ロシア・韓国経済の現状と今後について、その裏にあるアメリカの思惑と絡めながら

 昨日の日経平均株価は、前日の終値からプラス0・50%上昇し、1万1307円で取引を終えました。昨日は日銀の金融政策決定会合があったのですが、結果は予想通り、追加の緩和はなしでした。日銀の金融政策決定会合は、先月のものについては大イベントになったわけですが、しかしそれを受けて、白川総裁は決して政治の圧力に屈することなく、白川総裁の在任中は日銀が大規模な緩和政策を打ってくることはありえないということがはっきりしましたので、昨日の結果は完全に事前の予想通りです。

 株式市場は、とにかく依然様子見ムードは強いです。それはもちろん、中国が春節でお休み中であることと、G20が控えていることに依ります。

 とはいえ、それでも昨日も、アジア太平洋市場は見るべきところがありました。昨日は、香港が春節のお休みから一足早く戻って市場が再開されたのですが、その昨日は、日本のみならず、香港、韓国、オーストラリア、インドネシア、タイと、軒並み株価が上昇しています。連日史上最高値を更新していたフィリピンだけは下落しましたが、とはいえ、フィリピンはとにかく株価が上がり過ぎていますので、このように時々調整が入ることは当然というものでしょう。

 さて、そんな昨日の東京市場ですが、売買代金は2兆1344円であり、一昨日に引き続き、今月最少を記録しました。様子見ムードとは、こういうことです。とはいえ、それでも2兆円は超えているわけで、依然として活況を呈していることは間違いないわけで、より厳密に言えば、G20が終わり、また中国で春節が明ける来週に向けて、本格的な売買を開始するために、各ファンドはこの機会を利用してポートフォリオの整理をしているというのが現実でしょう。

 という訳で、昨日の取引の内容は殆ど見るべきところがないのですが、そんななか、1つだけ注目すべき部分がありました。以下は、昨日の業種別上昇率の上昇上位5業種です。

    1ゴム         +4・07%
    2海運         +1・19%
    3繊維製品       +0・93%
    4非鉄金属製品     +0・71%
    5ガラス・土石     +0・62%
 
 見ての通り、世界貿易の屋台骨を支える地味なところがズラリと並んだわけですが、言うまでなく、ここでの注目は、ダントツの上昇を見せたゴムです。ちなみに、ゴムというのは、つまるところ、タイヤ・メーカーです。

 先月、「中国経済をどう読むか? エネルギー問題の観点からpart1 自動車から見る原油の動向」という稿で詳細に分析したように、中国をはじめアジアの新興諸国において、今後新車販売は急増していきます。そして、ガソリン車、ハイブリッド車燃料電池車、電気自動車の如何に拘わらず、自動車にとってタイヤというのは絶対に必要なのです。また、インフラ投資のための建設・鉱山車両についても、同様にタイヤは不可欠です。という訳で、タイヤ・メーカーの株価が上昇するというのは、当たり前なのです。

 昨日、タイヤ・メーカーの株が急騰した背景には、横浜ゴム東洋ゴムが決算発表を行い、かなり良好な数字が出たことで、他の会社もつられて買われた部分があるのですが、しかし、上記のような事情がある以上、タイヤ・メーカーほど、株価の堅調な上昇が見込まれる業種もそうはありません。

 リーマンショックが起こった以降も、世界的に自動車の販売台数は着実に増えていますので、だからタイヤ・メーカーに限っては、リーマンショックで株価が大幅に下落した後、他の業種に先駆けていち早く株価は上昇に転じています。特に業界最大手で、ミシュランと世界シェア1位を争うブリヂストンは、その圧倒的な技術力を背景に、株価は既にリーマンショック前の高値に接近しているほどです。しかし、中国・ASEANの20億社会において、自動車が本格的に普及するのはこれからですので、タイヤ・メーカーの株価は今後益々上昇していくでしょう。

 さて、ここからは、ロシアと韓国の経済について見ていきたいと思います。日本にとって、急拡大する中国こそ、最も重要なパートナーであることは疑いない事実ですが、一方で、中国同様に隣国であるロシアと韓国も重要です。中国が春節でお休み中であるこの時期に、この両国の経済について見ておくことは必須でしょう。

 まずロシアですが、ロシアと言えば、その主な財源は石油・天然ガスであるわけですが、昨日プーチン大統領が、液化天然ガスの輸出に関して、これまで国営のガス・プロムが独占していたのを、段階的に自由化するよう政府に検討を指示しました。

