東京の株式市場が大混乱した5月23日と24日の取引についての詳細

 5月23日木曜、東京証券取引所では、日経平均株価が、1日で1143円も値を下げ、翌24日の取引でも、1日の値動きは1000円を超える荒っぽい展開となりました。今回は、これについての詳細をご報告します。

 急激な下落を含むジェットコースターのような一連の相場展開は、様々な偶然が重なったものであり、その分析には、とりわけ繊細なディティールを必要とします。

 まず、23日の株価急落についてですが、前提として、この5月下旬という時期は、そもそも株価の大幅な下落が起きやすいのです。ヘッジファンドというのは、年末の12月締めと、6月締めという2つの節目があるのですが、5月下旬というのはこのようなヘッジファンドの償還請求の時期にあたります。6月末締めで、償還請求の期限はその39日から30日前までの間ということになっていまして、そのため、5月下旬はまさにその時期にあたるのです。

 株式市場には、「SELL IN MAY」という格言がありまして、株は5月に株を売れということなのですが、その理由の1つがこれです。この時期は、償還請求に伴いヘッジファンドから利益確定の売りが出やすいのです。決算発表シーズンの直後ということもあり、尚更なのです。

 ちなみに、これはなにもヘッジファンドがとりたてて悪どいとか、利益ばかり追求する弊害とか、そういうのではまったくなく、たとえば信託銀行などの日本の機関投資家だって、3月の年度末が近付くと株は売りますから、まあそれと似たようなものなので、なんと言うか、ある程度まではお約束というやつです。

 という訳で、普通に危機感を持ちながら取引を行うディーラーならば、当然警戒感はもっていてしかるべき時期なのです。しかも、過去半年の日経平均の上げ幅はかなりのものなので、その益出しの売りも通常とは異なるレベルで出てくるだろう、というのは当然想定すべきことで、このこと事態は極めて当たり前のことです。

 とはいえ、1000円を超えるという23日の下落幅は、このような利益確定売りの話で済む範疇のものではありません。これほどまでに下落するというのは、そもそも、ヘッジファンド自身も驚いています。一言でいうと、今回の株価急落は、様々な偶然が重なった“アクシデント”以外のなにものでもありません。金融資本の陰謀とか、そういうものではまったくないのです。

 まずは、時系列に沿って説明します。この23日の前日には、日銀の金融政策決定会合と、アメリFRBバーナンキ議長による議会証言がありまして、その内容は共に事前の予想の範囲内のものであったのですが、ともあれ、そのようなことを受けて、23日朝の取引は始まりました。

 最初に問題が発生したのは、午前10時10分です。この時間、日銀は国債の買い入れを行ったのですが、ここで日銀が購入した国債は、事前の予想に反して、5年以下のものばかりで、10年債などの長期の国債の買い入れを行わなったのです。ところで、4月4日に日銀が金融緩和策を発表して以降、債権市場では何度もサーキット・ブレイカーが発動して売買停止になるという不安定な状況が続いていたのですが、このように債権価格が乱高下するというのは、短期的に利益を上げようとする投機筋にとっては美味しいネタでもあるわけで、債権先物を売り株式先物を買って利鞘を稼ぐという売買が横行していました。で、彼らは、当然日銀はこの日10年債を購入するだろうという見込みで取引を行っていたわけですけど、ところが予想に反して日銀による購入は5年債以下に限定したものだったため、10年債の買い手がいない状態となり、そんななか債権先物を売って株式先物を買うものですから、当然ながら10年債の利回りは上昇するわけです。そして10時10分からある程度経つと、この10年債の利回りが、節目となる1%を超えることになります。

 これで、まず市場に動揺が走ります。え? もう10年債の利回りが1%台に乗った? ウソ? まずいじゃん……。で、これはちょっと調子に乗り過ぎたかも……、ということで、これまでとは逆に、株式先物を売って、債権先物を買うという逆パターンの取引が始まるのです。するともちろん、株価は下落します。そこへ時間をおかず、今度は中国からニュースが飛び込んできます。HSBCの調べによる、5月の製造業PMIの数字です。製造業の景況感を表すこの指標は、中国が不況から脱した昨年9月以降、一貫して好不況の分かれ目である50を上回っていたのですが、それが今回、久し振りに50を割り込み、49・6という数字が出てきたのです。これで、中国の景気減速への懸念が俄かに広がり、更に株価が売られます。くわえて、このあたりから、為替相場も動き出しました。それまで103円台で推移していたドル円相場は、ここから一気に円高へと動きまして、これが更なる株価の下落を招きます。

