デフレ脱却のために、最低賃金の引き上げと発送電分離はセットである

 週明け初日、日経平均株価は金曜の終値からマイナス0・94%下落し、1万824円で取引を終えました。しかし、既にお伝えしたように、先週金曜の東証の取引終了後、夜間取引時間で日経平均先物は1万1000円台に乗っていましたので、そこから考えると、かなりの下落ということになります。とはいえ、金曜の時点と比べて、円相場は殆ど変りありません。にも拘らずこの下落というのは、典型的な利益確定の売りと見て間違いないと思います。

 利益確定の売りと言えば、先週上海でも、1月のPMI製造業景況感指数が発表され、12月から更に良い数字が出たにも拘らず、上海総合指数はその日下落しています。こういうことは、株式市場ではしばしばあることです。

 ちなみに、昨日の上海総合指数は、+2・40%の大幅上昇となりました。昨日中国経済に関しては、香港経済日報から、中国の景気が更に上向いていることをあらためて認識させるニュースを発表されました。それは、中国の1月の新規融資残高の増加が、昨年12月の4500億元から大幅に増え、1兆元に届く見通しと報じたのです。これは、銀行が企業向けに新たに融資した残高が前の月の倍以上にのぼる見通しなわけで、中国企業の活動の更なる活発化が如実になっているということです。これは当然ながら、今後更なる株価押し上げの要因となります。

 さて、ここからは昨日の東証の取引の内容を具体的に見ていきます。昨日の東証は、時価総額の大きい大型株が低調だった反面、小回りの利く小型株の上げが目立ちました。ただ、問題はその業種です。昨日特に株価上昇が目立ったのは、小型株のなかでも、不動産関連の銘柄でした。以下が、その主な内容です。

    ケネディクス       +18・74%
    ランドビジネス      +14・65%
    サンフロンティア不動産  +15・15%

 ちなみに、東証には、不動産市場の活況感を表わす東証RIET指数というのがあるのですが、昨日は、東証RIET指数が昨年来高値を更新しました。少なくとも、株式市場において不動産市場が活況を呈しているのは間違いないです。ただ、そのことと、最近の住宅購入の動向がどうリンクしているのかは定かではありません。

 一方、業種別騰落率では、昨日は鉱業が1位となりました。要するに、資源関連です。以下は、その主なところです。

   国際石油開発帝石    +2・90%
   住石ホールディングス  +3・15%
   三井松島        +7・98%

 これと連動したのか、時価総額の大きい大型株が総じて低調だった中で、三菱商事住友商事、丸紅といったところの株価は上昇しています。

 ちなみに、以前英米でも資源関連の株価が上昇しているとお伝えしましたが、この傾向はその後もまったく変わりありません。主要国のなかでは唯一出遅れていたニューヨーク・ダウは先週絶好調だったのですが、S&P500とあわせて、とにかく先週アメリカ株は連日上昇しました。エクソン・モービルシェブロン、BPといった資源メジャーは、今月に入って特に急激に伸びています。エクソン・モービルに関しては、アップルの株価下落を受けて、時価総額で世界一を取り返したというのが先週大きなニュースになりましたが、これはアップルが下落しただけではなく、エクソン・モービルの株価も急上昇しているためです。ちなみに、アップルの株価は昨年9月以降、ほぼ右肩下がりで下落しています。

 一方、資源関連と並んで好調なのが、JPモルガンやバンク・オブ・アメリカなどのウォール街です。このへんは決算が非常に良かったこともあり、かなり株価が上昇しています。それと目につくのが、キャタピラーなど、中国をはじめ新興国成長の恩恵をダイレクトに受けるところです。アメリカ企業にとって中国市場は極めて重要であるため、中国経済の上昇は今後もアメリカ株の上昇に寄与することと思われます。但し、アメリカというところは、株価の上昇が実体経済と乖離しているという点においては世界一です。なので、アメリカ株の上昇を受けてアメリカ経済も上昇していると見ることはかなり無理があります。アメリカの大企業は、経営者の報酬が凄まじく高額ですので、企業収益がなかなか雇用増に反映されませんから、そこは慎重に見る必要があります。

 それはともかく、中国市場に関して、アメリカ企業は着実に利益を上げているわけですが、一方で日本は、またしても不安を誘う数字が出てきました。昨日トヨタが発表したのですが、それによると、トヨタは、12月における日本国内と中国での生産の減少が、11月から更に拡大したそうです。つまり、尖閣問題を受けて落ち込んだ生産が、11月から12月になって回復するどころか、逆にその落ち込みが加速したわけです。これは大変に憂慮すべきであり、日本政府はこのことを深刻に受け止める必要があります。

