原発をやめることはデフレ脱却に向けて不可欠である、脱原発こそはデフレ脱却の最大の要

 デフレから脱却するためには、採算の合わない事業、とりわけ無駄な公共事業や必要のなくなったインフラ投資などはやめなければなりません。無駄なもの、なかでも霞ヶ関と企業の癒着の産物であるハコモノなどは早急にやめて、その分のおカネを必要なところ、つまり真に守るべき伝統的な産業や、これから成長が期待できる新事業の開拓などへとまわす必要があります。真にデフレ脱却を望むなら、このことについて否定する者は誰もいないでしょう。

 先月、デフレ脱却のために政府と共同声明を行った日銀も、その際の付属資料において、次のように述べています。

 「成長期待の低下は、不採算の経済活動に代わる新たな事業や企業を生み出しにくい経済構造とも相まって、企業がコスト削減や価格競争で生き残りを図る状況を作り出してきた」。

 「それだけに、幅広い主体による成長力強化への取り組みが進み、緩和的な金融環境がより広範に活用されるようになることが、デフレからの脱却の鍵を握っている」。

 という訳で、無駄なもの、不採算の事業は早急にやめて、別の分野で成長力を強化する必要があります。

 このような無駄なものとして、八ッ場などに象徴されるダム、また赤字続きで経営が行き詰っている地方の飛行場などは、その典型的な例といえます。これらのダムや飛行場は、必要ないのです。なくても問題ないにも拘らず、霞ヶ関から天下り企業などが広範に結託し、偽りの需要見込みのもとに、工事を開始したものです。しかも、作ってしまったものは、その後も膨大な維持・管理費がかかります。このような維持・管理費と併せて、物凄い無駄です。

 このようなことにおカネを使うなら、中小企業支援に使い方がはるかに効果的です。中小企業のなかには、人手不足なので新たに人を雇いたいけど、しかし社会保険料が重荷となって人を雇えず、少ない従業員で切り盛りしているところが大勢あります。ダムや飛行場などの無駄なインフラ事業をやめて、その分をこれらの企業へ社会保険料として給付すれば、非常に効果があるわけです。G7のなかでリーマンショックから最も上手く立ち直ったのはカナダですが、カナダは無駄を省き財政を健全にしつつ、一方で企業に向けて社会保険料の給付を行っています。各州ごとの政府によりその額は異なるものの、非常に大きな金額を社会保険料として給付することで、多くの雇用を生み出し、そして雇用環境の向上から個人消費が活性化して、更に税収も増えるという、好循環が起きています。日本も、このような施策からは大いに学ぶべきなのです。

 ところで、昨年5月上旬以降、日本で稼働している原発は、関西電力大飯原発だけです。しかし、この関西電力にしても、大飯を稼働しなくたって、電気は足りるのです。日本中、どこであろうと、原発はなくても電気は問題なく足ります。何故か? それは、電力会社には電気を安定供給する義務があるからです。原発というのは、誰もが知るように、大変に危険な代物です。もし何か不測の事態が起きた場合、原発はすべて即時停止にしなければならないわけですが、しかしそのような事態になろうと、電力会社には電気を安定供給する義務があります。なので、電力会社は、あらかじめすべての原発が停止しても電気の安定供給が出来るよう、設備を用意しているのです。

 それはつまりどういうことか? 原発は、そもそもはじめから必要ないということです。つまり、無駄なんです。原発というのは、それがなくても電気が足りるのに、各社とも原発を建設してきたのです。

 では、必要ないのに、何故原発は建設されてきたのでしょうか? ここで重要な視点を与えてくれるのが、坂本龍一さんです。坂本さんは常々、原発がエネルギー問題というのは間違いで、真のエネルギー問題は石油であると言い続けてきました。まったく以てその通りです。しかし、ならば原発はエネルギー問題でないならいったい何なのか? そんなことは決まっています。原発というのは、発電所です。つまり、電力インフラです。要するに、これは、インフラ問題なのです。先程述べた、あの飛行場やダムなどと、同じです。

