中国政府の経済政策はとても上手く行っている 〜4月分の経済統計から〜

 5月13日、この日は、中国の4月の小売売上が発表されました。この数字について、日本のメディアや金融アナリストなどの間では、大変に奇妙なことが言われています。

 というのも、前年同月比から12・8%の増加という順調な伸びを見せたにも拘わらず、何故か日本では、これは非常に弱い数字であり、中国の景気減速を表わすもの、という報道や解説がなされているのです。小売売上高が12・8%も伸びるというのは尋常ではなく、素晴らしい伸び率なのですが、にも拘わらず、日本ではこのようなことが公然と言われているのです。

 その理由として挙げられているのが、前の年、つまり2012年の伸び率との比較で、1年前の4月の小売売上は、14%伸びていた、というものです。しかし、これは物価上昇率を考慮しない短絡的な議論です。1年前と今では、中国の物価上昇率がまるで違うのです。1年前の中国は、まだインフレ懸念でした。インフレにより過度に物価上昇圧力がかかっている場合、名目小売売上は、当然ながら高い数字が出てきます。しかしそれは、家計を圧迫するものです。一方で、今の中国において、インフレは抑制されています。日本の紋切型同盟は、この点をまったく考慮していないのです。

 しかし、それだけではありません。5月13日に放映されたCNBCアジアの「ワールドワイド・エクスチェンジ」では、この中国の小売売上について、香港のJPモルガン・チャイナと結んで討議が行われたのですが、それによると、昨今の中国では、アメリカをもはるかに上回る凄いペースでEコマースが急拡大しており、人々の消費は、急速に実店舗からネット上のEコマースへと移行しているそうなのです。JPモルガン・チャイナによると、中国の消費の30%は既にEコマースへと移っているというのです。ところが、当局が集計する統計は、このような消費の変化を全然捉えていないらしいのです。

 これらの要素を勘案すれば、中国の消費は、数字以上に底堅いことが解ります。

 ちなみに、この日は、4月の工業生産も発表されて、これが前年同期比から9・3%のプラスとなりました。しかし、メディアなどの紋切型同盟は、この数字についても、中国経済の減速を示すものと報じたのです。9・3%も伸びていれば、普通は十分な数字と判断する筈なのですが、しかし日本の紋切型同盟は、この数字についても、失望を誘うものだったと報じたのです。彼らの理論によると、その主な理由は、この数字が事前の市場予想に届かなかったため、ということなのです。

 アナリストたちの予想の平均値である事前の予想は、9・5%のプラスでした。確かにアナリストの予想の平均値は下回ったものの、しかしそれでも9・3%伸びているのです。そして、前月の数字は8・9%のプラスで、つまりここからは着実に伸びているのであり、それでいてこの4月は、鳥インフルエンザの拡大や四川省地震などのマイナス要因に事欠かんかったわけで、にも拘らず3月の数字を上回り、9%台に乗せてきた以上、それで十分というべきではないでしょうか? この事前の市場予想については、上海や香港などのアナリストたちが、若干強気の見方をし過ぎたというだけのことで、9・3%伸びていれば、それで十分な高成長というのが正当な評価ではないかと思われます。

 何よりも重要なことは、中国の人口が13億人もいるということです。日米欧のすべての国を足したよりも更に上を行く人口のいる社会において、小売売上が12・8%、工業生産が9・6%も伸びるということが、世界経済に与えるインパクトは相当なものがあります。13億人という分母でこれだけ伸びるのは、それだけ物凄い勢いで経済が拡大している証拠なのです。このことを我々は、あらためて認識すべきです。もちろん、経済が急拡大した昨年12月から今年2月にかけての時期と較べれば、期待したほどには伸びなかったということになるでしょうが、しかしだからといって弱いとは言えず、底堅いというのが正確なところです。

 ところで、4月の中国の重要な経済統計は、これだけではありません。製造業のPMI、つまり製造業の景況感指数についても触れる必要があるでしょう。この数字について、総合値は50・6であり、景気の良し悪しの基準である50は依然として上回っているものの、しかしこの50・6という数字は、3月からは0・3ポイント低下しており、そのため、日本の紋切型同盟の間では、これは中国経済の低迷を示すものだとまことしやかに囁かれたのです。ところが、製造業PMIについて、その内訳を詳しく見てみると、このような紋切型同盟の見解が間違っていることが解ります。以下が、その主な内訳です。

   生産        52・6
   新規受注     51・7
   新規輸出受注  48・6

 見ての通り、全体の生産と新規受注に関しては、基準となる50をかなり上回っている一方で、輸出分野の新規受注は著しく悪化しているわけです。この新規輸出受注は、前月から2・3ポイントのマイナスです。つまり、中国の4月の製造業PMIが3月より低下したことは、ひとえにこの輸出が足を引っ張っているわけですが、これは中国に問題があるわけではありません。中国にとって最大の輸出先である欧米の景気が悪いから、この分野の新規受注が悪化するのです。そうである以上、この新規輸出受注の悪化は、中国経済の低迷を示すものではなく、欧米経済の低迷を表わすものであるわけです。ところが、日本の紋切型同盟は、ヨーロッパの景気が悪いことは認めても、アメリカに関しては景気が良いと言い続けているのです。その一方で、中国の景気は悪いと言っている。しかし、真実は逆であり、景気が悪いのは、アメリカなのです。

 もっとも、中国にしても、3月半ばに発足したばかりの新指導部は、不動産の引き締めや腐敗の撲滅に邁進する一方で、景気刺激策は何も打ち出さず、それでいて鳥インフルエンザは拡大するわ、四川省で大きな地震は起きるわ、という訳で、お世辞にも景気が良いとは言えないわけですが、しかしこれについては、4月の短期的な特殊要因と言った方が良いものです。そもそも、右肩上がりでひたすら景気が良くなる一方だ、という方が却って危ないのでして、それなりに我慢すべき時というのはあるものです。とはいえ、決して悪くはありません。あくまでも、伸びが鈍った、というだけに過ぎず、中国の経済が依然として伸びていることになんら変わりはありません。譬えて言うなら、時速300キロのスピードで進んでいたF1マシンが、突然のにわか雨により路面が濡れて250キロに減速したというレベルであり(減速というなら、それはこういうことなのです)、なので中国経済は依然として底堅く、渋滞に詰まって一向に進めない日米両国とはまるで違うものです。しかし、雨はそのうち止むので、そうなれば、中国の経済は再度スピードを上げるでしょう。

 さて、ここで話は、最初に上げた2つの経済指標へと戻ります。この指標が発表された5月13日の2時半頃、CSの「アクロス・ザ・マーケット」では「ASIAマネー」というコーナーをやっている最中で、そこでは、日本総合研究所理事の藤井英彦さんがコメンテーターとして出演していました。この藤井さんは、新興国全般の経済に大変精通している方なのですが、早速この指標についてコメントを求められた藤井さんは、次のような見解を示したのです。

 「中国の新政権は、もっぱら、過去の清算負の遺産清算することに極めて努力しています。ということは、逆に言えば、そのぶん経済はスローダウンしても構わないんだということです。PPIの数字からも、そのことは見えていると思うんですね。そしてこのような姿勢が、次のステップとして高成長に繋がる。いまは、そのためのベースを作っているわけです。そういう観点から言えば、こういった底堅い数字で推移しているというのは、北京政府の政策が上手く行っている、こういうことだと思います」。

 これは、まったく正しい見解だと言うべきでしょう。ちなみに、中国経済についてのこのような見解は、以前紹介したジョージ・ソロスの見解と一致するものです。そして、このような見解こそ、中国の経済に関するワールド・スタンダードであると言えます。