世界経済の崩壊を防止するために 〜単なる高成長であってはならない、中国政府に課せられた使命〜

 経済に最も大きなダメージを与えるのは、どの国・地域であろうと不動産バブルとその崩壊です。不動産バブルの発生とバブルの崩壊ほど、経済において、警戒すべきものはありません。これを防ぐべく、中国がまた大規模な抑制策を発表しました。

 高騰する不動産価格の抑制策については、既に2月下旬に中央政府が発表していましたが、一方で、中国の経済というのは、「一党独裁」のイメージとは異なり、州ごとの権限が大きいのです。中国の経済最策というのは、カナダやドイツなどの、要するに連邦制のようなところであり、だからたとえば、最低賃金の規定なども、州ごとに異なっていて、その具体的な額の決定権は地方政府にあります。

 そしてここに来て、北京、上海、重慶など大都市の政府の政策が発表されました。

 具体的には、北京市では、単身世帯による2軒目の住宅購入を禁止し、一方上海市重慶市は、3軒目以降について住宅ローンの利用を禁止しました。また、広州市などは2軒目以降を購入する際、頭金の割合や住宅ローンの金利水準の引き上げを検討しています。

 これに加え、北京や上海などは、住宅の売却益に20%の所得税をかけるという、新たな課税方式を厳格に適用する方針も打ち出しています。従来は、売却額全体の1%の課税を選ぶこともできたので、これはかなりの課税強化になります(その一方で、北京市は、所有する住宅が1軒で、かつ5年以上居住した物件については、この20%の課税の対象から外す方針も併せて表明しています。しかし、これは当然というものでしょう)。

 ともかく、このような政策への警戒感から、3月の取引最終日、上海総合指数の株価は大幅に下落しました。4月1日は小幅な下落で済み、上海B株に至っては、上昇さえしたのですが、しかし短期的には、上海市場は予断を許さない状態にあります。言うまでもなく、不動産・銀行セクターの急落への警戒感からです。銀行株に関しては、先日シャドーバンキングについての規制策が発表されてそこで大幅に下落していますので、まさに泣きっ面に蜂と言ったところでしょうか?

 しかし、何度も申し上げて来たように、このような規制による銀行・不動産株の下落は、良い下落です。銀行と不動産業者がセットになって、そこからもし不動産市況の過熱がバブルになり、そうしてバブルが破裂しようものなら、それこそ経済に与える被害は甚大なものになります。

 日米欧の先進国は、もはやこれまでの経済成長など望むべくもない状態であり、一方インドやブラジルなどはインフレに悩まされ、また政府の稚拙な経済政策とも相俟って、主要先進国新興国のどちらも経済は危ない状況であるわけですが、そんななか、中国だけは、インフレも比較的安定しており、市民の所得も順調に伸び、生産活動も活発で、GDP成長率は悪くても7%台という、驚くべき高成長を維持しています。13億という巨大な人口を抱える中国の高成長があるからこそ、世界経済は均衡を保つが可能になっているのであり、そして中国経済の拡大は、まさにこれからが本番であるからこそ、世界の経済界は先行きへの期待を持てているのです。

 しかし、もし中国で不動産バブルが生じて、これが破裂するようなことがあれば、世界経済は、リーマンショックなど比較にならない大混乱を引き起こすことが必至です。そうなった場合、政情不安から、安全保障面においても、悪しき動きが活発化するでしょうし、地球そのものが危機に陥りかねません。

 という訳で、中国政府は、豊かな生活がしたいという中国市民の期待と政府への監視が一方にありながら、他方では、アメリカをはじめ諸外国の政府・企業からも、中国の安定的な高成長を強く求められている次第で、しかし国内の有力な銀行・不動産などの大企業との間では、政府高官の汚職その他の色々な問題もあり、よって中国当局の経済政策のかじ取りは、非常に難しいものがあるわけですが、そんななかでの、今回の不動産価格抑制策の発表です。

 繰り返しますが、もし近い将来、中国経済が不動産バブルでクラッシュするようなことがあると、地球そのものが危機に陥ります。世界経済は崩壊です。13億社会での不動産バブル崩壊というのがどのようなことをもたらすのか、そのダメージは計り知れません。そのために、このような不動産価格抑制策は絶対に必要不可欠なものです。

 という訳で、中国における銀行・不動産株の状況は依然として軟調である一方で、実体経済の方は非常に力強いものがあり、物流・流通・小売り・製造業・再生可能エネルギーなどの領域では、堅調に株価が上昇している企業は珍しくありません。これらの業種は、今後更なる上昇が見込まれており、株価の伸びは飛躍的なものになるでしょう。ちなみに、これら中国の最有望企業が上場しているのは、上海でも深センでもなく、香港です。という訳で、香港市場こそ、今後最も注目すべき市場と言えるのであり、そこをこそ何よりも注視すべき状況です。

