歴史的大相場の真実 〜東電が沈み、代わってソフトバンクが日経平均の絶対エースへと浮上した〜

11月12日、突如として始まった歴史的な株高は、その後もヘッジファンドなど外国勢の資金流入が相次ぎ、そうして11月28日、日経平均株価終値は1万5727円となり、ついに5月に付けた高値を上回って、およそ半年ぶりに高値を更新するに至ります。ところで、高値更新といっても、相場環境は5月のときとはまるで違うのです。とりわけ、まったく違うのが原発をめぐる状況です。その一方でこの時期、日本株は急速に中国株との連動性を強めました。その他諸々を含め、詳細をご報告いたします。

2012年11月に始まった株高について、大手メディアではアベノミクスへの期待によるものといわれましたが、しかし実際のところはそうではなく、過去数年におけるアメリカ経済の低迷、中国のインフレ、ヨーロッパの債務危機などにより、投資マネーが円に避難してきて猛烈な円高になっていたところ、中国経済の状況が好転し、ヨーロッパの債務危機も底を打ち、更にFRBの大規模な金融緩和もあって、世界経済回復への期待から、円に逃げてきた投資マネーが元に戻り、そうして行き過ぎた円高が是正されたことにより、それまで売られ過ぎていた銘柄が買い戻される、という自然な株高でした。

ところが、3月になって、日銀の新総裁に黒田東彦さんの就任が決まって以降、状況が変わります。俗に「黒田バズーカ砲」とも言われる異次元緩和の発動を受けて、さあアベノミクスの始まりだ、と言わんばかりに、株式市場は急速に過熱感が増していき、そうしてまずは不動産株が、次いで電力株が、過剰に買われるという状況になります。

そして5月になると、日本株上昇の最大の牽引役は完全に東電となります。このあたりから、東電株が異様な活況を呈するようになり、東電が1日の売買高、売買代金の双方でトップとなることが当たり前になり、日によっては、東電株だけで東証1部全体の実に1割の資金を集めることもあるというバブル的な状況となりました。

しかしこの相場は、5月22日、FRBバーナンキ議長の発言を皮切りに終わります。5月23日、日経平均は崖から落ちるような急落となるわけですが、しかしそれは日本株だけではなく、6月途中まで、世界中で株が売られまくるという、世界同時株安の局面となったわけです。

一方で、6月に発表された安倍政権の成長戦略は、結局のところ官僚が作った作文に過ぎず、そうしてFRB発の世界同時株安に、成長戦略への期待の剥落、という事態が重なり、かくして4月4日に始まったバブル相場は完全に終焉します。

とはいえ、当局の政策とは別に、世界経済回復への見通しは強く、そのため、日経平均もその後再び上昇基調に転じます。言うまでもなく、ここでの上昇は、世界経済回復への期待から成る自然な株高です。但し、この株価の上昇はかなり膠着感を伴うものであり、日経平均は1万4800円台まで上昇すると下落し、そうしてある程度下落すると買い戻されるというジリジリした状況が続いたのですが、11月12日、突如としてグローバルマクロと呼ばれるマクロ系のヘッジファンドから大量に先物買いが入ったのを皮切りに、そのまま急上昇して一挙に新高値を更新しました。

この11月12日からの上昇局面において、最大の牽引役を果たしたのはソフトバンクです。5月、東電に大量の資金が集まったのと同じような感じで、この11月はソフトバンク株が大量に買われました。特に売買代金に関して、ソフトバンクは突き抜けたものがあり、一気に日本株のエースに浮上した感じです。株式時価総額ではメガバンク最大手の三菱UFJを抜いて、トヨタに次ぐ2位となるなど、とにかくソフトバンクの躍進が目立ったのです。

そのソフトバンクですが、この銘柄の特色としては、まず第一に本業の情報通信があり、そして第二に中国関連銘柄であり、そして第三に太陽光発電など次世代インフラ関連銘柄、ということになります。情報通信ということに関しては、もはや説明はいらないでしょう。2番目の中国関連ということですが、現在中国ではスマートフォンの急速な普及に伴い、電子商取引の分野が急激に成長しています。その最大手がアリババというところなのですが、ソフトバンクはこのアリババに対し、およそ36%出資しているのです。その為、市場ではアリババの動向を材料にソフトバンク株が買われることが結構多いのです。また、孫正義社長は、「死んでも原発には反対」と公言しているように、徹底的な脱原発論者であり、太陽光発電に対して積極的な投資を行っていますが、それだけではなく、最近は、産業向け燃料電池の輸入ビジネス、更には電気自動車の充電支援なども手掛けるようになっています。

