益々連携を深める中国とアメリカ 〜中国とアメリカの“両家”は婚姻関係にあり、離婚などありえない〜

 ワシントンでは、7月10日と11日の2日間に渡り、中国とアメリカによる戦略・経済対話が開かれました。それにしても、3月に中国で新指導部が発足して以降、中米両国は益々急接近し、その連携を深めています。

 その経緯を振り返ってみますと、まず3月半ば、全人代が閉幕したその翌日、ジャック・ルー財務長官が北京を訪れ、習近平国家主席李克強首相と会談しました。驚いたのはこのスピードであり、全人代が開幕したその翌日に早速財務長官が北京詣でをするというのは、アメリカの財政がいかに中国頼みであるかを如実に物語るものです。

 次いで6月上旬、今度はアメリカ西部で首脳会談が行われたのですが、これは当初予定されていなかった非公式の会談であり、しかも舞台はカリフォルニアでも指折りの豪華な避暑地で、そこにわざわざ習近平を迎えるというのは、オバマにとっては最大級の礼をもって接したということで、アメリカが中国の新指導部をいかに大切に思っていたかがとてもよく解る会談でした。

 そして今回が3度目となるわけですが、開会の演説において、バイデン副大統領は、「米中以上に重要な関係はない」と言ったように、まさにその通りで、アメリカにとっては、国家財政の面でも、また企業活動の面でも、中国ほど重要な相手はいません。

 とにもかくにも、3月半ばの新指導部発足からまだ4ヶ月経っていないのに、中国とアメリカの間では、既に3回も首脳クラスの会談・会合が開かれているのです。こうして、中国とアメリカの間では、色々なことがドンドン話し合われているわけです。

 それに対して日本はというと、中国の首脳とは、まだ一度も会っていないどころか、今後も会う気がないのではないかというぐらいの有様です。

 ちなみに、もちろんヨーロッパも中国新指導部との関係構築には熱心です。特にドイツは、以前から中国経済との関係が深いわけですが(中国とドイツは蜜月と言ってもいいぐらいです)、今年5月、李克強首相がヨーロッパを歴訪した際、ドイツを訪れたときの言葉は印象的でした。記者会見の場において李克強首相は、ドイツと中国はドリームチームになれる、と公言したのです。

 言うまでもなく、これはアメリカを意識した発言でしょう。何故なら、中国とドリームチームを組みたいと誰よりも願っているのは、オバマであり、またアメリカの産業界であるからです。アメリカとしては、中国とドイツの間でドリームチームを組まれては困るのであり、李克強はそのへんを十分意識したうえで、6月の周・オバマ会談に先立って、わざとドイツでこのように発言したと思われます(李克強という人は、本当に頭がいいですから)。

 ところで、中国に関しては、とりわけ6月以降というもの、日本の大手メディアや経済学者たちは、これまで以上に、中国の景気減速、中国は世界経済のリスク要因、などと言っているのですが、これはもう呆れるしかないですね。アメリカの見方はまったく逆と言っていいでしょう。

 たとえばフォードですが、6月の中国での販売は絶好調でして、前年同月比で実に44%も伸びています。これは中間層が更に拡大しているからこその数字であり、中国で新車の販売がこれだけ伸びていて景気減速などありえません。

 ところで、アメリカもこれから決算シーズンを迎えるわけですが、先日、日経新聞電子版に、おそろしくピンボケの記事が載りました。というのも、アメリカの景気回復を受けて、自動車や小売りなど内需企業の決算は良好であることが予想される半面、新興国の景気減速を受けて輸出産業の決算は悪いであろう、という内容だったのですが、自動車って内需産業でしょうか? 日本において、トヨタやホンダのことを内需の企業と言ったら、おそらく誰もが笑うでしょう。トヨタやホンダといえば、輸出企業の代表格です。同様に、GMやフォードというのは、輸出企業ではないのですか? そして、フォードの決算で良い数字が出てくるなら、それは中国での販売の大幅増加がかなり貢献しているのではないでしょうか? なにしろ、6月も44%も伸びているのです。これは驚異的な伸びであり、類を見ないものです。

 また、小売でも、たとえばウォルマートのように中国やブラジルといった新興国で次々に店舗をオープンしているわけで、このへんも徐々に輸出企業になりつつあります。

 日本で言えば、たとえばユニクロです。ユニクロはもはや輸出企業になりつつあります。7月11日、ユニクロを展開するファーストリテイリングは決算発表を行ったのですが、それによると、国内の売上は11・3%の増加にとどまったのに対し、国外は実に60・7%の増加と驚異的な伸びを見せています。これについては、次のような声明がなされています。