 というのが午前中だったのですが、しかしこの日は、朝の取引開始から10時過ぎまでは、円安を背景に株価はかなり上昇していましたので、下落に転じたといっても、それは所詮朝方の上げを元に戻す程度のレベルであったのです。

 事態が急変したのは、昼休みが終わった午後の取引でした。

 株安も、円高も、昼休みを挟めば止まるかと思いきや、その流れは変わらず、逆に一本調子でひたすら続いたのです。つまり、午前中の下落は、あくまでも上げた分を戻したに過ぎず、1000を超える下げとなったのは、ひとえに午後にあるのです。とにかく、株は売られる、円は買われる、これがまるで止まらず、その一方で債権は買われる、ということがただ続くだけで、それでそのまま午後3時の取引終了となりました。その結果が、値段にして1000円以上、パーセンテージにして7%超もの歴史的な急落となって現れたのです。

 で、これは一体何なのか? ということですが、順を追って説明します。まず中国ですが、中国の製造業PMIの数字への悲観から株が売られたというのは、極めて限定的なことで、これは大したものではありません。それを示すのが、日産とファナックの株価です。

 日産というのは、日本の自動車メーカーの中では中国比率が高いことで知られていまして、昨年9月に尖閣諸島の問題を受けて中国で日本車の不買事件(不買運動ではなく不買事件というべきです)が起こったときも、日産の株価下落は深刻なものだったのです。もちろんこれは中国経済に問題があったわけではなく、すべて日本の政治が悪かったわけですが、それはさておき、中国が要因で売上が落ちそうだという見込みが立つと、日産の株価は、日経平均以上に売られるのが普通です。そうである以上、この株価急落の最大の原因が中国であるならば、日経平均が7%以上下落したことを考えれば日産の株などは10%を超える下落にならなければおかしいのです。ところが、実際の日産株の下落幅は、3・86%に過ぎなかったのです。

 もう1つがファナックです。ファナック中国経済とは極めて密接な企業ですが、今回のネタが製造業の景況感に関するものであった以上、製造業にとって不可欠な工作機械大手のファナックにとって、これのダメージは日産を更に上回るものがあります。そのため、日経平均が7%以上下落した要因が、もしこ中国の製造業への懸念によるものであったならば、ファナックの株価は、10%どころか、15%下落してもなんの不思議もないのです。ところが、この日のファナックの下落幅は、5・23%にとどまっているのです。

 中国に関して、何よりはっきりしているのは深センです。以前にも申し上げたように、ここ最近、中国の経済の動向を映す株価指数と言えば、上海ではなく、深センなのです。本当に中国経済が危ないなら、この製造業PMIを受けて、深セン市場の株価が暴落しないとおかしいのです。ところが、この日の深センはどうだったかというと、人民元建てのA株はマイナス0・66%、香港ドル建てのB株はマイナス1・50%と、極めて冷静であるわけです。つまり、殆ど反応していないんです。

 という訳で、これら一連のことから、今回の日経平均の急落の要因が、中国にあるのではない、ということは明らかです。

 では、いったい何なのか? この日の株価急落に関しては、相当にメチャクチャなところがありました。事の本題に入る前に、まずはそれに触れておこうと思います。

 お洒落に関心のある方なら、ユナイテッド・アローズは誰でも知っていると思うのですが、このユナイテッド・アローズは、近年非常に業績が好調で、3期連続で過去最高益を更新しているのです。という訳で、株式市場においては、いわゆる優良銘柄です。そして、もちろんユナイテッド・アローズは、お洒落に関心のある消費者に対し魅力的な商品の展開をしてきただけなので、だから10年債の利回りが1%台に乗っただの、中国の製造業PMIが49・6だっただの、そんなものは何の関係もないわけです。ところが、そんな優良銘柄であるユナイテッド・アローズの株価も、この日は大幅に下落しました。この日、ユナイテッド・アローズの株価は、なんと6・92%も下落だったのです。

 もっとおかしいのはABCマートです。ご存知の通り、ABCマートは靴の量販店であるわけですが、これがユナイテッド・アローズを更に上回る超優良企業で、なんと11期連続で最高益を更新中なのです。21世紀に入って以降、日本はデフレに悩み、世界経済は激動の連続であったわけですが、そんななか11年連続で過去最高益を更新してきた驚異の企業です。なので、もちろん10年債の利回りや中国の動向も、この企業にとってなんら関係ありません。ところが、このABCマートの株価もこの日は売られ、4・24%も下落したのです。

