフィスが、昨年9月以降、相次いで来日しているそうなのですが、9月といえば東京オリンピックの開催が決まった時期であり、そうである以上、これらの資産が狙っているのも、実物の不動産、及び不動産株であると予想されます。

という訳で、本来スポーツの祭典である筈の東京オリンピックが、中国政府高官やロックフェラーなど主要国の富裕層たちによる資産運用の場と化している、というのがここまでの状況なのです。

ところで、前回申し上げたように、先週後半突如として始まった日本株の下落に関して、業種別で特に目立って下落幅が大きいのは不動産・銀行・保険であるわけで、そして不動産と銀行というのはセットですが、ここに来て何故これらの業種が最も下落しているのか、その正体についての重要なヒントがここには隠されています。

ヘッジファンドの情報に詳しい関係筋によると、ここに来て、東京都知事選に関する問い合わせがかなり殺到しているそうなのですが、有力候補の細川元首相は、立候補する以前の段階において、東京オリンピックの開催に反対していました。立候補した後ではこれを引っ込めて、環境に最大限に配慮し、且つコンパクトなオリンピックというコンセプトを打ち出していますが、細川氏が当選した場合、東京オリンピックの運営に関して、猪瀬元知事のときから方向転換というのが予想されます。しかし、具体的にどうなるかというのは未知数であり、そうなると、これは市場において様々な思惑を呼び、売り買いに影響を及ぼすのには十分です。

一方で、細川候補には小泉元首相が強力にバックアップしていて、当選した暁には両者相俟って、安倍政権に強くプレッシャーをかける方針でいます。田中秀征氏がロイターのインタビューで言及しているように、細川都知事誕生となると、自民党内で安倍おろしが始まるという話もあります。そうなると、アベノミクスが掲げるリフレ政策そのものも方向展開があるのではないか、という憶測は当然流れるでしょう。

しかしそれだけではなく、ダボスでの発言にあるように、安倍首相は中国との関係を悪化させる一方であり、欧米各国においては、尖閣諸島沖での軍事衝突発生の懸念が急速に膨らんでいます。仮に尖閣有事となると、中国勢による東京の不動産投資の巻き戻しが起こるのではないか、という連想が働いている可能性も否定できません。

但し、リフレ政策に関しては、これは実際には政府ではなく日銀が行っていることで、政策において日銀の独立性というのはいまだ担保されている以上、安倍政権が続こうか崩壊しようが、黒田東彦さんが総裁でいる限り、リフレ政策は継続されると考えるが普通です。また、細川候補に関しても、いまや東京オリンピックの開催そのものには反対しておらず、なので細川都知事が誕生したとしても東京オリンピックは開催される方向であることになんら変わりはないわけです。

ちなみに、この不動産や銀行セクターの下落に関しては、日銀による追加の金融緩和に対する期待の剥落、ということを言う市場関係者もいます。今年に入って間もない時期に日銀が追加緩和に踏み切るのではないか、という思惑は確かに市場にはあったのですが、しかし黒田総裁の発言を普通にチェックしているなら、年明けから暫くの間に日銀が追加緩和に踏み切るというのはあり得ないことであり、なのでこの材料はかなり強引という気がします。

それはさておき、ヘッジファンドとしては、顧客が東京の不動産への投資に対し非常に積極的であることは熟知しているわけですから、安倍首相の失言と東京都知事選が重なったことで、このタイミングを逃すものかとここぞとばかり投機的な空売りを連発している、という側面もあろうかと思われます。

もちろん、トルコやインドなど一部の新興国への不安というのはいまもって根強いものがあり、それが世界のマーケットを揺るがしている部分は否定できません。しかし、そんな中にあってもリターンを追求するのがヘッジファンドであり、そうである以上、ダボスでの安倍発言、そして東京都知事選と、日本は何かと話題が豊富ですので、これらを材料にしてここぞとばかり投機的な仕掛けを施してリターンを得ようとしている、という面は相応にあるのではないでしょうか。

つまり、典型的なマネーゲームであり、急落した後では急激な買戻しが入る、というわけです。

この1週間、安倍首相の楽観論とは裏腹に、東京株式市場は投機筋による猛烈な攻撃に曝されている

先週後半、突如として始まった株価の急落は、週が明けでもまったく歯止めがかからず、1月27日の月曜、日経平均株価は385円安の1万5005円で取引を終えました。一方で、先物はそれ以上に下落しており、日経平均先物終値は500円安の14940円と、1万5000円の大台を割り込んでいます。