孫社長が、太陽光で発電した電気と、電気自動車を、自社のスマートフォンを使うことで発電や充電の情報をすべて管理できるシステムを構築させようとしていることは明らかで、更にそこに燃料電池も加わるなど、情報通信の技術を生かして、次世代インフラの大規模な構築を狙っているものと思われます。このようなビジネスモデルは、政府の政策支援があるならば、今後飛躍的な成長が見込まれることは確実です。

5月の高値局面と決定的に違う最大の部分はここです。とにかくこの時期、東証1部において、ソフトバンクが圧倒的な主役となりました。

その一方で、東電は完全に沈没した恰好です。5月は売買高、売買代金ともに1位が当たり前だった東電は、この時期になるとすっかり影が薄くなり、いつの間にかベストテンからも完全に姿を消しました。業績から見ると、これは非常に対照的なことになっていまして、というのも、5月の時点で東電の業績は非常に悪く、当然ながら赤字でした。にも拘らず、原発の再稼働なんて出来るのか? という疑問を尻目に、東電株は訳の分からないバブル的な上昇にあったのです。一方、この11月になると、東電は久しぶりに黒字を達成しました。ところが、マーケットはこの東電の黒字達成に殆ど反応することなく、日を追うにつれて東電の影は薄くなっていったのです。

このことは、株価にも明確に表れています。5月において、東電株は一番高いところで841円を付けたのですが、しかしその後は低迷を続けます。11月28日、日経平均は5月の高値を超えたのに対し、28日の東電株の終値は546円と、低迷が著しいです。

一方、ソフトバンクはどうかというと、5月22日の終値が5730円だったのが、その後グングン上昇し、11月28日、ソフトバンク終値は実に8430円を記録します。日経平均の上昇率をはるかに上回る、圧倒的なパフォーマンスです。

ちなみに、時価総額1位のトヨタは、過去最高益も視野に入るほど業績が良く、なので7月以降、株価のパフォーマンスもそれなりのものがあるのですが、しかしソフトバンクのパフォーマンスは、そのトヨタを完全に上回っているのです。1月から11月まで、というタームで見ると、当時トヨタの株価上昇率が59%であるのに対し、ソフトバンクの上昇率は、実に164%にのぼるのです。

という訳で、市場においては、ソフトバンクこそ日本株の絶対エース、という評判が急速に広がりました。それぐらい、ソフトバンクの評価は高いです。

ソフトバンクを率いる孫社長に対する株式市場の信頼は絶大なものがあり、アクティビスト(物言う株主)として世界的に有名なヘッジファンド、サード・ポイントのダニエル・ローブ氏も、孫社長の経営手腕を絶賛しています。

一方、電力株ですが、低迷したのは東電だけではありません。たとえば、伊方原発再稼働へと動いている四国電力と、川内原発再稼働へと動く九州電力、これも東電ほどではないにしても、株価はまったく戻っていません。四国電力九州電力の場合、高値は4月だったのですが、四国電力に関しては、4月の高値2140円に対し、11月28日の終値は1627円、九州電力は、4月の高値1660円に対し、11月28日の終値は1320円です。いずれも、株価は完全にアンダーパフォームの状態です。

このように、再稼働しなければ業績改善など見込めるべくもない電力会社が低迷する一方で、プラント輸出という手段のある日立、東芝三菱重工は、俄かに注目を集めています。

ところで、これらのプラントメーカー、春の時点では、マーケットの評価は決して高いものではありませんでした。むしろ、コア・ビジネスがはっきりしない、今後どの事業を柱にして稼いでいこうとしているのか解らない、という理由で、市場関係者の評判は悪かったのです。ところが、この11月になって、これらの銘柄は売買高ランキングのベストテンにしばしば顔を出すようになり、日経平均が高値を更新した28日は、3社そろって、売買高ランキングのベストテンに入りました。とりわけ注目度が高いのは日立です。この日、日立は売買高において、ソフトバンクトヨタに次ぐ3位となり、日立株は非常に活況を呈します。

