第1四半期が終わって、中国経済のここまでのまとめ

 先週半ばから今週前半にかけて、中国では重要な経済統計の発表が相次ぎました。今回は、これら一連の数字について検証していきます。

 まずは、3月の貿易統計に関してです。これについては先週水曜日、アジア市場の総合的な分析をする「アクロス・ザ・マーケット」という番組においてSMBCフレンド証券の何紅雲さんが出演し、赤平大キャスター、瀬川剛経済解説員からの質問に答える形で、この貿易統計をめぐる討議が行われました。以下は、その主な内容です。
 
 Q、3月の中国の貿易統計が発表されまして、輸出が10・0%の伸び、輸入が14・1%の伸びとなりました。特に輸入の伸びが顕著で、これにより中国は若干ながら3月は貿易赤字となりました。これについて、どう見ればよろしいでしょうか?
 
 A、これは季節要因がありまして、この時期は、去年もその前も赤字なんですよ。けど、中国の輸入の50%は部品なんですね。つまり輸入したものは、後で加工して輸出にまわるわけです。中国は加工貿易を行っておりますからね。という訳で、今回の輸入の増加は、中国にとっては後の輸出の増加に繋がるものなので、だから中国ではこの数字はプラスに捉えられ、非常に好感されています。
 
 Q、輸入した製品が輸出へと転化するには、だいたいどのぐらいのタイムラグがあるものなのでしょうか?

 A、だいたい3ヶ月ぐらいですね。

 Q、中国の株式市場の今後についてはどうお考えですか?

 A、投資家にとっては、いまやリスクよりもチャンスの方がずっと大きいです。その理由は、企業業績にあります。2012年は企業の業績が悪化し、赤字のところも多かったです。ところが今年の企業業績は、この第1四半期に大幅に回復する見通しです。というのも、中国の鉱工業企業の利益率は、2012年はずっとマイナスだったのですが、年末になって少し回復しまして、そして今年に入ってからはこの伸び率が大幅に高まってるんです。2月の時点で、既に20%も伸びています。そういうことを考えますと、今年4月中旬ぐらいから発表される企業の四半期決算で、去年から比べると業績が大幅に好転するのではないかと思いますね。

 Q、成程。ただ、中国株といえば、当局による不動産市場の引き締め策が重しとなっていると思うのですが、これについてはいかがですか?

 A、当局としては、この不動産価格の高騰について、これは断固として抑えるという固い意志が窺えます。なので不動産の引き締めは今後も継続されることが予想されます。但し、その政策によって、不動産へ投資される筈だったマネーが、不動産市場から締め出され、その分マネーが株式市場に流れてくることが予想されます。だから長い目で見ると、この不動産市場の引き締め策は、株式市場にとってはプラスです。

 Q、成程、確かにそうですね。しかし、いまのところはまだ、そのように資金が株式市場へと流入してきていません。これは制度的に問題があるのではないですか?

 A、仰る通りです。中国の株式市場はまだ若く、制度の整備が足りていません。ですがそのルール整備がしっかりすれば、投資家は当然マーケットにやって来ると考えられます。

 以上です。この中国の貿易赤字について、日本の大手メディア・経済学者・金融アナリストの間では、一様に、これは中国の景気が悪化している証拠である、と言われました。ところが、中国側の反応はそれとはまったく逆であり、数か月後に輸出するための部品の輸入が増えたものである以上、後の生産の増加と輸出の伸びに繋がるものだから、この赤字はプラスなのだ、という論理です。

 言うまでもなく、このような中国側の反応は、いたって当たり前というものです。そもそも、春になるにつれて徐々に中国の輸入が増えるということは、中国証券報という中国の金融メディアなどが、以前から伝えていたことです。そして、中国の生産活動の拡大に伴い、中国側の部品の輸入が活発化することは、中国に部品を輸出する日本企業にとっても、プラスであるに決まっているのです。日本企業とすれば、中国が輸入を増やしてくれることは、自分たちの売り上げの増大に繋がるのですから、当然でしょう。にも拘らず、中国の景気は減速している、だから日本にとって重要なのはやっぱりアメリカである、という報道や解説を日本の紋切型同盟は繰り返すわけです。どうかしていると言わざるを得ません。

 ところで、貿易面に関わらず、中国の経済統計については、かねてから、信頼がおけない、数字を水増ししているのではないか、虚偽の数字を発表しているのでないか、という疑惑の目が向けられることが後を絶ちません。これについては、主に2つのことを指摘する必要があります。

