ユニクロと東電、この2つが投機筋その他から徹底的に狙われての日経平均大幅下落

 株価の下落が止まりません。しかし、それは何も日本だけに限ったことではなく、つい先日お伝えしたように、5月下旬以降というもの、アジア市場のほぼ全般に渡って、株価が強烈に下落しているわけです。一方で、先週僕は、近いうちニューヨーク・ダウも大きく下落する可能性があると指摘しましたが、その通りで、絶好調が言われていたダウ平均も、ここに来て明らかに下落基調が鮮明になって来ました。ダウは先週からジリジリと値を下げ、そしてアメリカ時間で水曜日、ついに節目となる1万5000ドルを割り込みました。

 但し、これは世界経済全般に渡って、何か異常が起きているわけではありません。ファンダメンタルズは何も変わっていないのです。東南アジア諸国実体経済は相変わらず活況を呈して、安定して底堅いですし、一方アメリカの実体経済は依然として低調のまま、企業収益に関しては良好という状況であるにも拘わらず、株価は世界的に下落しています。これは間違いなく、世界中で同時多発的に利益確定の売りが出ているという状況です。そんななか、主要国のなかで最も株価が堅調に推移しているのは中国で、GDPの上位4ヶ国(米中日独)の株価指数を較べると、5月は、中国のパフォーマンスが最も良いのです。

 ただ、これについての詳細は今後に譲るとして、今回は、6月5日の東京市場の大幅下落についての詳細を分析します。

 まず、この日の印象としては、本来なら上がるべき銘柄も軒並み値を下げた、一見するとメチャクチャに荒らされたようなところがありました。典型的なのは、日産です。

 日産は、5月のアメリカでの新車販売が大変に好調で、この日の前日に発表された数字によると、日産の5月のアメリカでの新車販売は、実に20%以上も伸びたのです。これは、他の日本勢のトヨタ、ホンダが、共に4%程度だったところと較べると、非常に成績が良かったと言える訳で(もちろんトヨタ、ホンダもしっかり伸びているので良いわけですけど)、それはともかく、普通なら、日産は、株価が上昇しなければおかしいわけです。ところが、この日の日産の株価は、3・83%のマイナスでした。ちなみに、この日はトヨタ、ホンダも株価は下落していたのですが、しかし日産に比べるとアメリカでの伸びがそれほどではなかったトヨタ、ホンダの下落率は、それぞれ3・37%、2・52%にとどまっており、日産よりもマイナス幅が少ないわけで、このあたりだけを見ると、まったく訳が解らないわけです。

 また、この日は他にも、村田製作所などの大手部品メーカーも、明らかに株価上昇の地合いがあったのですが、しかし実際のところは、これらも軒並み下落しました。

 という訳で、このあたりから、5月23日に始まったヘッジファンドによる利益確定売りと、それに伴う先物を使っての裁定取引がいまだに終わっていないのではないか、という線が濃厚になってくるわけですが、そうなると、これまで何度も申し上げて来たように、狙われるのは、何よりもユニクロを展開するファーストリテイリングであるわけです。

 ちなみに、この日は、実はファーストリテイリングも、株価が上昇するに十分な材料があったのです。この前日、ファーストリテイリングは、5月の国内のユニクロ既存店売上を発表しまして、これが前年同月比で10%も伸びたのです。という訳で、普通なら、この日のファーストリテイリングの株価は上昇するのが筋というものです。ところが、この日ファーストリテイリングは、思い切り下落しました。それも、ハンパな下落ではありません。

 ちなみに、この日、日経平均株価は値段にして518円、パーセンテージにすると3・83%の下落だったのですが、ファーストリテイリングは、なんとこの日だけで9・47%も下落したのです。
 
 何度も申し上げたことですが、ファーストリテイリングというのは、日経平均の指数の構成比率でダントツのトップでして、日経平均全体の実に10%がファーストリテイリングなのです。そのため、利益確定売りの下落局面において、片方の手にファーストリテイリングの株を持ち、もう片方の手に日経平均先物を持ち、そうやって超短期で売買してい行くと(これを裁定取引というのですが)、上手くやれば、株を売りながら利益を得るという恐ろしいことになってくるわけです。これがこの日もまたやられました。

 そして、これも何度も申し上げて来たことですが、5月23日以降、株価が急落するときのパターンは決まっていまして、午前中に値を上げようが、値を下げようが、そんなことは関係なく、決まって午後の取引開始のちょっと後、だいたい12時40分ごろから突然猛烈な下落が始まるのです。そして、この日もまたそうでした。ちなみに、以下は、この日の日経平均下落の寄与度ランキングです。

   1ファーストリテイリング  125円
   2ファナック         22円
   3京セラ           15円
   4東京エレクトロン      12円
   5KDDI          10円