ちなみに、これらの企業、実はいずれも、再生可能エネルギーなど次世代インフラにおいて非常に高い技術を持っているのです。

あまり知られていないかもしれませんが、三菱重工風力発電の日本最大手です。三菱重工は、風力発電におけるヨーロッパの雄ヴェスタス(この企業は、去年一年間で株価が5倍になった超優良企業)と業務提携していて、風力発電を重要な成長分野と位置付けています。そうして、各国において風力発電の積極的な事業展開を行っています。東芝は、地熱発電の設備で世界シェア1位です。この方面で圧倒的な技術的優位性を持っていて、各国で地熱発電事業を受注しています。日立は、総合的なインフラ・ビジネスで非常に強く、サステナブルなインフラ事業という観点から、投資家の注目度は三菱重工東芝を凌ぎます。だからこそ、日立株はここまでの活況を呈しているのです。

一方で、相変わらず強いのが、海運株です。以前から何度も申し上げているように、2012年秋に始まった日本株上昇において、業種別で最大の牽引役を担ってきたのはこの海運であるわけですが、その海運株はこの11月28日も強く、業種別騰落率で、全業種中、ぶっちぎりの1位となりました。

海運株の上昇の要因ははっきりしていて、どの会社の決算を見ても、中国の鉄鋼石需要の増大に伴い、ドライバルク船の運賃が急回復して、それが業績に大きく貢献した、と明確に書いてあります。

ちなみに、ソフトバンクだって、アリババを通して中国関連でもあるわけですから、要するに、個別銘柄で見ても、業種別で見ても、中国経済拡大の恩恵を受けているところほど株価の上昇が目立つ、という図式になります。

その一方で、最も低迷しているのが、化石燃料絡みです。2012年11月からの1年間において、株価成績が最も悪いのが鉱業で、そしてワースト3位が石油・石炭なのですが(ちなみに、鉱業というのも石油関連です。国際石油開発帝石がその代表格となります)、日経平均が新高値を更新した11月28日も、これらの株は売られまして、業種別騰落率で下落率の1位が鉱業、2位が石油・石炭でした。

2013年、世界のマーケットにおいては、石油が儲かるスーパーサイクルの時代が終わった、ということが盛んに言われました。JPモルガンやドイツ銀行など欧米の主力銀行は、この2013年、原油現物取引から続々と撤退しています。石油業界は世界的に低迷しており、それが東京市場でも如実にあらわれている恰好です。

これは、深刻な大気汚染に悩む中国の政策転換と、アメリカにおけるシェール革命、この2つが最大の要因と言われています。

一方で、日本株全体はこの時期、中国株との連動性を急速に深めます。28日、日経平均株価が久し振りに高値を更新したと思ったら、その翌日には、香港ハンセン指数と、更には香港ドル建ての深センB株指数が、相次いで年初来高値を更新したのです。

しかし、この連動性は既に11月半ばから見られたことで、11月15日に、外国人投資家による大量の買いが入って日経平均が一気に1万5000円の大台に乗り、週間ベースとしての外国人買いは先物と現物を合わせると歴代最高となる1兆7000億円を超える買い越しとなったのと同様に、15日は中国株も大幅高となり、更に週明け初日の18日月曜になると、中国本土企業によって構成される香港H株指数は、たった1日で5%以上も指数を押し上げたのです。

日本株と中国株の連動性はこれだけではありません。日経平均株価が新高値を更新した28日、最大の牽引役は海運とソフトバンクだったように、中国株においても、新高値を更新した29日、何よりも上昇したのは海運であり、更に情報通信にも大きな買いが入って大幅高となったのです。そして、買われたものが同じなら、売られたのも同じで、28日に石油関連が売られたように、中国においても、29日、石油業界において赤いメジャーとも呼ばれる国有企業の中国天然汽集団の株が売られました。

