見てビックリ! 中国貿易統計の凄い中身 このまま手をこまねいて傍観しているだけでいいのか・・・

 2012年の各国の貿易統計が出揃ったことを受け、それらを集計した結果、昨年の貿易総額において、ついに中国がアメリカを抜いて世界のトップになったことが判明しました。とはいえ、これはあくまでも過程に過ぎません。13億社会の中国がアメリカを追い抜くというのは、数の面から言ってもそもそも当然のことであり、今後、中国は世界貿易の最大の要として、その影響力を増していくばかりでしょう。

 また、先週金曜には、中国の今年1月の貿易統計も発表されたのですが、しかしこの日は、アメリカの昨年1年間の貿易統計の発表と重なりました。アメリカは依然として50兆円以上の大赤字のうえ、これに財政赤字の大赤字も加わります。なので、先週末は、どうしてもこのアメリカの分析に終始せざるを得ませんでした。

 一方で、中国の貿易統計ですが、これについては、より詳細にウオッチすべきものであります。中国は、今後世界の貿易と主役としての地位を確固たるものにしていく以上、中国の貿易の中身を詳細に知ることなしには、本来日本の経済政策もありえないのです。ちなみに、以下は、先週末にも引用した日経新聞電子版の記事の抜粋です。

 「中国税関総署が8日発表した1月の貿易統計によると、輸出が前年同月比25%増、輸入が28%増とそれぞれ大きく伸びた。春節旧正月)の大型連休が昨年は1月、今年は2月とずれが生じているため、1月の貿易が見かけ上、膨らんだ。輸出入を合わせた日本との貿易総額も前年同月に比べ1割増となっている」。

 「輸出額から輸入額を差し引いた貿易収支は291億5千万ドル(約2兆7000億円)の黒字となった。昨年1月は春節の連休の影響で今年1月よりも平日が5日少なかった。税関総署によると、春節の影響を除いて試算すると、今年1月の輸出の伸びは12・4%、輸入の伸びは3・4%になるとしている」。

 「主要地域別では、米国との貿易総額が23%増、東南アジア諸国連合ASEAN)向けが42%増となっており、景気が比較的堅調な米国や新興国との貿易が全体を支えている。一方、日本との貿易総額は10・3%増。見かけ上は増えているものの、債務危機の影響が残る欧州連合(EU)との貿易の伸び(10・5%)を下回っている」。

 これだと、いかにも詳細に報じているように映るかもしれません。しかし、実はまったくそうではないのです。このような報道では、中国の貿易の真実はまるで藪の中です。我々としては、まず気になるのは、強烈に伸びているASEAN諸国との貿易です。

 日本から受ける印象として、ASEAN諸国は、確かに持続的な経済成長がなされているものの、とはいえ、GDPの総額に関しては、同じ経済連合でもEUと較べると大人と子どもほどの違いがあるという印象でしょう。なので、いくらASEAN諸国が成長していると言っても、金額ベースで見た場合、中国にとって最大の貿易相手であるEUとは格段の開きがあると、そう思うかもしれません。では、実際のところはどうなのでしょう? これについては、中国税関総署にアクセスすれば、誰にでも確認できることなのですが、以下は、EU、アメリカ、ASEAN、それぞれとの貿易額です(単位・千美元)。

   EU     47,142,967
   アメリカ   43,716,363
   ASEAN  36,985,142

 という訳です。つまり、GDP総額の違いの割には、それほど差がないことが解ります。しかし、繰り返しますが、中国とASEANとの貿易額の伸びは、EUやアメリカ相手の伸びを、はるかに上回るのです。ASEANの今後の経済成長を考えれば、数年後には、ASEANはEUやアメリカを抜いて、中国にとって最大の貿易相手になることは間違いありません。

 ところで、金額ベースで現在第3位であるASEANに次ぐ4位の座に位置するのは、香港なのですが、香港が出てくれば、当然ながら台湾というのも見過ごすことは出来ません。昨秋以降、中国の株式会社のなかには、上海や深センではなく香港市場に上場する企業が増える傾向があり、一方で台湾については、ついに人民元と台湾ドルとの直接取引が始まったばかりです。中国・香港・台湾の経済は、まさにこれから一体となっていこうとしているわけですが、はたして、中国と香港・台湾との貿易総額の伸びは、いったいどのぐらいなのでしょうか? ちなみに、EUとアメリカをはるかに凌駕した先程のASEANの伸び率は、42%でした。香港と台湾も、これに匹敵するほどの伸びだったのでしょうか? 以下は、その数字です。

   香港  83・0%
   台湾  70・0%

 見ての通り、ASEANとの42%という伸び率が平凡に映るほどの、驚異的な伸びであるわけです。ちなみに、香港と台湾は、もちろん人口そのものは決して多くなく、この2つの地域の人口の合計は、3000万人ほどに過ぎません。にも拘らず、その貿易の金額は、次のような額なのです。

    香港   33,398,822
    台湾   16,737,750

 というです。たった3000万の香港+台湾だけで、アメリカ向けの金額はもちろん、EU向けの金額さえも追い抜いてしまうのです。

 ちなみに、ここで「EU+アメリカ」相手の貿易額と、「ASEAN+香港+台湾」相手の貿易額を比較してみましょう。
     
    EU+アメリカ      90,859,330
    ASEAN+香港+台湾  87,121,724

 見ての通り、あまり大して変わらないというところまで来ているわけですが、では、この数字は、2年前と比較すると、どうなるでしょうか?
  
