悪循環にどっぷりと嵌りつつあるアメリカ、それなのに・・・

 昨日の日経平均株価は、前日の終値からプラス0・41%上昇し、1万1606円で取引を終えました。ちなみに、売買代金は1兆8284億円です。

 一昨日は内容的になかなか意味のある上場でしたが、しかし昨日の上昇は、殆ど意味のない上昇です。

 まず、時系列で追ってみますと、朝方は前日から100円以上の下落で始まり、その後一旦は上昇に転じたものの再度下落し、いったいどうなるんだろう? というなかで、午後はまたまた上昇し、結局小幅ながらプラスで終わったというところです。ちなみに、上海総合指数は、東京に輪をかけて動きが少なく、こちらは「−0・25%」と若干の下落。ただ、深センの方は株価が上昇しています。

 この主要因は、もちろんアメリカにあります。本来は1月1日に決着する筈だったいわゆる「財政の崖」ですが、この問題でオバマ政権と共和党の間での協議が折り合わず、部分的に合意しただけで残りは2か月先送りということになり、その歳出削減の強制執行期限がいよいよ迫ったことを受けて、市場参加者が取引に対し慎重になるのは当然というものでしょう。

 という訳で、昨日の株価上昇も殆ど内容のないものです。昨日の東証1部で物色が目立ったのは、主に東電・不動産・倉庫株、という3種類です。昨日、東電の株価は、単に上昇しただけでなく、売買高でも全体の2位でした。

 それと、不動産です。売買高・売買代金において、長谷工・東京建物・三井不動産三菱地所、というところが軒並みトップ10にランクインしてきました。不動産は、業種別騰落率では、第1位の上昇率でした。そして、この不動産株に次いで買われたのが、倉庫株です。倉庫の場合、海運と連動して上昇することもあるのですが、しかし昨日の上昇は、完全に不動産セクターとの上昇と連動したものです。業種別騰落率で、1位が不動産なら、2位がこの倉庫・運輸だったのです。

 という訳で、昨日上昇が目立ったところは、全部アメリカの景気とは全然関係ない内需ばかりなわけです。それも、国内の個人消費関連とも関係ないものばかりということで、つまり貿易にも関係なければ、個人消費にも寄与しない、という実に内容のないものでした。

 しかし、そんななかでも、良い上昇もありました。つい先日、太陽光関連銘柄でサニックスが、地熱発電関連で新日本科学が、殆ど日替わりないし2日おきに急騰するのが最近の傾向とお伝えしましたが、昨日は新日本科学の方が急騰し、なんとストップ高まで行きました。これはもちろん良い上昇と言えます。

 さて、日本や中国のこのような市場動向は、非常に理解しやすいものですが、一般的な目線から見ると、不可解なのがアメリカです。というのも、オバマ政権と共和党の間で妥協点を探ることは困難で、もはや大規模な歳出の強制削減が執行されることはほぼ確実という状況になりつつあるにも拘わらず、ニューヨーク・ダウは株価上昇しているからです。アメリカ時間で朝方こそ下落して始まったものの、しかしその後切り替えして株価上昇し、結局5年5か月振りの高値で取引を終えたのです。

 アメリカはただでさえ景気が良くないのに、ここで歳出の強制削減が執行されたら、尚更景気は悪化します。昨日発表された指標によると、アメリカの1月の個人所得は前月比でマイナス3・6%も減少しました。これは2・5%のマイナスと見込まれていた事前のアナリスト予想を大きく下回る落ち込みです。アメリカは、GDPの7割を個人消費が占めますので、その個人消費の礎となる平均所得が「−3・6%」もの減少では、景気が良くなるわけがないのです。そこに歳出の強制削減が執行され、一部公務員の給料が払われないということになると、尚更消費は落ち込み、景気は悪化します。

 にも拘わらず、何故アメリカの株価は上昇したのか? これはつまるところ、アメリカの大企業の商売の場所も、相手も、それらは中国などの外国である、ということです。アメリカの大企業は、外国で商品を生産して、それを主に外国で売っているわけです。そうなると、アメリカの大企業にとって、アメリカ国内の内需は、あまり重要ではなくなってきているということです。

 たとえばここ最近、中南米のなかでは、メキシコの成長が非常に著しいです。それは何故かというと、アメリカをはじめ各国の企業が、安価な労働力を求めて続々とメキシコに生産拠点を構えており、それにより、メキシコでは株価が急上昇するとともに、中間層も増えています。そのため、かつて「豊かな生活」を求めてメキシコからアメリカへ移住した人々が、不況で職もないアメリカを見限って、成長著しい母国へ戻るという事態まで起こっているほどです。明らかに、アメリカにいるよりも、メキシコに戻った方が、職はあるのです。

 とはいえ、アメリカの大企業にとって、最も重要な商売相手は当然中国です。自動車のビッグ3から小売りのウォルマートまで、一番の頼みは中国の消費者ですし、これはまた観光業界にしても、尖閣問題により中国人観光客の日本離れが起こって以降、とにかくあの手この手を使って中国人観光客の誘致に躍起になっています。

