貿易の面から、日本国内の雇用創出に最も貢献している国は、中国がダントツの1位である

 かつて日本にとって最大の貿易相手国はアメリカでしたが、しかしそれもいまは昔の話であり、ここ数年、日本にとって最大の貿易相手国は中国です。

 ところが、この問題について、経済学者や金融アナリストなどの紋切型同盟は、まったく事態を正確に把握していません。彼らは、貿易を国の問題として考えるばかりで、つまり黒字であるか、赤字であるかという貿易収支の面から考えるだけで、これを雇用の面からは捉えてきませんでした。今回は、このことについて論じていきます。

 既に何度も繰り返し申し上げて来たように、日本から香港向けの輸出は、香港経由中国向け輸出が大半である以上、中国との貿易に関しては、常に「中国本土+香港」という視点で捉える必要があります。

 2012年に、日本から中国(本土+香港)向け輸出の総額は、14兆4752億円であり、一方アメリカ向け輸出の総額は、11兆1883億円です。中国向けにしろ、アメリカ向けにしろ、企業はいずれも現地生産を加速していますが、しかしそれでいて、金額ベースにして、国内からもまだこれだけ多くの物品を輸出しているわけです。国内から中国へ、あるいはアメリカへと輸送される以上、これらの製品はすべて日本国内で生産されているわけで、その分、国内でも相応の雇用が生み出され、あるいは維持されているわけです。

 そして、中国向け輸出の方がアメリカ向け輸出をはるかに上回って以上、雇用の面から見ると、貿易においては中国が何よりも重要であるのは、誰の目にも明らかです。

 にも拘わらず、経済学者たちは、どうして中国ではなく、アメリカとの関係を重要視するのでしょうか? 

 それは、黒字の額によります。アメリカから日本への輸入に関しては、6兆0820億円であり、輸出額に比べて輸入額が極めて少ないのに対して、中国(本土+香港)から日本への輸入は、15兆1610円と、輸出に匹敵するほど輸入も多いのです。という訳で、日本にとって、アメリカとの貿易での収支は、5兆1062円の黒字であるのに対して、中国との貿易での収支は、3375億円の赤字なのです。アメリカからはこのように巨額の黒字を稼いでいるのに対し、中国とは若干ながらも赤字なので、それを受けて経済学者などは、アメリカとの関係をこそ重視すべき、と言う訳です。

 一般的には、輸出は多ければ多いほど良く、一方で輸入は少なければ少ないほど良い、というのが貿易に関する大方の見方となっています。ところが、雇用の面から考えるなら、これは完全に誤りです。

 というのも、たとえば中国から日本に輸入されるものというは、プラスチック・鉄鋼・非鉄金属・機械・半導体・光学機器、などが多く、そして今年になってからはスマートフォンの輸入が急速に増えているのですけど、これらは港に荷揚げされて以降、業者の手を通して、各生産現場や販売店などへ輸送されるわけです。当たり前ですが、これら一連の業務(輸送のみならず、輸送にまつわる一般事務から、パソコンによる在庫管理などまで)に携わっているのは、日本の業者です。そしてもちろん、輸入する前段階においても、現地の企業とのコミュニケーションなどで、日本国内に雇用は発生します。つまり、雇用というのは、輸出においてのみ生み出されるだけではなく、物を輸入する際にも、国内での雇用は生まれるのです。

 ドイツなどと較べると、日本はまだまだ輸出も輸入も少ない、日本はもっと輸出も、そして輸入も増やさなければならない、そう言ったのは、早稲田大学教授の野口由紀雄さんであり、また『週刊ダイヤモンド』の元編集長である辻広雅文さんでした。彼らは、例外的に理解していたのです、実は輸出のみならず輸入においても雇用は増えるのだということを。ドイツの雇用が安定しているのは、輸出と輸入、この両方をドンドン伸ばしてきたからでもあります。問題は、この輸出入のバランスなのです。

 そうである以上、日本にとって中国は、貿易においては、輸出と輸入、この両方から、日本国内の雇用の創出に最も貢献している国であることが解ります。雇用の面から言うと、日本にとって、アメリカよりもはるかに重要な貿易相手国です。

 貿易収支が黒字であるか、赤字であるか、それは、あくまでも国家の都合の問題であり、だから収支というのは、国家にとっては重要でも、しかし民間の雇用にとってはなんら重要ではありません。とはいえ、もちろん大幅な赤字であるなら問題ですけど、しかし2012年の中国は、年の前半はインフレ不況の中にあり、そしてインフレから脱出した年の後半は、尖閣問題による日本車の不買事件がありました。にも拘らず、中国との貿易赤字は、たかだか3375億円に過ぎないのです。中国との貿易総額は実に30兆円ほどにのぼる以上、この赤字は、極めて微々たるものです。

 財務省にとっては、5兆円以上という巨額の黒字を稼げるアメリカこそ重要ということになるでしょうが、しかし民間の雇用にとっては、輸出と輸入の両面で、中国ほど重要な相手国はありません。それなのに、経済学者や金融アナリストたちは、このような雇用の面をろくに見ず、財務省同様、貿易に関しては収支にばかり注目するのです。

 ちなみに、日本の企業は、もちろん年を追うごとに国内生産ではなく、国外での現地生産を加速させていますが、しかしだから輸出が減っているかというと、そんなことはなく、この春、輸出は前年同月比で伸びています。とりわけ、中国向け輸出の伸びは、どこよりも素晴らしいものがあります。
 
 製造業において、国内の雇用が減少しているのは、少子化により国内の需要が減少していることと、それからテクノロジーの発展に伴う機械化が大きな原因であり、生産の国外移転とは、問題の質が異なります。そして、生産現場の機械化というのは、日本に限らず、先進国に共通した問題であるのです。

 という訳で、これについては、産業構造そのものの問題になってくることであり、別の問題なのです。

 重要なのは、貿易に関して、黒字か赤字かという収支が重要となるのはあくまでも国家の論理であって、民間の雇用はそうではないということです。そして、これまで見てきたように、貿易を雇用の観点から考えると、日本にとって最も重要なのは、ダントツで中国なのです。

 また、貿易においては、貿易統計に表れないところにおいても、中国向け輸出での雇用は発生しているのです。日経新聞電子版は企業情報が非常に豊富な媒体ですが、今年に入って、企業が中国市場向け専用商品の開発を行うという記事が、かなり多くなっているのです。これはひとえに、中国がこれまでの輸出主導の経済モデルから、内需主導の経済モデルへの転換をはかっていることが原因です。だから企業の方としても、拡大する中国の内需、つまり中国市民の個人消費に的を絞り、中国市場専用の商品の開発に余念がなく、この動きがあらゆる業種で加速しているのです。このような動きは、言うまでもなく、日本国内においても今後多くの雇用を生む筈です。

 という訳で、参院選について、貿易と雇用の問題から言うと、中国との友好関係を重視する政党ほど重要だということになるでしょう。

 ちなみに、この一連のことは、日本にとってアメリカが重要ではない、ということではありません。輸出総額においては中国に次いで2位、黒字については1位である以上、アメリカが日本にとって経済的に大変重要な相手であることは間違いありません。しかし、それは何よりも財務省にとって重要ということであり、民間の雇用においては、中国こそ、何よりも重要なのです。