    EU+アメリカ      82,839,538
    ASEAN+香港+台湾  63,997,256

 つまり、過去2年間でEU+アメリカは、「8,019,792」しか伸びていないのに対して、ASEAN+香港+台湾の場合、「23,124,468」と、実に欧米向けの3倍も伸びているわけです。この数字は、更に2年前の2009年まで戻ると、もっとはっきりします。あんまりやるとくどいのでやめますが、2009年から2013年の4年間で見ると、まさにEU全体分、あるいはアメリカ一国分に匹敵するほどの金額を、中国はASEAN+香港+台湾を相手に増やしているのです。

 このことから、中国の貿易戦略は明らかです。つまり中国は、かつては資金力豊富な欧米の先進国相手の貿易で稼いていたものの、しかし近年は急激に成長する近隣のアジア諸国との貿易を非常に重視するようになり、今後においては、まさに近隣アジア諸国との貿易を通して、これまで以上の物凄い成長を遂げようとしているということです。

 一方で、日本はどうでしょうか? 日本が最も重視しているのは、依然としてアメリカです。リーマンショック以降、毎年平均所得が下落し続けているアメリカを、日本はいまだに最大の頼みとしているのが現状です。しかもアメリカは、昨年10〜12月期のGDPがマイナスになったにも拘わらず、日本の大手メディア・経済学者・金融アナリストなどの紋切型同盟は、アメリカは景気がいい、などと恐ろしいことを言っています。しかし、この中国の貿易統計を詳細に検討するならば、いったいどこの国・どの地域が景気がいいのか? どこと緊密に付き合うべきであるのか、それは一目瞭然です。

 ちなみに、言うまでもなく、ASEAN諸国の急激な成長は、中国に引っ張られている部分があることは事実です。というより、中国とASEANは、お互いがお互いを必要とし、それにより必要な提携を結ぶという、非常に賢く、且つ当たり前のことを行っているわけです。

 そして、中国にしても、ASEANにしても、最も必要としているのは、何よりも日本の技術力であり、また日本からの投資です。彼らが何よりも必要としているのは、これなのです。このレポートで何度も繰り返してきたように、中国にしろ、ASEANしろ、経済の本格的な上昇はこれからです。これまでの成長は、あくまでもプレリュードに過ぎません。中国とASEANを合わせた人口は、現時点でおよそ20億人。この20億社会の経済が本格的に上昇することの威力が真に発揮されるのは、これからなのです。上海や香港のファンドマネージャーたちは、このことを解っているから、今後の見通しについて、強気一辺倒なのです。

 そしてまた、東アジア以外の人々で、このことを最も良く理解している者たちこそ、ヘッジファンドです。だからヘッジファンドは、東証1部上場企業のなかでも、特にそのようなところに目星をつけて株を買っているのです。その企業とは、トヨタ、ホンダ、ソニーパナソニック、三菱UFJ、みずほFG・・・、などでは企業ではありません。いわゆる、素材とか機械などの非常に地味なところの企業の株が、相当に上昇しているのです。

 しかし、このままの状況だと、それらの企業が稼ぐ黒字は、すべてアメリカに持って行かれることになります。彼らはそのために、つまり日本人が株を買わないで、売り続けるなり、あるいは傍観したままでいてくれるようにと、紋切型同盟へ向けて裏で盛んに情報を流しているのです。大手メディア・経済学者・金融アナリストたちが、何故いまもって中国経済は危ないと言うのか? 何故アメリカは景気がいいと言い、そうしてTPPへの参加を誘導するのか? それは、いま東アジア・東南アジアの経済で起こっていることについて、日本人に気付いてほしくないからです。

 日本人が気付かない間に、地味だけど技術力のあるこれら企業の株価はいつの間にか急上昇し、そうして日本人の気付かない間に、それらの儲け・それらの黒字が、全部アメリカのものになるようにという算段です。言うまでもなく、これは、明らかに国富の流出です。

 しかし、このことは、次の問題を呼び起こします。つまり、いま現在の東証1部の株価上昇はバブルではないのだけれど、もし日本人がみんな気付いて、そうして圧倒的な資金力を誇る日本マネーが日本株へ投資するようになったなら、それはたちどころにバブルとなる恐れがあり、日本企業も日本の個人金融資産も共倒れになりかねない、ということです。もちろん、アメリカのヘッジファンドもただでは済まないわけですが、それはさておき、日本人が真実に気付いたら気付いたで、その場合も、大問題を孕んでいるわけです。

 とはいえ、そうかといって東証の売買を傍観している間に、株価はドンドン上昇していきますので、一株あたりの値段が上がり、時間が過ぎれば過ぎるほど株を買うのが難しくなっていきます。そしてその一方で、円安も進み、日本への輸入物価は確実に上昇していき、スタグフレーションがジワジワと進行していくことになります。

 という訳で、現状は、ヘッジファンドにより、完璧にはめられた状況です。但し、手がないわけではありません。

 *なお、先程の中国の貿易統計は、以下のアドレスからアクセスすることが出来ます。興味のある方は、是非覗いてみてください。

  http://www.customs.gov.cn/default.aspx?tabid=400