 中国のPMIの数字自体は、大したものではないにせよ、それでも悪い数字ではあるので、日産などにとっては株価の下落要因ではあるものの、しかしABCマートは本当に関係ないです。にも拘わらず、そのABCマートの株価が、日産よりも下げ幅が大きいというのは、通常ならあり得る筈もなく、これは取引の主体が、論理的に考えて取引を行う人間であるならば、まず起こり得るものではありません。どう考えてもおかしいです。

 この点については後でまた言及しますが、それはさておき、これらの銘柄の下落を見れば、なんか訳が解らず下落している、という面が濃厚にあるわけです。

 その一方で、極めて論理的に把握しうる明確な材料もあります。それは、この日の業種別騰落率です。

 業種別騰落率というのは、その日に、どの業種がどれだけ上がり、また下がったかということを表わすもので、株式市場の分析において、最も重視すべきものとして、これまで僕も再三に渡り取り上げてきました。その重要性は、今回も例外ではありません。以下は、この日の業種別騰落率の下落率の上位5業種です。

  1その他金融  −10・80%
  2不動産    −10・14%
  3証券・商品   −9・51%
  4銀行      −9・37%
  5非鉄金属製品  −8・98%

 見れば一発で解るように、1位から4位まで、すべて金融緩和の恩恵を最も受けると見られてきた業種で占められています。ちなみに、この日の前日には日銀の金融政策決定会合があり、そしてこの株価急落のそもそもの発端となったのは、日銀による国債の買い入れにあったわけですが、ここで想起すべきは、4月4日のことです。この4月4日に、黒田新体制の日銀は「異次元の」金融緩和策を発表したわけですが、それを受けて、4日、更に5日と、株価は急騰しました。問題は、そこでいったいどのような業種が上昇してしていたか? ということです。まず4月4日ですが、この日は上昇率で、1位が不動産、2位が銀行でした。上昇率はそれぞれ、「+7・58%」と「5・08%」です。そして一夜明けた5日、この傾向には更に拍車がかかりまして、1位が不動産で、上昇率は「+11・77%」、2位がその他金融「+9・38%」、3位が銀行「5・04%」と続きます。

 どういうことか? つまり、日銀の会合があった4月上旬に、日銀の金融緩和への期待から上昇が目立った不動産・金融株が、この5月23日は(ここでも前日に日銀の会合があったわけですけど)、真逆の展開を見せ、不動産・金融株は思い切り売られたのです。

 これをどう見るか? 主に2つあって、まず1つ目は、単純な利益確定売りです。・・・金融緩和への期待から、不動産や銀行などの株価が必然的に上がる、しかし一方で、これら不動産・銀行セクターといったところはちょっと上がり過ぎであり、その反動から、5月になるとジワジワと下落していた、だから大がかりな利益確定売りのタイミングを見計らっていたんだ・・・。

 もう1つは、日銀への不信を利益確定売りの材料にしたものです。・・・日銀がどう言おうと、株価が上がれば債権から株への資金シフトが起こって、それにより国債の利回りがある程度上昇するのは当然で、これは世界的に起こっているのだからなんら不思議はない、但し、だからそこで日銀は長期国債を買い増して債権市場を安定させなきゃいけないのに、けど今回日銀はそれを怠った、これじゃ危ないので、節目である1%を超えたから一旦利益確定の売りを出してその後の様子を見る・・・。

 まあ、だいたいこんなところじゃないでしょうか? 実際、この日は、株価の下落が始まって以降、債権の先物が買われまして、株式先物の値動きと、債権先物の値動きは、見事なほど逆相関の関係にあり、完全に対になっていました。不動産や銀行株などについては、今更言うまでもないでしょう。上がり過ぎていたものが、単に売られただけです。

但し、これはあくまで午前中に起こったことであって、午後は違います。いくらなんでも、たかだかこれだけで1000円以上下落するものではありません。この点に関して、エフ・エリオット代表の藤原尚之さんは、この日の夕方、CSの「ラップ・トゥデイ」に出演し、この午後の下落は、アルゴリズムによるものだという見解を披露しました。

 「これはね、アルゴリズムなんですよ。午前中300円上昇して、それがそのまま300円以上下落した。そうなるとね、コンピューターは、これは一旦売れ、っていう指示を出すんです。で、外資系証券はいまはみんなアルゴリズムですから、一箇所売りが出ると下がるじゃないですか? すると今度は次のところからまた売りが発生するんですね。これがドンドン出てきて下げが止まらなくなる。そして、そうやって株価が下がっていくと、個人の投資家さんで証拠金で信用取引をしていた人は、損失を出しちゃって、証拠金不足が発生してね、もう投げなきゃいけなくなる。で、投げが出ると更に株価が下がる。そうして下がると、今度はコンピューターがまた売りの指示を出して・・・・・・」。