 そもそも、速報値に間違いがあるというのは、何も中国に限ったことではなく、世界的に当たり前ということです。たとえばアメリカにしても、昨年の第4四半期のGDPは後に改定値が出されました。アメリ労務省が発表する雇用統計に至っては、単なる改定値どころではない、大幅な改定値が出ることも珍しくありません。このように、速報値の統計というのは、誤差が混じっていて当たり前であり、日本の財務省のように、訂正が出ない方がおかしいのです。にも拘わらず、アメリカや東南アジアなどから発表される統計には何も言わず、ただ中国の統計についてのみ、あれがデマだ、嘘をついている、と言って批判する日本の大手メディア・経済学者・金融アナリストたちの姿勢は、理解しがたいものがあります。

 ちなみに、中国の経済統計に、しばしば大きな間違いがあるのは事実です。問題は、これをどう理解し、本当の数字を把握するかにあります。中国の経済統計には誤りが多い、というのは世界的に常識になりつつあるのですが、そういう状況のなか、日本のメディアやエコノミストは「中国経済の実態は、統計の数字よりもずっと弱い」、「だから中国の景気は減速している」、「中国の経済発展は著しくバランスを欠いている」とネガティヴ・キャンペーンばかり掲げるのに、対し、その正反対、「中国の消費は統計に表れる数字よりもはるかに強い」、「中国経済はバランス良く発展している」と唱えるのが、欧米のメディアやエコノミストです。

 先日、イギリスの『エコノミスト』誌で、「統計では見えない中国の『隠れた』個人消費」と題する記事が発表されました。以下は、その主な抜粋です。

 「米金融大手モルガン・スタンレーのジョナサン・ガーナー氏とヘレン・チャオ氏が行った試算によると、中国の国民は2012年に国内旅行だけで2兆3000億元(約35兆円)以上支出したという。ところが中国の国内総生産(GDP)の統計は、そのうちのごく一部しか消費支出に算入していないと両氏は指摘する。金融サービス、へスルケア、住宅への支出も算入が不十分なようだ。その結果、公式な統計では、個人消費はGDPの35程度にまで低下したことになっている」。

 「モルガン・スタンレーが行った『積み上げ』計算では、個人消費は2008年に拡大に転じ、現在ではGDPの46%近くに達している。ガーナー氏とチャオ氏は、各企業の決算報告と業界の調査報告を利用して公的なデータの穴を埋めた。両氏によると、公的なデータは2012年の消費支出を少なくとも1兆6000億ドル(約150兆円)少なく計算しているという。その差額は、オーストラリアのGDP総額を超えるほどだ」。

 「ガーナー氏とチャオ氏は、海外での買い物のほか、オンラインでの支出も、統計上過小に計算されていると言う。中国の消費者は、昨年11月の「光棍節」の週末に、淘宝(taobao)と天猫(Tmall)という2つのショッピングサイト(いずれも中国のオンライン大手アリババ傘下)で総額30億ドル(約2800億円)以上の買い物をした。光棍節とは、中国版のバレンタインデーのような独身者の祭りだ」。

 「しかし、中国の公式統計は、このような消費習慣の変化に付いていけず、オンライン支出というカテゴリーそのものをないものとして扱っていると、チャオ氏は指摘する。オンラインゲームへの支出も、大半が算入されていない。ところが、モルガン・スタンレーが集計したオンラインゲーム企業の売上高から見る限り、オンラインゲームに対する2012年の支出総額は530億元(約8000億円)に上る」。

 「統計上のゆがみがすべて、中国政府に有利な方向にずれているわけではない。実際、中国の統計に残る大きな欠陥の中には、政治的に困った問題を引き起こすものがある。例えば都市住民と地方住民の所得格差だ。名古屋大学の薛進軍氏と中国社会科学院の高文書氏によると、政治的に扱いの難しいこの格差の公式数字は、実際より40%も多く見積もられている可能性があるという」。

そもそもの前提として、13億人もいる社会が猛烈な勢いで成長している以上、正確な統計をとれる方がおかしいというものです。中国経済の拡大は、明らかに数字以上のものがあります。そうでなければ、各企業の決算で、中国向けの販売があんなに伸びるわけないのです。中国人観光客が国外の旅行先で行う消費の額だって、凄いものがあります。

