アメリカ経済の低迷をアメリカ自身が認めているのに、日本の紋切型同盟はアメリカの経済は回復していると言うのは何故なのか

 アメリカは昨年10〜12月期のGDPがマイナスとなり、年が明けても消費者心理は更に冷え込み、そしてFRBアメリカの景気について「economic activity paused」と表現し、アメリカCNBCも「ここ数か月、アメリカの景気は足踏みしている」と報じるなど、アメリカ経済の現状は良くないということを、アメリカ自身が認めているにも拘らず、なのに日本の大手メディア・経済学者・金融アナリストたちは、依然としてアメリカ経済は回復している、アメリカは非常に景気がいい、と言っています。これはいったい何なのか? もちろんこのような報道・解説をする媒体や人々は、揃ってTPPへ賛成なわけですけど、しかしこのようなデタラメの報道・解説がまかり通ってしまう背景については、あらためて確認しておく必要があるでしょう。

 しかし、その前に、まずは昨日の東京市場の取引の内容から見ていきます。

 昨日の日経平均株価は、先週金曜の終値からプラス0・62%上昇し、11260円で取引を終えました。また同時に円安も進行し、一時は対ドルで93円台に乗るなど、依然として円安・株高が進んでいる状況です。これに合わせ、200日移動平均からの乖離率も更に上昇し、22・45%まで来たのですが、最も注目すべきは売買代金です。

 昨日の売買代金は、実に2兆3399億円を記録し、またも今年最高の額となりました。1月上旬の間は概ね1億9000万円あたりで推移していた1日の売買代金は、やがて2兆円越えが当たり前になり、そして先週後半から、立て続けにその上昇幅を拡大している状況です。つまり、単に株が上がっているだけではなく、東京市場は、日を追うごとに投入される金額が増えているのです。このことは、それだけ東京市場の株価は今後益々上昇すると見ての投資行動だということです。

 さて、日本株上昇の最大の要因となっているのはもちろん中国なわけですけど、上海総合指数は昨日も上昇しました。一方で、東南アジアも好調です。特にフィリピンとインドネシアは昨日もまた史上最高値を更新し、タイも18年3ヶ月ぶりの高値を記録するなど、絶好調です。

 ところで、タイと言えば、日本企業にとっては自動車を中心に生産拠点としての重要性が知られていますが、一方で、タイは金融と観光が飛躍的に伸びているところでもあります。金融に関しては、タイの銀行は、ここ最近盛んに、近隣のベトナムインドネシア、マレーシアなどに資金を融通しており、このようにタイは、急成長する東南アジアの金融セクターとして、その重要度を急速に増しつつあります。

 また観光ですが、昨年タイを訪れた外国人観光客は、前年比で16%増加し、2230万を数えます。特に多いのが中国人観光客で、昨年1年間でタイを訪れた中国人の数は、280万人にのぼり、前年比で実に62%も増えました。タイを訪れる中国人観光客がこれだけ伸びた要因に、尖閣問題による日中関係の悪化があることはもちろんです。また昨日、香港政府が昨年1年間に香港を訪れた日本人の数を発表したのですが、8月までは前年比で9・3%上昇と順調に伸びていたものの、尖閣問題により中国本土で反日デモが激化して以降というのもの、香港を訪れる日本人の数は激減し、通年ではマイナス2・3%になったそうです。

 もう、いい加減なんとかして欲しいものです。我々は、アジアに生まれ、アジアで育ち、アジアで暮らす、アジア人です。なのに、誰も住んでいない小さな無人島の領有権をめぐって、これほどの経済的被害が発生し、人的交流も希薄化してしまう。こんなバカげたことはないのです。早急に関係の改善を求めます。

 さて、ここからは、昨日の東証の取引の内容を具体的に見ていきます。まず、以下は昨日の売買高の上位10銘柄です。

    1みずほFG
    2三菱自動車
    3シャープ
    4マツダ
    5東洋紡
    6三菱UFJ
    7NEC
    8パナソニック
    9ソニー
   10新日鉄住金

 見ての通り、電機メーカーのランクインが目立ちます。特にパナソニックに至っては、昨日は16・89%も株価が上昇し、ストップ高まで行きました。しかし、これを以て日本の電機メーカーが復活しているとは、とても言えないのです。

 たとえば、そのパナソニックですが、ここは先週決算発表を行い、これまでの大幅な赤字から脱却し、黒字となりました。なので、パナソニックの株価上昇がこの決算内容を受けてのものであることは間違いないのですが、問題はその内容なのです。黒字になったといっても、よくよく見ると、それは大規模な人員削減など、経営の合理化によるものであり、主力事業が改善してのものではないのです。そして、パナソニックの経営陣は、今後も更なる経営の合理化、つまり人員の削減や資産の売却を検討しています。このことは、ソニーについても、NECについてもまったく同じです。という訳で、これら大手電機メーカーの株価上昇の裏には、クビを切られた社員や、取引を停止された中小企業などがあるのです。つまり、実体経済にとってはマイナスなのです。このことは、決して忘れるべきではありません。

 一方で、次に昨日の業種別騰落率の上昇上位5業種です。

    1鉄鋼       +7・20%
    2繊維製品     +3・08%
    3銀行       +3・01%
    4証券・商品    +2・85%
    5保険       +2・83%

 一目瞭然で、鉄鋼の伸びが突き抜けていることが解ります。鉄鋼というのは、自動車はもちろん機械やインフラ関連についても重要な素材です。中国をはじめ各国でこれら自動車・機械・インフラなどの需要が伸びることは、必然的に鉄鋼株の上昇にも繋がります。この点で、鉄鋼は海運にも似た部分があるのですが、しかし先週以来、日本株のなかでも特に鉄鋼がよく伸びていることには、他にも理由があるのです。それは、ウォン高です。昨秋以降の円安が、新興国通貨の上昇と並行してのものだということは既に何度も指摘してきたことですが、韓国ウォンの上昇が止まりません。鉄鋼に関しては、円安ドル高よりも、円安ウォン高の方が、その株価上昇への寄与度は大きいと言えます。