 という訳です。午後は、この連鎖が延々と続いたという訳ですが、これは非常に説得力のある意見です。というのも、先程申し上げたように、論理的な判断の出来る人間が売買の指示を出すなら、ユナイテッド・アローズやABCマートなどの株価までこんなに下落するのはどう考えてもおかしいのです。何故なら、これらの銘柄は、デフレも、長期金利上昇も、中国も、各国の金融緩和も、その他諸々なんの関係もないからです。言うまでもなく、このような訳の解らない下落をした銘柄は他にいくらでもあるわけで、しかしこのような銘柄まで大幅に下落してしまっている。これは人間のやることじゃないですよ。しかし、コンピューターが出した指示によるものだ、というのは納得がいきます。

 つまりこれは、株価の下落が、コンピューターのアルゴリズムに基づく自動的な売りを執行させ、そしてそこからの下落が個人投資家の損失を生んで売り投げを発生させ、更にこのような売りが増幅して新たな売りを呼び・・・、結局歴史的な株価の急落になった、そう見るのが極めて妥当ではないかと思います。

 という訳で、元々最初に売りを出したのが、償還期限で利益確定売りのタイミングを見計らっていたヘッジファンドなどであるとしても、しかし彼らだってここまで下落するとは思ってもいなかったわけで(コンピューターによる自動売買は、当の彼らにも制御できません)、だから一部で言われているような、日経平均が高値にあることを受けてヘッジファンドが売り捌いて儲けようとしたことがすべてだ、などという意見は、見当違いも甚だしいわけです。ヘッジファンド自身も、こんなに下落すると思っていなかったのです。特にアメリカのヘッジファンドについてはそうで、日本時間の昼過ぎから3時までの間、アメリカの人々は寝ていますからね。ファンドの人間が寝ている間に、コンピューターが勝手にドンドン売っちゃったんですよ。

 だから東京市場が閉まった夜間取引時間、そして更に翌日の朝方にかけて、ヘッジファンドは猛烈に日本株を買いに来たわけです。この時間外取引において、日経平均は300円ほど上昇していまして、そして9時に東京市場が開くと、その上げ幅は更に拡大し、一時500円を超えます。これが翌日24日の午前中のことで、暫くは高値で揉み合っていたのですが、昼になるとまた状況は変わります。

 この日の昼、日銀黒田総裁は都内で講演を行っていて、長期金利は安定することが望ましい、などと発言したそうなのですが、しかしそんなことは総裁に言われるまでもなく当たり前のことであり、日銀総裁ならば長期金利を安定させるべくどのような手を打つのか、それが重要であるにも拘らず、その具体的な手段等についての言及がまったくなかったらしく、そして長期金利に関してのこの黒田総裁のまるで他人事のような発言を受け、後場に入り、前日に続いてまたしても株式先物を売って債権先物を買うというトレードが多発します。また、それに併せてドルを売って円を買う動きも発生するのですが、このような株売り・円買い(による円高)も、そのスピードは前日とはまったく異なるものでした。前日が陸上トラックの400メートル走なら、この日はさながら100メートル走といった感じで、物凄いスピードで株安・円高が進行したのです。12時40分ぐらいまでは、1万4900円あたりで揉み合っていた日経平均は、そのおよそ1時間後にはなんと1万4000円を割り込んで1万3900円台まで急降下します。

 このとんでもない急降下は、いくらなんでも黒田総裁の発言だけで起こるものではありません。何か、別の材料も必要です。岡村友哉さんによると、この急降下はどうやら個人投資家の損失が自動的に生んだもののようです。というのも、前日の大幅な下落を受けて、信用取引で株の売買をしていた個人投資家の中にはかなり損失が膨らんだらしく、たとえばネット証券大手の松井証券では、それまでプラス圏にあった個人投資家の評価損益率はたった1日でマイナス5%まで行ってしまったそうなのですが、証券会社の中には、信用取引に関して、証拠金不足に陥った場合、翌日の12時までに入金しなければならないという決まりになっているところが結構多いらしく、そこで入金がなかった(もしくは入金しようとしたけど間に合わなかった)場合、証券会社の方で、その投資家が所有する別の銘柄の株が自動的に売りに出されるシステムになっているそうなのです。