東証1部は全面安の展開となり、値上がりしたのは僅か29銘柄で、実に1744銘柄が下落という恐ろしい事態になりました。1日でこれだけの銘柄が下落するというのは、統計上遡れる97年以降では最多であり、つまりこの下落銘柄の数は、リーマン・ブラザーズが破綻したときを更に上回るという異常事態で、歴代新記録を更新となりました。

東京株式市場に、いったい何が起こったのか? まずは時間軸に沿って見てみます。

1月23日木曜、朝9時半、このとき日経平均は1万5958円を付けていました。そこからひたすら右肩下がりで株価が下落し、それは週が明けても止まらず、木曜、金曜、月曜の3日間で、日経平均株価は実に1000円近く下落したことになります。

この要因として、市場関係者の殆どすべてが真っ先に言及するのが、アルゼンチンです。先週後半、アルゼンチン・ペソがドルに対して急落し、これでマーケットに動揺が走り、更にそこからブラジル、トルコ、インドなど複数の新興国への懸念が広がりました。これは確かにそうなのですが、しかしアルゼンチンは、かつてのギリシャポルトガルなどとはまったく性質が違います。ギリシャポルトガルの場合、小国とはいえその問題はユーロ圏全体に波及し、ユーロ崩壊の懸念まで浮上して市場を恐怖に叩き落したわけですが、しかしアルゼンチンの場合そのような懸念は必要ありません。また、他の幾つかの新興国への波及懸念といっても、2014年前半、新興国の経済が減速するだろうというのは既に昨年から散々言われてきたことであり、何をいまさら? という感じであるわけです。

この程度のことで、東証1部がユーロ危機やリーマンショックを超える全面安になるというのはいくらなんでもあり得ません。

アルゼンチン不安から生じたリスク回避の波が世界的に広がり、そうしてリスク回避の円買いが起こって円高になった、というのは確かに事実です。しかし、市場関係者の間では、金曜の時点において、円高の進展よりも株安の進展の方が明らかに大きい、ということが言われていました。そして週が明けてみると、事態はより鮮明になって、アルゼンチン・ペソの下落は既に下げ止まりました。それでも新興諸国の株価は下落しましたが、しかし震源地である新興諸国より、日本株の下落の方がはるかに大きいのです。

日本時間で夕方になるとヨーロッパの取引が始まるわけですが、市場は平静を保ち、ドイツもフランスも下落幅はマイナス0・4%程度の小幅なもので、これは更にその後マーケットが開いたニューヨークも同様です。

日本株だけが突出して下落している、これはいったいなんだ? 市場関係者の間では、段々このような気配が濃厚になりました。これは明らかにアルゼンチン発の新興国不安だけで下落しているのではない、日本株がここまで突出して下落するには何か日本特有の理由がある筈だ・・・、ということで理由探しになるわけですが、経済的要因からは、ここまで株価が下落するような要素は何もないのです。

そして1月29日水曜、一旦は大幅反発した日経平均ですが、しかし1月30日木曜になるとまたしても大きな売りが出て急落し、終値は1万5007円。先物に関しては現物よりも更に値を下げ、1万4940円と、再び1万5000円の大台を割り込みました。これは月曜とまったく同じ展開です。ちなみに、この日の売買代金は実に3兆0222億円にのぼる巨大なもので、それだけ大量の売りが出たことになります。

このように東京市場が大混乱しているさなか、1月30日、瀬川剛さんは投資家向けの番組「アクロス・ザ・マーケット」に出演した際、「東京市場は現在、投機筋の攻撃に曝されている」と明言しました。その理由は、空売り比率です。

「ここに来て、空売り比率が過去最多になってるんですね。昨日、株価が急反発したけれども、それでも空売り比率は全然下がらなかった。そしてこの空売り比率がまた今日も上がっている・・・」。

ちなみに、アルゼンチン発の新興国不安というのは週の半ばを過ぎても依然としてあるわけですが、しかし30日木曜を見ても、これまでと同様、日本株の下落幅は、震源地(とされている)新興諸国よりも突出しているのです。上海、香港、東南アジア、インド、これらの株価は大して下落しておりません。相変わらず、日本株の下落幅は突出して大きいのです。では、何故日本が投機筋から狙い撃ちされるのか? 瀬川さんは、その理由を次のように説明します。

東京市場が投機筋の強烈な攻撃に曝されている要因としましては、やはり昨年12月における楽観論ですよね。世界のマーケットのなかでも、年末時点で東京市場には過度な楽観論が広がっていましたので、その楽観論の修正というのが迫られ、それで狙われているということでしょう」。