 その一方で、中国政府によるこのような不動産価格抑制策が、日本にもたらす影響についても考える必要があります。中国本土だけではなく、香港の不動産価格も相当に上昇してきたのですが、一連の価格抑制策、引き締め策を受けて、中国・香港・シンガポールなどの投機マネーが、日本の不動産市場に大量に向かって来ようとしています。これは以前も申し上げたことですが、日本の不動産価格はただでさえ割安なうえに、昨秋以降進行した円安と相俟って、中国・香港・シンガポールの投資家にとっては、日本の不動産市場はとても魅力的なものになって来ています。加えて、新体制での日銀が行おうとしている金融緩和が、更にこれを後押しする格好です。

 欧米のヘッジファンドや年金基金なども、この点に目を付けて、日本の不動産株への更なる大規模な投資を検討している状態です。つまり、いまの日本の不動産市場は、外国のマネーによって勝手に価格が上昇し、併せて不動産株も勝手に上昇していくという状況です。

 もちろん、ここ最近活発化しつつある、財閥系不動産や東急などによる大都市部の再開発や、消費税増税を見据えた駆け込み需要などもあるわけで、日本の不動産市場は、(あくまで大都市圏限定で)活況を呈しつつある状態です。

 とはいえ、さすがに日本において不動産バブルが起きる懸念はいまのところありません。それでも、不動産株の方は、住宅価格・オフィス賃料などの価格上昇以上の過度な上昇機運があり、その点で危険です。日銀には、そのあたりを十分考慮した政策対応が望まれます。

 一方で、輸出企業の株価に関しては、バブル的な懸念はまるでありません。バブルどころか、まだまだ圧倒的に割安であるというのが現状です。このことは、2013年3月期の決算が過去最高益になることがほぼ確実な企業でも、株価の方はそれにまったく追いついていない、という例が幾つもあることから明らかです。2013年3月期の決算がなされるのは4月下旬から5月にかけての次期ですが、とりわけその次の決算、2013年6月期の決算が行われる夏頃、日本の輸出企業の株価は飛躍的な上昇を迎えることが予想されます。

 昨日、そして今日の寄り付き後の展開にしても、日経平均株価は大幅に下落していますが、これは先週末以来、ヨーロッパや香港などがイースター休暇にあって、ただでさえ材料がないうえに(輸出企業の株価は、徹底的に国内ではなく外部要因に依ります)、くわえて新体制下での日銀の金融政策決定会合が週の後半に控えていることもあり、ここぞとばかり利益確定売りが出ているという状態です。しかし、株価というのは、決算(への期待)に根差して値が動くので、だから中長期的には、日本の輸出企業の株価は間違いなく上がります。

 という訳で、ひとえに株高と言っても、不動産などの内需と、輸出企業とでは、その内容は、まるで違うのです。ただ、いずれにしても、中国の動向、及び欧米のヘッジファンドや年金基金の動向に左右されることだけは変わりありません。輸出企業の株高は、中国の実体経済の力強さを受けた堅実なものであり、一方銀行・不動産・倉庫・鉄道など含み資産系の株高は、実需と投機マネーがゴチャゴチャになっている状態です。

 このへんを十分考慮したうえで、我々は今後の市場動向を見定める必要があるのです。

 中国について、今後最も注目すべきは、本予算を受けての政策の実施であり、また本予算とは別に発表される、中西部の開発と都市化政策です。そして、このいずれにおいても、環境対策というものが大きく考慮されることになります。という訳で、中国政府は、いかに不動産価格を抑制し、シャドーバンキングも規制し、そのうえで環境に配慮した持続可能な発展・開発を成しうるのか? その手腕が試されます。高成長をすることは解りきっているので、問題はその持続可能性にあります。


 *付録

 以下は、昨日4月1日に中国の国家統計局が発表した、3月のPMI製造業景況感指数です。全体の数字こそ、50・9ということで、節目とされる50を6か月連続で上回ったものの、この数字は期待外れであり、だから中国の経済は弱い、などと日本のメディアでは言われているのですが、しかし中身を細かく見ると、そうではないのです。

 生産指数は、52・7であり、昨年10月以来の最高を記録。「生产筯速加快」という表現が、中国の生産活動の順調な伸びを、何よりも物語っています。また、中小企業の数字の伸びも注目です。特に、小型企業に関しては、3・3%伸びて、今年に入って最高を記録しています。これまでは大企業主導であったものが、規模の小さな企業にも波及しつつある状態であるわけです。

 http://economy.caixin.com/2013-04-01/100508587.html