トヨタの決算について、メディアや金融アナリストの報道・解説に騙されないために

 昨日5月8日、日本最大の輸出企業であるトヨタが、2013年3月期の決算発表を行いました。このトヨタの決算については、各メディアでもかなり大々的に報道されたようなので、皆さんもその大まかな内容はご存知かと思います。他の様々な企業の例にもれず、トヨタの業績も大幅なV字回復を遂げました。

 このこと自体は何ら偽りないものであり、だからトヨタの株価が上昇するのも当然なのですが、問題はその内容です。報道を見る限り、国外市場での利益について、メディアや金融アナリストは、「北米が好調だった」、「主に北米がヨーロッパの低迷を補った」と伝えているようなのですが、これは明らかに嘘です。なかには、「北米や東南アジアが好調だった」という言い方をしているところもあるのですが、それでも正確とは言えないのであって、正直なところ、トヨタがどこでより大きな利益を上げたのか、どの地域でより利益の伸びが目立ったか、これはもうはっきりとアジアであり、アジア地域におけるトヨタの好調ぶりは、北米をはるかに凌駕するものがあります。

 以下は、北米、アジアに関して、トヨタ決算短信からの抜粋です。

 ②北米
 営業利益は2,219億円と、前連結会計年度に比べて355億円 (19.1%) の増益となりました。営業利益の増益は、生産および販売台数の増加ならびに原価改善の努力などによるものです。

 ④アジア
 営業利益は3,760億円と、前連結会計年度に比べて1,192億円 (46.4%) の増益となりました。営業利益の増益は、生産および販売台数の増加などによるものです。

 ご覧の通り、アジア市場におけるトヨタの営業利益の拡大規模は1192億円と、北米(355億円)の3・5倍に及び、またその伸び率も、北米が19・1%なのに対して、アジアは実に46・4%と、比較にならないほどアジアが伸びているのです。

 更にまた、ヨーロッパが低迷した、という報道や解説も嘘です。以下は、ヨーロッパ市場に関する抜粋です。

 ③欧州
営業利益は264億円と、前連結会計年度に比べて86億円 (48.7%) の増益となりました。

 トヨタにとって、ヨーロッパはそれほど重要な市場ではないため、金額こそ少ないものの、それでもトヨタがヨーロッパで得た利益は、実に48・7%も増えているのであり、低迷したどころか、その逆に物凄く伸びたというのが実情です。

 にも拘らず、メディアや金融アナリストは、地域別の利益について、トヨタが決算で発表した数字とは全然異なる報道や解説をしているわけで、経済部の記者や金融アナリストたちは、トヨタ決算短信の内容をちゃんと見たうえでものを言っているか、甚だ疑わしい気になるほどです。

 トヨタが発表した数字をそのまま受け止めるならば、アジアとヨーロッパでは共に40%を超える伸びを見せた一方で、北米に関してはその伸びは20%を下回っているのであり、これはつまり、主要市場のなかでは、北米、つまりアメリカでの伸びが最も鈍かった、ということに他なりません。にも拘らず、メディアや金融アナリストたちは、トヨタの利益はアメリカでこそ最もよく伸びたのだ、という印象を与える報道や解説になっており、これでは、とてもじゃないけど真実を伝えているとは言えません。

 ともかく、日本のメディアや金融アナリストの報道や解説というのは、企業の決算に関してさえ、このように著しくバイアスのかかった伝え方をするということは、強く念頭においておくべきことです。いまや、メディアや金融アナリストに騙されないためには、企業の決算でさえ、自分で確認しなければならない、という時代になりつつあります。とはいえ、そんなことに時間を割く余裕はないという市民は多いでしょうから、良心的な新しい金融メディアの立ち上げが、いよいよ必要性を増してきているように思われます。