 12時半の昼休み終了後、つまり後場になっての株価の急降下の発端は、どうやらこのような売りの自動執行が大量になされたことが原因のようで、そこに黒田総裁の発言が伝わったことが更なる不安感を呼び、そうして前日に引き続いて株式先物の売りが大量に出され、そうやって株価が急落することが、またしても外資ヘッジファンドのコンピューターのアルゴリズムを発動させ、こうして売りが売りを呼び、たった1時間で一気に1000円ほど下落するという恐ろしいことなったわけです。

 このことは、日経平均が1万4000円を割った次の瞬間から、突然買い戻しが起こったことからも明らかなように思います。というのも、1万4000円を割ったと思ったら、その次の瞬間から突然株価が上昇し始めたのです。これはいかにも数字で動くコンピューターのプログラムならでは、という感じでして、そしてこのように株価が再度上昇を開始したところで、まだ割安な今のうちに! と言わんばかりに次々と押し目買いが入り、結局そこから600円以上も上昇してこの日の取引を終えることになります。

 これは、国内の個人投資家も、それから外国のヘッジファンドも、共にたまったものではない、という訳ですが、しかし損失の規模に合わせて自動的に売りが執行されるシステムになっていることは、お互いそれぞれ解ったうえで取引に参加している筈なのです。

 ちなみに、一番被害が少なかったのは、信用取引も短期売買もせず、中長期的なスタンスで、あくまでも現物株のみに投資するトレーダーです。このタイプの投資家が一番センスがいいわけで、とりわけ資金余力がある場合、株が急落したところですかさず買いを入れて、かなり儲けている筈です。ただ、このような資金も豊富な戦略家は極めて少数で、大部分の投資家は大なり小なり損失を蒙ったでしょう。

 何より問題なのは、日銀の政策を鵜呑みにし、10年債の利回りが1%に乗ることはまだないだろうと高をくくって、債権先物をダシに株式先物との投機的なトレードを行ったり、同じく長期金利の動向をメドに不動産や銀行株へ投資していた人々です。国債、不動産、銀行、これらが状況に関わらず危険をはらむものであるというのは、アメリカやスペインでの不動産バブルの崩壊や、ギリシャでの信用バブルの崩壊、そして不良債権を抱えたユーロ圏各国の銀行の救済問題、などで解っていた筈なのです。にも拘わらず、いまだに国債や不動産や銀行株で利鞘を稼ごうというのは、何も学習していないな・・・、という感じなのですが、しかしそうである以上、この類いの人々は、いまだに全然懲りていないわけで、だからこういう売買は今後も行われるのでしょう。けど、危ないんだから、やめておくに越したことはないのです。

 その一方で、輸出企業の現物株の先行きは、依然として明るいです。中国のPMIの数字に関しては、深センの下落が1%程度だったことを見ても大したものではなく、様々な経済指標のうちの1つでちょっと悪い数字が出たというだけに過ぎず、中国政府の改革は目先の景気に囚われない長期的なヴィジョンのもとに、前政権の負の遺産清算しつつ、将来的に市民の所得を上げて以降とするものなので、だから世界経済の牽引役である中国経済の先行きに不安の懸念はありません。

 実際、この24日、日経平均の戻りは0・88%という限定的なものであった一方で、マツダなどは早々と5%以上株価を戻しています。

 そもそも、輸出企業に関しては、中国を筆頭に新興国の成長を通じて、世界経済の市場規模そのものは拡大している以上、為替の後押しがあるだけで業績は相当に上向くのです。現在、日本の輸出企業は想定為替レートを90〜95円に設定していて、そのもとで今後の業績見通しを出しているのですが、しかしご承知の通り、現在ドル円は102円近辺で推移しております。企業の想定レートが90〜95円ということは、平均すると92・5円になるわけで、実際のレートより10円ほど円高の見込みで業績の見通しを出していることになります。しかし、夏の時点でドル円相場が90円台前半まで円高になる、などという見込みは全くないので、そうである以上、ドル円が100円を超えているというただそれだけで、7月半ばから始まる決算において、企業は続々と業績を上昇修正するでしょうから、その時点で、輸出企業の株は大幅に上がることが予想されます。

 というより、輸出企業に関しては、真の株価上昇が始まるのは、この7月半ばから8月にかけての決算の時期からなのです。

 一方で、中国政府は、6月をメドに都市化政策を発表し、そして10月になると、新政権としていよいよ最初の本格的な経済政策を発表する予定でいます。これらは、中国国内のみならず、世界中から熱い期待を寄せられているもので、だから6月から年の後半にかけて、世界的に株高が進み、日本の輸出企業の株価も相応に上がることが予想されます。