ちなみに、昨年末、東京市場で過度な楽観論を振りまいたといえば、なんといっても安倍首相です。年末最後の取引日である大納会において、安倍首相は得意満面になって「アベノミクスは来年も買いだ」と演説したわけですが、そのような安倍首相の振る舞いに対し、「浮かれすぎだ」と強烈に批判をしたのが瀬川さんでした。

投資家向けの番組「マーケット・ストリート・ラップ・トゥデイ」に瀬川さんが今年最初に出演した際、真っ先に行ったのが、安倍首相を名指しで批判することだったのというのは以前お知らせしたことですが、あらためて引用しておきます。

「安倍首相は大納会の日に取引所に現れ、演説を行ったわけですが、いくらなんでも浮かれすぎですよ。そもそも、政府要人というものは、株式市場に対してあれこれと口先で干渉すべきではない。こういうことをされると、後でろくなことがないわけですよ。マーケットは政治から独立したものであり、政府要人が立ち入るべきものではありません。それよりも、ちゃんと政策を行うことが仕事でしょう。しかし、安倍首相はそれをやっていない。去年の6月成長戦略を出しましたが、これはハズしたわけです。それで、秋に成長戦略第2弾を出すということになったわけですが、しかし秋になってみるとなんら手を付けることなく、結局成長戦略は今年の6月へと先送りですよ。いわゆる岩盤規制と言われている既得権の分野について、本当に切り込む気があるのか? 安倍首相の動向からは、そのような姿勢はまったく見えてこないですね」。

つまり、現在東京市場が投機筋から受けている攻撃というのは、この過度な楽観論からの巻き戻しが起こっているという見立てになるわけですが、ところで、期待に働きかけるばかりで、あまつさえいたずらに過度な楽観論を振りまく安倍首相は、実際の改革はひたすら先送りに終始し、成長の道筋をなんらつけてこなかったばかりか、先日ダボス会議においては致命的な大失態を行いました。

1月23日木曜、ダボスの地において記者から中国との関係について尋ねられた安倍首相は、日中の関係を第1次大戦前の英独関係に譬えました。この発言は欧米の記者たちを恐怖に陥れるのに十分であったわけですが、しかし安倍首相の失言はこれで収まらず、ダボスで収録されたCNNのインタビューの中でも、まるで中国との開戦を決意したかのような発言をしたのです。そして24日金曜、国会の開幕と併せて行われた施政方針演説では、あらためて中国を名指しで批判し、そのうえで集団的自衛権の行使を説きました。

ところで、東証1部の売買代金は6〜7割がヘッジファンドなどの外国人投資家であり、日本株が下落するときはほぼ間違いなく外国人による売りがなされているのですが、実は今年に入ってからというもの、外国人投資家は日本株をずっと売り越しているのです。東証が発表する数字によると、1月第1週、第2週ともに外国人投資家は売り越しであり、そして先週後半の相場を見れば、おそらく第3週も売り越しが確実です。それにも拘わらず先週の水曜まで株価が底堅く推移してきたのは、ひとえにNISA(小額投資非課税制度)のスタートに伴い、日本の個人マネーが株式市場に流入してきたからに他なりません。しかしそれでも、外国人投資家から大量の売りが出れば、とても国内の個人マネーで支えられるものではありません。

では、いったい何故外国人投資家は今年に入って以降、日本株をずっと売り越しているのか? クリスマス過ぎまでは外国人投資家も旺盛に買いを入れていたのです。年末年始に何かあったのか? 年末といえば、安倍首相による靖国参拝がありました。この靖国参拝は、明らかに相場を動かす材料になります。

昨年6月末、日本政府はニューヨークでヘッジファンド向けにカンファレンス(投資説明会)を行ったのですが、実はその会場において、投資情報会社のパルナッソス・インベストメント・ストラテジーズと週刊ダイヤモンド編集部がヘッジファンド・マネージャーにアンケートを行いました。テーマは、株価下落のリスクとは何か? というもので、FRBの金融政策から中国のシャドーバンキング問題など色々な回答があったのですが、日本固有の要素として、安倍の靖国参拝というのが第3位にランクされたのです。

これはつまり、安倍が靖国に参拝した場合日本株を売る、と考えているヘッジファンド・マネージャーが少なからずいることを意味します。これは当時『週刊ダイヤモンド』が記事にしたのですが、それとは別に、パルナッソス・インベストメント・ストラテジーズによると、ヘッジファンド・マネージャーにおいては安倍政権の外交政策への注目後が高く、もし日本政府がこれ以上中国・韓国との関係を悪化させるようなら即座に日本株を売却する、と公言する大物ヘッジファンド・マネージャーもいるそうなのです。

