円安ドル高が進んでいるものの、一方でドルは他の通貨に対しては下落し続けている

 昨日から2月になりましたが、日経平均株価は前日の終値からプラス0・47%上昇し、1万1191円で取引を終えました。これで日経平均は12週連続で上昇です。これは、1958年の岩戸景気以来実に54年ぶりになります。

 言うまでもなく、日本が高度成長にあるわけではありません。これから高成長するというのも無理です。高度成長しているのは、お隣の中国であり、また東南アジア諸国です。とりわけ中国の上昇は物凄いものがあります。

 ちなみに、上海市場は昨日も好調で、こちらはプラス1・40%上昇し、以前から1つの節目とされていた2400元を突破して、2419元で取引を終えました。12月上旬の時点での上海総合指数は1900元台だったので、たった2ヶ月の間に、3割近く上昇したことになります。まさにうなぎ上りという状態です。しかし、昨日もお伝えしたように、上海市場は、主力である人民元建てのA株に関して、基本的に外資マネー抜きでここまで上昇してきたわけであり、高度に金融の相互依存が進んだ現代において、自国マネーだけでこれほど株価を押し上げるようなところは、中国ぐらいのものです。

 しかし、上海市場はまだまだ上がります。将来的には、4000元や5000元では済まないでしょう。といいますのも、南欧債務危機が起きる以前、上海総合指数は3000元以上あったのです。2011年の夏から、上海総合指数は物凄い勢いで下落していきました。この年、中国のGDP成長率は9・3%あったにも拘わらず、上海総合指数は20%以上も下落したのです。GDPが2桁近い高成長のなかにありながら、株価は20%以上下落するというのは明らかに異常なのです。もちろん、最大の輸出先であったユーロ圏の景気が後退したことによる輸出のダメージはそれほど大きかったということですが、しかしいまや中国は、そこから自力で復活したのです。

 昨日も中国では株価上昇を後押しする指標が発表されました。先日発表された、PMI製造業景気予測指数が、上方修正されたのです。先日発表されたとき、この数字は51・9でした。これだけでも昨年12月からは更に上昇しているのですけど、今回この数字が改訂されまして、正しくは52・3に上昇修正されたのです。そして実は、日経平均の上昇もこれを受けてのものでした。何故それが解るかというと、タイミングです。中国のPMIの改定値が発表されて、その少し後から日経平均も上昇したのです。

 そもそも、円安にしても、その最大の要因は、第一に中国の経済の上昇であり、そして第二にユーロ圏の回復にあるわけで、これまで何度も申し上げてきたように、昨秋以来の日経平均の持続的な上昇は、ひとえにこれら外部環境の好転に依ります。

 ところで、中国といえば、間もなく旧正月である春節を迎えます。アジア株専門番組である「ASIAエクスプレス」が昨日報道したところによると、中国の春節の過ごし方もだいぶ変わってきており、以前は家族とのんびり過ごすというものだったのが、ここ最近は外国に旅行する人がドンドン増えているそうです。ちなみに、昨年外国へ旅行に行った中国人の数は、前年比12%増の7700万人にのぼります。7700万人というのは、ユーロ圏第2の大国であるフランスの総人口を超える数であり、ドイツの総人口にも肉薄するものです。これだけの人が、中国では外国へ旅行に行くわけです。本来なら、彼らの間で、日本というのはとても人気のある旅行先でした。ところが、今年の春節では、日本に来る中国人観光客は殆どいません。もちろん理由は、尖閣問題による関係の悪化です。日本の旅行業界は、石原元都知事と日本政府を提訴すべきではないないでしょうか? 彼ら政治家たちが日中関係を悪化させたことで、日本の旅行業界は大損害を蒙っているのです。彼らを相手に損害賠償を請求するのは、民主主義的にも、当然のことと思います。

 さて、一方で、昨日はアメリカでも重要な経済指標が出てきました。雇用に関して最も重視すべき指標である、労務省が発表する非農業部門の新規雇用者数です。アメリ労務省によると、1月の増加は、15万7000人でした。事前の市場予想の平均は17万人ほどだったので、市場予想よりも悪い内容です。以前から申し上げているように、アメリカの雇用というのは、この数字が20万人を上回り、しかも20万人以上の増加が持続的に続いてはじめて雇用が改善されてくるというものです。という訳で、15万7000人の増加では、まったく足りないのです。この数字からも、アメリカ経済が足踏みしていることがあらためて窺えます。

