中国の新車販売台数は史上初の月間200万台を突破と絶好調! なので日本のタイヤ・メーカーの収益も絶好調です

 昨日の日経平均株価は、前日の終値からマイナス0・31%下落し、1万11372円で取引を終えました。ちなみに、取引全体の値動きは、実に73円という小規模なもので、これは昨年12月10日以来の狭せです。また、昨日は売買代金も更に少なくなり、今年最少の1億6834円でした。

 値動きの幅が狭いことから見ても、代金の少なさから見ても、依然として様子見ムードが漂っていることは明らかです。これは、昨日のレポートでも申し上げたように、中国で新指導部の発足がいよいよ近づいてきたことと、日銀の次期総裁人事もいよいよ大詰めを迎えようとしていることなどから、売買を少なくし、様子見をしているという気配が色濃いのです。とはいえ、それでも1兆6834億円です。この金額は、昨秋以前においては、まずありえなかったことであり、依然として日本株への視線が熱いことを意味します。また、先週後半以降、日経平均株価そのものは下落基調にあるのですが、しかし、ヘッジファンドの運用の手口を詳細に見るならば、実は日本株は、以前にもまして上昇基調にあるのです。これについては、後日じっくり論じます。

 ところで、昨日下落したのは、日本だけではありません。上海総合指数は、マイナス1・59%下落しています。但しこれは、内容を吟味してみると、良い下落なのです。といいますのも、上海市場で株価が下落している主要因は、一昨日の春節明けから、金融・不動産株なのですが、実は新指導部の正式な発足を前にして、習近平氏が、不動産の投機的な売買の取り締まりを強化しています。これは言うまでもなく、民意を受けてのものです。

 昨秋以降、中国では景気が良くなってきたことを受けて、不動産市場が活性化しているのですが、それに乗るかたちでの投機的な売買の動きも顕著になっているのです。しかし、不動産価格の上昇については、中国市民の間でかなり根強い不満があるため、新指導部としては、求心力を高めるうえでも、不動産価格の高騰を厳しく監視し、これを取り締まる必要があります。新政権の船出を安定させるうえでも、また市民生活を安定させるうえでも、投機的な不動産の売買を取り締まることは必須ですので、これにより、金融・不動産の株価が下落するのは、当然といえるでしょう。

 もう1つは、国有企業に対する規律の強化です。中国では今まで、国有企業が必要以上に優遇される面があったわけですが、経済が成長すれば利権も生じるのは世の常でして、最近、国有企業の利益率が、民間企業と較べると、明らかに低下しています。そのため、習近平氏は、国有企業が経営の効率化をはかるよう、改革に着手する方針です。以下は、日経新聞電子版に掲載された記事です。

 「習近平共産党総書記率いる中国の新指導部が国有企業に対して経営改革圧力を強めている。監督機関である国有資産監督管理委員会は、経営幹部の評価基準を3年ぶりに見直した。基準から売上高伸び率を削除し、新たに経営効率を問う基準を設けた。売上高の増加を重視する従来基準が供給過剰を招いたとの反省からだ。一般株主からは赤字国有企業のトップ罷免を要求する声も出ており、旧来型の経営モデルは変化を迫られている」。

 「新たに導入するのは経営の効率性を示す総資産回転率。総資産回転率は、売上高を総資産で割って算出する。売上高が伸びなければ多額の設備投資やM&A(合併・買収)により総資産が膨らむほど、数値が悪化。逆に少ない総資産で多くの売上高を実現すると、数値が高くなる。経営者にとってはリストラにより総資産を抑えつつ、売上高を効率的に伸ばす工夫が必要となる」。

 「同委員会は、中央政府が管轄する中央企業と呼ばれる国有企業の董事長、総経理、役員などの経営幹部について定期的に経営成績を評価している。経営幹部は共産党幹部を兼ねるケースが多く、同委員会の成績査定が、将来の人事を左右する重要な要素となり、経営者への影響力は大きい」。

 「総資産回転率に任期中の企業価値の増加額や業種特性など複数の要素を加味して経営幹部をA〜Eの5段階で評価する。廃止する売上高伸び率は任期中に売上高をどれだけ増やしたかを測るもので、これまで企業価値の増加額と並ぶ基本指標と位置付けていた」。

 「政府が国有企業の評価でこれまで売上高を重視していたのは、『中国で供給不足の時代が長く続き、生産拡大が国有企業の責務だったため』(銀河証券の孫建波チーフストラテジスト)。中国経済が成長するに従い、供給過剰や負債の拡大による経営の不安定化など弊害が大きくなった」。

 「例えばリーマン・ショック後の4兆元(約60兆円)景気対策をきっかけに国有企業は横並びで設備投資に踏み切り、その後の供給過剰を招いた。2012年12月期決算では、海運や鉄鋼、非鉄金属など国有企業が相次いで巨額損失を計上する見通しだ」。

 「国有資産監督管理委員会の黄淑和副主任は国有企業について『規模の追求をやめ、質の向上に努めなければならない』としており、従来基準を見直さざるを得なくなった」。

 「株主としての権利意識が高まるなか、赤字経営を続ける国有企業に対して声を上げる投資家も出始めた。北京市の弁護士で投資家の張遠忠氏は海運最大手、中国遠洋の董事長罷免を求める公開提議書を発表した。中国遠洋は海運市況の悪化で12年12月期に2期連続で最終赤字を計上する見通し。10%以上の株主の委任状を集め、臨時株主総会を開き、罷免を求める」。

 「株式の過半を非上場の中国遠洋運輸集団が握っており、仮に臨時株主総会を開いても罷免できる可能性は低い。ただ、政府は長期の視点で投資する投資家の育成を進める方針で、一般投資家の声を全く無視することはできない。こうした批判が広がれば経営者にとっては一定の圧力になる」。

