中国向け輸出の真実について、紋切型同盟は伝えないけど日中間の貿易の真実はこういうことになっている

 昨日は、財務省から今年1月の貿易統計が発表され、大幅な赤字となりました。しかし、このこと自体は事前に解りきっていたことであり、別に驚くにはあたりません。そしてまた、とりたてて深刻な事態でもないのです。

 何故これが深刻でないかということは、3兆5226億円もの巨額の赤字となった昨年の中国向け貿易の内容によります。間違いなく、今年は中国向けの輸出が大幅に改善します。①そもそも、何故昨年の対中貿易はこのような巨額の赤字となったのか? ②今年対中貿易収支が改善するというのは何故なのか? ③それ以前に、日本と中国の貿易というのは、根本的にどういう構造になっているのか? これらについて、一度明確に整理しておくことは極めて重要に思います。

 しかし、それについて詳細に論じる前に、まずは昨日の取引の内容から見ていきます。

 昨日の日経平均株価は、前日の終値からプラス0・84%上昇し、1万1468円で取引を終えました。ちなみに、売買代金は1兆8543億円です。中国の全人代、そして日銀の次期総裁人事の人選を控え、依然として様子見ムードは高いですが、しかしそれでもこの金額です。

 ところで、昨日のアジア市場は、すべての市場において株価が上昇するという、全面高となりました。最も上昇率が低かったフィリピンでも、「+0・42%」の上昇ですので、アジア新興国の成長力の力強さが如実に示されたかたちです。

 ただ、中国に関しては、全人代を控え、日本同様、どころかこっちの方がもっと様子見ムードは高いわけであり、また新指導部が現在住宅の投機的売買の取り締まりを強化していることもあって、金融・不動産株は苦戦しているわけですが、しかしこれは昨日申し上げたように、このような下落は良い下落です。一方、中国株もインフラ関連は非常に堅調ですので、問題はありません。

 さて、以下は、昨日の業種別騰落率の上昇上位5業種です。

   1パルプ・紙     +4・66%
   2電気・ガス     +4・28%
   3保険        +3・19%
   4石油・石炭     +2・33%
   5陸運        +2・29%

 まず、2位の電気・ガスですが、これははっきりと政治要因でして、民主党政権が掲げた2030年までに原発をゼロにするという方針を、自民党政権がはっきりと否定したことにあります。ちなみに、電力会社のなかでも、昨日の上昇率は、東電が抜きん出ていました。これは、あらゆる株価上昇のなかでも最悪のものです。

 一方で、1位のパルプ・紙と、4位の石油・石炭ですが、これらの業種というのは、昨日のみならず、ここ数日、上昇が目立っている業種です。ちなみに、ニューヨークの原油価格は、ここに来て日々乱高下しています。1バレル100ドルの手前、98ドルまで行っては下落し、そして下落しては98ドルまで上昇して100ドルを窺い、しかしそこでまた下落し、だけど・・・、というのを繰り返している状態です。金融商品の場合(原油というのも、金融商品です)、大台を前にすると、しばしばこういうことが起きます。中長期的には上昇基調なんだけど、とはいえ足元では上値が重い、というやつです。

 ちなみに、原油については、シェールオイルの動向がまだよく解らないことも、このような乱高下に拍車をかけていると言えます。つまり、全体としては原油は上昇傾向にあるのは明らかながら、一方でシェールオイルのビジネスの具体的な姿がいまいち見えて来ず、それにより中期的な上値が想定しづらいため、投機筋も価格を上げたり下げたりしながら状況を窺っている、というところです。ただ、資源に関しては、鉄鉱石・燃料炭・銅・鉛・ニッケル・・・・・・、その他すべて軒並み上昇中であるということは、決して忘れるべきではありません。もちろん理由は、中国とASEANの成長、この20億社会が猛烈な勢いで成長しており、とりわけインフラ投資と貿易が今後大幅に上昇することが見込まれるからです。

