中国経済の上昇が日本に与える、産業別の影響について

 昨日の日経平均株価は、前日の終値からマイナス1・04%下落し、1万1251円で取引を終えました。という訳で、昨日は取引時間中は円高も進んだのですが、一方で、夕方以降はまたしても円安に振れたので、夜間取引時間でのシカゴ・マーカンタイル取引所において、日本株は上昇しています。

 ちなみに、週の前半に株価が下落し、週の半ばにかけて乱高下するというのは、今年に入ってからのパターンなのですが、その一方で、昨日の取引に関しては、どうにも様子見気分のところがかなり多いです。このことは、売買代金からも見て取ることが出来ます。昨日の売買代金は、2兆1522億円でした。相も変わらず2兆円越えという点では確かに活況なのですが、とはいえ、この金額は、今月に入ってからは最も低い数字です。

 というのも、今週は、ただでさえ中国が春節でお休みのうえ、週の後半に向かって、日銀の金融政策決定会合、更にG20が控えています。いわゆる、ビッグイベントというやつです。もっとも、これらの会合にしても、どういう答えが出てくるのか(あるいは先送りされるのか)、だいたい予想はついているわけですが、しかし、こういうイベントが相次いで控えている場合、大抵株式市場は、様子見ムードが漂うものです。

 という訳で、昨日の売買は、特に内容というほどのものはありません。とはいえ、アジア太平洋の新興諸国については、見るべきところが多々あります。中国及びその周辺国・地域は春節でお休みだったものの、それでも、取引のあった韓国・フィリピン・マレーシア・タイ・インドネシア・インド・オーストラリアは、いずれも株価が上昇しているのです。特に、今年に入って絶好調であるフィリピンとインドネシアは、昨日もまた史上最高値を更新しました。この2か国は、もはや史上最高値を更新すること自体が当たり前となりつつあります。またオーストラリアにしても、その株価は、2年2か月振りとなる5000ポイントの大台に乗せました。

 そのオーストラリアですが、ここは昨日は、重要な経済指標の発表がありました。消費者心理を表わす消費者信頼感数が発表され、これが12月の100・6ポイントから大幅に上昇し、108・7ポイントを記録しました。オーストラリアのこの指数は、これで4か月連続での上昇となったのですが、これは、オーストラリアにとって最大の輸出先である中国経済の上昇と完全に連動してのものと見て、まず間違いありません。中国は、輸出だけでなく、輸入も同じに伸びているわけですが、このことがオーストラリア経済を非常に良くしています。

 一方で、絶好調のインドネシアですが、ここについては、アジア株専門番組の「ASIAエクスプレス」での電話リポートから、大変興味深い話を聞くことが出来ました。それは、ジャカルタのオフィス需要の活況についてです。現在、ジャカルタのオフィス価格は、35%の勢いで上昇中で、これは世界的に見ても、2位の北京、3位のバンコクを上回り、世界1位なのだそうです。経済が高度成長の只中になるとき、首都及びそれに比例する大都市でオフィス需要が活況を呈すというのは世の常ですので、このことは、今後のインドネシア経済の更なる発展を約束するものといえます。しかも、インドネシアの人口は2億を超えていますので、その経済の中心であるジャカルタでこれだけオフィス需要が盛り上がるということは、極めて注目に値します。

 さて、経済指標といえば、昨日はアメリカでも重要な指標が発表されました。それは、1月の小売り売上高についてです。アメリカは、GDPの実に7割を個人消費が占めますので、この小売り売上高は極めて重要な指標なのですが、その内容は、まるで良くありません。以下は、ロイターの記事の抜粋です。

 「米商務省が13日に発表した1月の小売売上高は、季節調整済みで前月比0.1%増にとどまった。増税やガソリン価格の上昇が支出を抑え、年初の米経済が消費の追い風をほとんど受けなかったことを示した」。

 「給与の減少とガソリン価格の上昇を背景に、第1四半期の消費の伸びは鈍化すると予想されており、エコノミストの間では慎重な声が聞かれる」。

 「ウエスタン・ユニオン・ビジネス・ソリューションズのシニア市場アナリスト、ジョー・マニンボ氏は『(今回の指標で)今年第1・四半期の成長はさえない見込みが強まった。主に給与税減税切れのためだ』と話した」。

