FRBによる金融政策発表を受けて、アメリカ経済は明らかに失速している

 先週は日銀の金融政策決定会合があったわけですが、昨日はアメリカの中央銀行にあたるFRBが、金融政策決定会合にあたるFOMC(連邦公開市場委員会)を開き、金融政策を発表しました。QE3・5とも呼ばれる大規模な金融緩和について、据え置き(つまり継続)ということです。これについては後程詳述するとして、まずは昨日の東証の取引の内容から見ていきます。

 昨日、日経平均株価は前日の終値からプラス0・22%上昇し、1万1113円で取引を終えました。この間、円相場は乱高下していまして、全体としては円安基調であるものの、一昨日水曜の取引終了時(午後3時)から昨日木曜の取引終了時で比較する限りでは、円は対ドルで殆どレートは変わっていません。このように、週の半ばに円相場が乱高下するというのは、ここ3週間ほどの特徴です。

 ちなみに、昨日他のアジア市場は、上げるところ下げるところ、まちまちでした。アジア市場は、ここ最近急激に伸びていますので、このような調整局面になることも当然というものです。ただ、中国株は昨日も堅調に値上がりしています。

 ところで、中国株を見るうえでは、1つ注意すべき点があります。と言いますのも、世界中の殆ど株式市場では、外国人であろうと関係なく株を買えるわけですが、中国に関しては違います。上海・深センともに、人民元建てのA株とドル建てのB株があるということは、既に度々お伝えしたところですが、主力であるA株に関しては、上海・深センともに、外国人は基本的に株を買うことが出来ません。銀行などの一部機関投資家に限り、中国当局から認可したところだけが限定的に買うことが出来るという状態で、実は香港やマカオの人々でさえ、上海・深センのA株を自由に購入することは出来ないのです。中国当局は、まずは香港・マカオの人々が買えるように規制を緩和する方針ですが、多くの国々のように、世界中のどこの誰だろうと自由に中国株を買えるようになる日は、まだかなり遠いと言わざるを得ません。

 この点について何が重要かと言いますと、現在世界的に進行している株高は、主に外資による売買であるのに対し、中国A株に関しては外資ではなく、中国人の資金によって株価が上昇しているということです。日本だろうが、ヨーロッパだろうが、東南アジアだろうが、中南米だろうが、いずれの株価上昇も、それは外国のマネー、とりわけヘッジファンドによるところが大きいわけですが、しかし中国に関してはそうではなく、中国A株の上昇は、基本的に中国人の投資によって成り立っているわけです。にも拘わらず、上海のA株は、昨年12月以降20%ほど上げているわけです。つまり、もしもA株の売買が自由化されて、世界中の誰でも購入できる状況であった場合、上海・深セン市場の株価上昇は到底この程度で収まっている筈もなく、40%、50%、あるいはもっと(?)上昇しているだろうということです。

 という訳で、中国株については、数字以上の物凄い潜在的な上昇力を秘めているということです。このことは、中国経済を見るうえで、決して忘れるべきではありません。ちなみに、中国当局は何故株式の自由化をしないかと言うと、理由は簡単です。株式というのは、本来は金融商品ではなく、企業経営に参加する権利を買うものです。そして企業は、株の出資比率に応じて、株主の意見を踏まえて事業を展開していくことになります。つまり外国人が中国企業の株を購入するということは、即ち外国人が中国企業の経営方針に影響力を持つということになるので、それで中国政府は長年に渡り人民元建てA株の自由化を行ってこなかったのです。このことは逆もまた同様であり、外国人が中国A株を自由に購入できないのと同じく、中国人も外国の株式市場に自由に投資することが出来ません。ただ、さすがにこのままではまずいだろうということがあり、現在中国当局は、まず香港・マカオ、そして台湾の人々を対象に、自由化を進めていく方針です。

 さて、ここからは昨日の東証の売買の内容を具体的に見ていきます。昨日の売買代金は、2兆2788億円と、今年最高を記録しました。

 次に、以下は、昨日の売買高の上位10銘柄です。

    1みずほFG
    2三菱UFJ
    3野村証券
    4マツダ
    5商船三井
    6新日鉄住金
    7川崎汽船
    8ラサ工
    9あおぞら銀行
   10神戸製鋼

 ちなみに、11位には日本郵船が入っています。ここまで含めると、大手海運3社がすべてランクインしたことになり、また鉄鋼の大手2社の名前もある以上、昨日は海運・鉄鋼への物色が目立った1日ということになります。このことは、昨日の業種別騰落率の上昇上位5業種にも表れています。以下が、その順番です。

    1海運       +4・71%
    2鉄鋼       +4・17%
    3パルプ・紙    +4・11%
    4証券・商品    +3・20%
    5銀行       +2・65%

