中国経済の上昇を、福島支援に結び付ける手立てはないのか? このことを、そろそろ模索すべき

 昨日の日経平均株価は、先週の終値からプラス1・94%上昇し、1万1368円で取引を終えました。しかし、このことは完全に予想できたことです。と言いますのも、先週は、日銀白川総裁の前倒し辞任表明という予想外の事態が、ヘッジファンドの焦りを誘い、そうして水曜から金曜にかけて、株価は大きく変動しました。その調整は、当然今週に行われるべきものです。水曜に強烈に上昇した分は、木曜と金曜で下落しました。もちろん理由は、円相場の大幅な変動を受けてのものですが、その反動は当然今週の相場にも現れます。

 という訳で、木・金に円高が進み、併せて株価が下落した分、今週前半に円が売られて円安になり、併せて株価が上昇するというのは、もう事前に解っていたことです。既に、週末の3連休の間に円安が進んで、一時94円台まで行きました。それに併せ、シカゴ・マーカンタイル取引所では、日本株が急騰していました。なので、昨日日経平均が上昇するのも、当たり前なのです。

 ちなみに、先週末から、中国・香港・台湾・シンガポール・マレーシア・ベトナムは、春節旧正月)に入りましたので、このへんの市場は当面すべてお休みです。ただ、それでも円安が進むには何か理由が欲しいとヘッジファンドは思うわけですが、その材料はヨーロッパから来ました。先日、ECB(ヨーロッパ中央銀行)理事会のメンバーで、ドイル連銀のバイトマン総裁が、昨秋以降進むユーロ高について、「現在のユーロが過大評価されている証拠はない」と発言しました。これはつまるところ、急激に進むユーロ高について、それを黙認するという発言です。

 しかし、ECBの幹部がこのような発言をするというのは、そもそも当たり前というものです。何故なら、ECBは、南欧債務危機が確実に落ち着きを取り戻しはじめていることを公式に認め、そのうえで、一昨年の12月と昨年2月に行った、LRTOと呼ばれる大規模な資金供給オペについて、これの前倒しでの資金回収を始めているからです。ユーロが急激に買い戻されている理由は、つまるところ、これなのです。

 つまり、ECBが行っている政策を受けてユーロが買い戻されている以上、ECB理事会のメンバーとしては、上記のような発言をするに決まっているのです。そうでなければ、ECBが行っている政策を自ら間違っていると認めることになります。ECBが行っている資金回収は、極めて正当なものです。そうである以上、バイトマン氏も、上記のような発言をする以外にはないわけです。ちなみに、既に何度も指摘してきたように、南欧債務危機が落ち着きを見せ始めた最大の要因は、昨年11月半ばに、ヘッジファンドがこれらの国債や不動産などへの投資を開始したからです。ヘッジファンドがこれら南欧の資産を買うことで、ユーロを下支えし、そしてそのヘッジファンドが、円を売ってユーロを買いながら日本株へと投資しているのが現状です。

 さて、ここからは、昨日の取引の内容を見ていきます。昨日も取引は活況で、売買代金は、2兆4234億円にのぼりました。先月後半以降、もはや2兆円台半ばという金額は当たり前のこととなりました。ところで、既に何度も申し上げてきたように、いまや世界貿易における最大の要となった中国経済の上昇は、これからが本番を迎えるのであり、しかも中国経済は、同じく急上昇中のASEANと、まさに一体となっていこうというものです。一方で、最大のリスク要因であったユーロ圏については、ヘッジファンドが資金投入をしてこれを支えている状態です。

 もはや、時代ははっきりと変わろうとしているのです。ヘッジファンド的な目線から世界貿易の今後を展望すると、ユーロ圏はとりたてて景気がいい必要はありません。将来的に、中国にとって最大の貿易相手がASEANになることは確実である以上、ユーロ圏は、悪くなければそれでいいということになってきます。アメリカについては、もはや殆ど影響力はないと言っても過言ではありません。バブル崩壊アメリカは、つまるところ低位安定型で、相も変わらず巨額の貿易赤字を垂れ流しながら消費をしていくでしょうが、しかし単にそれだけに過ぎず、今後大きく展望を変えるような事態は起きにくいという状況です。