 言うまでもなく、背景にあるのは、アメリカでのシェールガス革命です。実は昨秋以降、英フィナンシャル・タイムズには、ロシアのガス・ビジネスの動向をめぐる記事が頻繁に掲載されています。その一連の記事によると、ロシアが抱いているのは、ひとえに危機感です。

 日本での原発事故、更に勃興するアジア新興国の経済を受けて、今後天然ガスの需要が高まることは目に見えているわけですが、一方で、アメリカでのシェールガス革命によって、アメリカがこれまでの輸入国から輸出国に転じることは、世界の天然ガス・ビジネスにまつわる需給関係を大きく変化させることは間違いありません。

 そんななか、これまで国営のガス・プロムは、帝国と呼ばれたほど圧倒的な権限を有し、要するに殿様商売を行ってきたわけですが、しかし今後は、ガス・プロムの手法では、世界の天然ガス市場で起こる変化に対応できないのは明らかで、そのためにロシアは、ガス・ビジネスの改革の必要性に迫れていたのです。そしてついにプーチンは、世界の市場の変化に対応すべく、独占をやめて、これを自由化する方向へと舵を切ったわけです。

 ちなみに、プーチンの言動をウオッチしている限りでは、プーチンは明らかに、他のどこよりも日本とビジネスをしたいと考えています。なにしろ日本は天然ガスの輸入量で世界第1位です。そんな日本が、ロシアにとってはすぐ側に位置しているわけで、プーチンとしては、とにかく日本に対し自国で生産するガスを売りたい、そのためには、値段を多少下げても構わない、彼はそう思っています。

 プーチンが最も危惧しているのは、日本がTPPに参加し、併せて日本がアメリカ産のシェールガスを輸入する事態です。彼は、それだけはなんとしても避けたいと思っています。ちなみに、プーチン北方領土問題を解決したいと願っているのは明らかです。何故なら、シベリアから日本へパイプラインを引く際、この領土問題で揉めることは、明らかにビジネスの邪魔になるからです。

 また、そのような思惑がある以上、当然プーチンは日本に対して、我がロシアは独占をやめてこれを自由化した、だから日本も是非電力の(地域)独占をやめてこれを自由化して欲しい、そうして互いに、対等な立場でビジネスを行おうではないか、それこそが、ロシアと日本双方の国益に適うことなのだ、そう打診してくるはずです。

 さて、一方の韓国ですが、目下のところ、こちらの最大の問題は、ウォン高です。韓国と言えば、経済全体に占める輸出の割合が異常に高く、しかもそれはサムスンなど財閥系企業を主力とし、そうして李明博政権は、過度に財閥優遇の政策を取り、そのため韓国政府が、為替においてウォン安へ誘導すべくこれまで盛んに為替介入を行ってきたことは、世界中の市場関係者が知るところですが、昨秋以降、為替相場において、状況が一変しました。

 現在の円安が、アベノミクスによるものではなく、昨秋の9月終わり、つまり中国が国慶節の大型連休にあるときから始まったものだということは既に何度も指摘してきたことですが、現在のウォン高も、このような世界経済の変化に応じて起こっていることです。為替相場において、円とウォンはまったく逆の関係にありまして、円は、世界景気が低迷したとき、逃避先として資金が流入して買われて円高になり、世界景気が良くなり貿易が活発化すると、資金が離れて円安になるのですが、ウォンはまさにその逆で、世界景気が悪くなるとウォンが売られてウォン安になり、世界景気が良くなり貿易が活発化すると、ウォンは買われてウォン高になります。これは、リーマンショック以前からの傾向であり、このことが、今回もまた起こっているわけです。

 という訳で、このウォン高局面において、韓国政府としては当然為替介入をして少しでもウォンの値段を下げたいわけですが、この韓国政府の為替介入に関して、昨年11月、アメリカがストップをかけました。アメリ財務省は、「国際経済・為替政策報告書」のなかで、韓国政府の為替介入について、次のようなことを言っています。

 「例外的な状況に限定し、データの公表などで為替市場の透明性を高めるように、韓国当局に引き続き求める」。

 これはつまり、韓国当局に対して、為替介入をやるな、ということです。韓国政府の為替介入は、日本政府が為替介入をするときのように、このたび政府はこれこれの金額で介入を行いましたと表明することはなく、すべて覆面介入で行うことが通例となっています。しかしそれでも、韓国の外貨準備高の推移を見ることで、「韓国政府はこのタイミングで介入をしたんだな」ということが解るようになっています。そこにアメリカは、「データの公表などで為替市場の透明性を高めるように、韓国当局に引き続き求める」と言ってきたわけで、これはつまり、これまでのような覆面介入をするな、ということです。