 さて、ここからは、冒頭に挙げました、日本と中国との貿易の真実について論じていきたいと思います。

 これを論じるうえで、恰好の比較材料となるのが、アメリカとの貿易です。リーマンショック以前、日本にとって最も重要な貿易相手はアメリカだったわけですが、しかしその後は、中国こそ何より重要な相手となりました。

 アメリカの特徴というのは、毎年50兆円以上の膨大な赤字を計上してまでも消費するということであり、一方で製造業は弱いと来ています。したがって、日本からアメリカに輸出される製品は、最終商品、別の言葉で言えば、消費財が中心です。日本の産業構造とアメリカの需要を考えれば、誰でも自動車というのが思い当たることでしょうが、これはまったくその通りでして、日本からアメリカに向けて輸出される製品のなかで、自動車の割合というのは、抜きん出て高いのです。

 無論、そもそも日本にとって、自動車というのは極めて重要な産業ということになっているので、だから中国に対してもこの自動車の輸出というのはなるべく落ち込んで欲しくないということになってくるわけですが、残念ながら、昨年9月に尖閣問題で日中関係が悪化してからというもの、中国向けの自動車輸出は大幅に落ち込んでいます。これは今年に入ってもまるで回復しておりません。財務省が発表した貿易統計によると、今年1月における自動車の対中国向け輸出は、前年同月比「−60・2%」の大幅下落です。

 一方で、中国の今年1月の新車販売は絶好調で、これは昨日もお伝えしたように、1月の中国新車販売は前年同月比で「+46・3%」、月間の売上としてはついに史上初めて200万台を突破しています。なので、日本メーカーの完全な1人負け状態です。

 しかし、日本にとって最大の主力産業と「されている」自動車がこれほどに不振であることが、中国との貿易において、昨年3兆5226億円もの巨額赤字になったのかといえば、そうでもないのです。

 アメリカとの貿易に関しては極めて重要な比重を占める自動車ですが、しかしそれはあくまでアメリカ向けであって、中国には当て嵌まりません。日本から中国への輸出に関して言うと、実は、自動車よりも、機械・素材・部品、これらの比重の方がずっと大きいのです。

 何故なら、中国は、消費地である以上に、生産拠点であるからです。しかも、この生産拠点というのは、何も中国メーカーだけとは限らないのです。台湾、韓国、アメリカなどの企業にとっても、中国は重要な生産拠点であり、そして、中国で製品を生産するこれら各国の企業にしても、機械、素材、部品、というのは、日本メーカーにかなり依存しているのです。そのため、これら各国の製造業が中国で生産するための輸出も、それは中国に輸出される以上、日本から輸出される場合、中国向け輸出となるのです。

 という訳で、日本から中国への輸出というのは、このような機械、素材、部品の方が、自動車よりもはるかに大きい規模なのです。そして去年は、南欧債務危機の影響により、中国にとって最大の輸出先であるヨーロッパの景気が著しく低迷しました。また、中国自身も、リーマンショックの後2009年と2010年に行った4兆元の景気対策の反動が出て、昨年は中国内需のインフラ投資なども一様に落ち込んだのです。

 そのため、中国の企業、及び中国に進出した各国企業は、このダブルの不況を受けて、一様に、在庫が余ってしまったのです。いわゆる、過剰在庫状態です。とにかく、注文はないのに、在庫はたくさん抱えているわけです。そしてこのような過剰在庫による、機械、素材、部品等の需要の低下が、中国との貿易において、日本を直撃したのです。

 という訳で、去年中国との貿易が3兆5226億円もの赤字になった最大の原因は、これら機械、素材、部品などの低迷が最も大きいのです。ちなみに、去年ずっと不調だった中国の貿易は、年末の12月に急転し、一気に急上昇しました。それは、今年1月になっても変わらず、それどころか、更にその上昇幅を拡大している状況です。という訳で、いま、中国の輸出は相当に良くなっているわけです。但し、だからといって、それがすぐに日中間の貿易に反映されるわけではないのです。