 とにかく、中国+ASEANという20億社会がいよいよ本格的に成長しようとしており、それを下支えするためにヘッジファンド南欧諸国の資産を購入して債務危機を落ち着かせているのです。そのようなヘッジファンドにとっては、圧倒的な技術力を誇る日本企業の株を買わないことは、ありえないということになってきます。

 株というのは、通常ならばリスク資産なわけですが、しかしいまや、日本株については、持たないことの方がリスクになって来ています。何故か? それはつまるところ、ヘッジファンドと顧客との契約形態に依ります。ヘッジファンドと、ファンドに資金を預ける顧客との契約は、数か月ごとに更新するものであり、だからヘッジファンドは、契約を勝ち取るために、よそのファンドより少しでもいい成績を残す必要に迫れています。そのため、中国・ASEANの成長にとって不可欠の技術力を誇る日本企業の株を持たないことは、よそのファンドと較べ運用成績が落ちるリスクとなるわけです。これが、「日本株を持たざるリスク」というものです。

 ちなみに、日本株については、小泉〜第一次阿倍政権時代、アメリカの不動産バブルによる好景気を受けて、日経平均は一時1万8000円台まで上昇しました。その間、日本の国内経済はデフレが深刻になる一方だったのですが、世界経済の景気敏感株としての日本株は、国内経済の状況に関係なく、ひたすら外部要因によって動きます。

 こうして、当時日本株は、アメリカの状況におもねって上昇し、そしてアメリカのバブル崩壊を受けて下落しました。日本株にとって、日本の国内経済など、もはや関係なく値が動くのです。

 そして今、またしても外部要因によって日本株は上昇しています。何度も申し上げてきたように、その最大の要因こそ中国です。しかも重要なのは、この中国経済の上昇は、数年前までのアメリカと違って、バブルではないということです。13億人が生活するなかで、①明らかに必要なインフラの投資がある、②市民の平均所得が、GDP成長率の倍以上のペースで増え続けている、③銀行から企業への新規融資残高もうなぎ上りで上昇し始めている、・・・・・・これらは明らかにバブルではないのです。13億人が暮らす社会における実体経済そのものが、いよいよ急拡大しようとしているのです。しかもそこに、7億人が暮らすASEANも加わる、この威力は計り知れないものがあります。こんな事態は、人類の歴史上、かつてないことであり、そしてだからこそ、かつてないほどの金額が日本株へと投入されているのです。

 という訳で、当面の間(つまり少なく見積もっても向こう数年間)、日本株は上がり続けるでしょう。にも拘らず、日本人は、日本株を買えないのです。

 何故か? 第一に、「アベノミクス」という言葉です。現在進行中の円安も株高も、アベノミクスによるものだということになっています。もしそうであるならば、安倍政権が倒れた場合、たちどころに円高・株安になる、という訳です。そして日本は、2006年の小泉氏の退任を最後に毎年首相が代わっているわけで、安倍政権が長期政権になる保障など、どこにもないわけです。という訳で、まずは「アベノミクス」という言葉が、日本の個人投資家機関投資家に対して、日本株を購入するのをためらわせています。

 ところが、安倍政権の経済政策の実態は、公共事業と企業向け減税のバラマキに過ぎません。にも拘わらず、「アベノミクス」という言葉で何か新しいことが起こりつつあるような幻想を引き起こしているので、このような言葉を無批判に流通させたメディアの罪は甚大です。
 
 しかし、言うまでもなく、現在起こっていることの真実に気付いている個人投資家もそれなりにいる筈なのです。ところが、そのように真実を把握している投資家も、日本株を買えない状況になっています。

 たとえば、富士重工です。富士重工というのは、マツダともに国内生産に拘り、そうして国内で多くの雇用を維持している企業ですが、国内生産に拘ってきたからこそ、この円安の恩恵をかなり受けています。しかし、個人投資家は、この富士重工の株は買えません。と言いますのも、株というのは「1株いくら」という数字で表現されるものですが、しかし株という金融商品は、1株単位で売っていないのです。大抵、100株、あるいは1000株が、最低売買単位です。富士重工の昨日の終値は1株当たり1324円であり、そして富士重工の株は1000株が最低売買単位です。すると、現在富士重工の株を買うには、最低でも132万4000円必要になるのです。個人投資家で、この金額を出すのは相当に勇気がいります。というより、富裕層はともかく、一般の投資家では、これはとても買えません。

