先週に続きまたも木曜に株価が大幅下落した、5月30日東京市場の取引の詳細 〜ちなみに、今回は更に複雑です〜

 先週木曜、東京市場は1日に1000円以上下落するという波乱の相場展開となったわけですが、今週またしても木曜は波乱となり、たった1日で738円、パーセンテージにすると、5・15%下落しました。今回は、その詳細についてお伝えします。

 ただ、先に結論を言っておくと、これは何よりもヘッジファンドの償還期限に伴う利益確定の売りであり、更に、各ファンドが利益確定売りを出すだろうという思惑から、株価の下落を狙っての裁定取引による利鞘狙い、ということになります(ちなみに、この裁定取引というのは、つまるところマネーゲームです)。

 ちなみに、この30日の大幅下落をもって、5月は、2日・9日・16日・23日・30日と、すべて下落となりました。これは決して、偶然ではありません。

 では、ここからは、株価の下落について具体的に見ていきます。まず最初の鍵となるのは、ユニクロを展開するファーストリテイリングです。今回、このファーストリテイリングの株が、投機筋に狙われました。その理由は、日経平均に占めるファーストリテイリングの比重の圧倒的な重さにあります。日経平均株価というのは、日経新聞が独自に選定した225銘柄で構成されているのですが、それぞれの銘柄が日経平均の数値に与える割合は、決して均等ではないのです。恐ろしいことに、現在、日経平均という指数の実に10分の1は、ファーストリテイリングの株です。つまり、ファーストリテイリングが派手に上げると、日経平均そのものも上がり、逆にファーストリテイリングが派手に下げると、日経平均そのものも下がる、ということになるわけです。それぐらい、いまの日経平均は、ファーストリテイリングの寄与度が大きいのです。そのため、たとえば・・・今日上昇した日経平均株価212円のうち、ファーストリテイリングだけで実に450円指数を押し上げました・・・、などということはよくあるのです。

 そうであるならば、片方の手にファーストリテイリングの株を持ち、そしてもう片方の手に日経平均先物を持ち、この2つを交互に超短期で売買するだけで、利鞘を稼ぐことは可能なのです。何故なら、ファーストリテイリングの値段が動けば、それだけで日経平均そのものも大きく動くからです。但し、これで利鞘を稼ぐためには、今日は株価が確実に上がる、あるいは今日は株価が確実に下がる、ということが事前に解っている場合に限ります。そして今回、明らかにこれが行われた形跡があるのです。その形跡については後で説明するとして、この日、株価が下落するのは、解りきっていました。

 そもそも、前日29日の午後3時、東証の現物株の取引が終了した後、15分間だけある先物の時間において、日経平均先物が大幅に下落したのです(それこそ、いかにも翌日はもっと下落させますよ、と言わんばかりに)。

 次いで、東京の後で取引が終わるところといえば香港ですが、ここでも株価はかなり売られまして、しかも、地元証券会社の報告によると、ヘッジファンドによるまとまった売りが出たとのことなのです。ちなみに、香港も、取引終了時にかけて下落幅がドンドン大きくなるという安値引けでした。

 次いで今度はヨーロッパの取引時間となるわけですが、ドイツもはじめ、ヨーロッパの主要市場も、この日はかなり下落し、そしてまた、ここも軒並み安値引けしました。更にアメリカ株も下落しました。

 という訳で、前日の東京の取引終了の3時以降、世界中でヘッジファンドによる利益確定の売りが多発していたわけです。これで日にちが明けた30日の東京で株価が上昇する方がおかしいというもので、ましてや今年に入ってからの東京市場は、よそと較べて上昇率が格段に高いですので、そのぶん利益確定の売りもまた激しいものになることは決まっています。

 という訳で、事前に下がることが解っている、それもかなりの値段下がることが解っているならば、話は簡単ということになります。

 手順はこうです。まず、業種に限らず多方面で利益確定売りが出て、日経平均が下がります。そして、ファーストリテイリングはこれまでかなり株価を上げてきた銘柄である以上、こういう場面では尚更売られるわけですが、この銘柄が売られると、日経平均そのものの下げ幅も更に拡大するわけです。するとどうなるか? 片方の手でファーストリテイリングの株も持ち、そしてもう片方の手で日経平均先物を持って、それで超短期で空売りを連発すると、利益確定の売りをしながら、同時に空売りによって新たな利益を生み出せてしまうのです。

 この30日のファーストリテイリングの下落率は、実に11・11%にのぼりました。これは日経平均そのものの下落率である5・15%を大きく上回る、とんでもない下落であり、いかにファーストリテイリングの株が売られたか、それを如実に表していると言えます。

 ちなみに、このような売買手法については、つい数日前、岡村友哉さんが指摘して、個人投資家に対し警戒を呼び掛けたばかりでした。近いうち、利益確定売りの局面において、ファーストリテイリング日経平均先物を使った裁定取引がかなり出る可能性があると、彼は指摘していたのですが、それがものの見事に当たったことになります。

 一方で、もちろん単純な利益確定売りという面もあります。それを示すのが、業種別騰落率です。相場を分析するうえでは、いかなる時でも業種別騰落率は極めて重要なものであり、具体的のどの業種で値幅が大きかったのか、それをチェックすることは必須と言えます。以下は、30日の業種別騰落率の下落率のランキングです。

   1不動産    −5・63%
   2倉庫・運輸  −5・61%
   3その他金融  −5・20%
   4電気・ガス  −5・00%
   5水産・農林  −4・83%