 この0・1増という数字は、12月の0・5%増から、大きく下落したことを意味します。既に先月、アメリカの1月の消費者心理を表わす指標が12月から大きく下落したことはこのレポートでもお伝えしましたが、今回の発表は、まさにそのことが完全に正しかったことを証明するものです。

 ちなみに、アメリカは昨年の10〜12月期のGDPがマイナスだったわけですが、年が明けても消費者心理が更に冷え込む一方では、今年1〜3月期のGDPまでマイナスになる可能性が出てきました。という訳で、アメリカの景気が悪いということは、もはや歴然としています。もっとも、このことは、今回のロイターだけでなく、CNBCも、FRBも、更にはオバマ大統領も認めていることです。にも拘わらず、日本の大手メディア・経済学者・金融アナリストなどの紋切型同盟は、いまだにアメリカは景気がいいと言い続けています。狼少年は、いつかその言葉を誰も信用しなくなるものですが、しかし日本の狼少年は、紋切型同盟というカルテルを組んでおりますので、相も変わらずその影響力が大きいというのは困ったものです。

 ところで、現在春節でお休み中の中国ですが、ちょうど1週間前、日経新聞電子版に、上海支局の菅原透さんという方の手による、注目すべき記事が掲載されました。大手メディアでも、現地に駐在する記者の方々は、それなりに状況を把握しているものです。そ以下は、その抜粋です。

 「経済規模の拡大で権勢を増す中国。世界の企業家はその存在を無視できないようだ。国際会計事務所のデロイトやKPMGが企業関係者を対象にした最近の調査でも『中国重要』のシグナルが発せられた」。

 「デロイトと米競争力委員会が年明けに公表した『世界製造業競争力指数』。世界のグローバル企業の552人の経営者に製造インフラとしての各国・地域の競争力を評価してもらい、指数化した。1位はやはりと言うべきか、今なお『世界の工場』である中国だった」。

 「注目すべきは、5年後の予想。日本では人件費の上昇や従業員の権利意識の高まりなどで、製造業の進出先として必ずしも有望でないという見方もある。それでも今回の調査では、中国が5年後も引き続き競争力1位の座を守るとの結果が出た」。

 という訳で、日本の経済メディアにおいては、中国は賃金が毎年上昇し、人件費が高騰していく一方なので、中国はもはや製造拠点になりえず投資の魅力も落ちている、などとまことしやかに言われているわけですが、世界各国の経営者を対象にしたアンケートは、それとはまるで異なり、5年後においても、依然として中国は製造業において世界一の競争力を誇るだろうという訳です。このことは、次の自動車に特化したアンケートから、尚のこと理解できます。

 「一方、KPMGが最近、発表したのは自動車製造業の投資動向。31カ国の自動車業界関係者200人を対象に投資先として真っ先に選ぶ国はどこかと聞いたところ、7割が『中国』と回答した」。

 「世界の企業家が中国に熱視線を注ぐのはそこに市場があるからだ。KPMGは18年までに、BRICsの新車販売台数が世界全体の半分近くを占めると予測する。『売れる市場でモノを作る』。製造業の鉄則を踏まえれば、対中投資を積極化するのは当然の判断だ」。

 中国は世界最大の市場であり、だからこそ、売れる市場で製品を作るのだ、という論理は、至極当たり前のものといえます。

 もっとも、今後中国の製造業で成長が見込まれるのは、主に中西部です。ちょうど1か月前、「中国経済をどう読むか? エネルギー問題の観点からpart2 インフラ投資編」で詳細に分析したように、一口に中国といっても、中西部はまだまだ未発達であり、賃金のレベルも場所によってまちまちなものの、全体としてはフィリピンあるいはタイと同レベルの状態です。また、だからこそ、中国政府は、中西部の開発と都市化を最重点としたインフラ投資を行う計画なのですが、その一方で、上海や深センなど沿岸部の大都市は、製造業から金融その他の産業への脱皮も進行中であり、また観光が有望な土地もあります。なので、13億人も暮らして以上、当然といえば当然のことながら、地域によって状況は、まったく違います。