 また、たとえ円安になるのが解りきっていたとしても、自動車会社の場合、リコールというリスクは常に付きまといます。三菱自動車トヨタなども、このリコールでかなり株価を落としたわけです。更に、地震や洪水など、天災で生産拠点がやられても、自動車メーカーの株は落ちます。だからこそ、株式投資の場合、様々な株を購入し、リスク分散するためのポートフォリオが重要になってきます。つまり、あの株と、この株と、その株と・・・というふうに幾つもの企業の株を購入することになるわけですが、しかし富士重工だけで100万以上かかるのでは、これはまず買えません。

 他にも、たとえば東レという企業があります。炭素繊維で最先端を行くメーカーであり、そして新素材というのは、中国にしても、5か年計画で決めた7大産業の1つとして育てる方針ですので、東レの株は今後大きく上昇が期待されます。ちなみに、東レ炭素繊維ボーイング787にも採用されていたため、ボーイング787の飛行停止を受けて株価は下がったのですが、とはいえ東レの技術自体に問題があるものではないので、この株価下落は一時的なものであり、下がった今こそ東レは買いだ、という部分はあるわけです。ところが、個人投資家は、この東レの株も買えません。東レの昨日の終値は543円であり、そして東レ株も1000株が売買単位ですので、東レの株を買おうとすると、最低でも54万3000円かかるのです。

 名の知れた大企業の場合、このように、株を買う際には最低でも30万〜50万から100万円超、というのは、当たり前のことなのです。しかも、株価が上昇すればするほど、購入に必要な金額も増すわけです。なので、個人投資家にとっては、株価が上昇すればするほど、日本の大企業の株は買えなくなります。株価が上昇すればするほど、買えるのは資金力のあるところ、つまりヘッジファンドということになってきます。だから、手をこまねいて見ているしかないのです。

 しかし、このような大企業の株も、大手銀行や保険会社ならば問題なく購入できるのです。ところが、機関投資家と呼ばれるこれら銀行や保険も、昨秋以降新たに日本株を購入しようという姿勢を見せません。何故なら、第一に、これら銀行や保険会社は、リーマンショックの株価下落により、いわゆる株の含み損を抱えているからであり、第二に、そうである以上、これら銀行や保険会社は、新たに株を買うまでもなく今後上昇が期待される大企業の株は既に持っているからであり、そして第三に、これら銀行や保険会社は、財務省の言うがままに国債を買ってきたところで、財務省の言いなりということは即ち、アメリカの言いなりということです。

 かくして、日本は個人投資家機関投資家も、共にアメリカが日本株で大儲けするのを黙って見ているだけ、ということになります。

 しかし、いま日本が直面している課題は、福島の支援のためのおカネをどう工面するかであり、また中国との関係をいかにビジネスにつなげるかなのです。そうである以上、中国経済の上昇を受けて株価が上昇するならば、これを利用して福島の支援につなげるというのは当然あってしかるべきです。そのためには、連帯する必要があります。ポートフォリオを組めるだけの金額が集まれば、福島支援のためのファンドを作って投資を行うことが出来るのです。この決断が早ければ早いほど、初期投資は安く済みます。しかし先送りすればするほど、その間に日本株も上昇して初期投資が高くつきます。

 とにかく、このまますべての儲けをアメリカに持って行かれるのをただ眺めるばかりで、一方でその間に進む円安で日本国内にスタグフレーションによる不況が迫るというのは、どうにも納得がいきません。おそらく数年後、日経平均株価は、2万円を超えるでしょう。最大の資金規模を持つアメリカの年金基金ヘッジファンドを通して日本株へ投資している以上、当分の間、このカネは日本株からは離れません。しかし、たとえ日経平均が2万円を突破しても、日本の市民がその恩恵を受けることはないのです。小泉〜第一次阿倍政権時代、1万8000円を超えた株価が、日本の市民になんの恩恵も与えなかったように。

 しかし、中国経済が本格的に上昇してきている以上、何とかしてその恩恵を福島支援につなげる策を講じる必要がある筈です。中国、そしてASEANという20億社会の経済上昇の威力は、絶大です。