そうなると、株価の大幅下落のスタートが1月23日であった以上、この時期行われていたダボス会議での安倍首相の大失態に注目しないわけにはいきません。

普通に観察するなら、安倍首相は尖閣諸島沖での軍事作戦に向けてまっしぐらに見えます。日本の首相は本気で中国と交戦するつもりなのか、ヘッジファンド・マネージャーがそう受けとったとしても、不思議ではありません。彼らがそう受け取ったなら、間違いなくここぞとばかりに日本株を売るでしょう。歴代新記録となる全面安になるとしても、頷くしかありません。

しかしその一方で、本気で中国と交戦するつもりなのか? そんなことをしても日本には何の得もない、その代わりマイナスは計り知れないほど大きい、そんなバカなことを日本の首相がやるか? ヘッジファンド・マネージャーがそう疑ったとしても、それもまた当然というものでしょう。つまり、日本の政治について、訳が解らない、ということになってくるわけです。

冷静に状況を観察すると、国会は始まったばかりで、公明党の動向もあり、集団的自衛権がどうなるかは不透明です。訳が解らないとなると、とりあえず売ってあとは様子を見よう、そう判断することもあり得ます。

という訳で、ヘッジファンドは既に尖閣諸島沖での軍事衝突を織り込んだ、とも想定できるし、訳が解らないからとりあえず売って後は様子を見ている、とも受け取れるし、東京の人間は何が起こっているのか解らず混乱しているようだからこの機会を利用し空売りで仕掛けている、という把握も出来ます。実際のところは、まったく解りません。

現在、東京市場が大混乱しているということ、それは明らかな事実であり、しかもその原因は正確に特定できないのです。1月30日、午後の相場の解説の際、岡崎良介さんは、次のようなことを言いました。

「現在マーケットで起こっていることはなかなか理解できないものです。いったい何が起こっているのか、自分の目でどうやって確かめていいのか解らない。わたしはどちらかというと、人の意見を鵜呑みにして儲けるということをしてこなかったものですから、こういう時こそ、自分で、解る範囲で、とにかく理解できるところまで詰めてみる、それが重要だと思います」。

この岡崎さんの姿勢は、とても誠実です。一般的な見解を鵜呑みにせず、本当のところ何が起こっているのか、とにかく自分で調べられるだけは当たってみる。これは相場に対するときだけでなく、芸術や科学など、あらゆる領域で大切なものであり、それは常に批判精神をもって臨むということです。

くどいようですが、アルゼンチン発の新興国不安ということだけでない、なにか日本固有の要素が働いて、それで東京市場が投機筋からの強烈な攻撃に曝されているのは間違いないのです。

たとえば為替ですが、昨年10月以降、ドル円相場は、アメリカの10年債利回りのチャートと実に綺麗な相関関係で動いてきました。アメリカの10年債利回りが上昇すると、それと並行してドル円のチャートも上昇し(それは即ち円安になるということです)、そうしてこの二つは見事な相関のもとで動いてきたのですが、しかしこの相関がここに来て当てはまらなくなっています。

1月後半になって、アメリカの国債が急速に買われて、それによりアメリカの10年債利回りが急低下しています。これはつまり、新興国への不安から新興国国債を売って、それを(安全資産と言われる)アメリカ国債に切り替える、という動きです。併せて、新興国通貨を売って、それを(安全通貨と言われる)日本円に切り替える、ということで円高になる、というのがいわゆるリスクオフの円高というものです。

それで、確かに1月23日以降、為替は円高方向に触れてはいますが、しかしそれは決して急激なものでありません。これが、アメリカの10年債利回りとドル円チャートの乖離としてあらわれているのです。アメリカの10年債利回りが急低下しているのに対し、ドル円のチャートはそれほど崩れていないのです。そうして、円高方向とは言いながらドル円はそれなりに底堅く推移しているのに対し、株価の方はそうではなく、日経平均は明らかに崩れています。

業種別騰落率も注目に値します。一連の株価下落の最大の要因が、本当に新興国不安による世界経済の先行きへの懸念であるならば、こういった場合、何よりも下落するのは海運株です。海運株というのはとことん世界市況次第で、世界貿易が活発化するという見通しなら買い、逆ならば売り、とはっきりしています。ギリシャやスペインによるユーロ危機の際にも、全業種中で最も下落幅が大きかったのは海運です。

