昨日発表された2012年のアメリカの貿易統計は50兆円の大赤字! だからこそ、「財政的に日本はアメリカの保護領」なのか?

 昨日の日経平均株価は、前日の終値からマイナス1・80%下落し、1万1153円で取引を終えました。これにより、週間ベースで見た場合、今週の日経平均は下落となり、株価の上昇は、ついに先週の12週連続プラスで途切れました。

 一方で、中国株はと言いますと、昨日の上海総合指数は、前日の終値からプラス0・57%の上昇です。昨日の上海市場の上昇の理由ですが、これははっきりしています。昨日、中国では今年1月の貿易統計の発表がありました。以下は、日経新聞電子版の記事です。

 「中国税関総署が8日発表した1月の貿易統計によると、輸出が前年同月比25%増、輸入が28%増とそれぞれ大きく伸びた。春節旧正月)の大型連休が昨年は1月、今年は2月とずれが生じているため、1月の貿易が見かけ上、膨らんだ。輸出入を合わせた日本との貿易総額も前年同月に比べ1割増となっている」。

 「輸出額から輸入額を差し引いた貿易収支は291億5千万ドル(約2兆7000億円)の黒字となった。昨年1月は春節の連休の影響で今年1月よりも平日が5日少なかった。税関総署によると、春節の影響を除いて試算すると、今年1月の輸出の伸びは12・4%、輸入の伸びは3・4%になるとしている」。

 「主要地域別では、米国との貿易総額が23%増、東南アジア諸国連合ASEAN)向けが42%増となっており、景気が比較的堅調な米国や新興国との貿易が全体を支えている。一方、日本との貿易総額は10・3%増。見かけ上は増えているものの、債務危機の影響が残る欧州連合(EU)との貿易の伸び(10・5%)を下回っている」。

 という訳で、中国の貿易は極めて順調です。特に注目すべきは東南アジア向けの輸出であり、中国から東南アジア向けの輸出は、なんと42%も増えているわけです。このことは、中国と東南アジアの経済の結び付きがいかに強いかを如実に物語っています。

 しかし、この数字が出たにも拘わらず、何故日本株は前日に引き続き、大幅な下落となったのか? これはもう、その理由は明らかです。もちろん、理由は、今週火曜の夕方にあった日銀白川総裁の辞任表明にあります。

 白川総裁の前倒しの辞任を受けて、おそらくは大規模な緩和政策を打ってくるであろう次期総裁のもとでの金融政策もまた前倒しになったことにより、火曜の夕方から水曜にかけて急激に円安が進み、そうして水曜の株価が恐ろしく上昇しました。このことは、世界中の誰もがまさかと思う表明であったので、これによりヘッジファンドが慌てて円売り・日本株買いに走ったことは、既にこのレポートでも述べた通りですが、しかしその日の相場展開は、いくらなんでも異常というものです。

 時間が経ってから冷静に考えれば、3月まではまだ白川総裁は健在であり、そのときまでは日銀は抑制的な金融政策に終始することは明らかなのです。その反動が、木曜以降に出たと言えます。そして、ここでの日本株売り・円買いもまた、焦りによるものです。

 しかし、これについては、他にももう1つあるでしょう。と言いますのも、今年に入ってからは、週の前半に株が下落し、週の半ばに乱高下したうえで、週の後半に向かって株高になるというパターンがありました。このことが、先月英米にキャラバンを行った野村証券の手口による操作であるというのは、岡村友哉さんの指摘から分析した通りです。そして、ご多分に漏れず、今週も週の前半は株は下落したのです。ところが、そこで週の半ばに向かう時、白川総裁の辞任表明があったわけです。

 株というのは、一度に上がり過ぎるのは危険なので、調整を含みながら、持続的に上昇していくものです。とりわけ、毎日2兆円以上もの大金がつぎ込まれる昨今の相場では、尚更調整を行いながら持続的な上昇を模索していきます。そしてまた、今年の年初にゴールドマン・サックス日本株の目標値を出したように、ニューヨークのウォール街やシカゴのヘッジファンドの間では、日本株について、長期に渡る持続的な上昇を見通しています。その最大の理由はもちろん、中国経済の拡大であり、そしてヘッジファンドは、これを下支えするために、債務危機にあった南欧諸国の国債を購入し、ユーロ市場を落ち着かせているのです。

 そうして、少しずつ持続的に日本株を上昇させ、長期に渡り儲けを得るためには、調整が必要なのです。とりわけ、シカゴ市場に根を張るCTAなどは、金融工学の粋を集めた“ロボット”のプログラムによって売買を行っているのであり、調整的な売りまでもがプログラムされていると言えます。しかし、そこに白川総裁の突然の辞任表明があり、これが彼らの運用計画を狂わせました。本来、乱高下させるところを、よそに儲けを取られまいと、どのファンドも焦って猛烈に円を売り、そして日本株を買ってしまったわけです。なので、その後円買い・日本株売りもまた、計画にはまったくなかった焦りからのものとなったわけです。

 段々解ってきたことですが、白川総裁の前倒しの辞任表明には、多分に「抵抗」という部分があるように思います。白川総裁は、アメリカにも自民党にも、絶対に屈しない方でありますが、しかしどう頑張っても、白川総裁が金融政策のかじ取りを行えるのは、今年の4月上旬までなのです。どちらにしろ今年の春で日銀での自分の役目が終わるのだったら、それなら・・・、とレジスタンスに踏み切った、そう見ることは、決して無理なこととは思えません。

 ところで、昨日は、アメリカからも貿易統計の発表がありました。こちらは中国とは違い、昨年2012年の年次ベースでの貿易統計なのですが、その数字は、実に5403億6200万ドル(約50兆円)という大赤字です。ちなみに、アメリカの場合、財政赤字はこんなものではありません。リーマンショック以降、アメリカの財政赤字は、毎年軽く100兆円を超えています。

