そもそも、何故アメリカ経済はいつまでも経っても低迷したままなのか

 昨日の日経平均株価は、前日の終値からマイナス1・18%下落し、1万1173円で取引を終えました。春節による中国市場のお休みと、G20を控えて、依然として様子見をしながら、来週以降に向けてポートフォリオの組み替えを行っているという感は強いです。

 そんななかでも、他のアジア諸国の株価は概ね堅調でした。昨日は、香港・韓国・ベトナムインドネシア・フィリピンが上昇しました。特に、インドネシアはまたしても市場最高値更新です。

 一方、中国は昨日で春節休暇が終了したのですが、その間の小売り売上の速報値が昨夜入って来ました。以下は、日経新聞電子版の記事からの抜粋です。

 「中国で今月9日から始まった春節旧正月)の大型連休が15日に終わり、商務省は春節期間中の全国小売売上高は前年同期比14・7%増の5390億元(約7兆9千億円)だったと発表した」。

 という訳です。これについては、より詳しいことが解ったら、後日お伝えしようと思います。

 さて、昨日の東証の取引の内容ですが、昨日の売買代金は、2兆3156億円でした。ちなみに、昨日は2月第1週における投資家別売買動向が発表されたのですが、ここで注目すべきは、昨年11月の衆院解散以降、ほぼひたすら売りに回っていた日本国内の個人投資家が、かなり買いに入っているということです。しかし、これはある種、当然といえるでしょう。と言いますのも、これまで日本株のパフォーマンスは著しく悪かったので、国内の個人投資家には、株式の評価損というのがかなり溜まっていました。なので、まずは売ることによりこれを清算しなければ、そう買えるものではありません。

 一方で、ここに来て、この株高の真実に気付き始めた投資家も、ある程度いるだろうということです。当初は、ヘッジファンドがあまりに巨額のマネーをつぎ込む様を見て、警戒感が先に立った個人投資家は、相当にいた筈です。1日の売買代金が2兆円前後というのは、これまでの日本株の常識の範疇をはるかに超えるものです。通常の感覚の持ち主なら、これは誰だってバブルだと思うものです。しかし、昨年12月分以降、中国から発表される経済指標、及び中国関連の新興諸国の指標から、これらアジア太平洋地域がいよいよ強烈に上昇を開始したということは、詳細に観察していれば解るわけで、併せて、日本株のなかでも、どのような業種の株価が上がっているのかを分析すれば、おのずと真実に到達する筈なのです。そしてまた、ヘッジファンドの運用戦略に通じている者が見れば、ヘッジファンドがある確信を持って日本株に巨額の資金を振り向けていることも、当然ながら察する筈です。

 ちなみに、ヘッジファンドの運用戦略については、いずれ詳細に分析しようと思います。

 さて、昨日の取引の内容ですが、注目点は2つです。まず、以下は、昨日の売買高の上位3銘柄です。

   1みずほFG   9億3514万株
   2マツダ     3億6585万株
   3三菱UFJ   1億3798万株
 
 一目見て、昨日は、みずほだけが突き抜けて活況だったことが解ります。昨日のみずほ株の売買は、実に東証1部全体の2割にのぼる巨大なものです。そして、そのみずほの株は「−5・71%」の下落です。これだけ物凄い取引がなされ、それでこれほどまでに株価が下落しているというのは、つまりところ、昨日は第一に、みずほの株を売る日だったということです。

 とにかく、昨秋以来、メガバンクの株価は猛烈に上昇しています。そのなかでも、みずほ株の売買は、活況過ぎるぐらい活況だと言っても言い過ぎではないほどです。これは要するに、中国の春節とG20があるなか、ポートフォリオの組み替えを行う恰好にはタイミングで、これまで買い過ぎていたみずほの株を売って調整を行ったと見て間違いありません。

 ちなみに、2位のマツダですが、昨日は円高になったにも拘わらず、マツダの株価は上昇しています。これも通常ならまずありえないことなのですが、とはいえ、この売買も、ポートフォリオの組み替え上、今後の見通しから、マツダは買っておいて方がいいという判断での買いと見るのが正しいでしょう。と言いますのも、昨秋以降、既に250%以上株価が上昇しているマツダですが、しかしこの企業の過去の株価、及びこの企業への各国からのラヴ・コール具合から見ると、現在でもマツダの株はまだまだ割安なのです。国内生産比率が8割にも上り、尚且つ低燃費のガソリン車とヨーロッパにおけるエコカーの主流であるディーゼル車で高い技術力を誇るマツダが、今後新興国での需要拡大と円安が見込めるならば、相当に伸びることは間違いありません。