 もしこのまま本当に歳出の強制削減が執行されても尚、株価が上昇するとしたら、それだけ、世界貿易におけるアメリカの実体経済の地位が、今までより更に低下したことを如実に証明するものとなるでしょう。要するに、世界貿易にとって、もはやアメリカの景気がいいかどうかは大して重要ではなく、重要なのは中国だ、ということがいよいよはっきりすると言えます。

 とはいえ、アメリカの地位低下が著しいにしても、そこまで落ちたのか? いくらなんでもこの株価上昇には、何か投機的な別の思惑があるのではないか? という疑念を持たれる方も当然いるだろうと思います。これについては、いずれ解ります。

 ちなみに、ここに来て、為替は非常に妙な動きを見せています。このことは、ユーロを軸に見るとよく解るのです。と言いますのも、まずユーロ円に関してですが、イタリアの総選挙の結果を受けて、一旦ユーロは猛烈に売られ、ユーロ円相場は一時118円台まで行ったのですが、その後株価が上昇に転じたのと同様に、再度ユーロは買い戻され、現在は122円台を窺うところまで戻っている反面、同じユーロでもドルを相手にするとまるで逆で、ここに来て、ユーロはドルに対して急速に売られているのです。

 これは滅多にない大変妙な動きであり、そう長続きするとは思えません。これが何を意味するのかも、いずれはっきりするでしょう。

 とはいえ、アメリカの実体経済が悪循環にどっぷりと嵌りつつあることは、間違いありません。昨年9月から、FRB住宅ローン担保証券を大量に買い入れることで資金を市場に供給するという、QE3と呼ばれる大規模な金融緩和を行っていますが、このように過剰マネーを供給することは、当然ながら物価の上昇をもたらし、スタグフレーションを助長するだけです。しかし、アメリ財務省には、FRBにこの金融緩和をやってもらわなければ困るという理由があるのです。それが、不良債権問題です。

 住宅バブルの崩壊によって、住宅ローンは不良債権化しました。銀行部門の不良債権については公的資金を注入することで解決したものの、とはいえこの不良債権は、一般家庭にも大量に眠っています。この家計部門にある不良債権を放置したままでは、いつまで経っても消費は活性化せず、不況から脱することが出来ないので、本当なら政府が買い上げるのが一番解決に近づくわけですが、しかし財政が悪化する一方のアメリカ政府に、そんな余力はありません。なにしろ、政府は少しでも歳出を減らさなければならない、だからこそ今回のような歳出の強制削減問題が浮上するわけです。そのため、アメリ財務省としては、政府の代わりに、FRB不良債権化した住宅ローン担保証券を買い取ってもらわないと困るわけです。

 という訳でFRB住宅ローン担保証券を買い上げる分、それだけ資金を市場に供給するという金融緩和を行うわけですが、しかしこのような金融緩和をやると、物価が上がるので、その分消費は抑制されてしまうわけです。

 つまりいまのアメリカは、①不良債権化した住宅ローン担保証券を何とかしないと消費は良くならないままである→②だからFRBがこれを買い上げて金融緩和をするんだけど、しかしそれは物価高を招くので消費は良くならない→①とは言っても不良債権を放置したままでは景気が良くなるわけないんだからFRBは金融緩和してよ→②という訳でFRBがこれを買い上げて金融緩和をするんだけど、しかしそれは物価高を招くので消費は良くならない→①とは言っても不良債権を放置したままでは景気が良くなるわけないんだからFRBは金融緩和の継続を→②だからFRBは金融緩和するんだけどしかしそれは物価高を招いて景気は良くならない・・・・・・、という悪循環に完全に嵌りこんでいるという状態です。

 そんな状況のなか、ドル安に乗って企業は外国を相手に儲けていますので(だから株価は上昇するのです)、そうして一部の者は益々裕福になり格差は広がる・・・、一方で3億もの人口がいるアメリカはこのように金持ちも増えているので、だから全体的に平均所得は下がって中間層が没落しても、金持ちは増えるので新車の販売台数は伸びている・・・、そしてそこに円安の恩恵を受ければ日本の自動車メーカーの収益も良くなるので株価は上昇するけど、しかし・・・・・・、という状況です。

 言うまでもなく、これは何とかしなければなりません。さしあたり、アメリカに最も必要なのは、政府においては税制改革であり、大企業においては報酬制度の見直しです。それは一言でいうと、公正な富の分配を行うということです。

 そしてこのことは、もちろん日本にも妥当します。日本も、アメリカほど極端ではないにしろ、このままでは、株は上がり、企業収益も改善されるけど、しかし中間層は没落するということになってしまいます。ここにおいて重要なことは、アメリカは経常収支も物凄い赤字だけど、一方で日本の場合経常収支は恒常的に黒字なので、分配するに十分な資金は、よそから借り入れるまでもなく既に十分あるということです。しかも日本の場合、すぐ隣に、猛烈な勢いで経済発展しつつある中国の存在もあるのです。更にまた、ASEANだってあります。という訳で、富の分配をしつつ、これらの地域とより一層緊密に連携して行けば、日本の経済は良くなります。やるか? やらないのか? すべてはそこにかかっているのです。