アメリカ国債の下落は歯止めがかからず、そしてCTAの運用成績はドン底に沈みつつあり、それにより世界金融市場が大混乱している

 6月24日、ニューヨーク・ダウはまたしても下落し、ついに2か月振りの安値まで落ち込みました。一方、ヨーロッパはもっとひどく、イギリス、フランス、ドイツの株価は、ついに年初来安値近辺まで下落してきました。日本株の下落は、週間ベースではついに先週で止まって、上昇に転じましたが、しかしヨーロッパはここに来て更に急降下し、これで5週連続の下落です。新興国に至ってはひどいどころか悲惨な状況で、既に6月上旬の時点で年初来安値を更新していたこれらの国々は、いまも依然として猛烈に株が売られ続けています。

 しかし、下落しているのは、株だけではないのです。各国の国債もまた、軒並み下落し続けています。更に、安全資産として何かあると資金が流入する金(ゴールド)ですが、この金価格まで下落しているのです。

 こうして、いまや世界の金融市場全体が、大混乱のさなかにあります。

 これらすべては、アメリカ国債の下落に歯止めがかからないことが最大の原因です。アメリカの10年債の金利がとにかく上昇しっ放しで、これがなんとか安定しないことには世界全体の金融市場が落ち着きません。で、なんでアメリカ国債の価格が下落し続けているかといいますと、それはひとえに、FRBが年内にも資産の買い入れを縮小すると明言したからです。FRBはこれまで、実に大量の国債を購入してきましたから、そのFRBが資産の購入を縮小するということで、市場に動揺が走って、いまだ収まりません。

 とはいえ、これは必ずしも悪いことではないのです。というのも、近年は、FRBが大量に国債を買い入れることで、逆に価格を歪め、そうして無理やり市場を安定させてきたともいえるからです。アメリカ国債といえども金融商品であり、その市場価値は、本来なら市場において取引に参加する各プレイヤーの売買によって決定されるべきものですが、しかしその価格形成についてFRBが過度に介入し、結果として歪んだ市場が形成されていた、といえるわけです。金融緩和には副作用がある、とよく言われますが、その1つがこれですね。

 ところで、市場といえば、リーマンショック以降、世界の金融市場の動向はCTA次第、と言うほど、各市場はCTAに制空権を握られていたわけですが、6月に入り、そのCTAが夥しい額の損失を計上していたのが発覚したことは、以前にもお伝えしました。いわゆる、CTAバブルの崩壊です。

 問題は、このCTAはいったいどこで巨額の損失を出したのか? ということです。6月14日、僕は「日本を含む世界同時株安の正体は、CTAバブルの崩壊が原因」というタイトルで原稿を書き、皆様のもとにもお届けしました。そこでの【付記】において僕は、CTAが巨額の損失を出したのは、言われているように日本株が原因ではなく、実はアメリカ国債によるのではないか、ということを書いたのですけど、どうやら、その推測は当たっていたようです。

 先週の時点におけるHFRXマクロ/CTA指数を見ると、CTAの運用成績は6月下旬になって更に悪化しており、もはや5年10か月振りの低水準、ついにリーマンショック以前のところまで落ちるという、ドン底に嵌りつつあるわけですが、この指数を見ると、あることに気付きます。それは、HFRXマクロ/CTA指数が悪化し出したのは、日本が株急落するより以前であり、実はCTAは、5月上旬の時点から急速に成績が悪化し始めていること、そして、下落する一方であるHFRXマクロ/CTA指数のチャートと、同じく下落し続けるアメリカ国債のチャートを較べると、両者は瓜2つのようにそっくりであることです。

 国債というのは、価格が下落すると利回りが上昇するので、だから国債がいかに下落しているかを解りやすく把握するには、利回りの変化を示すチャートの上下をひっくり返す必要があるわけですが。そうしてアメリカの10年債利回りのチャートをひっくり返してみると、見事なほどHFRXマクロ/CTA指数のチャートとそっくりなのです。