ところが、今回海運はそこまで大きくは下落しておらず、先週後半に始まる一連の急落において、最も派手に下落しているのは、不動産・銀行・保険、といった内需セクターなのです。1月30日木曜、不動産の下落率は全業種を通じて最大でした。アルゼンチンやトルコやインド、これらの国の通貨の下落、これらの経済の減速が、いったい日本の不動産市場と何の関係があるというのでしょう? 殆ど関係ないです。しかし、最も下落が著しいのは、このセクターなのです。

ところで、不動産・銀行・保険といえば、これらこそまさにアベノミクス銘柄です。アベノミクスや日銀のリフレ政策で最も恩恵を受けるところはどこか? という問いに「不動産」と答える市場関係者をこれまで実に数多く見てきました。その不動産こそが最も強烈に下落しているという事実、それを考えれば、今回の株価の急落、今回の投機筋による攻撃、その背景にあるものがいったい何なのか? それは明らかではないでしょうか。一連の安倍首相の言動が、相場に一定の負の連鎖を招いているのはほぼ間違いないと思われます。

しかし、事態はそう単純ではありません。更にここに、東京都知事選に絡む思惑も交錯しています。それについては、次回詳細をお伝えいたします。

歴史的大相場の真実 〜東電が沈み、代わってソフトバンクが日経平均の絶対エースへと浮上した〜

11月12日、突如として始まった歴史的な株高は、その後もヘッジファンドなど外国勢の資金流入が相次ぎ、そうして11月28日、日経平均株価終値は1万5727円となり、ついに5月に付けた高値を上回って、およそ半年ぶりに高値を更新するに至ります。ところで、高値更新といっても、相場環境は5月のときとはまるで違うのです。とりわけ、まったく違うのが原発をめぐる状況です。その一方でこの時期、日本株は急速に中国株との連動性を強めました。その他諸々を含め、詳細をご報告いたします。

2012年11月に始まった株高について、大手メディアではアベノミクスへの期待によるものといわれましたが、しかし実際のところはそうではなく、過去数年におけるアメリカ経済の低迷、中国のインフレ、ヨーロッパの債務危機などにより、投資マネーが円に避難してきて猛烈な円高になっていたところ、中国経済の状況が好転し、ヨーロッパの債務危機も底を打ち、更にFRBの大規模な金融緩和もあって、世界経済回復への期待から、円に逃げてきた投資マネーが元に戻り、そうして行き過ぎた円高が是正されたことにより、それまで売られ過ぎていた銘柄が買い戻される、という自然な株高でした。

ところが、3月になって、日銀の新総裁に黒田東彦さんの就任が決まって以降、状況が変わります。俗に「黒田バズーカ砲」とも言われる異次元緩和の発動を受けて、さあアベノミクスの始まりだ、と言わんばかりに、株式市場は急速に過熱感が増していき、そうしてまずは不動産株が、次いで電力株が、過剰に買われるという状況になります。

そして5月になると、日本株上昇の最大の牽引役は完全に東電となります。このあたりから、東電株が異様な活況を呈するようになり、東電が1日の売買高、売買代金の双方でトップとなることが当たり前になり、日によっては、東電株だけで東証1部全体の実に1割の資金を集めることもあるというバブル的な状況となりました。

しかしこの相場は、5月22日、FRBバーナンキ議長の発言を皮切りに終わります。5月23日、日経平均は崖から落ちるような急落となるわけですが、しかしそれは日本株だけではなく、6月途中まで、世界中で株が売られまくるという、世界同時株安の局面となったわけです。

一方で、6月に発表された安倍政権の成長戦略は、結局のところ官僚が作った作文に過ぎず、そうしてFRB発の世界同時株安に、成長戦略への期待の剥落、という事態が重なり、かくして4月4日に始まったバブル相場は完全に終焉します。

とはいえ、当局の政策とは別に、世界経済回復への見通しは強く、そのため、日経平均もその後再び上昇基調に転じます。言うまでもなく、ここでの上昇は、世界経済回復への期待から成る自然な株高です。但し、この株価の上昇はかなり膠着感を伴うものであり、日経平均は1万4800円台まで上昇すると下落し、そうしてある程度下落すると買い戻されるというジリジリした状況が続いたのですが、11月12日、突如としてグローバルマクロと呼ばれるマクロ系のヘッジファンドから大量に先物買いが入ったのを皮切りに、そのまま急上昇して一挙に新高値を更新しました。