 アメリカは、このようにとんでもない赤字にまみれており、そして目下のところ、これを黒字に転換するメドはまったく立っていません。にも拘わらず、どうして財政ファイナンスが出来るのかというと、それはもちろん借金に依っているわけですが、ここ数年、アメリカ国債も最も大量に購入しているところは中国です。

 中国は、言うまでもなく人民元を低く抑えるために、通貨政策として大量のドル買いを行っているわけですが、一方で、そのドルを元手に購入したアメリカ国債を、アメリカへの外交カードとしても使っています。つまり、アメリカが中国の様々なことについて批判しようとすると、そこで中国は、「え? そんなこと要求するの? それだったら、今後はアメリカ国債は買わないよ、それでもいいんですか? 良くないですよね、困りますよね、僕たちが国債買わないと、お宅は財政破綻しちゃいますからねえ・・・」という外交交渉を行っているというのは、専らの評判です。つまりアメリカは、国債を通して中国に首根っこを掴まれているわけです。

 しかし、それでは困るとアメリカは思うわけです。もちろんアメリカにとって、中国は大切なスポンサーであり、中国マネーはとても大切なものなわけですが、一方で、アメリカは、毎年膨らみ続ける「双子の赤字」を何とかするために、自分たちの国債を大量に購入してくれて、尚且つ政策面でも自分たちの言うことをきいてくれるという、とても都合のいい政府を求めてもいるわけです。つまり、自分たちはもはや諸外国を相手に儲ける力はないけれど、でも自分たちの代わりに大儲けをしてくれて、しかもその儲けを使わず自分たちに投資してくれるような、そういう都合のいい政府を求めているのです。普通なら、そんな金持ちだけど主体性のない政府など、存在しません。ところが・・・、なのです。

 以下は、昨年の3月にダイヤモンド・オンラインに掲載された、経済ジャーナリスト・山田厚史さんのコラムです。

  http://diamond.jp/articles/-/16368

 お読みいただけるとお解りいただけるように、「アメリカの財政通の間では日本は保護領と見られている」とあるわけです。これはいったいどういうことか?

 つまり、日本が貿易赤字になって困るのは、日本でなく、アメリカであるということです。何故なら、彼らにとって、日本企業が稼ぐ貿易黒字は、日本が使うものではなく、そのままアメリカ国債に投資されるべきものである、だって日本はアメリカの保護領なんだもの、当然でしょ? という論理です。

 つまり、大赤字に悩むアメリカが財政ファイナンスするためには、日本のおカネが必要なので、だから日本は黒字を稼いでくれなきゃ困る、日本が黒字を稼ぐのに必要なのはなんだ? 円安だ! という訳で、これで日銀へ圧力をかけるわけです、そして、日本企業が黒字になることが解っていれば、日本株を大量に買うことでヘッジファンドも儲かります、そのために、ヘッジファンド南欧諸国の国債を買い、ユーロ危機を落ち着かせることで、世界景気の下支えもします、しかも、それにより為替相場も動くから、そこでもヘッジファンドは儲けるわけです、くわえて、ユーロに対しドルが下落することによって、中国などの新興国市場でアメリカ企業がドイツ企業に対して優位に立てます、そして・・・、ということになるわけです。

 そうであるならば、日銀への圧力に合わせて、例の外債購入ファンドの計画が出てきたのもうなずけるというものです。つまり、日銀に圧力をかけて少しでも円安にして、それにより日本企業が儲けた黒字は外債ファンドに回して、ここでアメリカ国債を購入してもらう、という計画です。

 そうであればこそ、アメリカ政府が、円安に対して何も言ってこないのも、当然といえます。何故なら、誰よりも円安を望んでいるのは、他ならぬアメリカ政府とアメリカのヘッジファンドだからです。つまり、ろくに技術力のないアメリカ企業が競争するより、日本に競争してもらった方が確実に勝てるじゃないか、という論理ですね。なにせ、日本は、「保護領」ですので。

 しかし、それでいて、以前指摘したように、現在世界的にはドル安が進行しているわけです。ドルは対円でこそ上昇しているもの、しかしユーロ、人民元ブラジル・レアル、タイ・バーツ、インド・ルピー,ロシア・ルーブルなどに対しては、軒並み下落しているわけです。つまり、世界的には、ドル安なのです。

 ただ、これらすべては、いまや世界貿易の要に成長した中国経済の好調さがあってこそ成り立つものです。この中国経済の拡大がなければ、アメリカの計画はすべてご破算となります。中国経済の上昇を利用して、日本企業の稼ぐ黒字と日本株で懐を潤そうというのが、アメリカの算段です。一方で、ヘッジファンドは、更にそこから別のことも企んでいるでしょう。

 ちなみに、アメリカでも、日本のメーカーと勝負しうる自動車業界に関しては、円安を何とかしろとワシントンに盛んに申し立てていますが、それでもワシントンは動く様子を見せません。もちろん、ワシントンの高官は、自動車業界に対して、裏でこう言っているでしょう。

 「君たち自動車業界のために、尖閣問題を煽ってやったんじゃないか、中国はいまや世界最大の自動車市場だぞ、そして日本メーカーの落ち込みを受けて、最も売り上げを伸ばしたのはどこなのか? ドイツ車でもない、韓国車でもない、中国市場で最も売上を伸ばしているのは、アメリカ車なのだ・・・」

 とはいえ、いつまでもこんなことを許していていいわけがありません。以前も言いましたように、我々は、アジアで生まれ、アジアで育ち、アジアで暮らす、アジア人なのです。