 飛行場というのは、当たり前ですが交通インフラです。ダムというのは、貯水・治水インフラです。しかしそれだけではありません。ダムは電力インフラでもあります。たとえば現在解体作業が始まっている熊本県の荒瀬ダム、これは100%発電用に作られたものであり、要するに発電施設です。一方で、原発も発電施設です。しかし、荒瀬ダムについて、これをエネルギー問題だと言う人はいません。ダムのことをエネルギー問題だと言ったら、お前何バカなこと言ってんだと思われるでしょう。

 そして原発も、荒瀬ダムと同様に、発電施設です。原発は、電力インフラなのです。しかも、なくても必要のないインフラなのです。

 飛行場やダムというのは、本来必要のないところを適当に理由をつけて、そうして偽りの需要見込みに基づき、霞ヶ関から民間の天下り企業までが一体となって建設、維持・管理してきたわけですが、これは原発についても完璧に当て嵌まります。原発だって、本来必要のないところを適当に理由をつけて、偽りの需要見込みに基づき建設してきたのです。しかも、霞ヶ関から民間の天下り企業までが一体となって建設、維持・管理してきた、という点も同じです。長年に渡り、経産省から各電力会社には、大量の人々が天下っています。飛行場やダム問題と、まったく同じです。

 だから、原発については、次のことにも注意しなくてはなりません。原発の建設に関しては、それを受け入れる自治体に対して、霞ヶ関や電力会社が便宜を図り、そこから出たカネで各自治体は無駄なハコモノをつくってきたと言われるわけですが、しかし原発の問題が飛行場やダムの問題と同じことから明らかなように、そもそも、原発自体がハコモノなのです。ただ、違うのはスケールです。原発というのはあまりに巨大であるため気付きにくいだけで、実は原発そのものが超巨大なハコモノです。

 民主党が行ったことのうち、数少ない良いものの1つが事業仕訳けです。事業仕訳けによって、飛行場やダム建設の内訳が暴露されました。あの事業仕訳けを通して、飛行場やダムそのものが巨大なハコモノであることは、白日のもとに曝されたのです。原発もそれと同じです。原発もまた、ハコモノなのです。ただ、繰り返しますが、違うのはスケールです。

 『週刊ダイヤモンド』は、2011年5月21日号で、大々的な「原発」特集を行ったのですが、その30〜31ページにおいて、見開きで癒着の構造を暴露しています。これが実に恐ろしい裾野の広さなのです。企業の名前が大量に実名で出ておりまして、そのあまりの裾野の広さにびっくりします。更にその次の32ページでは、交付金など霞ヶ関から出てくる一連の膨大な費用についても図柄で詳細に記してあります。

 ハコモノというのは何でもそうですが、すべては霞ヶ関と民間企業との癒着です。そこには膨大な税金が投入されています。また、天下りが鍵になっている点も同様です。そして原発は、このような癒着の最たるものにして、最大のものです。物凄い額のカネが原発に投入されているわけです。しかし、原発のタチの悪いところは、単に国民の税金が投入されているだけでなく、原発の建設及び維持・管理費が、すべて電力料金に上乗せされるので、だから市民あるいは中小企業は、電力料金の面においても、この無駄なハコモノのための費用を払わされているということです。

 この金額は、実に膨大なものです。そしてそれは、今年もまた新たに上乗せされるのです。2月1日、日経新聞電子版に、「電力10社、原発対策に1兆円 関電が2855億円で最多」という見出しの記事が掲載されました。要するに、防災として安全対策を整えるために、9電力会社が合わせて1兆円の設備投資をするというのです。防災のための設備投資といえばいかにも通りがいいわけですが、しかしこれも原発にまつわる維持・管理費に他なりません。

 しかし、言うまでもなく、最大の防災対策は、原発廃炉にすることです。何故なら、危険なのは地震津波ではないからです。原発が危険なのであって、地震津波ではありません。というのも、地震津波は、放射能を放出しないからです。何故原発は安全対策をする必要があるのか? それは事故が起こると、原発放射能を放出するからです。この放射能は、地震津波によるものではないのです。あくまでも、原発に原因があるのです。