 中国の統計のなかで、明らかに信頼できるものとして、中国汽車工業協会が発表する、毎月の自動車生産台数と、新車販売台数が挙げられるでしょう。第1四半期における中国の自動車生産や販売は驚異的な伸びを見せ、1月には史上初となる月間200万台の販売を記録し、1−3月の新車販売の合計は軽く500万台を超えました。このペースなら、これまた史上初となる年間2000万台突破は確実です。

 この数字について、中国の自動車販売台数はデマであると言える者はまずいないでしょう。何故なら、その数字は、BMWボルボ現代自動車、GM、などが発表する決算の内容によって担保されるからです。

 ところで、今週前半には、第1四半期の小売売上高の発表がありました。前年同期比12・6%のプラスという数字です。去年の今頃、中国はインフレに苦しんでいましたが、しかしいまはインフレは抑制され、物価は落ち着いています。つまり、インフレ懸念がないなかで、小売売上が軽く2桁の伸びを見せている以上、中国の個人消費は、極めて良好であり、力強い、と言ってまず間違いないでしょう。

 最後に、問題となった、第1四半期のGDPの検証へと移ります。先頃発表された中国の今年第1四半期のGDPは、7・7%のプラスでした。それまで発表されてきた数々の経済指標を受けて、この期間の中国のGDP成長率は8%台に戻る、というのが市場のコンセンサスだったので、この数字は、驚きをもって迎えられたのです。
 
 問題となったというのは、この数字を受けて、日本の紋切型同盟は、一様に、「中国の景気減速」と報道し、解説したのです。しかし、この7・7%という数字に間違いがあるのは、普通なら気付いて当たり前なのです。というのも、第1四半期の中国の新車販売台数は、昨年の第4四半期を大幅に上回る凄い数字であったのです。また、鉱工業企業の利益率も、これまた大幅なプラスに転じているのです。そして、中国のGDPの統計に誤りがあるというのは最初から解っている以上、この7・7%という数字は間違っており、後で改定値が出ると考えるのが普通です。

 そもそも、中国の統計の数字は信頼できない、と誰よりも言っていたのは、日本の大手メディアや経済学者や金融アナリストたちではないですか。これら紋切型同盟は、中国の統計に関して、凄い数字が出てくると、あれはデマだ、数字を水増ししている、と言い、一方で弱い数字が出ると、この数字を見ろ、中国の景気はこんなに悪くなっているのだ、と言ってネガティヴ・キャンペーンをはるのです。呆れてものが言えないというのはこのことです。はっきりしているのは、これら日本の紋切型同盟の言うことこそ、何よりもデマであり、信用できない、ということです。

 中国の経済が非常に力強いものだということは、中国ビジネスで利益を増やす各国企業の決算や株価に裏付けられています。そしてこのことは、日本企業も例外ではありません。いまや日経平均株価の「絶対エース」と言われるほど株価の伸びが順調なファーストリテイリングユニクロを展開するところ)は、この秋、世界最大の超大型店舗を上海に出店する計画です。

 また、これまで中国に進出していなかった企業のなかにも、この新年度からいよいよ中国に本格進出するところがあります。その代表格はカルビーでしょう。お菓子メーカー大手のカルビーは、満を持して今年から中国市場に進出します。カルビーのお菓子は、既に香港では発売されており、そして香港の消費者の間では大変に評判が良いので、中国本土への進出も、成功がほぼ確実視されています。
 
 他にも、これからはどこよりも中国で利益を上げようと目論んでいる企業は枚挙に暇がありません。それはもちろん、13億人もの人口を抱える社会が、物凄い勢いで成長しているからに他ならないからです。

 ちなみに、この中国のGDPの数字から若干弱い数字が出てくるのは、ある程度仕方のないところもあります。というのも、生産・消費はいずれも順調であっても、一方で不動産価格の高騰は何とかしなければいけないため、2月後半から、中国政府は盛んに不動産市場の引き締め策を行ってきて、また中国人民銀行も金融の引き締めに走ったからです。ただ、何度も言うようですが、不動産価格を抑制させることは、長い目で見れば、実体経済にとっても、株価にとっても、共にプラスの材料であり、やってもらわなければかえって困るというものです。

 一方で、金融政策ですが、これについては、物価も落ち着いてきている以上、近いうち、引き締めを解いて緩和政策に向かうことが予想されます。中国経済はいまだ高成長の途上にあり、資金需要は非常に旺盛なものがありますので、この緩和は、日米の金融緩和とは異なり、実体経済が要請する不可欠な緩和です。