 これはつまり、CTAの運用成績は、アメリカ国債の下落と一緒になって落っこちてきている、いうことです。

 一方で、CTAの運用成績を表わすチャートから解ることは、他にもあります。HFRX株式ロング・ショートというチャートがありまして、これは名前の通り株式の運用実績に特化したチャートですが、ここ数か月間におけるこのチャートは、同時期のヨーロッパ株のと、これまたそっくりなのです。

 フランス、ドイツなどヨーロッパの主要市場は、3月の途中から4月の後半にかけて下落し、そして4月後半から急激に上昇を始め、そして5月下旬になって再度下落し、いまに至るのですが、HFRX株式ロング・ショートのチャートも、これとまったく同じなのです。

 また、金融市場にとっての問題というと、アジアなど新興国国債の下落というのもひどく、新興国からの資金流出にも歯止めがかからないのですが、これはいったい何なのかというと、緩和の縮小により投資マネーが細ることへの懸念ではなく、アメリカの金利上昇に基づく、ドルによる資金調達コストの上昇が何よりの原因と思われます。

 というのも、金融緩和をやめたところで、世界にはカネは有り余るほどあるのです。とにかくマネーがジャブジャブに余っている、それはFRBが緩和をやめても同様で、資金は十分です。しかし、アメリカの金利が際限なく上昇するようだと、それだけドルで資金調達する際のコストがかかるので、これはかなり問題ということになってきます。そうなうると、あんまりドルが高くないうちにドルを買っておこうという心理が働いて、新興国通貨を売ってドルを買う、という現象が起きます。実際、5月下旬以降、新興諸国の通貨は下落し続けていまして、これにも歯止めがかかりません。①アメリカ国債下落→②アメリカの金利上昇→③ドル高、というのがここ最近のトレンドで、これがずっと続いているのです。

 という訳で、ドル円相場もそれに沿った動きをしており、5月下旬から6月半ばにかけて、日本株売りに基づくドル円相場の巻き戻しが起こって、円高ドル安になっていったのが、先週から逆転して、円安ドル高になってきています。これは、円が売られているというより、ドルが買われているのです。

 ところで、ここで日本と、それ以外の各国では、動きが違います。ヨーロッパの先進国も、アジアその他の新興国も、通貨は売られる、国債も売られる、株も売られる、という動きである一方、日本の場合、株は買われているのです。

 しかし、これは当たり前の話で、リーマンショック以降、世界各国の株が上昇するなか、日本株アメリカの金融緩和の恩恵をまったく受けることなく、日経平均は超低空飛行を続けていましたので、だから現在世界各国で起こっているような、CTAバブル崩壊に基づく株価の調整など、そもそも起こり得ないわけです。日本株の調整は、あくまでも昨秋以降の急速な株価上昇の調整にとどまるものであり、それは既に概ね終わっています。

 そして、いくら世界金融市場が大混乱しようと、世界経済のファンダメンタルズそのものは、5月以降も大して変わっていないので、そうである以上、為替が100円近辺にあるならば、7月下旬から始まる決算を受けて、日経平均は間違いなく上昇する筈です。

 一方、世界金融市場の大混乱ですが、これはつまるところ、アメリカ国債の下落にいつ歯止めがかかるのか、市場がいつ落ち着きを取り戻すのか、これ次第ということになります。そして、我々が考えておくべきことは、FRBに変わるアメリカ国債の購入者として、ジャパン・マネーに白羽の矢が立ち、そうしてジャパン・マネーがアメリカ国債の購入に使われる可能性がある、ということです。という訳で、安倍政権が以前からやると言っている例の官民ファンドというやつですが、これは外債購入が目当てということが以前指摘されました。ひょっとしたら、参院選以降、この官民ファンドが本格始動する可能性はあります。その一方で、日本のメガバンク、大手保険会社、年金基金、この資金が、これまで以上に外債に振り向けられる、という可能性もまた否定できないところです。