 さて、もう1つの注目点ですが、それは、電力株です。実は昨日は、33業種中32業種が下落したのですが、唯一上昇したのが、この業種なのです。以下は、主なところの上昇率です。

    東北電力    +7・89%
    九州電力    +7・75%
    Jパワー    +6・71%
    北海道電力   +6・25%

 この電力株の急騰については、電力料金の値上げを申請したこととか、経産省シェールガスの輸入のために1兆円を準備するとか、人によってその説明が全然違うのでいまいちよく解りません。とにかく、電力株の動向は、世界貿易などとはまったく無縁であり、ひたすら日本の政治によって決まりますので、市場分析の外にあるものです。

 さて、ここからはアメリカ経済について整理しようと思います。大手メディア・経済学者・金融アナリストなどの紋切型同盟は、いまもってアメリカの景気はいいと言っておりますけど、しかし、GDPがマイナスになった国の経済について景気がいいというのは、そもそも根本的にどうかしています。加えて、1月は消費者心理も、小売り売上も、いずれも12月から悪化していますので、どう考えたって景気がいいわけがありません。

 これは、何度でも繰り返すべきことですが、デフレよりも、スタグフレーションの方が、もっとタチが悪いのです。日本は確かにデフレであり、景気は良くありません。しかし、日本の場合、平均所得が毎年下落しているものの、それに併せて物価も下落していますので、生活者(消費者)としては、まだ救われているわけです。一方で、アメリカもリーマンショック以降に限っては、平均所得が毎年下落し続けているわけですが、しかしアメリカの場合、平均所得は下落しているのに、物価は上昇し続けているのです。

 これは普通に考えれば、日本よりもアメリカの方が生活するうえでより苦しいことは、誰の目にも明らかなはずです。所得が下がっていても、物価も下がっているならば、必要なものは買えます。しかし、所得は下がっているのに、物価が上昇していては、必要なものは買えないのです。

 この時点で、アメリカの景気が良くなるわけがないのです。

 しかもアメリカの場合、バブル崩壊による不良債権の処理がまだ終わっていません。ウォール街の銀行や保険会社など、大手金融機関が抱えていた不良債権問題に関しては、公的資金を注入することで資本増強を行って財務状況が改善されましたが、しかしアメリカのバブルがかつての日本のバブルと違うところは、不良債権は、金融機関だけでなく、各家庭にもあるということです。それも、物凄く大量にあります。住宅価格の暴落により、各家庭が所有していた住宅ローン担保証券は、不良債権化しています。これの処理が、依然として終わっていません。

 これについては、金融機関に対して行ったように、公的資金を使って政府が買い上げるということは出来ません。何故なら、アメリカは、毎年貿易赤字財政赤字を合わせて150兆円以上もの巨額の赤字を計上しているので、とてもじゃないけど、家庭部門にある不良債権を買い上げる余力がないのです。それで仕方なく、昨年9月からFRBが購入を始めたのですが、これはつまるところ、大規模な金融緩和としてなされるわけで、そして景気が悪いところに中央銀行が大規模な緩和策をとることは、スタグフレーションの状況を益々悪化させてしまうだけなのです。

 という訳で、アメリカの場合、問題を解決するための施策が更に問題を悪化させるという、完全な悪循環に嵌っています。

 そこに加えてアメリカは、雇用環境が一向に良くならないのです。言うまでもなく、雇用が悪化する一方だからこそ、平均所得が下落し続けているのです。

 ちなみに、リーマンショック以降のアメリカは、2009年はもちろん、その後の2010円、更に2011年、そして2012年も、年初から春先にかけては、経済指標はそれなりにいい数字が出ているのです(あくまでも、それなりにですが)。で、それらの指標を受けて、アメリカは不況を脱した、と毎年言われるのですが、しかしその後、5月から7月にかけて、ものの見事に期待は裏切られ、この時期になるとアメリカでは毎年必ず指標が悪化しています。

 2009年の4月、日銀の白川総裁はニューヨークでの講演において、この一時的な好況を「偽りの夜明け」と表現しました。そしてこのような「偽りの夜明け」が、アメリカでは毎年繰り返されているのです。

 という訳で、今年もアメリカでは春先にかけて、経済指標はそれなりに良い数字が出てくるかもしれませんが、しかしだからといって、それでアメリカの景気が回復したとは間違っても言えないのです。

 アメリカは、上に挙げたような、スタグフレーション不良債権問題、雇用の悪化、という堂々巡りのなかで悪循環を繰り返しています。しかも、貿易赤字財政赤字の合計は、毎年150兆円を超えているのです。アメリカの景気が良くなる見込みは、いまのところまったく立っていません。そしてだからこそ、オバマ大統領はあんなに必死になって、経済再建を訴えているわけです。