イタリア総選挙の結果で早速儲けたヘッジファンド、一方でアメリカこそ本当の債務危機

 昨日の日経平均株価は、前日の終値からマイナス1・27%下落し、1万1253円で取引を終えました。ちなみに、売買代金は1兆8487円です。

 日経平均は下落したものの、一方で、他のアジア太平洋地域の各市場は堅調で、上海・深セン・香港・台湾・韓国・ベトナムインドネシア・オーストラリアなどは、一様に株価が上昇しました。そして、注目のヨーロッパ市場ですが、こちらは全面高です。更に、アメリカ・カナダ・メキシコ・ブラジルも株価はいずれも上昇です。

 前日は世界同時株安になったものが、1日経つと一転して世界同時株高となったわけですが、この要因はすべて、イタリアにあります。

 イタリア総選挙から一夜明け、早速イタリアの10年物国債の入札が行われたのですが、これが非常に順調に消化されたのです。利回りは4・83%と、心配された5%を超えることなく、それを下回る水準であり、そして応札倍率も1・654倍と高いものであり、イタリアの長期国債に対する旺盛な需要が確認されました。このことが安心感を誘い、市場は即座に反応して株価が上昇したのです。

 しかし、これは既に事前の段階で解りきっていたことです。そのことを分析したのが昨日のレポートなので、詳しくはそちらを参照していただきたいのですが、とにかく、イタリアは基礎的財政収支が黒字である以上、ギリシャやスペインのような大規模な緊縮策は必要ないのです。イタリアの危機とは、ヘッジファンドが儲けるために仕掛けられた虚構であって、そしてそのヘッジファンドが昨秋以降態度を変え、新たな儲け口のために南欧を支える側にまわった以上、イタリア国債が順調に応札されるのは当然です。

 ちなみに、抜け目ないヘッジファンドは、このイタリア総選挙をめぐっても、早速ひと稼ぎしています。彼らは、予め、イタリアの国債が順調に応札されることを知っていた、しかし市場には、大手メディアの報道や、経済学者・金融アナリストの解説を通して、「イタリアの債務危機再燃か?」という情報が乱れ飛びました。これにより、不安に駆られ株を手放した投資家は多かったことでしょう。だから株価が世界的に下がったのですが、こうして株価が下落し、いくらか割安になったところで買えば、後で上昇したときに、その分儲かるわけです。

 ちなみに、それなら何故日本だけは2日続けて株価が下落したのかと言いますと、これも解りきったことです。日本の場合、月曜日に、自民党政権が日銀の次期正副総裁人事として黒田氏と岩田氏を推すことを決めたという報道がなされました。しかし、自民党が金融緩和に積極的な人物を推すことは、昨年12月に自民党政権が誕生した時点で既に解りきったことであり、一方で、この人事がそのまま通るかどうかは、参院での野党次第です。という訳で、月曜の日本株の大幅な上昇は完全に勇み足ですので、その分はどこかで余計に下落するに決まっています。このことも、既にお伝えした通りです。

 とにかく、いまは、来週に迫った中国の全人代、そして日銀の次期総裁の正式な決定を前に、日本株に関しては様子見ムードのままですので、そんななかでも短期的な儲けを得ようとする投機筋は、色々とやるものです。

 ところで、様子見ムードの理由は、他にももう1つあります。それはもちろん、アメリカの「財政の崖」をめぐる協議です。

 本来は今年の1月1日を期限に決着する筈だったこの問題は、オバマ政権と共和党の協議が折り合わず、増税に関する部分だけは決めて、赤字削減の具体策については2か月先送りされました。その期限である3月1日が目前に迫っているものの、しかし、依然として、オバマ政権と共和党の間では、話がまとまる模様を見せません。

 このままでは、大規模な歳出削減が強制的に執行されてしまいますので、そうするとアメリカは深刻な不況に突入してしまいますから、オバマ政権と共和党は、長期的に政府の歳出をどのように減らし、赤字を削減していくのか、決めなくてはなりません。しかし、このままだと、またしても歳出削減の強制執行が先送りされるだけで、何も決まらず、後日同じことがまた繰り返されるという展開もあり得るわけです。