ちなみに、日本株と中国株は、実はそれ以前から連動していたのです。9月下旬から10月にかけて、欧米株は絶好調で、アメリカ、ドイツ、フランスなどは、続々と今年の高値を更新していました。一方で、日本株は1万4800円まで上昇してはそこから押し戻される、という展開が続き、また中国株も、3中全会が控えていることを受けて様子見気分が漂い、上値を追うという展開にはならなかったのです。このように、欧米株と較べると出遅れていたのが日中の株価なのですが、しかし11月半ばになって、突如として猛烈に上昇を開始したのです。

買われるようになった時期も同じなら、上昇の牽引役である業種も(更には売られる銘柄まで)同じである以上、この時期、ヘッジファンドなど欧米の投資家が、日本株と中国株をセットで買いに来たことはまず間違いないと思われます。

ところで、先日僕は、小泉元首相からアメリカ、中国共産党まで、すべてが連動しているのではないか、というポストをしましたが、11月19日、投資家向けの番組「アクロス・ザ・マーケット」では、中国共産党が発表したメガトン級の改革案について、SMBCフレンド証券の何紅雲さんが次のような発言を行いました。

「今回の中国の改革案は、日本の経済、日本の社会にとっても決して無縁ではありません。無視するにはあまりにもインパクトの大きいものです。だから日本は、絶対に無視してはならない」。

少なくとも、相場の状況だけを見るならば、何さんの発言は、この11月28日の時点において、完璧に的中していることになります。

ところで、海運ですが、11月28日、日経新聞電子版に、シェール革命による液化天然ガス(LNG)の輸出を受けて、今後日本の海運業界にシェール特需が訪れる、という内容の記事が掲載されました。これについては、決して憶測の記事ではなく、明確な論理的根拠を持つものです。というのも、海運業界は1980年代に世界的に再編が進んで、競争力を失いつつあったアメリカの海運業者はその時点でみんな撤退しているのです。その為、現在アメリカには大きな海運会社は一つもないのです。だから、アメリカから液化天然ガスを輸出する場合、日本の海運業者の出番となるのです。という訳で、日本の大手海運業者は今後大量に船の発注を行う計画です。日経電子版の記事は、次にように伝えています。

商船三井が現在約70隻のLNG輸送船を20年までに110隻に増やすほか、日本郵船は約70隻から100隻程度まで引き上げる。約45隻を運航する川崎汽船も20年までに20隻程度増やす方針だ。海運3社の増強数は合計で90隻程度になる」。

こうして、日本の海運業界にとっては、中国の鉄鋼石需要の増大に加えて、シェール特需まで加わることになるわけです。この記事が日経電子版に掲載されたのが28日のことですが、翌29日には、中国でも、中国交通当局が海運業の発展計画を政府に提出したことが伝わりました。日中両国において、新高値を更新したその日に、共にこのような報道がなされたというのは、決して偶然とは思えません。

そもそも、11月15日、中国共産党が3中全会の決定文を発表し、更にその後ルー財務長官と習近平総書記の会談が行われたその日に、ロシア議会が液化天然ガスの輸出自由化法案を可決する一方で、同じ日にアメリカのエネルギー省も液化天然ガスの輸出拡大の認可を出したというのが、決して偶然とは思えないように。

以上が、昨年11月に起こったことの見取り図です。

ちなみに、このような相場は、12月の上旬に入って一旦終了となります。12月半ばになると、FRBの金融政策の転換へと相場のテーマは移行するとともに、日本においては証券優遇税制の廃止とNISA口座のスタートが、そして中国では、暫く凍結されていたIPOの再開による需給悪化懸念、などの特殊要因が働いて相場の状況は変わるのですが、しかしこれらは実体経済や企業動向とは何の関係もない証券業界内部の特殊要因です。

ともあれ、以上見てきたように、11月、日本株は歴史的な大相場にあったのです。とりわけ、11月半ばにおけるヘッジファンドなど外国人投資家の買いは凄まじいものがありました。たった1週間の間に、現物と先物を合わせて実に1兆7千億円を超える買い越しとなり、東京証券取引所の歴代新記録を作ったのです。

果たしてこの相場は、今後いったいどうなるのか? 東京都知事選の結果次第では、新たな展開が生まれるでしょう。