 「第3四半期3ヶ月間でも大幅な増収増益を達成しました。中国を含むアジア地区中心に、大量出店が継続していること、好調な既存店売上高の伸びが続いていることが大幅増益の要因です。アジアの中では韓国が春物販売不振により、計画未達でした。一方、米国は下期に収益の回復を見込んでいましたが、赤字幅は前年並みに留まる結果となっています」。

 ちなみに、ユニクロが国外で展開する店舗は244あるのですが、そのうち実には半分以上が中国(中国本土+香港)であり、これはつまり、ユニクロの大幅な増益は、ひとえに中国経済の拡大に負っているわけです。

 それはさておき、その中国では、現在、銀行改革が物凄い勢いで進行中で、前任の温家宝首相時代の負の遺産であるシャドーバンキング(影の銀行)というものを潰して、公正且つオープンな金融市場を創造すべく改革に邁進しているのですが、これは銀行の利権を剥奪することになるわけで、いわゆる痛みを伴う改革であり、若干ながら成長率を鈍化させます。しかし後々の成長にとってはむしろプラスとなるもので、いまのうちに不良債権の芽を潰しておこうという当然の改革です。

 ところが、これに関して、日本のメディアや経済学者の間では、どういう訳だか、ここから中国発の金融危機が起きるとか、中国版サブプライム問題に発展して中国経済がクラッシュするとか、訳の解らない言説がまかり通っているのですが、アメリカの見方はまったく違います。

 これから決算発表が本格化するアメリカでは、先陣を切って素材大手のアルコアが決算を行ったのですが、アルコアのクラインフェルドCEOは、決算発表後、アメリカCNBCに出演し、中国経済の今後について、次のように発言しました。

 「中国については、まったく心配していない。実施されたと言われている金融引き締めはプラスだ。新政権は、過剰なインフラ投資を抑制し、経済成長の質を高めようとしている。それは我々にとっても大変重要なことだ」。

 という訳で、現在中国の新政権が行っている改革は、自分たちにとっても大いに利益になると、高く評価しているわけです。自動車業界にしても、素材産業にしても、もはや中国ほど重要な相手などない、というのがアメリカの真実です。

 さて、ここで話は、冒頭に述べた、ワシントンでの戦略・経済対話のことに戻ります。米中以上に重要な関係はない」と言ったのはアメリカのバイデン副大統領ですが、一方中国の汪洋副首相は、もっと踏み込んで、次のように言いました。

 「中国とアメリカ、この両家は婚姻関係にあり、離婚などあり得ない」。

 両国、ではありません、両家です。これはかなり踏み込んだ発言です。ちなみに、汪洋副首相は、この後で、「もし離婚するなら、マードック氏の例に見られるように、その代償は高くつくだろう」とシャレを言っています。こういうシャレを言えるというのは、中米“両家”の関係が、大変に密接であるからこそです。

 ちなみに、「腾讯首页」という中国のネットメディアは、今回の戦略・経済対話に関して、おそろしく長い記事を載せています。ここまで長い記事というのは、日本などではまず目にすることのないものなのですが、その冒頭が、この汪洋副首相の発言であり、その後、中国とアメリカは、実体経済の面において、いかに分かちがたく結びついているかが延々と書かれ、そして記事の後半では、中米両国の金融環境に触れてうえで、今後両国は、金融面において、一層分かちがたく結びついていき、それは互いの利益になるであろう、と論じています。

 今回、中国とアメリカは、実に様々なことに合意しています。たとえば、次世代送電網であるスマートグリッドの普及について協力するとか、また投資の分野において、他の国との間ではかつて合意したことのようなことで、中米両国は合意を結んでいるのです。また、中国の新指導部が人民銀行と一体になって進めている例の銀行改革についても、アメリカはこれを強力に支援すると明言しています。

 にも拘わらず、いまに日本国内の論調は、中国経済は悪化の一途を辿っているというもので、おまけに中国とアメリカは対立している、というのです。それどころか、いずれ中国が日本に攻めてくる、なのでアメリカに守ってもらおうなどということになっています。

 これはもう狂っているとしか言いようがなく、井の中の蛙などというレベルではありません。

 中国に進出したアメリカ企業は実に6万社を超えます。中国なくして、アメリカの企業など成り立たないのです。そして、これらアメリカ企業も、またアメリ財務省も、李克強が進める改革に、何より期待しているのです。