 ところで、そのような中国経済の上昇も、日本への影響から考えた場合、現状では、どのような産業に最も恩恵があるのでしょうか? このことを考察するうえで、昨年の11月に『週刊ダイヤモンド』が出した中国特集号は、非常に興味深いデータを提供してくれています。この号で『週刊ダイヤモンド』は、「中国需要が誘発する日本の生産増加額」を、「公共投資」、「輸出」、「最終需要」、「民間消費支出」の4つに分けたうえでその効果を試算したのですが、それによると、「公共投資」の占める割合が最も多く、次いで「輸出」が肉薄し、その後に「最終需要」、「民間消費支出」の順になっています。

 更にその後、今度は、産業部門別にその誘発効果を試算しているのですが、それによると、第1位は、「半導体など電子部品」です。ただ、これに関しては、近年価格が値崩れを起こして、日本の大手企業も赤字続きなので、売上は多くでも、利益を上げることは厳しいものがあります。

 では、他はどうなのでしょうか? この次に来るのが、「一般機械」であり、更に「鉄鋼」や「非鉄金属」なのです。ここで、これまでの僕の一連のマーケット・レポートを継続してお読みくださっていた方々のなかには、ピンと来た人も多いと思います。機械・鉄鋼・非鉄金属というのは、東証1部のなかでも、昨年末以降、株価上昇率が非常に目立つところなわけです。ちなみに、言うまでもないことですが、これらのどの製品を輸出するうえでも、海運というのは欠かせないファクターであり、そうである以上、海運が他のどの業種よりも上昇するのは、尚更当たり前となってきます。

 つまり、現状の日本は、中国がインフラ投資をするために必要な、あるいは、中国が製品を作ってそれを輸出するために必要な、素材や中間財に関するものを必要とされていることが解ります。このあたりの技術力に関して、日本は世界的にも抜きん出たものを持っています。

 しかし、それだけではありません。たとえば、自動車です。日本メーカーはこれまで、GMやフォルクスワーゲンなどと較べると、押しなべて中国市場への売り込みは元々遅れていたのですが、そんななかになって、日産は比較的中国を重視してきました。ところが、今後の中国において日本のどの自動車メーカーが最も有望とされているかというと、これが必ずしも日産ではないのです。

 『週刊ダイヤモンド』は、昨年は1月にも中国特集号を出しているのですが、そこにも、非常に興味深い記事が載っています。中国といえば、大気汚染の深刻さはいまに始まったことでないわけで、これは以前から問題となっていたわけですが、そうである以上、自動車に関しても、低燃費のクルマを作る技術は喉から手が出るほど欲しいのです。しかもそれは、ハイブリッドやプラグインハイブリッドのような高価なもの以上に、新たに中間層の仲間入りを果たした人々も購入できるような「即戦力」ことが何よりも求められます。そこで、他のどこよりもマツダの技術を必要としているのです。

 「中国政府の視線は、ガソリンエンジンの低燃費技術にも向いている(中略)。低燃費エンジン開発に一日の長があり、財務余力に乏しく“隙のある”マツダと組みたいと思っている中国企業は多い」。

 言うまでもなく、このマツダこそは、自動車メーカーのなかで、どこよりも株が買われている銘柄です。つまり、マツダの株は急上昇している背景にあるのは、為替感応度だけではないということです。

 ちなみに、この号の特集では、「欧米の中国向け輸出は、急拡大する内需、つまり中国人の消費者向けの最終商品が少なくない」のに対し、「日本から中国への輸出は、原材料をはじめ、自動車や電子機器の部品、そして設備機械などが中心」とも指摘されています。

 そうである以上、現在の日本が得意とする分野は、中国に限定されず、広くアジア太平洋への輸出のためにも、必要となってくるものです。しかし、これらの国々にしても、その経済は中国と連動しているですから、中国経済が上昇することの波及効果を最も良く享受するのは、日本企業ということになってきます。何故なら、中国は、輸出だけでなく、輸入も凄い勢いで伸びているわけであり、そしてASEANなどが中国向け輸出を増やす際にも、日本の技術は必要となってくるからです。

 そうである以上、ヘッジファンドがここに挙げた業種や企業の株を積極的に購入していることは、極めて合理的と言わざるを得ません。ヘッジファンドは、中国をはじめとしたアジア諸国の経済の状況も、現在の日本企業の強みや世界経済におけるその立ち位置も、本当に良く研究していると言えます。