 さて、次は、昨日の売買高の上位10銘柄です。

    1みずほFG
    2マツダ
    3アイフル
    4ソニー
    5オリコ
    6ミヨシ
    7野村証券
    8三菱UFJ
    9東芝
   10NEC

 NEC以外は、毎度お馴染みの銘柄なわけですが、昨日この中で注目すべきは、ソニーです。最近非常に物色が盛んなソニーですが、昨日は特によく買われまして、午後に関してソニー東証全銘柄のなかで1番高でした。但し、以前申し上げたように、ソニーは最近本業はもっぱら不振であり、まともに収益を上げているのはソニー銀行なので、ソニーは金融株として物色されている部分もかなりあるわけです。しかし、憂慮すべきはそれだけではありません。今週『週刊ダイヤモンド』が報じたのですが、ソニーは、先日ニューヨークのマンハッタンにある本社ビルの売却を発表したうえで、更に今後も事業や工場の売却をしていくそうなのです。このような合理化は、企業収益を上げるわけですけど、その一方で、事業や工場の売却は、当然ながら更なるリストラにつながります。しかし、より深刻な立場に立たされるのは、下請けの企業です。

 実はいま、大手電機メーカーの下請け中小企業の間で、急速に倒産リスクが高まっているのです。それはもちろん、かつて世界市場を席巻した大手電機メーカーの凋落が原因です。

 先週、『週刊ダイヤモンド』が、「倒産危険度ランキング」という名の特集号を出しました。『週刊ダイヤモンド』が倒産特集を行うのは、リーマンショックがあった2008年以来実に5年ぶりです。その特集は、次のように始まっています。

 「今なぜ倒産特集なのか−−。そんな違和感を持つ読者は少なくないだろう。確かに、景気浮揚を第一に掲げる自民党政権が誕生したことで、一気に過度の円高が是正され、株価は1万円台を回復、にわかに景気回復への期待は高まっている。(中略)だが、事はそう単純ではない。というのも、日本全国に工場を持ち、膨大な雇用を支える製造業、中でも電機産業はその迷走の度合い強め、地方や下請け企業の疲弊と崩壊を招きつつある」。

 更にその後、中小企業の疲弊について、「水面下では不良債権予備軍が地銀だけで30兆円規模で積み上がっている」、あるいは「以前であれば、地元財界に守られていたであろう地方の名門企業が相次ぎ倒産に追い込まれている」などの事例を挙げたうえで、次のように続けています。

 「こうした窮状に、自民党政権国債の大量増発による公共事業の復活、そして製造業や中小企業の支援といった景気刺激策を矢継ぎ早に打ち出してはいる。しかし、公表される政策の多くは小手先の応急策というのが大半で、結局のところは倒産の先送りでしかない(中略)企業の倒産リスクは、活火山のマグマのように静かに、だが確実に高まっており、いつ噴火してもおかしくないのが実情だ」。

 つまり、いまの日本は、かつてないほど倒産リスクが高まっている、だからリーマンショック以来5年ぶりの倒産特集を組んだ、という訳です。大手メディアが一様にアベノミクスで湧く中にあって、この『週刊ダイヤモンド』の姿勢は、注目に値します。この倒産特集では、上場企業全3127社を対象にした倒産ランキングがあるなど、非常に興味深いものなのですが、しかし最も危険度の高いのは、上場していない中小企業、それもとりわけ、大手電機メーカーの下請けです。

 というのも、実際読んでいて、ちょっと寒気がしてくる内容なのです。シャープをはじめ、かつて世界を席巻した日本の電機メーカーが巨額の赤字を計上し、危機に瀕していることは既に周知のこと思いますが、日本経済にとって、真の問題はこれらの企業の背景にあるものです。なにかと言いますと、シャープやパナソニックの下請け中小企業の倒産リスクが、相当に高まっているということです。たとえシャープやパナソニックは立ち直っても、しかしこれらの大企業が経営の合理化を進めれば、それだけ下請けの倒産リスクは増します。大企業が立ち直らなかった場合、下請けの倒産リスクはもっと増します。シャープだけで、下請けの中小企業の数は、1万社以上、これがいま、ドミノ倒しに倒産の危機に瀕しているというのです。パナソニックに至っては、その下請けは3万社! これらがドミノ倒しに倒産したら、大変なことになります。目下、最大の懸案は、当然ながらシャープの下請けです。もしここがドミノ倒しに倒産したら、ちょうどヨーロッパでギリシャ危機がスペインやイタリアに飛び火したように、シャープ下請けの倒産ドミノがパナソニックその他の下請けに飛び火してもおかしくないのです・・・。