この11月12日からの上昇局面において、最大の牽引役を果たしたのはソフトバンクです。5月、東電に大量の資金が集まったのと同じような感じで、この11月はソフトバンク株が大量に買われました。特に売買代金に関して、ソフトバンクは突き抜けたものがあり、一気に日本株のエースに浮上した感じです。株式時価総額ではメガバンク最大手の三菱UFJを抜いて、トヨタに次ぐ2位となるなど、とにかくソフトバンクの躍進が目立ったのです。

そのソフトバンクですが、この銘柄の特色としては、まず第一に本業の情報通信があり、そして第二に中国関連銘柄であり、そして第三に太陽光発電など次世代インフラ関連銘柄、ということになります。情報通信ということに関しては、もはや説明はいらないでしょう。2番目の中国関連ということですが、現在中国ではスマートフォンの急速な普及に伴い、電子商取引の分野が急激に成長しています。その最大手がアリババというところなのですが、ソフトバンクはこのアリババに対し、およそ36%出資しているのです。その為、市場ではアリババの動向を材料にソフトバンク株が買われることが結構多いのです。また、孫正義社長は、「死んでも原発には反対」と公言しているように、徹底的な脱原発論者であり、太陽光発電に対して積極的な投資を行っていますが、それだけではなく、最近は、産業向け燃料電池の輸入ビジネス、更には電気自動車の充電支援なども手掛けるようになっています。

孫社長が、太陽光で発電した電気と、電気自動車を、自社のスマートフォンを使うことで発電や充電の情報をすべて管理できるシステムを構築させようとしていることは明らかで、更にそこに燃料電池も加わるなど、情報通信の技術を生かして、次世代インフラの大規模な構築を狙っているものと思われます。このようなビジネスモデルは、政府の政策支援があるならば、今後飛躍的な成長が見込まれることは確実です。

5月の高値局面と決定的に違う最大の部分はここです。とにかくこの時期、東証1部において、ソフトバンクが圧倒的な主役となりました。

その一方で、東電は完全に沈没した恰好です。5月は売買高、売買代金ともに1位が当たり前だった東電は、この時期になるとすっかり影が薄くなり、いつの間にかベストテンからも完全に姿を消しました。業績から見ると、これは非常に対照的なことになっていまして、というのも、5月の時点で東電の業績は非常に悪く、当然ながら赤字でした。にも拘らず、原発の再稼働なんて出来るのか? という疑問を尻目に、東電株は訳の分からないバブル的な上昇にあったのです。一方、この11月になると、東電は久しぶりに黒字を達成しました。ところが、マーケットはこの東電の黒字達成に殆ど反応することなく、日を追うにつれて東電の影は薄くなっていったのです。

このことは、株価にも明確に表れています。5月において、東電株は一番高いところで841円を付けたのですが、しかしその後は低迷を続けます。11月28日、日経平均は5月の高値を超えたのに対し、28日の東電株の終値は546円と、低迷が著しいです。

一方、ソフトバンクはどうかというと、5月22日の終値が5730円だったのが、その後グングン上昇し、11月28日、ソフトバンク終値は実に8430円を記録します。日経平均の上昇率をはるかに上回る、圧倒的なパフォーマンスです。

ちなみに、時価総額1位のトヨタは、過去最高益も視野に入るほど業績が良く、なので7月以降、株価のパフォーマンスもそれなりのものがあるのですが、しかしソフトバンクのパフォーマンスは、そのトヨタを完全に上回っているのです。1月から11月まで、というタームで見ると、当時トヨタの株価上昇率が59%であるのに対し、ソフトバンクの上昇率は、実に164%にのぼるのです。

という訳で、市場においては、ソフトバンクこそ日本株の絶対エース、という評判が急速に広がりました。それぐらい、ソフトバンクの評価は高いです。

ソフトバンクを率いる孫社長に対する株式市場の信頼は絶大なものがあり、アクティビスト(物言う株主)として世界的に有名なヘッジファンド、サード・ポイントのダニエル・ローブ氏も、孫社長の経営手腕を絶賛しています。

一方、電力株ですが、低迷したのは東電だけではありません。たとえば、伊方原発再稼働へと動いている四国電力と、川内原発再稼働へと動く九州電力、これも東電ほどではないにしても、株価はまったく戻っていません。四国電力九州電力の場合、高値は4月だったのですが、四国電力に関しては、4月の高値2140円に対し、11月28日の終値は1627円、九州電力は、4月の高値1660円に対し、11月28日の終値は1320円です。いずれも、株価は完全にアンダーパフォームの状態です。

