中国企業の間では脱原発・脱石炭が明確に 〜電力・エネルギー問題の観点から、極めて興味深かった4月8日の中国株式市場〜

 ここ最近の中国と言えば、日本のメディアにおいては、当局による不動産市場の引き締めや鳥インフルエンザばかりが取り沙汰されていますが、しかし株式市場を分析すると、中国は確実に良い方向へと前進しています。中国経済が、電力問題について、また自動車など広くエネルギー問題について、どのような方向への向かおうとしているのか、そのことが株式市場から明瞭に推察できるのです。

 中国株と言えば上海総合指数、というのが、日本における一般的な認識でしょうが、しかし、上海市場は、決して中国株の本質を映し出すものではありません。以前から申し上げているように、中国本土の企業が上場している市場というのは、上海A株(人民元建て)、上海B株(ドル建て)、深センA株、深センB株、香港H株、と5種類あるのですが、このなかで、最も大きな企業が集まっているのは、香港なのです。

 とりわけ、昨秋以降というもの、大企業の間では、上海から香港へと上場市場を移す動きが相次いでいます。このような中国市場について、日本風に言うならば、上海は東証2部、香港が東証1部、というような状況を呈しつつあるのです(もちろん、ここまで明確に階層化出来るものではないのですが、理解しやすくするため、とりあえずこのような比喩を使っておきます)。

 ともかく、もはや世界の大企業となったパソコン大手のレノボをはじめ、香港にこそ、各業種における中国の大手企業が大挙して上場しているのです。という訳で、中国の産業の将来は、香港市場の分析を抜きにしては決して語ることが出来ないのです。

 その香港H株市場ですが、昨日の相場動向は、今後の電力・エネルギー問題の先行きを占ううえで、極めて注目すべきものでした。ちなみに、香港H株は、上場するすべての企業が香港H株指数の構成銘柄になっているわけではなく、H株に上場していながら、H株指数には含まれないという企業も少なくありません。そのへんをご理解いただいたうえで、この後の分析をお読みくださると幸いです。

 さて、まずは、H株指数構成銘柄ですが、昨日のH株指数は、騰落率の上昇率1位に龍源電力、3位にウェイ柴動力がランクインし、一方下落率の1位にヤン州煤業、2位に神華能源が入りました。最初に、下落率の上位から説明します。

 下落率1位のヤン州煤業という企業ですが、ここはどのような事業を行っているかと言うと、主に石炭の採掘や運搬です。そして下落率2位の神華能源は、石炭火力発電の大手です。つまり、昨日のH株指数の下落率上位は、環境への負荷が強く大気汚染の原因である石炭事業が占めたわけです。

 一方、上昇率上位の方ですが、1位の龍源電力というのは、中国における風力発電の最大手です。この龍源電力というのは、中国株への投資家の間では知らない者はまずいないというほど有名な企業でして、今年に入ってからの株価も非常に順調に上昇しているところです。そして上昇率3位のウェイ柴動力ですが、ここはディーゼル・エンジンのメーカーです。ハイブリッド車エコカーの主流となっている日本とは異なり、ヨーロッパではエコカーの主流はディーゼル車であり、このことは、今後の中国においても、暫くの間はそうなるであろうと見込まれているものです。という訳で、龍源電力、ウェイ柴動力ともに、次世代型環境対応企業という訳です。

 このように、環境対応企業の株価こそ何よりも上昇著しいというのは、H株に上場しながらH株指数構成銘柄には入っていない企業においては、更に顕著になります。

 昨日のH株全体の上昇率1位は、繊維企業だったのですが、2〜4位には、国電科技環保、大唐新能源、新天緑色能源と、再生可能エネルギー関連企業がズラリと並びました。国電科技環保は環境ソリューション、大唐新能源風力発電及び低炭素技術の開発、新天緑色能源天然ガス風力発電を手掛ける企業です。

 それ以外にも、水処理を手掛ける天津創業環保護、クリーンエネルギーの京能清潔能源、華電福新能源、といったところが軒並み上位に顔を覗かせたのです。

 そして、最大の問題である原発ですけど、中国の株式市場を分析している限りでは、今年に入ってからというもの、中国企業の間で、原発を新たに建設したいという動きはまったくありません。と言いますのも、中国企業というのは、アメリカ企業以上に利益至上主義的なところがありまして、だから水質汚染が広がったり食の安全が脅かされたりしているのですが(というのも、共産党指導部は、環境汚染を広げる企業を盛んに処罰しようとしているものの、しかし企業の側は指導部の監視を完全に嘗めきっていまして、共産党指導部の言うことをまるで聞かないのです)、とはいえ、政府の言うことをまるで聞かず利益ばかり追求するというのは、政府と癒着して原発推進をはかる日本企業とはまるで違うわけでして、このような中国企業は、わりに合わない事業には一切手を出さない、ということでもあるのです。そして、福島の事故を受けて以降、原発というのは、市場原理から言えばあまりにコストが高く、まったくわりに合わない事業であるということが世界的に明らかになった以上、情報収集能力に長けた中国企業原発をイヤがるのは当然なのです。

 そこへ持ってきて、非常に市民意識の高い中国の民衆は、大気汚染や水質汚染や食の安全について、いい加減なんとかしろと政府に対して激しくプレッシャーをかけていますので、そうである以上、政府の側としても、政権を安定させるうえでは、天然ガス再生可能エネルギー・水処理・低燃費自動車、などに対し優先的に予算を付けざるを得なくなっているのです。となれば、企業の側としてもどういう姿勢を取るかは明らかで、儲かるというインセンティヴが強力に働く以上、環境対応事業に重点的に資本投入するというのは、当たり前のこととなってくるわけです。

 とはいえ、だからといって、中国が今後原発の新規建設をしないという保証はどこにもないのですが、そうはいっても、中国企業原発をイヤがっていることはまず間違いないでしょう。後は、市民の後押し次第です。中国市民の間では、原発の危険性はまだそれほど認知されていません。ここ数年間の中国市民は、とにかく大気汚染・水質汚染・脅やかされる食の安全の問題で必死なのです。しかし、世界中のどこよりも必死になって政府に圧力をかける精神的な強さこそが中国市民の真骨頂なので、だから意欲ある日本の市民が中国の市民に対し盛んに福島の情報の提供をすることならば、原発に関しての中国市民の意識は必ずや高まるであろうと、強く確信する次第です。