 という訳で、一目瞭然、ファーストリテイリングという1つの銘柄だけで、日経平均を思いっきり押し下げたことがよくわかると思います。

 一方で、この日の株価の大幅下落には、もう1つ重要なことがあります。相場の分析をするうえでは、常に業種別騰落率は必ずチェックすべきものですが、以下は、この日の下落率の上位5業種です。

   1電気・ガス    −7・92%
   2証券・商品    −7・56%
   3その他金融    −6・08%
   4保険       −5・87%
   5不動産      −3・88%

 毎度おなじみの顔触れが並びましたが、この日は、金融・不動産以上に、何よりも電力株の売りが目立ったことがポイントです。とりわけ、東電株の売られ方は凄まじいものがありました。

 この日の東電は、売買代金では東証1部全体で1位だったのですが、それだけ大量の代金が投入されて、しかもそのマイナスは実に16・31%にのぼりました。もちろん、ストップ安です。売買代金が全体1位で、それで16・31%も下落するということは、いかにこの日の東電株の売りが凄まじいものであったか、それを如実に表すものといっていいでしょう。

 ちなみに、そんななか、電力会社のなかで、唯一大して下落しなかったのが沖縄電力で、各電力会社が一様に5%以上も下落するなか、沖縄電力だけは下落率が3・19%で、つまりトヨタなどと同じレベルで済んでいるわけです。

 つまりこの日は、原発保有している電力会社の株が大幅に下落したわけですが、この理由ははっきりしていまして、それはこの日の昼に安倍首相が行った、成長戦略第3弾の発表にあります。

 色々とチェックしてみたところ、どうやら成長戦略の本命と言われた第3弾において、安倍首相は原発の再稼働に言及するのではないか、という期待があったらしいのですが、そのような発言は一切なく、代わりに、電力システム改革の工程表というのが出てきまして、それが将来の電力小売りの全面自由化と発送電分離を示唆するものだったので、それで、これでは原発は駄目だ、ということで、電力株への失望売りが出た、なかでも東電の売りは凄まじかった、というのがどうやら市場関係者の間でのコンセンサスのようです。

 但し、これに関しては、本当にこれまで東電株を買ってきた投資家が、それこそみんながみんな原発再稼働を本気で期待して株を買っていたのか、それはかなり疑問もあるように思います。というのも、先日もお伝えしたように、いくら各電力会社が再稼働の申請をしたからといって、そんな簡単に再稼働なんて出来るもんじゃないだろう? にも拘わらずこんなにも東電株が買われるなんておかしい! という声は、日経クイック・ニュースや証券アナリストの間では、結構挙がっていたのです。

 ちなみに、これまでの東電株に関しては明確な傾向がありまして、昨年12月以降、東電株が大幅に上昇するときは、シャープの株価も大幅に上昇する場合がかなり多かったのです。東電にしろ、シャープにしろ、いずれもメガバンクが救済しなければとっくの昔に潰れていたゾンビ企業ですが、東電株が急騰するときは、セットでシャープの株も急騰するときが非常に多かったのです。

 そのへんを考えると、これまでの東電株の大幅な上昇は、再稼働期待とは関係ない部分がかなりある投機的なもので、つまり、いかにも東電をはじめ各電力会社の原発は再稼働大丈夫ですよ、と見せかけた相場の流れに様々な投資家が巻き込まれ、そうして時期が来たところで、ここぞとばかり猛烈に売りたたかれた、という部分も少なからずあるように思われてなりません。

 それはともかくとして、以上がこの日の大幅下落の主なところなのですが、実はこの日の下落をもって、日経平均は、昨秋以来初めて75日移動平均線を割り込みました。という訳で、もちろんこの後もそれなりに下落する可能性あるものの、とはいえ下値のメドはだいたいこのあたりで、いずれ再び株価は上昇に転じる可能性も十分あるわけですが、75日移動平均を割ったということで、最近2週間ほどの下落について、あらためて整理してみます。

 はっきりしているのは、この間、何よりも売られたのは、銀行であり、不動産であり、電力会社であり、ファーストリテイリングなのです。つまり、癒着的なバブル・セクターの代表格である銀行・不動産とその関連、更に原発保有する各電力会社、そしてユニクロを展開するファーストリテイリング、これらの株が狙われて思いっきり売られた、というのがここ2週間の主な相場の内容です。つまり、良識的な市民から常々批判の対象になってきたような業種・企業の株こそが何よりも叩き売られたわけで、そう考えると、マーケットというのは、案外民主的なのではないか、という気もしてくる相場であったということになります。

