中国本土への違法な投資資金流入の実態がついに判明! そして問題は人民元の自由化のことへ

 中国財政部が毎月発表する貿易統計については、以前から数字を水増ししているのではないか、という疑惑があり、一方で、この水増しは政府がやっていることではなく、国外から中国本土への違法な投資資金が、輸出を装って入ってきているもので、中国当局もこの資金流入について厳しく監視をしている、という報道もあったのですが、ついにその実態が明らかになりました。一言でいうと、この貿易統計は、数字の水増しではなく、香港を拠点とした投資資金の違法な流入によるものだったのです。

 先日、5月分の中国貿易統計が発表されまして、これまでは輸出・輸入共に毎月2桁の伸びであったものが、今回は輸出は1%のプラス、輸入は0・3%のマイナス、という数字で出てきました。ヨーロッパの景気も駄目、アメリカの景気も駄目、というなかで、中国から欧米への輸出がそんなに伸びる筈もなく、むしろ世界経済は、拡大する中国の内需が頼みということになってきているわけです。そうである以上、今回のこの数字は、ようやく事実が反映されたものであろう、ということになるわけですが、問題は、事の真相はいったい具体的にはどういうことだったのか? という点にあります。

 6月12日、CSの「アクロス・ザ・マーケット」には、TSチャイナ・リサーチの田代尚機さんが出演し、この問題について、赤平大キャスター、瀬川剛経済解説員の質問に答えるかたちで、討議が行われました。以下は、その主な内容です。

 Q、中国の貿易統計といえば、以前から水増しだとか、偽装貿易だとか言われてきたわけですが、今回の数字を見ると、あれ? って思う訳ですよ。いったい何があったのかと・・・。

 A、ええ、実はね、その実態が具体的に解ったのですよ。今まで言われていた方法といいますのはね、輸出するとき、輸出金額を少し上乗せしちゃおうじゃないか、ということで、輸出金額を大目に出すわけです、ただ、これじゃちょっと水増しするだけじゃないですか、これじゃラチがあかない、もっと大がかりなことをやろうということでね、深センにですね、福田保税区というところがあって、ここは香港との距離が8キロくらいなんです、だから橋でね、30分ほどで行き来できる距離なんです。で、体積の非常に少なくて値の張る半導体のようなものを、トラックにいっぱい積みます。だいたい1千万元、日本円にして1億ちょっとぐらいのね、このモノを載せましてね、香港に行くわけです、すると輸出になります、そしてまた戻って来るんです、で、荷物降ろさないで、また行くわけです、そして、また戻って来るんです・・・。もうグルグルグルグル回って、輸出と輸入を水増しさせるわけです。

 Q、いまのお話しですけれど、輸出してまた輸入すると、まあ見せかけですけれど、これ当然代金決済というのは伴う訳ですよね? で、おそらく行われないことだと思うので、その後、金額は膨張させることは出来ても結局は儲からないと・・・、その決済はどうなってるんです?

 A、本土と香港、この両方の業者で共謀しているわけですけれどね、どういうことか? 背景、ここがすべてのポイントになるわけです。香港で人民元借ります。これ、香港だと2・25%から2・50%ぐらいの利率で借りられるんです。でね、そのおカネを持って中国本土に入りました。そうしますとね、本土の金利は、1年満期で3・25%から3・3%ぐらいでまわるんですね。けど、もっといい商品がありましてね、金融、デカいものですから、銀行の理財商品、これで4・3%ぐらいでまわせるんです。要はね、利鞘が2%。

 Q、自動的に稼げる?

 A、だから共謀だと考えてください。こっち(香港)でおカネ借ります。で、それは本土に持ってきます、運用します、儲かりますね。

 Q、それって、円キャリートレード的な?

 A、そうです。その発想は、全くそういうことなんですね(笑)。

 Q、そんなバカなことか、って思うようなことを?