 見れば一発のことで、またしても不動産です。それと倉庫ですけど、これもつい先日僕は言及したばかりでして、倉庫といえば不動産所有による含み益であるわけです。要するに、またしても不動産関連が一番大きく下げたわけです。くどいようですが、この業種こそ、これまで最も上昇していたところなのです。つまり、上がり過ぎていたところがそのぶん大きく下落したわけです。

 そして、電力株です。訳も分からずやたら上がっていたところといえば、この電力株も同様です。電力会社なんて、どこだって収益が改善する見込みなど立っていないのです。にも拘らず、東電をはじめとして、とりわけ4月以降、電力株は急ピッチで上昇してきました。しかし、これは日経クイック・ニュースの記者たちから、証券会社のトレーダーまでがよく言っていたことですが、いくら電力会社が再稼働を申請したからって、そんな簡単に再稼働なんて出来るわけないだろ! なのになんでこんなに上がるんだ? おかしい! という声は盛んに耳にしました。その電力株も、今回大幅に下落したわけです。

 このような不動産関連や電力株の下げは、本当に解りやすいところで、大幅に下げて当たり前のところが、その通り下げた、ということです。

 とはいえ、昨日の株価の大幅な下落は、これだけですべて説明がつくものではありません。先程ファーストリテイリングのところで出した先物ですけど、これはまだまだ複雑です。最大の要因は、あくまでも先物なんです。

 先物の売買というのは、現物株とは違い、証拠金を使って行うものなのですが、この証拠金について、先物1枚を売買するのに、これまでは概ね60万円ぐらいで済んだのです。ところが、先物の売買を管理する大阪証券取引所の取り決めによって、この6月から、先物売買に関する証拠金が一気に96万円まで引き上げられるのです。これは先物で売買する投資家にとってはかなりの負担増になるわけで、そうである以上、投資家にとっては、60万円で売買できる5月のうちに、一旦先物を整理する必要に迫られます。そうなると、当然まとまった売りが出るわけです。このような売りが、より一層先物主導による株価下落を誘発することになります。

 それにしても、よりによって、ヘッジファンドの償還期限に合わせて、なんで先物の証拠金についてこんな変更をするのか、これは大証にも問題があると言わざるを得ません。

 先程のファーストリテイリングにしてもそうですが、この日は、これらの状況を素材として、ヘッジファンドが利益確定売りを出しつつ、その株価の下落を見越して、同時に先物を使ってのマネーゲームを仕掛けてきた、という色彩が極めて高かったと言えます。特に問題視すべきはCTAでして、この日の相場展開について、岡村友哉さんは「CTAの暴走により制御不能になった」ことが最大の要因だと語っていました。

 という訳で、今回CTAは、極めてミニマムな手法で色々仕掛けてきたと言えます。

 一方で、この日の相場は、不動産などが最大の下落であったように、基本的には何よりも利益確定売りであったわけですが、これについて、日経CNBC解説員の岡崎良介さんは、何故これほど大規模な利益確定売りが出たかということについて、それは日本株投資を行っているヘッジファンドの今年の成績が異常に良いからだ、と分析しました。岡崎さんは、ユーレカヘッジ指数というヘッジファンドのリターンの実績を表わす指数と用いて解説し、ヘッジファンドのなかで、今年日本株を対象にした投資のリターンは実に17・85%にのぼるそうで、これは「異常に良い」数字ということです。そうであるならば、ヘッジファンドに運用を委託した投資家たちは、当然ここで一旦利益を確定しておきたいと思うのも当然というものでしょう。

 つまり、ヘッジファンドの償還期限である5月末を待って、一旦ファンドとの契約を解約して利益を確定し、そのうえで再度成績の良いファンドと新たに契約して再び運用を委託するという訳です。

 さて、色々と数字は出ていますが、今回、僕が最も注目すべきと思うのは、騰落レシオです。騰落レシオというのは、相場の過熱感を表わす指数ですが、この木曜の株価急落をもって、東証1部の騰落レシオは、久し振りに100を割り込み、97・37まで下がりました。重要なのは、この騰落レシオが100を割り込むというのが、昨年の11月14日以来である、ということです。つまり、11月15日から東証1部の騰落レシオはずっと100を超えていた訳ですが、この11月15日というのは、ヘッジファンドが秋に行う償還請求の期限でもあるのです(ヘッジファンドの償還は5月と11月の年2回です)。

 そうである以上、今回起こったことというのは、昨年11月からの投資で得た利益を確定し、新たにリセットするためのものであったことは極めて濃厚だろう思われます。

 で、今後の相場展開ですが、株価というのは、当たり前ですが、業績が基本です。そして、2013年3月期の輸出企業は、これに関して思い切りV字回復をしているわけで、そうである以上、利益確定売りを受けての現在の株価水準は、明らかに割安と言えます。

 そのうえ、2014年3月期に関しては、ユーロ圏債務危機の好転などを背景に、更なる業績の伸びが見込めるうえに(ユーロ圏が良くなることは、中国の状況も良くします)、最大の注目は各企業の出している想定為替レートでして、ドル円が101円〜102円近辺で推移しているのに対し、企業の方は保守的に90〜95円のレートを元に業績見通しを出していますので、このままの為替水準で行くだけで、7月下旬から始まる決算において、業績の大幅な上方修正が期待できる以上、中長期的に見て、今後株価は再び上昇トレンドに乗っていくだろう予想されます。