 先程の『週刊ダイヤモンド』の「原発」特集号には、ノーベル経済学賞を受賞した世界的に有名な経済学者であるジョセフ・スティグリッツの論文も掲載されているのですが、そこでスティグリッツは、次のように言っています。

 「原子力産業の存在そのものが、原子力災害が起きた場合に社会が負担するコストや未解決な核廃棄物処理のコストなど、隠れた公的補助金に支えられているのである。歯止めのない資本主義はもうたくさんだ」。

 更にそのうえでスティグリッツは、原子力産業とは地球を相手にギャンブルをおこなって我々の社会を敗北に追い込むものである、と徹底批判しています。この批判は、まったく以て当然です。原子力産業というのは、地球を相手にギャンブルをおこなっており、しかもタチが悪いことに、そこで使われる賭け金は、国民が負担しているのです。原子力産業の儲けのために、我々市民や中小企業は、膨大な金額を負担しています。廃炉を先送れば先送るほど、それだけ負担は増していくのです。とてつもない負担です。そしてこの負担は、世界的に見ても極めて割高な電力料金として請求されて、中小企業にとってはコスト増に、市民にとっては家計の圧迫材料になっているのです。

 とりわけ、中小企業にとってこの負担は大きなものがあります。何度でも言いますが、中小企業のなかには、人手不足のため新たに人を雇いたいと思っているところがたくさんあるわけです。しかし、欧米の3倍にも及ぶ割高な電力料金が過剰な負担となってこれら中小企業の財務状況を圧迫しています。しかし、原発をやめ、併せて発送電を分離することで、中小企業の財務状況は大幅に改善するのであり、それを受けて、雇用も増加していきます。

 このことは、単に雇われる人が増えるという以上の波及効果があります。と言いますのも、もう少し人手がいれば新しくあの事業もできるのに、あるいは、もう少し人手がいればあそこの会社からの発注にも応えられるのに、しかし人が足りないから断念せざるを得ない・・・、というようなビジネスも、人手が増えることで可能になるわけです。より多くの人が雇われることは、その時点で社会全体の購買力を増して、消費の活性化につながるわけですが、一方で新たに人が雇われることは、それまでだったら断念せざるを得なかったビジネスも可能になる余地が生まれてくるのです。

 とにかく、飛行場にしろ、ダムにしろ、そして原発にしろ、必要ないにも拘わらず癒着のもとに建設を行い、しかも維持・管理にも膨大な費用がかかり、そして維持・管理まで癒着の構造で成り立っているという点で、同じなのです。日銀も強く主張していたように、このような無駄、このような不採算事業は、早急にやめなければなりません。これらをやめずして、いったいどうやってデフレから脱却できるというのでしょう? できるわけがありません。現在の日本の不況は、様々な無駄な事業、不採算事業に膨大な額のカネが投入され、しかもそのカネを市民や中小企業が負担していることによる部分が1番大きいのです。

 しかし、これらの不必要な負担がなくなれば、それだけ市民の消費余力は増し、そして中小企業の間では、多くの雇用が生まれます。日本の賃金労働者のうち、9割は中小企業で働いています。だからこそ、この中小企業が活力を得ることは、何よりもデフレ脱却に寄与するのです。

 そして、これらの無駄、これら不採算事業のなかでも、最も巨大な利権が絡み、そうして最も巨額のカネが動いている事業、別の言い方をすれば、最も巨大な無駄こそが原発なのです。原発は、超巨大なハコモノなのです。

 原発について、これをエネルギー問題だと思っているから、このことに気付かないのです。しかし、原発は発電施設である以上、経済的には、原発の問題とはインフラ問題なのです。ダムと同じなのです。という訳で、そこに気付けば、原発とは超巨大なハコモノであることにも、自然と気付きます。それも、とてつもない額のカネが投入される、超巨大なハコモノです。つまり、究極の無駄なのです。という訳で、このような究極の無駄である原発をやめて、併せて発送電を分離することは、中小企業や市民にとって、何よりの負担軽減となります。そうであれば、全原発廃炉発送電分離こそ、まさにデフレ脱却のための最大の要であるというのは、もはや明らかなのです。