 ここで気付かれた方も多いと思いますが、イタリアの危機が虚構であった一方で、アメリカの危機こそは、ホンモノの危機です。

 アメリカは、①大規模な財政赤字があり、②経常収支も大幅な赤字のうえ、③基礎的財政収支も赤字であり、④更に住宅バブル崩壊による不良債権処理も済んでいないのです。

 これは、明らかにスペインさえも上回る深刻なものであり、なのでアメリカこそ、世界で最も財政が危機的な状況にあるといえます。

 にも拘らず、アメリカ国債は、依然として安全資産であるとされています。本来安全ではない資産が安全と見做される、これは明らかに信用バブルです。住宅バブルは崩壊しても、アメリカ国債に対する信用バブルは依然として続いている状況です。

 このアメリカ国債に対する信用を担保しているのは、言うまでもなく、アメリカの国力への信頼などではなく、中国マネーと、日本マネーです。

 世界で最も潤沢な資金を持つ、世界の債権国の第1位日本と、第2位の中国が、とにかく大量にアメリカ国債に資金を投入しているので、それによりアメリカ国債への「安全性」が担保されているというのが現状です。中国と日本、このどちらかがアメリカ国債への投資をやめるだけで、途端にアメリカを債務危機が襲います。
 
 そして、ここ数年というもの、中国は非常に意欲的且つ戦略的にアメリカ国債への投資を行い、そうして人民元高の抑制を図りながら輸出を伸ばし、一方で手持ちのアメリカ国債アメリカに対する外交カードとして使うという論理的な手段を行っているわけですが、それに比べると日本は、以前ほどアメリカ国債に対して積極的ではない、と見る向きもあるわけです。

 一方で、アメリカの側からすると、「財政の保護領」たる日本にこそ、自分たちの国債を購入して欲しいと望んでいます。そのために必要なのは、日本が貿易で黒字を稼ぎ、そうして稼いだ黒字を、そのままアメリカ国債への投資にまわして欲しいということになってくるわけです。そんな都合のいい話など、普通ならありません。ところが、ここに来て、中国経済がいよいよ本格的に上昇を開始し、更にASEANも続こうとしています。そして、このアジアの20億社会の発展において、欠かすことのできないものが日本の技術、とりわけ機械・素材・部品などは大変に重要なものである以上、この分野を中心に、日本はかなりの黒字を稼げる目算が立っているわけです。

 このような状況のところに、需給バランスの変化による為替レート以上の円安(つまり実態以上の円安)が加われば、尚更日本は黒字を稼げるわけです。昨日、アメリカでは、FRBバーナンキ議長が議会証言を行い、私はこれから日銀が行おうとしている金融緩和を支持する、と明確に述べました。もちろん、現在世界で最も緩和的な政策をとっているのが当のバーナンキ議長である以上、これを支持しない場合自らの哲学を否定することになるので、彼の立場からすれば支持する以外にないわけですが、バーナンキ議長のこのような発言は、当然ながらアメリ財務省の高官の気持ちを代弁するものでもあるわけです。

 そうであれば、ヘッジファンドも当然これに乗ってきます。彼らにとっては、国益などどうでもよく、いかに合理的且つ効率的に儲けるかが最も重要です。そして、いずれ世界1位の経済大国となる中国の成長を背景に、時価総額で世界2位の日本株が上昇するならば、これに投資しないわけがないのです。だから彼らヘッジファンドは、南欧諸国の資産を買うことで中国の貿易を下支えをしつつ、ユーロ高を通して円安も実現しているわけです。そうして彼らは、株だけでなく、為替でも儲けるわけです。

 ちなみに、これは別に、陰謀などではありません。ヘッジファンドは、状況を冷静に分析したうえで、市場の動きに対して先回りして資金投入しているだけです。以前にも申し上げたように、ヘッジファンドというのはウォール街投資銀行とはまるで性質が違うのであって、ウォール街の場合はどれだけ多額の損失を出しても公的資金で救われますが、ヘッジファンドの場合、損失を出したら、顧客が離れて潰れるだけです。だから彼らは、リスクを取るのではなく、自らリスクを作りこれを管理することで、リスクをなくそうとします。
 
 イタリアにしてもそうであり、自分たちが意図的につくった「危機」を通して、逆にリスク管理を行い、またそのことでも儲けているわけです。

 という訳で、イタリアのこと、アメリカのこと、中国のこと、そして日本のこと、すべては連動しているのです。