 さて、ここからは昨日の東証の取引の内容を見ていきます。昨日の売買代金は2兆3224億円にのぼりました。一昨日記録した今年の金額を更に超えるものであり、ここに来て、一層巨額の売買がなされていることを意味します。これは、昨年末指摘した欧米の年金基金が、いよいよ本格的に日本株への投資を加速してきたことの表れと言えるでしょう。もちろん仲介しているのは、CTAなどのヘッジファンドだと思われます。

 日経平均岩戸景気以来の上昇となった背景には、中国をはじめとした新興国経済上昇に伴う日本企業の利益を、アメリカのヘッジファンドがごっそりいただこうという腹積もりがあることも決して見逃してはなりません。なにしろ中国の人口は13億人、これはG7諸国のすべての人口を足してもまだ届かない規模であり、それだけ13億社会の急成長というのは、物凄い威力を持っていると言えます。巨大な人口規模を誇る新興国がいよいよその経済成長を加速させるのも歴史上はじめてならば、ヘッジファンドというものがこれほどまで強大な力を持つようになったのも、同様に歴史上はじめてなのです。そして、これらヘッジファンドの巨額な売買を可能にしているものが、インターネットによっていつでも市場にアクセスできるという環境であることも、忘れてはならないことです。

 ともかく、このように売買が盛況であるため、200日移動平均からの乖離率も更に上昇し、21・82%まで来ました。このままだと、冗談抜きで30%が視野に入りそうな勢いです。

 一方で、売買の内容そのものは、あまり見るべきところがありませんでした。昨日は、前日から較べると、かなり円安が進んだのです。昼の時点でも、円相場は対ドルで91円70銭近辺であったものが、その後たった数時間で92円20銭ほどまで行きました。しかし、これほど急激に円安が進んだわりには、株価の上昇は限定的だったとも言えます。業種別騰落率を見ても、上昇1位の鉄鋼が「+1・97%」にとどまり、2%を超えた業種はありませんでした。この理由が何なのかは解りませんが、とはいえ、1週間を通して見ると、月曜の午前に値が下がり、そして週の半ばに乱高下して、週の後半に円安が進み株価も上昇するという、今年に入ってからの傾向は、今週も依然として継続されたと言えます。

 さて、ここからは、昨年末以来の為替の動向を、円相場から離れて、ドルを中心に見てみたいと思います。というのも、為替について、円相場だけからから見て、それで円安だ、ドル高だ、という把握だけしていると、とんでもない勘違いをすることになるからです。現在の為替は、円を中心に見ると、確かに円安ドル高なのです。ところが、これをドルを中心に見ると、事態は一変するのです。

 以前、ドル・ユーロ・円という主要3通貨を見ると、現在起こっていることは、「円安ドル高/ドル安ユーロ高」だと言いました。つまりドルは、円に対しては上昇していても、ユーロに対しては下落しているわけです。

 また、今年に入って、人民元が史上最高値を何度か更新したということもお伝えしました。という訳で、ドルは、人民元に対しても下落しています。では、他の通貨に対してはどうでしょうか? ここで、各地域で中心的な役割を成している国々の通貨とドルの関係を見てみます。

 まず、ブラジル・レアルですが、昨年末以降、ドルは、レアルに対しても下落しています。また東南アジアの経済の中心となっているのはタイですけど、ドルは、タイ・バーツに対しても下落しています。更に、南アジアの大国インドのルピーに対しても、そしてロシア・ルーブルに対しても、ドルはやっぱり下落しているのです。いずれも、かなり急激な下落です。

 という訳で、ドルは、ユーロに対して、人民元に対して、ブラジル・レアルに対して、タイ・バーツに対して、インド・ルピーに対して、ロシア・ルーブルに対して、見事に思い切り下落しているわけです。そしてもちろん、ドルがほぼ一本調子で下落しているのは、まだ他にもあるのです。