 一方で、日経平均もTOPIXも、共にここままずっと下落して行ってはそれはもちろん困るわけですが、では株価が反転する場合、どのセクターが押し上げる最大の要因になるのかというと、市場関係者の間では、自動車というのが専らの評判です。冒頭に日産の例を挙げましたが、目下のところ、自動車業界をめぐる地合いそのものは非常に良いのです。これについては、これまでにも何度も申し上げて来たので詳しくは述べませんけど、他にも、電子部品をはじめとした各部品、それから東レ信越化学などの素材、タイヤ、機械、海運、それから鉄鋼なども中国の需要は旺盛ですし、更に太陽光などの再生可能エネルギー関連、これらはいずれもかなり期待できるといえるのではないでしょうか。ちなみに、ここ最近下落率がハンパではないところのなかでも、ファーストリテイリングに関しては、銀行その他と違って業績は非常に良いので、今回は先物を用いての裁定取引の材料として狙われただけのことであり、この不ファーストリテイリングの株に関しては、今後再び上昇基調に転じる可能性は十分あります。

 ともかく、ここ2週間ほどの下落を受けて、日経平均の指数自体は、既に4月上旬あたりまで戻っており、銀行などに関しては、一部には2月頃の値段まで戻っているような銘柄もあるのですが、一方で、自動車に関してはまだ5月上旬のレベルに踏みとどまっていまして、また太陽光の筆頭格であるサニックスなどは5月半ばの水準をキープしているので、だからこれらの業種は、それほど株価は下がっておりませんので、そういう意味でも、今後に期待が持てると思います。とにかく、株というのは本来中長期で判断すべきものですので、もちろんいま暫くの間は下落する可能性もそれなりにあるものの、とはいえ当面は、7月下旬から始まる決算を受けて、それで判断すべきものでしょう。

 【付記】
 この原稿を書いたのは、6月6日の午前中のことなのですが、この日の午後、あらゆる市場関係者の予想を覆す驚くべき数字が東証から発表されました。株価が大幅に下落した5月最終週ですが、ここで誰よりも株を売ったのは国内の機関投資家であったのです。証券自己、という区分に入る部類の投資家こそが誰よりも株を売っており、そしてこれが機関投資家なのです。先物の売りを通じて株価を下落させたのは確かにヘッジファンドなどの外国人投資家ですが、しかしそれ以上に国内の機関投資家の方がより多くの株を売っていたのです。

 ちなみに、これはヘッジファンドの仕掛けによって国内の機関投資家の売りを多数誘発、し、そうしてヘッジファンドは高値で売り抜いて大儲け、という話ではないのです。ヘッジファンドの中でも先物の売りといえばCTAですけど、ここに来てCTAは著しくパフォーマンスを落としています。これも木曜に解ったのですが、CTAは、先物の売り浴びせによって、むしろ自らが自滅した格好になっています。このことは、HFRXマクロ/CTA指数というものから解ります。にも拘らず、CTAのプログラムはいまだに先物の売りをやっています。明らかにこれはプログラムの暴走でしょう。

 もうちょっと、詳しく見ていきます。CSの「ラップ・トゥデイ」においては6日、東海東京証券鈴木誠一さんが出演して、この5月最終週の売買動向について、分析を披露しました。

 「証券自己の売り越しというのは、市場においては、本来はあまり起きてはいけないことなのです。元々ポジションをどちらかに大きく傾けている主体ではないので、大きく売り越すということにはならない筈なのです。でも、それが大きく売り越しになっているということは、取引所のなかで売りが出た、ということ。逆に言うと、取引所以外のところで、彼らは買っていた、それも同じ額だけ買っていた、ということです。で、だいたいこのケースは、国内の機関投資家から、バスケット、あるいは玉の処分、これを証券会社に取引所以外のところで持ち込まれている、というケースが多い」。

 更に鈴木さんは、これは「益出しの売り」だと明言しました。つまり、利益確定の売りということです。それがこの5月下旬、国内の機関投資家から大量に出てきた、というのです。

 さて、そうなるとどういうことか? 6月に入っても、依然として市場は不安定で、ボラティリティは高く、価格は乱高下しています。そのような状態のなかで、株価は下落しているわけですが、しかし冒頭で述べましたように、このような現象は何も日本だけに限ったことではなく、広く世界的に起きていることです。

 そして、先物の売りが主導するかたちで株価が下落していき、また為替も非常に上下に大きく振れているので、一見するとこれは完全にヘッジファンドの仕業に見えるわけですが、しかしこの局面においても、いまだに国内の機関投資家から大きな売りが出ていて、それが株価の更なる下落を招いている、という可能性は捨てきれません。実際、東電株の売りは凄まじく、この5日の翌日の6日も、前日と同様に東電の売買代金は東証1部全体の1位であり、そしてその下落率は日経平均採用銘柄のなかで1位でした。また、ファーストリテイリングの下落もハンパではありませんので、これらに関して、国内の機関投資家もある程度まとまった売りを出している可能性は十分にあります。とはいえ、だからといって、この6月第1週もまた、証券自己の売り越しが大きなものになるとは限らないのでして、このあたりは非常に難しい部分です。