このように、再稼働しなければ業績改善など見込めるべくもない電力会社が低迷する一方で、プラント輸出という手段のある日立、東芝三菱重工は、俄かに注目を集めています。

ところで、これらのプラントメーカー、春の時点では、マーケットの評価は決して高いものではありませんでした。むしろ、コア・ビジネスがはっきりしない、今後どの事業を柱にして稼いでいこうとしているのか解らない、という理由で、市場関係者の評判は悪かったのです。ところが、この11月になって、これらの銘柄は売買高ランキングのベストテンにしばしば顔を出すようになり、日経平均が高値を更新した28日は、3社そろって、売買高ランキングのベストテンに入りました。とりわけ注目度が高いのは日立です。この日、日立は売買高において、ソフトバンクトヨタに次ぐ3位となり、日立株は非常に活況を呈します。

ちなみに、これらの企業、実はいずれも、再生可能エネルギーなど次世代インフラにおいて非常に高い技術を持っているのです。

あまり知られていないかもしれませんが、三菱重工風力発電の日本最大手です。三菱重工は、風力発電におけるヨーロッパの雄ヴェスタス(この企業は、去年一年間で株価が5倍になった超優良企業)と業務提携していて、風力発電を重要な成長分野と位置付けています。そうして、各国において風力発電の積極的な事業展開を行っています。東芝は、地熱発電の設備で世界シェア1位です。この方面で圧倒的な技術的優位性を持っていて、各国で地熱発電事業を受注しています。日立は、総合的なインフラ・ビジネスで非常に強く、サステナブルなインフラ事業という観点から、投資家の注目度は三菱重工東芝を凌ぎます。だからこそ、日立株はここまでの活況を呈しているのです。

一方で、相変わらず強いのが、海運株です。以前から何度も申し上げているように、2012年秋に始まった日本株上昇において、業種別で最大の牽引役を担ってきたのはこの海運であるわけですが、その海運株はこの11月28日も強く、業種別騰落率で、全業種中、ぶっちぎりの1位となりました。

海運株の上昇の要因ははっきりしていて、どの会社の決算を見ても、中国の鉄鋼石需要の増大に伴い、ドライバルク船の運賃が急回復して、それが業績に大きく貢献した、と明確に書いてあります。

ちなみに、ソフトバンクだって、アリババを通して中国関連でもあるわけですから、要するに、個別銘柄で見ても、業種別で見ても、中国経済拡大の恩恵を受けているところほど株価の上昇が目立つ、という図式になります。

その一方で、最も低迷しているのが、化石燃料絡みです。2012年11月からの1年間において、株価成績が最も悪いのが鉱業で、そしてワースト3位が石油・石炭なのですが(ちなみに、鉱業というのも石油関連です。国際石油開発帝石がその代表格となります)、日経平均が新高値を更新した11月28日も、これらの株は売られまして、業種別騰落率で下落率の1位が鉱業、2位が石油・石炭でした。

2013年、世界のマーケットにおいては、石油が儲かるスーパーサイクルの時代が終わった、ということが盛んに言われました。JPモルガンやドイツ銀行など欧米の主力銀行は、この2013年、原油現物取引から続々と撤退しています。石油業界は世界的に低迷しており、それが東京市場でも如実にあらわれている恰好です。

これは、深刻な大気汚染に悩む中国の政策転換と、アメリカにおけるシェール革命、この2つが最大の要因と言われています。

一方で、日本株全体はこの時期、中国株との連動性を急速に深めます。28日、日経平均株価が久し振りに高値を更新したと思ったら、その翌日には、香港ハンセン指数と、更には香港ドル建ての深センB株指数が、相次いで年初来高値を更新したのです。

しかし、この連動性は既に11月半ばから見られたことで、11月15日に、外国人投資家による大量の買いが入って日経平均が一気に1万5000円の大台に乗り、週間ベースとしての外国人買いは先物と現物を合わせると歴代最高となる1兆7000億円を超える買い越しとなったのと同様に、15日は中国株も大幅高となり、更に週明け初日の18日月曜になると、中国本土企業によって構成される香港H株指数は、たった1日で5%以上も指数を押し上げたのです。

日本株と中国株の連動性はこれだけではありません。日経平均株価が新高値を更新した28日、最大の牽引役は海運とソフトバンクだったように、中国株においても、新高値を更新した29日、何よりも上昇したのは海運であり、更に情報通信にも大きな買いが入って大幅高となったのです。そして、買われたものが同じなら、売られたのも同じで、28日に石油関連が売られたように、中国においても、29日、石油業界において赤いメジャーとも呼ばれる国有企業の中国天然汽集団の株が売られました。