 という訳です。このように、海運・鉄鋼が飛躍的に伸びるということは、明確に中国経済の上昇による世界貿易の拡大を見越してのものです。昨日のレポートでもお伝えしたように、いまや世界貿易の中心は、アメリカではなく中国なのです。それを受けてか、これら海運・鉄鋼の銘柄について、中国関連銘柄と言う市場関係者もちらほらと出てきている状態です。

 さて、低迷が続くアメリカですけど、冒頭でも申し上げたように、昨日FRB金融政策決定会合にあたるFOMCを開き、金融政策の発表を行いました。現在行っている大規模な金融緩和については、据え置きということです。これについて、僕としてはまったく予想通りなのですけど、注目すべきは、FRBによるアメリカ経済の現状認識です。

 アメリカ経済の現状について、昨年12月のFRBの見解は、「continued to expand at moderate pace/穏やかに拡大を続けている」だったのですが、それが今回は、「growth in economic activity paused/経済活動の伸びは一服した」に変わりました。つまり、アメリカ経済は失速したということです。10〜12月期のGDPがマイナスになったことが示すように、実際のところ、12月にFRBが行った「穏やかな拡大」というもの自体が間違っていたわけですけど、今回はFRBも「economic activity paused」という表現を使ったように、昨年末から今年にかけてアメリカ経済が失速しているというのは、まず間違いありません。

 このことは、アメリカCNBCの報道からも明らかです。FOMCの結果を受けて、アメリカCNBCはブレッキング・ニュースでこのことを速報したのですが、それに併せてアメリカCNBCは、「アメリカの景気はここ数か月、足踏み状態である」とはっきり言いました。アメリカが足踏みしている、つまりもたついているというのは、明らかなのです。誰がどう見たって、アメリカ経済はこのような状態であり、間違っても回復などしていません。にも拘わらず、日本の金融アナリストたちは、依然としてアメリカの景気失速を認めません。これら紋切型同盟の急先鋒たちは、昨年10〜12月期のGDPがマイナスになり、更にFRBによるアメリカ経済の現状認識の発表を受けても、それでも尚アメリカ経済は回復していると言い張っています。GDPのマイナスは気にする必要がない、アメリカ経済は順調に回復している・・・、このような解説が横行しているのです。

 まったく以て信じられません。彼らは、中国経済について、何と言っていたのでしょうか? 2011年の中国のGDPの伸び率が2桁を割り、9・1%と発表されたことを受けて、一斉に中国経済失速と言ったのです。しかし、何度でも繰り返しますが、中国はGDPの高成長を受けて、分母そのものが急拡大しているので、パーセンテージは下がっても、成長そのものはまったく鈍化しておらず、むしろ拡大しているのです。一方、アメリカは、はっきりとマイナスなのです。加えて、今年に入ってからは、様々な指標から明らかなように、経済の失速が一層加速しているわけです。にも拘わらず、アメリカのGDPのマイナスは気にする必要がない、アメリカ経済は順調に回復していると、何故言えるのでしょうか? まったく根拠がありません。彼ら紋切型同盟は、どうやら無理やりにでもアメリカ経済は回復していることにしたいらしいです。

 GDPはマイナスになりました、消費者心理を表わす指数も3ヶ月連続で下落しました、そしてFRBアメリカ経済の失速を認めました、なのに日本のエコノミストはこのことを認めていない状態です。ちなみに、日本では先週以来、次のようなことがまことしやかに言われていました。それは何かと言いますと、日本の場合、日銀は大規模な金融緩和路線に舵を切った、一方でアメリカは経済が順調に回復しているので、FRBはこれから大規模な緩和を見直し、金融政策を縮小していくだろう、だから円安になるのだと・・・、このようなことが、まことしやかに言われていたのです。ところが、実際のところはその逆なのです。日銀は先週の金融政策決定会合において、資産買い入れの増額などは1円たりとも行わなかったのです。その一方でアメリカのFRBは、QE3・5と呼ばれる大規模な金融緩和を、今後も継続すると発表したのです。

 つまり、日銀の金融政策は依然として抑制的であり、一方でFRBの金融政策は依然として緩和的なのです。このことは、今回明確にはっきりしたわけです。そして、これだけなら、円相場は円高ドル安になる筈のものです。しかし、実際はその逆で、円安ドル高になっています。昨日、91円近辺で推移していた相場は、日付が変わる深夜頃から急激に円安に振れ、今日の午前10時時点では、92円に接近しています。という訳で、もういい加減、はっきりしているのです。この円安が中国経済の上昇によるものだということは、明らかなのです。そしてだから、海運株が急激に上昇しているのです。