 一方で、豪ドルやカナダドルなどのように、上がったり下がったりと乱高下を繰り返しているようなところもあります。

 ただ、いずれにしても、現在経済が世界的に注目されている通貨に対して、ドル(もちろん米ドルです)は、一本調子で下落するか、乱高下するかのほぼどちらかです。なのでドルは、ユーロに対しても、そしてまた主要な新興国に対しても、基本的に下落していると認識していただいて構いません。

 という訳で、昨年末以降、ドルは基本的には下落する一方なのです。ただ、そんなドルが唯一上昇している通貨ペアが、日本円なのです。下落する一方のドルも、日本円に対してだけは、一本調子で上昇しているのです。これは逆に言うと、下落し続けるドルに対して、更により一層下落しているのが円ということになるわけです。

 ただ、これはいわゆる日本売りではありません。これはどういうことかといいますと、時間の針を、南欧債務危機が深刻化した2011年夏まで遡る必要があります。2011年の前半、ドルは、他の主要通貨に対して軒並み下落していました。ところが、2011年の夏、スペインとイタリアの国債が暴落して欧債務危機が深刻化して以降、一転してドルは買われ始めたのです。

 これは別に、アメリカ経済が好転したからではありません。単純に、他が悪くなったためです。南欧債務危機の深刻化を受けて、まずユーロが大幅に下落します。そして、ユーロ圏の景気失速は、ユーロ圏を最大の輸出先としていた中国経済を直撃するわけですが、この中国がダメージを受けると、そこから周辺の東南アジア諸国だけでなく、オーストラリアやブラジルなど実に幅広く影響を与えるわけです。ユーロ圏の失速が中国に飛び火したことを受けて、そこから芋づる式にあらゆる国の経済を減速させます。それにより、ユーロも新興諸国も軒並み不況となり、併せて通貨も下落していったのです。

 もちろんこれを受けて世界同時株安になり、資源価格も下落したわけですが、そこで行き場を失ったマネーが円に流れて円高になったことは既に何度もお伝えした通りであり、そしてまたスイスフランも上昇したわけですが、実はここで、ドルも上昇したのです。もちろん円のように急激に上昇したわけではありません。とはいえ、ドルもそれなりに上昇したのです。

 という訳で、ドル・ユーロ・円の主要3通貨を舞台に当時起こったことを整理すると、「円高ドル安/ドル高ユーロ安」です。最も資金が逃避してきたのが円だったので、円は他のどの通貨よりも上昇したわけですが、一方でユーロから逃げるマネーは、ドルにも行ったのです。だからこの時期は、ドル高ユーロ安も同時に進行したのです。もちろんこのことは、様々な新興国通貨に対しても同様です。

 ここで、物事を整理します。南欧債務危機が起こった当時、「円高ドル安/ドル高ユーロ安」となり、また「円高ドル安/ドル高新興国通貨安」となったものが、現在はその真逆、「円安ドル高/ドル安ユーロ高」となり、また「円安ドル高/ドル安新興国通貨高」となっているわけです。

 つまり、ここ数年の為替市場は、かつて世界第一の経済大国だったアメリカの状態も、世界第二の世界大国だった日本の状態も、共に殆ど関係なく動いているのです。アメリカにしても日本にしても、共に不況ながら低位安定で、経済状況はあんまり変わっていないのです。一方で、ユーロ圏及び中国をはじめとした新興諸国は、激動のなかにありました。これらの国々は、2011年の夏を境に、持続的にドンドン落っこちて、そして昨年秋以降は、急激に戻っているのです。そして為替も、単にそれに合わせて動いているだけなのです。

 但し、全部が元に戻ったわけではありません。とりあえず景気の動向が南欧債務危機が起こる以前に戻ってみたら、当時と比べて、世界経済における中国の存在感が異様に強くなっていたのです。

 何度でも繰り返しますが、アメリカが世界貿易の中心であった時代は、リーマンショックを以て終わりました。そしてその後、世界経済はGゼロと呼ばれる、主導国なき時代に突入したと見えたわけですが、ここに来て、中国の存在感が日増しに高まっていることを世界は目撃することになったのです。