 「国有企業は利益伸び悩みが鮮明だ。中国財政省によると、12年の中央政府が管理する国有企業の利益総額は1兆2240億元で、前年比0.6%減少した。一方、売上高は9.5%増と増え続けている」。

 という訳です。民間企業経営者はもちろん、国有企業の株主からも、国有企業の体質には不満が続出しているので、この改革は、当然行うべきものといえます。

 ちなみに、中国人は、日本人と較べると大変に市民意識が高く、経済的な要求については、ごく当たり前のように地方政府や企業に対しても抗議運動を行います。数千はおろか、万単位の抗議運動が起こることも、珍しいことではありません。中国政府というのは、日本政府とは違い、アメリカをまったく恐れていないわけですが、そんな中国政府にも、恐れるものはあります。それは、中国市民です。中国政府にとって1番恐ろしいのは、中国の市民です。たとえひどい不況になろうとも、そんなことなど関係なく毎年最低賃金を20%上昇させているのも、市民の要求を受けて行っているという部分はかなりあります。

 一党独裁だから民主主義が機能していないとは、一概には言えないのです。議会制をとっていても、デモなどの抗議運動を通して政府に対し日常的に意思表示をすることがなければ、市民の要求は政策に反映されません。だから日本の場合、民意が経済政策に反映されないわけですが、一方中国では、人々は、メディアが国家の統制のもとで嘘デタラメを報じていることなどみんな知っていますし、また自分たちの要求を政府や企業にのませるべく、抗議運動を展開することも、これまた当たり前なのです。

 最低賃金の持続的な引き上げや、社会保険加入の厳格化などは、市民が、このような戦いを通して勝ち取ってきたところが、多分にあるのです。そうであるからこそ、今回新指導部が掲げている、国有企業の改革も、やらないわけにはいかないのです。

 このような改革は一時的には痛みを伴いもので、だから株価も下落するわけですが、しかし長期的に見れば、間違いなく中国経済にとってプラスに作用するでしょう。そして、中国経済にとってプラスに作用するということは、中国でビジネスを行おうとする日本企業にとってもプラスに作用するということです。

 ちなみに、金融・不動産株を中心に上海では株価が下落したものの、一方でインフラ関連の銘柄は依然として株価上昇しています。また、再生可能エネルギー関連の株価も上昇しています。そして、これらこそは、観光など共に、今後の株価上昇の重要な牽引役ですので、だから全体としては、依然として中国株は上昇基調です。

 さて、ここからは昨日の東証の売買を具体的に見ていこうと思いますが、なにしろ様子見ムードが著しいわけです。しかし、そんななかでも、注目すべき部分はありました。以下は、昨日の業種別騰落率の上昇上位5業種です。

   1ゴム       +8・04%
   2石油・石炭    +2・30%
   3建設       +1・66%
   4パルプ・紙    +1・10%
   5海運       +1・08%

 見ての通り、ゴムの上昇率が突出しているのですが、昨日ゴムがこれほど急騰した理由は、何よりもタイヤ・メーカーの世界最大手であるブリヂストンの決算に依ります。一昨日の取引終了後、ブリヂストンは決算発表を行ったのですが、これにより、ブリヂストンは過去最高益を更新することになったのです。そして、この発表を受けて、昨日のブリヂストンの株価は実に「+10・37%」と驚異的な伸びを見せ、併せて他のタイヤ・メーカーの株価も上昇したのです。

 ちなみに、横浜ゴム東洋ゴム住友ゴムという、中堅のメーカーについては、先日お伝えしたわけですが、ブリヂストンのみならず、これらのメーカーにしても、いずれも決算において、過去最高益が発表されているのです。つまり、日本のタイヤ・メーカーは、絶好調なのです。しかし、これについては、わざわざ決算を待つまでもなく、事前に解りきっていたことなのです。

 中国、そして東南アジア諸国の今後の自動車販売の見込みについては、先月の年明けにおいて、「中国経済をどう読むか? エネルギー問題の観点からpart1 自動車から見る原油の動向」という稿で詳細に分析した通りです。そして、まさにそこで論じたことそのまま、という数字が、先日中国から発表されました。以下は、今年1月の中国新車販売台数、及び中国の自動車生産台数を伝える、「チャイナ・プレス」の記事からの抜粋です。

 「2013年2月13日、中国自動車工業協会が、2013年1月の中国自動車市場統計データを発表した」。

 「報告によると、中国市場2013年1月の自動車生産台数は、2012年同期比で51・17%増加し、196万4500台に達した。

 「1月の自動車販売台数は、2012年同期比46・38%増加し、203万4500台であった」。

 見ての通り、今年1月の中国の新車販売は、なんと前年同月比で46・38&も伸び、200万台を突破したのです。月間ベースで200万台突破というのは、もちろん歴史上初めてのことです。

 更に自動車は、生産に関しても、こちらは51・17%も伸びています。とんでもない伸びです。

 そして、世界のタイヤ市場における国別のシェアを見ると、日本は、ミシュランを擁するフランス、グッドイヤーを擁するアメリカを尻目に、圧倒的な1位なのです。つまり、タイヤで日本に勝負を挑んで勝てる国など、ないのです。だからこそ、タイヤ・メーカーの株価が急上昇するというのは、当たり前なのです。

 また昨日は、為替が円高に振れたにも拘わらず、海運も上位にランクインしています。何度でも繰り返しますが、海運こそは世界貿易における物流の要である以上、この業種が上昇基調にある限り、株価は全体的に上昇基調にあると言えるのです。そういう意味で、円高に振れたにも拘わらず海運株が1%以上上昇したというのは、今後の世界経済を展望するうえで、決して見逃すことは出来ません。