日本の政治なんて良くても悪くてもどっちでもいい、アベノミクスに期待するか? いいえ、そんなもんに一喜一憂してちゃ仕事にならない 〜信越化学会長の言葉です〜

 昨日、CSの投資家向け番組「アクロス・ザ・マーケット」に、信越化学工業金川千尋会長が出演し、決算や今後の戦略についてインタビューが行われました。信越化学は、塩化ビニールと、それから半導体のシリコンウエハで世界シェアの首位を誇り、世界経済にとってなくてはならない企業です。企業の規模も大変大きいものであり、現在の株式時価総額は、東証1部全体のなかでも23位にランクされ、これは三井物産新日鉄住金三菱重工などをも上回ります。

 さて、そんな信越化学の金川会長のお話しですが、これが非常に興味深いものであり、金川会長の言葉からは、アメリカの経済がいかに悪いか、そしてまた、日本の政治にいかに絶望しているか、そのことがありかりと窺えるものでした。以下は、その主な内容です。

 Q、2013年3月期の決算を見ますと、塩ビ・化成品が92・6%の伸びと凄いものでした。この決算について、どうご覧になっていますか?

 A、ええ、良かったですよ。新興国のインフラ事業ですね。中南米、南米と中米ね、これが非常に良かった。

 Q、また、信越化学のアメリカの子会社シンラックがこのほど過去最高益を記録したとのことなんですが、これについてはいかがですか? 

 A、アメリカは日本と同じで元気ないね。良いのは南米と中米なんですよ。アメリカのシンラックは、かなりの部分が輸出ですから。

 Q、しかし、アメリカの住宅市場は活況になっているということなんですが、その点に関してはいかがですか?

 A、アメリカは日本と似ていて、元気がないです。住宅も元気ないですよ。アメリカと日本はね、悪いところが似てるんです。うちの場合、アメリカにしても、日本にしても、3分の2は海外への輸出ですよ。アメリカでは中米と南米、アジアは中国。東南アジアはまだ小さい、単位にならないね。中国は大きいですから、日本の場合。

 Q、アメリカで更なる増産・投資というのは考えてないんですか?

 A、そりゃ当然考えてます。なにしろ中米・南米が伸びてるから、少し余裕持ってないと危ないからね。

 Q、半導体シリコンに関して、2012年は落ちましたけど、足元では改善している動きもありますよね。これについてはいかがですか?

 A、これはね、物凄く強くもなく、弱くもなく、非常に落ち着いて、安定している。それが一番良い状況なんです。ワーッ、って上がるとね、あれはその後必ず反動が来るから良くないね。いまは非常に落ち着いて、熱狂的な要素はまったくありませんが、安定している。今のような状態が一番良いんです。特に過熱せず、毎月ちゃんと買ってる。

 Q、アベノミクスについて、これから先、会長は期待していらっしゃいますか?

 A、いいえ(注、ここで会長は思いきり首を振った)、日本の政治なんて良くても悪くてもどっちでもいいや、と。そんなもんに一喜一憂してちゃ仕事にならない。

 Q、では、来年の今頃、どうなっていると予想されますか?

 A、世界経済に悪い要素はないですから。シリコンウエハは底堅いし、ベースはパソコンとスマホですけど、非常に底堅い。塩ビは、日本は駄目だけど、中米、南米ね、これは期待できます。東南アジアは普通です。それから、中国。中国は割りと力強いです。

 という訳です。いかがでしたでしょうか? 塩化ビニール半導体シリコンウエハ、世界の様々な産業に欠かすことのできないこの2つの分野で、世界シェア1位を誇る信越化学の会長だけあって、その言葉は非常に示唆に富みます。

 注目点ですが、まず最初は、アメリカに持っている子会社シンラックの好業績についてです。過去最高を記録したシンラックについて、日本のメディアの論調は、これはアメリカの住宅市場が大変に活況を呈していることによるものだ、とこれまで報じてきたのです。ところが、金川会長によれば、このようなメディアの報道がいかに嘘デタラメであったかがはっきりと解ります。金川会長は、アメリカの住宅市場は元気がない、伸びているのは中米と南米だ、とはっきり明言しているのです。信越化学にとって、シンラックというのはアメリカの市場をターゲットにしたものではなく、中米・南米(具体的にはメキシコとブラジルを指すわけですが)、ここでビジネスをするための中継基地であるわけです。活況なのはあくまでもメキシコとブラジルであって、アメリカは日本と同様に全然元気がないのです。

 また、半導体シリコンの市況についても、とりたてて景気が良い必要はない、過熱してしまうと後で必ず反動が来る、だからいまのように安定して毎月着実に買ってくれるのが一番良いんだ、という意見も至極真っ当なものに思います。

 しかし、何より注目すべきは、アベノミクスに対する評価でしょう。アベノミクスについて期待していらっしゃいますか? と問われて、会長は首を横に振って決然と否定したのですが、その様子は、いま思えば録画してユーチューブにアップすべきだった、というぐらい傑作でした。つまり金川会長は、自民党政権になど、何の期待していないのです。いや、そもそも、はっきりと霞ヶ関に絶望していると、そういう感じでした。それでいて、一年後の業績には自信を持っている。それは何故なら、中米・南米、そして中国、ここが非常に力強く伸びているからに他ならないのです。という訳で、自民党なんて関係ないんです。メキシコ、ブラジル、中国・・・、これらは非常に力強く伸びている、その成長にいかに乗っていけるか、それこそが企業の生命線なんだ、これが金川会長の言わんとするところでしょう。