 一方、シャープ、パナソニックに比べれば、危機的という報道はあまりなされないソニーですが、ここも十分すぎるほど深刻です。かつて15兆円以上あったソニー時価総額は、いまや1兆3000億円ほどまで減っています。そもそも、シャープ、パナソニックの赤字があまりに巨額過ぎるので地味に映るだけで、ソニーの赤字も大変なものです。しかも、ソニーで唯一まともに収益を上げているのは、前述のようにソニー銀行ですので、この金融部門がなかったらソニーも更に危機的な状況を迎えていた筈です。

 しかし、真の問題は、これら大企業ではなく、下請けの中小企業です。という訳で、アベノミクスなどという虚構をいつまでも持ち上げている場合ではないのです。日本の賃金労働者の9割は、中小企業に勤めているのであり、ここを何とか押し上げていくことは喫緊の課題です。これはなにも、電機メーカーの下請けだけに限りません。とにかく、あらゆる業種に関して、中小企業がいかに立ち直るかは、極めて重要です。そしてもう1つ大切なのは、個人消費を活性化させることです。日本のGDPの6割は個人消費が占めますので、この個人消費がいかに活性化するかは、日本の国内景気の生命線です。ここで最も重要なのは、いかに所得を上げるかです。所得が上がれば、個人消費は伸びます。そして個人消費が伸びれば、中小企業の収益は自然と改善させるのです。大手電機メーカーの下請け中小企業はそれでも苦しいわけですけど、しかしそれ以外の様々な業種に関しては、これが改善することにより、企業そのものも立ち直ります。

 これについて考えるうえで、重要なのは、スタグフレーションはデフレよりも更にタチが悪いということです。たとえばアメリカは、物価は上がる一方で平均給与は下落し続けています。これは明らかにスタグフレーションです。してみれば、日銀の白川総裁は、日本がこのようなスタグフレーションの状態にならないよう、必死になって予防してきたといえます。以前申し上げたように、デフレから脱却する道はただ1つ、所得が上がることです。所得が上がることにより、個人消費が活性化し、自然と消費者物価が上がる、そしてその物価上昇が新たな投資(もちろん民間投資)を呼び・・・、という循環が起きて、ようやくデフレを脱却できるのです。もちろんこのことは、白川総裁も繰り返し指摘しています。では、そのために政府が真っ先に着手すべきことは何か? 最低賃金の引き上げを含めた富の分配により、低所得層の購買力を押し上げること。次いで発送電を分離し電力料金を引き下げ、中小企業のコスト負担を軽減し、人手不足に悩みながらコスト面から人を雇えなかったところが、人を雇えるようにすること。これです。これがとにかく、デフレ脱却の第一歩です。

 ちなみに、日本の最低賃金は、国際的に見て、物凄く低いのです。以下は、OECD諸国における、各国最低賃金の比較をしたものです。

  http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/3342.html

 見れば一目瞭然、日本の最低賃金は、物凄く低いのです。しかも、それでいて、生活保護などの社会保障給付も低いです。昨日、朝日新聞毎日新聞の朝刊1面には、自民党政府が生活保護給付を引き下げるという記事が掲載されました。とんでもないことです。

 デフレを脱却するうえで、何より重要なのは、低所得層の購買力を押し上げることです。低所得層の購買力を押し上げることは、消費の活性化に最も寄与するのです。そのために、何よりもやるべきは最低賃金の引き上げをはじめとする富の分配です。中国の例が1番解りやすいですが、最低賃金の引き上げは、一時的に企業経営が苦しくなったとしても、長い目で見れば不況を脱するうえで、これ以上効果ある施策はないのです。

 但し、ただでさえ苦境に陥っている日本の中小企業の場合、そこに最低賃金の引き上げが加わると、購買力の押し上げによって景気が上向く前に倒産しかねません。なので、最低賃金を引き上げた分は、他のコストを減らしてあげなければなりません。そこで何より即効性のあるものこそ、発送電分離による電力料金の値下げです。

 日本は、OECD諸国のなかで、最低賃金はやたら低いくせに、電力料金はやたら高いのです。これでは、デフレにならない方がどうかしているというものです。だからこそ、この2つの改革は、セットなのです。

 最低賃金を引き上げながら、一方で発送電を分離することは、市民の購買力を押し上げながら、併せて企業のコスト負担を軽減させるものであり、デフレ脱却に向けて大きな力を発揮します。しかも、この2つの施策は、財政出動も、増税も、金融緩和も、一切必要としないのです。そうである以上、やらない手はありません。最低賃金の引き上げと発送電分離は、デフレ脱却への最初の一歩として、絶対に着手すべきことです。