 A、そんなバカなこと、それが発覚したんです。それで、駄目だと言って当局が全部止めたんです。止めたら、こういう貿易統計の数字になった。

 という訳だったのです。円キャリートレードというのは、金利の低い円で資金調達をして、そこから金利の高い新興国の通貨などで運用する・・・、という手法で、まったく問題視されるようなものではありません。ごく普通に行われています。そして、香港と中国本土においても、論理的にはそれと同じような構造のことが行われていたわけです。しかし、人民元が自由化されていないため、中国国内に資金を自由に流入させることが出来ないので、だから香港を使って、金利の低い香港で資金調達をして、それを輸出入に偽装して資金を中国本土に潜り込ませていたわけですね。という訳で、これは当然人民元の自由化の問題へと行くわけです。討議の最後は、次のようなものでした。

 Q、しかし、これはいたちごっこというか、いくら当局が取り締まっても、そのぶんより高度な偽装が生まれてくるだけのようにも思うのですが?

 A、だから、結局は人民元の自由化を進める以外にないんですよ。

 これは、最終的には当然そういう結論になって来る筈なんです。つまり、やっていることは円キャリートレードと原理的には同じなので、このこと自体は問題ではないわけです。じゃあ、何が違法なのかというと、それは人民元の取引が自由化されていないにも拘わらず、当局の監視をかいくぐって資金の移動が行われていることです。

 ちなみに、共謀と言ったのもまさにそうで、これは中国国外のマネーの持ち手の都合によるだけではなく、中国本土の金融機関にとっても、新たな需要に応じて新規の顧客を得ることになっているわけで、しかもそこでの金融ビジネス自体も何か特別悪いことをしているわけではありません。そうである以上、これは当然ながら、今後もいたちごっこのように偽装が高度化していく可能性は大いにあります。

 こういう事情もあって、中国当局人民元の自由化に対して慎重になっているわけですが、しかしGDPで世界第2位の国の通貨が自由化されていないというのは確かに金融的には大きなゆがみではあるわけです。ただ、一方では、なにしろ中国の経済規模というのはかくも巨大ですので、その通貨が自由化されるとなると、世界の為替市場そのものに与える影響もハンパではありません。もし人民元が自由化されると、その流動性はとてつもない規模になる筈なので、現在為替市場は、取引の40%がドル、20%がユーロ、10%が円、そして残りの30%がそれ以外、ということになっていると言われているのですが、この比率が大きく変わることになります。という訳で、これは中国国内以上に、世界の為替市場に大きな影響を与えるので、そうである以上、やっぱり一度に自由化という訳にはいかず、段階的にやらざるを得ないでしょう。

 ちなみに、田代さんのお話しは毎回興味深いのですけど、一方で、赤平キャスターの質問の鋭さも見逃せません。円キャリートレード的な? という質問は、瀬川さんではなく、赤平さんによるものです。瀬川さんという方は、長年に渡り腕利きのファンドマネージャーとして活躍されたベテランの方ですが、一方で赤平さんは純然たるメディアの人間です。しかし、彼は必要な知識をしっかりと持っていて、また瞬時に話を咀嚼する能力も高く、毎回ゲストに対して結構鋭い質問をしています。どのような人材をスタジオに呼び、そしてそのゲストにどのような質問をして、いかに話を咀嚼するか、というのがメディアの役割であるとすれば、金融にまつわるメディアの人間として赤平さんはしっかりと仕事をしていると言えるでしょう。そんなバカなことを? というのも赤平さんの質問ですけど、これは円キャリートレードと同じことを人民元でやるのに、わざわざモノをトラックに積んで香港と深センのあいだをグルグルと行き来する、ということをバカなこと、と言っているわけで、要するに笑い話なんですよ。赤平さんは、このことも瞬時に理解して、合いの手を入れたわけです。

 ところで、輸出が1%しか伸びていないとなると、これまで輸出主導で成長をしてきた(とされている)中国経済のいまはいったいどうなっているんだ? という疑問が出てくるでしょうが、以前から何度も申し上げているように、中国の内需は非常に底堅く、安定しています。5月の経済統計も出揃ったことですし、これに関しては、時期を見てあらためてお知らせいたします。