ここ最近、アジアの株式市場は全面安の展開 〜ファンダメンタルズには何も変化がないのに〜

 5月下旬になって、アジアの株式市場は、総じて全面安の展開になっています。とにかく各国で株価の下落が止まらず、それは6月に入っても依然変わりがありません。ここ最近、日本では日経平均株価の急落が話題となっていますが、しかし株価が急激に下落しているのは、なにも日本だけではないのです。香港、東南アジアなどでも、5月下旬になって、一様に株価が下落しているのです。

 といっても、ファンダメンタルズには、なんら変化はありません。にも拘わらず、株価がやたら下落しているのです。日本の大手輸出企業が行った2013年3月期の決算は非常に良好でしたし、もちろんインドネシアやタイなどの新興諸国は、経済が安定したなかで高度成長の途上にあります。そうである以上、これら一連の株価の下落は、明らかにファンダメンタルズを反映してのものでありません。どう考えても、利益確定の売りと、その下落局面における先物売買を通じての裁定取引、これが横行しているというのが実情でしょう。
 
 日経平均に関して、下がる場合、パターンは決まっていまして、夜間の取引でどれだけ値幅が動き、朝方上昇して始まろうが下落して始まろうが、そんなことは関係なく、すべては12時40分ごろから始まります。5月23日以降、日経平均はやたらと乱高下が激しいのですが、しかし毎回必ず、この12時40分ごろから突然猛烈な勢いで下落が始まるのです。勿論、それを主導するのが、先物の売りです。

 それから、ファーストリテイリングです。先日も言及したように、日経平均を構成する225銘柄のうち、ユニクロを展開するファーストリテイリングは、このたった1銘柄だけで日経平均全体の実に10%ほどを占めるわけで、そのためこの銘柄と日経平均先物を使っての裁定取引は依然として横行していまして、6月最初の取引となった3日も、日経平均全体の下げが3・72%だったのに対し、ファーストリテイリングは実にその倍近い6・30%も下落しているわけであり、現状では、このファーストリテイリングの下げが止まらないことには日経平均の下げも止まらないのではないか、という気もしてくるほどです。

 その一方で、不動産や銀行といったところの株も、依然としてかなり激しく売られています。

 という訳で、これらの株の売りや裁定取引でドンドン株価が下落するのと同時に、為替の方でも利益確定のドル売り円買いが多発していまして、つまり、①不動産や銀行などの株が思い切り売られる→②日経平均が下がる→③ファーストリテイリング日経平均先物を使って裁定取引を行う→④更に日経平均が下落する→⑤それを受けて、ドル売り円買いが起きる→⑥円高により輸出企業全般で株価が下がる→⑦これを受けて日経平均がより一層下落するから、それを見越して先物が先に売られる・・・、しかしそれを見越してファーストリテイリングもまた先物に先んじて売られる・・・、しかしそれを見越して日経平均先物が・・・、という悪循環に陥っています。

 くどいようですが、ファンダメンタルズには、なんら関係がありません。広く実体経済を眺めると、株価を上昇させる数字は結構出ているのですが、しかしそれでも株価は下がっています。ここで重要なのは、他のアジア諸国も見ることでして、そうすると、インドネシア、タイ、シンガポールなども、日経平均と同じく、5月23日から突然株価の下落が始まって、それがいまだに止まっていないことが解ります。

 これはもう完全にヘッジファンド、とりわけCTAのコンピュータによる利益確定の売りが同時多発的に起こっている以外のなにものでもありません。

 ところで、そんななか、アジア市場において、最近非常に株価が堅調に推移しているところがあります。それは、上海です。既に何度も申し上げて来たように、上海総合指数の9割を占める上海A株は人民元建てである以上、中国国外の投資家がここに投資することは出来ず、そのため上海総合は必然的に欧米などのヘッジファンドの投機マネーの影響が少ないわけですが、一方で、この春上海総合の指数は中国政府によってコントロールされているのではないか、というTSチャイナ・リサーチの田代尚機さんの見解もあったように、これら一連のことが相俟って、上海総合に関しては、他とはちょっと違うわけです。