 何故なら、12月も、そして1月も、中国の生産活動は、大量に抱えていた在庫をもとにしているからです。この過剰在庫が償却されて初めて、日本からの輸出も伸びるのです。しかし、これはもはや時間の問題です。中国の輸出が、再び上昇軌道に乗ったどころか、かつてないほど拡大しようとしていることは明らかな以上、近いうち、必ず日本から供給される機械、素材、部品等を必要とします。それも、大量に必要とします。また、3月の全人代を受けて、中西部の開発と都市化を軸とするインフラ投資も活発化します。

 ここまで来れば、お気づきの方も多いと思いでしょう。昨秋以降、東証において最も株価が上昇している業種こそ、これら機械、素材、部品メーカーであり、そしてまた、貿易における物流の要である海運なのです。しかも、需要増に加えて、円安も進んでいます。だからこそ、これらの業種は、株価が急上昇しているのです。

 という訳で、今年日中間の貿易収支は、確実に改善されます。

 但し、日本と中国との貿易の真実というのは、これで終わりではないのです。以下は、去年の日本と香港の貿易収支です。

    日本から香港への輸出   3兆2770億円   
    香港から日本への輸入     1215億円

 という訳で、日本と香港の貿易は、実に3兆1555億円という大幅な黒字なのですが、しかし、それにしても・・・、と疑問に思う方は多い筈です。何故こんなにも輸出と輸入の額が違うのか? そもそも、人口が700万人しかいない香港になんで3兆2770億円もの輸出が可能なのか? このような疑問をお持ちになる方は多いと思います。実は、この日本から香港に輸出される大半は、香港で消費されたり、香港で生産に使われるわけではありません。ちなみに、日本から香港への輸出も、その比重は、機械、素材、部品などが多くの比重を占めています。

 ここで、察しの良い方は気付かれたでしょう。この日本から香港へ輸出されるものの大部分は、そのままそっくり中国本土へと運ばれるのです。つまりこれは、香港経由での日本と中国との貿易なのです。ただ、会計上、香港が相手になっているだけで、実際のところは、完全に日本から中国への輸出です。

 という訳で、昨年の中国との貿易は3兆5226億円の赤字であったものの、一方で香港経由での中国貿易は3兆1555億円の黒字なので、だから差引すると、昨年の中国との貿易は、殆ど赤字ではないのです。

 しかし、だからといって、「な〜んだ、別に深刻じゃないだ」という訳ではありません。南欧債務危機が起こる以前、つまり2010年における、日本と中国(+香港)の貿易収支の合計は、はたしてどのようなものだったのでしょうか?

   日本と中国との貿易収支    4466億円の赤字
   日本と香港との貿易収支  3兆5573億円の黒字 

   *よって、差し引きすると、3兆1107億円の黒字

 つまり、日本と中国(+香港)との貿易は、まともなら、日本は3兆円以上の大幅な黒字なのです。それが去年は、僅かながらも、赤字に転落してしまったのです。

 しかし、中国の今年の展望は、上に述べた通りですので、だから今年の対中国(+香港)向けの貿易は、日本にとっては間違いなく巨額の黒字になることは確実な情勢です。

 ところが、メディアはこのようには伝えません。彼ら紋切型同盟は、本当は日本の圧倒的な黒字であるものを、香港を除いた額だけ取り上げて、日本の対中国貿易は依然としてこんなにも赤字なのだ、と報じるでしょう。そして、だから日本にとって中国は、貿易をしても損をするだけの相手なのだ、という解説もするでしょう。しかし、そのような報道や解説はデタラメです。なので、そのような報道には、絶対に騙されないよう注意していただきたく思います。

 また、このことは、原発の問題とも関連してきます。紋切型同盟は、天然ガスの輸入による貿易赤字の拡大を盛んに言い立てて、そこから原発の再稼働へと世論誘導しようとしているわけであり、そしてこの貿易赤字については、「天然ガスの輸入+中国向け赤字」をセットで唱えるわけですが、実際には、今年の日本は、香港を経由するかたちで、中国から大量の黒字を稼げるのであり、この黒字額は、天然ガス輸入価格の増大による赤字分をはるかに上回ることは間違いなのです。

 という訳で、以前からお伝えしているように、日中友好と、脱原発は、セットなのです。