 アメリカの狙いは明らかです。既に先日、山田厚史さんのコラムで見たように、アメリカは膨大な赤字をファイナンスするため、日本によるアメリカ国債への莫大な投資を必要としています。そのためには日本企業に黒字を稼いでもらう必要があり、だからこそ、円安というのは、何よりもアメリカが望んでいることであるわけです。

 一方で、いくら韓国企業の躍進が著しいと言っても、韓国のマネーでは、とてもじゃないけどアメリカの膨大な赤字を補填するには足りないのです。アメリカが赤字を補填して財政ファイナンスするには、日本のおカネが必要なのです。そのためには、日本企業と韓国企業に争ってもらっては困るわけで、アメリカとしては、円安ウォン高でないと困るということになってきます。

 ちなみに、日本にとってアメリカが「保護領」なら、韓国も残念ながらアメリカの「保護領」です。朝鮮戦争というのは、現在は「休戦状態」のままであり、「終戦」したわけではありません。北朝鮮アメリカの間で平和条約が結ばれているわけでもない現状において、もしも北朝鮮と韓国で軍事衝突が起こった場合、その時点で韓国軍は在韓米軍の指揮下に入ることになっているのです。

 この点で韓国はアメリカに首根っこを掴まれていますので、韓国としては厳しい状況です。特に、今回のように北朝鮮が核実験をするならば、その度に韓国としては「終戦したわけではない」ということを思い知らされるわけで、たまったものではありません。北朝鮮が韓国に進軍することなど、絶対にありえないとしてもです。

 という訳で、韓国政府としては、為替介入をするなというアメリカの「圧力」を、ある程度受け入れざるを得ないということになってきます。

 ちなみに言っておきますと、日本と韓国との貿易は、為替などに関係なく、常に日本側の大幅な黒字です。それは何故かと言いますと、いかにサムスンソニーパナソニック、シャープを圧倒しようとも、韓国企業が製品を作るための機械や素材や部品などは、日本企業に頼っているからです。

 また、たとえどれだけ円安ウォン高が進もうと、ソニーパナソニック、シャープは、サムスンには勝てません。何故なら、2005年の時点、このとき液晶テレビの世界シェアにおいて、1位シャープ、3位ソニー、4位パナソニックだったところを、その後の2006年と2007年で一気にサムスンとLGが追い抜いたのですが、この06年と07年というのは、アメリカの不動産バブルの絶頂期で、今以上の円安ウォン高であったのです。にも拘わらず、サムスンとLGは、ソニーパナソニック、シャープをまとめて追い抜いたのです。という訳で、「サムスン・LG」と、「ソニーパナソニック・シャープ」では、競争力に根本的な違いがあるため、為替などに関係なく、日本の電機メーカーは韓国の電機メーカーに勝てません。

 但し、他の分野は違います。鉄鋼がその最たるものですが、トヨタなどの自動車、それから三菱重工や日立なども、韓国企業と競争している部分はかなりあるので、これらの企業は、円安ウォン高になればなるほど有利になります。ちなみに、これらの企業ほど、アメリカに従属的であることは言うまでもありません。

 一方で、機械や素材などは、そもそも根本的に日本企業の技術力の前に敵はありませんので、これらの地味だけど強い業種は、世界景気が良くなり貿易が活発化すればするほど業績は良くなり、株価も上がるわけです。ちなみに、これらの技術力を必要としているのは、諸外国のみならず、韓国も同様です。サムスン、LG、現代などにしても、これら日本の技術がないと、製品は作れません。だからこそ、日本は韓国に対して、一貫して貿易黒字なのです。

 そして最後に、自動車メーカーとアメリカとの関係ですが、一口に日本車のメーカーと言っても、トヨタ・ホンダと、マツダ富士重工ではまるで違います。具体的には、補助金の額です。トヨタやホンダには、アメリカにおいて、アメリカ政府からかなり多額の補助金が出ているのですが、マツダ富士重工は、そのような恩恵に預かっていません。何故なら、トヨタやホンダは、既にかなりアメリカでも生産を行っているのに対して、マツダ富士重工は、日本国内での生産に拘ってきたからです。つまり、アメリカの雇用増に貢献してきたトヨタやホンダは、その分アメリカ政府から多額の補助金を得てきたのに対して、マツダ富士重工は日本国内での生産に拘ってきたため、アメリカ政府からの補助金は非常に少ないのです。しかし、そのマツダ富士重工こそが、トヨタやホンダよりも株価は上昇しているのです。