 しかし同時に、深センの株価もまた、5月下旬になっても依然として堅調です。この深センの株価に関しては、中国政府によるコントロールがなされているという話はいまのところ聞いたことがありません。深センの株価は、人民元建てのA株、香港ドル建てのB株ともに堅調です。

 ともかく、株価というのは、結局のところ中長期的には企業業績に沿って動いていくものなので、だからあまり短期的な値動きに神経質にはならず、長いスパンで見ていくことが必要でしょう。その際に重要なことは、株価というのは経済を映す鏡なのではなく、あくまでも個々の企業の業績見通しを反映するものですので、だから日本経済が悪くなっても、企業が外で稼ぐことが出来れば、日経平均株価は上昇していくというのはあり得る、ということです(リーマンショック後のアメリカがそうであるように)。そして日本の大手輸出企業の業績がV字回復を果たし、更に業績を拡大しつつあるのは、既に確認されている通りです。

 マツダトヨタなどの自動車株をはじめ、各部品メーカー、更にブリヂストン東レヤマハ信越化学・・・など、圧倒的な技術力と為替の後押しを受けて、中国その他の新興市場にドンドン売って出て行こうとしている企業の株からすれば、最近の下落は、とばっちりを受けているという以外のなにものでもないので、しかし各企業の決算や中期経営計画を見ても、また企業の想定為替レートと現在のレートの乖離を見ても、今後これらの企業の業績が更に良くなることは間違いないわけです。マツダトヨタなどは、1ドル90円のレートをもとに今後の業績見通しを出していますので、現在のように100円近辺で推移していれば、それだけで今後業績の大幅な上昇修正があるのは間違いありません。

 一方で、不動産や銀行などのセクターにとって気になるのは長期金利でしょうが、日銀の金融緩和によって10年債の金利が下がるなど、あり得るわけがないのです。何故なら、決算が良くなれば、当然株が買われて株高になるわけで、そうなると、債券から株への資金シフトが起こってマネーが債券市場から流れ出し、そうして長期金利がジワジワと上昇していくのは当たり前であるからです。

 また、日銀の黒田総裁ですけど、彼が4月4日に金融緩和策を発表した際に何度となく繰り返したのは、イールドカーブを下げる、ということなのです。イールドカーブを下げるというのは、具体的には5年債や10年債などの金利と、30年債などの超長期の金利差を縮小させる、ということなので、だから金利は下がらなくても、5年債や10年債の金利が上昇すれば、イールドカーブは下がるのです。

 当たり前の話をしますが、10年債から、更には30年債のような超長期の金利まで、とにかく全部の金利が下がるなど、そもそもあり得るわけがないのでして、10年債の金利など、普通に考えれば上昇するのは当たり前です。そうである以上、日銀の金融緩和によって金利が下がる、だから不動産や銀行にとってはプラスだ、などとテレビ等で言っていた人は犯罪的にバカというようなもので、しかしそれで少し時間が経ってみたら、金利は下がるどころか上がっている、日銀は何をやってるんだ? 日銀は金利をコントロール出来ていない、日銀への期待はこれで剥落した、ここに来てアベノミクスの弊害が出てきた・・・、などと解説する人は無能としか言えません。

 日本国債なんて、市場で自由に取引されていて、そうして誰でも売買に参加できる商品である以上、その価格を日銀にコントロールなど出来る筈がありません。黒田総裁は、イールドカーブを下げる、長期金利は安定していることが望ましい、と言っただけで、金利について具体的な数字には一切言及してこなかったわけですが、しかし国債というのは別に日銀が発行しているものではありませんので、おまけに市場で自由に売買されている商品である以上、その金利(価格)についてどのレベルが適切か、などということは、中央銀行の総裁が言うべきことではありません。

 そうである以上、不動産や銀行などの株がここまで急激に上昇してきたということ自体、そもそも異常なので、ここに来てこれらの株が急激に下落しているのは、当然と言えます。

 思えば、2月、3月に上海と香港で株価が下落していた時、指数を何よりも押し下げていたのは不動産・銀行株だったわけで、そして言うまでもなく、これら不動産や銀行が危ないというのは、つい去年まではヨーロッパで何度も見ていた光景だったし、アメリカだってそうだったじゃないか、ということは、先日も指摘した通りです。