 韓国の場合、サムスンに関してはウォン高など関係なく伸びているのですけど、しかしこのような電機を除き、他の多くの業種はウォン高を受けて一様に苦戦している状況です。本当は日韓両国が揃って上昇するのが一番なのですが、なかなかそうもいかないのが難しいところです。

 さて、ここからはアメリカの話題です。先週末に、1月のアメリカの新車販売台数が発表されまして、前年同月比14・2%の増加となり、アメリカの自動車市場の好調さが表れたかたちとなりました。またアメリカは、1月のISM製造業景況感指数も発表されて、これも景気判断の分かれ目となる50を超える53・1という数字が出てきました。

 しかし、一方でアメリカの場合、今年1月の消費者心理を表わす指数は12月から8・1ポイントも下落し、これで3ヶ月連続の下落になっています。更にFRBも先週、アメリカの景気が失速していることをはっきりと認めているわけです。にも拘わらず、何故自動車の販売はこんなにも好調なのか? 

 大手メディア・経済学者・金融アナリストなどの紋切型同盟が、アメリカの経済は好調であるという大きな論拠となっている1つが、この新車販売の好調さにあるのです。この数字は、アメリカのGDPがマイナスになった昨年10〜12月も好調だったのです。しかし、ちょっと待てなのです。

 新車販売の動向というのは、かつては景気を判断するうえで非常に重要な要素でした。しかし、現在のアメリカは、貧富の差が格段に進み、中間層が没落しています。なので事情は、かつてとは全然違うのです。

 中国をはじめとした新興国の場合は、中間層が日進月歩で増えていますので、新車販売の動向は、景気を判断する要素として非常に重要であることは確かです。一方で、アメリカに関しては違います。

 自動車、それも中古車ではなく新車など、そうおいそれと購入できるものではないのです。アメリカの場合、小売りに関しても、小売業の既存店売上というのが毎月発表されていまして、これがそれなりに堅調なのですが、しかしよくよく見てみると、この数字の上昇を牽引しているのは、富裕層向けの高級百貨店などであり、中間層・低所得層向けの店舗は、相変わらず苦戦しているのです。

 という訳で、全体として消費者心理は冷え込む一方であるにも拘わらず、新車の販売台数が伸びているというのは、それだけアメリカにおいて、格差の進行が更に進んでいることを意味するのです。

 アメリカの住宅バブルが、80年代の日本の不動産バブルと異なる点は、不良債権のある場所です。日本の場合、バブルの崩壊によって発生した不良債権は、もっぱら銀行にありました。しかしアメリカの場合、もちろん銀行にもありますけど、それ以上に各家庭にもあるのです。各家庭は多くの住宅ローン担保証券を持っていたのですが、これがバブルの崩壊を受けて一気に不良債権と化しました。この各家庭にある不良債権の処理は、まだまだ道半ばであり、この不良債権がいまだに家計を圧迫しています。そのうえ、雇用環境が依然として良くならないので、だからアメリカは全体として見ると、景気の足踏みが続いているのです。

 そして、1月になって突然良くなったアメリカの製造業の景況感についてですが、これにも留保を必要とします。そもそも、アメリカの場合、全産業に占める製造業の割合は相当に低いものがあります。また、アメリカは製造業というのは元々国際競争力があまりありません。製造業の景況感というのは、中国をはじめとした新興国、あるいは圧倒的な技術力を誇るドイツなどの場合は非常に重要な指標となるものですが、アメリカに関してはそうではありません。

 とはいえ、それでも良くなっていることについて分析が必要なわけですが、これについては、昨日CSの株式市場専門番組「ラップ・トゥデイ」において、以前にも名前を出した瀬川剛経済解説員が非常に重要な指摘をしました。瀬川さんは、現在世界的に景況感が向上していることに触れた後、アメリカについて、次のように述べています。

 「ただ、アメリカに関して言うと、去年の年末、財政の崖をめぐってちょっとした騒動があったわけですが、これに関連して、上場企業の配当金、あるいは非上場の民間の中小企業などが、ボーナスを前倒しで支払ったのです、これが、今年になってから存外の押し上げ効果を持っている可能性がありますので、(アメリカの)1月の数字というのは、そういう部分が非常に影響しているでしょう、アメリカの経済を判断するためには、もう少し時間が必要ではないかと思います」。

 という訳なのです。つまり、アメリカの上場企業、及び中小企業は、「財政の崖」がどうなるか解らないので、配当金やボーナスを前倒しで払った、だから製造業をめぐる1月の数字は上昇したのだ、ということです。これは非常に重要な指摘です。という訳で、アメリカに関しては、今後を注意深く見定める必要があります。

 ちなみに、アメリカの場合、2010年も、2011年も、そして2012円も、いずれの年においても、2〜4月は、様々な経済指標が概ね好調だったのです。だからその度にアメリカはもはや危機を脱したと言われたのですが、しかしその後毎年、5月〜7月にかけて、雇用を中心に様々な指標が悪化する傾向があります。アメリカ経済については、日銀の白川総裁が講演で語った「偽りの夜明け」という言葉を以前お伝えしましたが、アメリカにおいて、この「偽りの夜明け」は毎年訪れているわけです。なので、アメリカに関しては、たとえ今年も2〜4月にかけて良い数字が出たとしても、その後がどうなるか、これを何より注視する必要があるでしょう。

 アメリカにおいて、今年またしても「偽りの夜明け」が来るというのは、十分にあり得ることなのです。