 但し、このことは、中国がかつてのアメリカの地位に取って変わることを意味するものではありません。世界貿易の最大の駆動力は確かに中国で間違いないのですけど、しかしその一方で、依然として、基軸通貨はドルなのです。ドルの地位は、相対的に低下していますが、とはいえそれでもドルがいまだ基軸通貨であることは事実です。では、ならば中国・アメリカのG2時代なのか? これも違います。というのも、圧倒的な対外純資産を受けての投資力、そして技術力、これらを総合すると、なんだかんだ言いながら、日本はいまだ世界一なのです。

 日本は30年以上に渡って延々と経常黒字を積み重ねてきた驚異的な国であり、その対外純資産は、2位の中国、3位のドイツを足しても、まだ日本には届かないという恐るべきレベルにあります。また、日本は技術力も依然として優れたものがあります。電機メーカーは凋落の一途を辿っていますが、しかし各産業を総合的に見れば、日本の技術が依然として世界トップ水準にあることは間違いありません。だからこそアジアの新興諸国は、日本に対し盛んにラヴ・コールを送っているのです。

 そしてもちろん、ユーロ圏も見逃すことは出来ません。ユーロ圏は、ドイツ、フランスなどが、それぞれ多様な優位性を持っており、アメリカ・中国・日本とは別に、極めて重要なところがあります。

 このように、世界経済は、位相を異にしながらの四極化という様相を呈しつつあるでしょう。但し、それはあくまで、いまの時点でのことです。たった5・6年の間に、世界経済の様相はかくも激変しているのであり、よって今後もこのような状態が続くかは解りません。この点で、各国の政策の行方は、非常に重要な意味を持ってきます。今後の経済運営次第では、日本の地位が大きく低下することもあり得ます。そうなった場合、いまのように、ユーロや新興国通貨が買い戻されることによる円安ではなく、いわゆる日本売りによる円安が起こることも十分あり得るので、だから日本は、まだ力のあるいまのうちに、行うべき改革を次々と断行していかなければなりません。

 一方で、ドルも今後基軸通貨としていつまでも安泰である保障はどこにもありません。アメリカもまた大改革を行わなければならないということも、疑いない事実です。

 最後に、円安とアメリカとのことについて触れておきます。急激に進む円安に対して、ユーロ圏や韓国から盛んに批判の声が上がっている一方で、アメリカは公式にはなにも言ってきていない現状について、日本のエコノミストたちが、いつかアメリカがガツンと言ってくるんじゃないか、それともアメリカはこのまま黙認してくれるかも、と不安や期待の感情を抱いていることは先日お伝えしましたが、実は、アメリカが何も言ってこないのは当たり前なのです。何故なら、通貨が下落しているのは円だけではなく、ドルもまた同様だからです。

 だからアメリカが円安に対して批判しても、ユーロなどの側からすれば、そもそもドル自体も下落しているので、アメリカが円安批判をしても何ら説得力を持ちません。のみならず、現在最も大規模な金融緩和を行っているのは、他ならぬアメリカのFRBです。そのため、アメリカが円安批判をすることは、翻って自らの首を絞めることになのであり、それを考えれば、アメリカはおいそれと円安批判をできません。とはいえ、アメリカも自動車業界に関しては、日本のメーカーと熾烈なシェア争いをしていますので、いわゆるビッグ3と呼ばれるアメリカの自動車メーカーは、アメリカ政府に対し円安是勢の圧力をかけています。

 これが今後どうなるかは解りませんが、しかしいずれにしても、現在の為替相場は、南欧債務危機を受けて思い切り落ち込んだところの通貨が、急激に買い戻されているというのが実情なのです。だから、仮にアメリカが円安批判を行おうと、ユーロ圏や中国などの新故国の状況が好転すればそれだけ、円安は進むのであり、実際にそうやってこれまで相場は動いてきたのです。

 だからこそ日本は、早急に円安対策を打たねばなりません。燃料・原材料の輸入価格上昇は、今後必至です。そのためにも、まずは発送電分離、これを1日も早く行う必要があります。

 最大の課題である低エネルギー・高付加価値型の産業モデルへの移行は、すぐに成しうるものではなく、時間をかけなければいけませんが、しかし発送電分離は、やろうと思えば、すぐに出来るのです。