ちなみに、日本株と中国株は、実はそれ以前から連動していたのです。9月下旬から10月にかけて、欧米株は絶好調で、アメリカ、ドイツ、フランスなどは、続々と今年の高値を更新していました。一方で、日本株は1万4800円まで上昇してはそこから押し戻される、という展開が続き、また中国株も、3中全会が控えていることを受けて様子見気分が漂い、上値を追うという展開にはならなかったのです。このように、欧米株と較べると出遅れていたのが日中の株価なのですが、しかし11月半ばになって、突如として猛烈に上昇を開始したのです。

買われるようになった時期も同じなら、上昇の牽引役である業種も(更には売られる銘柄まで)同じである以上、この時期、ヘッジファンドなど欧米の投資家が、日本株と中国株をセットで買いに来たことはまず間違いないと思われます。

ところで、先日僕は、小泉元首相からアメリカ、中国共産党まで、すべてが連動しているのではないか、というポストをしましたが、11月19日、投資家向けの番組「アクロス・ザ・マーケット」では、中国共産党が発表したメガトン級の改革案について、SMBCフレンド証券の何紅雲さんが次のような発言を行いました。

「今回の中国の改革案は、日本の経済、日本の社会にとっても決して無縁ではありません。無視するにはあまりにもインパクトの大きいものです。だから日本は、絶対に無視してはならない」。

少なくとも、相場の状況だけを見るならば、何さんの発言は、この11月28日の時点において、完璧に的中していることになります。

ところで、海運ですが、11月28日、日経新聞電子版に、シェール革命による液化天然ガス(LNG)の輸出を受けて、今後日本の海運業界にシェール特需が訪れる、という内容の記事が掲載されました。これについては、決して憶測の記事ではなく、明確な論理的根拠を持つものです。というのも、海運業界は1980年代に世界的に再編が進んで、競争力を失いつつあったアメリカの海運業者はその時点でみんな撤退しているのです。その為、現在アメリカには大きな海運会社は一つもないのです。だから、アメリカから液化天然ガスを輸出する場合、日本の海運業者の出番となるのです。という訳で、日本の大手海運業者は今後大量に船の発注を行う計画です。日経電子版の記事は、次にように伝えています。

商船三井が現在約70隻のLNG輸送船を20年までに110隻に増やすほか、日本郵船は約70隻から100隻程度まで引き上げる。約45隻を運航する川崎汽船も20年までに20隻程度増やす方針だ。海運3社の増強数は合計で90隻程度になる」。

こうして、日本の海運業界にとっては、中国の鉄鋼石需要の増大に加えて、シェール特需まで加わることになるわけです。この記事が日経電子版に掲載されたのが28日のことですが、翌29日には、中国でも、中国交通当局が海運業の発展計画を政府に提出したことが伝わりました。日中両国において、新高値を更新したその日に、共にこのような報道がなされたというのは、決して偶然とは思えません。

そもそも、11月15日、中国共産党が3中全会の決定文を発表し、更にその後ルー財務長官と習近平総書記の会談が行われたその日に、ロシア議会が液化天然ガスの輸出自由化法案を可決する一方で、同じ日にアメリカのエネルギー省も液化天然ガスの輸出拡大の認可を出したというのが、決して偶然とは思えないように。

以上が、昨年11月に起こったことの見取り図です。

ちなみに、このような相場は、12月の上旬に入って一旦終了となります。12月半ばになると、FRBの金融政策の転換へと相場のテーマは移行するとともに、日本においては証券優遇税制の廃止とNISA口座のスタートが、そして中国では、暫く凍結されていたIPOの再開による需給悪化懸念、などの特殊要因が働いて相場の状況は変わるのですが、しかしこれらは実体経済や企業動向とは何の関係もない証券業界内部の特殊要因です。

ともあれ、以上見てきたように、11月、日本株は歴史的な大相場にあったのです。とりわけ、11月半ばにおけるヘッジファンドなど外国人投資家の買いは凄まじいものがありました。たった1週間の間に、現物と先物を合わせて実に1兆7千億円を超える買い越しとなり、東京証券取引所の歴代新記録を作ったのです。

果たしてこの相場は、今後いったいどうなるのか? 東京都知事選の結果次第では、新たな展開が生まれるでしょう。