経済的に見ても原発は再稼働すべきではないし、再稼働してはならない 再稼働反対と日中友好はセットである

 昨日1月24日の日経平均株価は、前日の終値からプラス1・28%上昇し、1万620円で取引を終えました。しかし、午後3時の東証の取引終了後も株価の上昇は続き、日本時間で今朝6時の時点におけるシカゴ・マーカンタイル取引所での日経平均先物の値段は、既に1万800円台に乗っています。一方で円相場でも急激に円安が進み、日銀金融政策決定会合の結果を受け87円台目前まで行った円も、再度円安に振れ、今朝の時点で既に90円台に乗せています。

 このような相場の逆転の最大の要因は、何といっても中国です。昨日、朝9時の東証の取引開始から暫くの間は株価も低調であったのですが、その後中国の今年1月のPMI製造業景況感指数が発表された後から、急激に相場展開が変わりました。中国のPMIが、既に昨年12月の時点で、南欧債務危機が起こる以前である2011年5月の水準を取り戻していることは昨日もお伝えしたことですが、今回はそこから更に0・4ポイント上昇して51・9ポイントとなり、2年ぶりの高水準となりました。このことを受けて、円相場においては円安が、また株式市場においては株高が一気に進むことになったのです。

 ちなみに、中国の株価を見るうえでは、上海だけではなく香港も確認しなければならないと以前お伝えしましたが、実はもう1つ、深セン市場も忘れてはなりません。深センは、訒小平が改革開放路線を取る際、ここを経済特区とし、中国の高成長の大きな原動力となった非常に重要な地です。そして、上海同様に、深センにも人民元建てのA株とドル建てのB株があるのですが、深センB株の上昇率は上海B株の上昇よりも更に強烈で、深センB株は今年に入って既に18%も上昇しています。現在世界で最も急ピッチに株価が上昇しているものこそ、この深センB株でありましょう。

 なお、中国はこの後、2月になると1年の間で最も消費が活性化すると言われる春節を迎え、そして翌3月には、いよいよ新指導部が発足します。また最大の輸出先のユーロ圏にしても、ドイツが典型的にそうであるように、様々な指標やデータが改善傾向にあります。なので、ここまでの中国の景気回復はあくまでも序章に過ぎず、これ以降、中国経済の上昇が更に加速することはほぼ間違いない状況です。そしてそれに合わせ、円安・株高も進むでしょう。これについては、既に昨日も指摘した通りです。

 さて、ここからは、昨日の東証の取引の内容を具体的に見ていきます。昨日の売買代金は、1億8209億円となりました。要するに、日銀金融政策決定会合以降も、相変わらず2兆円前後で推移してるわけです。相変わらず、ということで言えば、売買高の上位10銘柄も、昨日は特に目新しいものは見当たらず、これまでと同じ状態です。

 次に、以下は、昨日の業種別騰落率の上昇上位5業種です。

    1証券・商品    +4・58%
    2鉄鋼       +2・55%
    3保険       +2・11%
    4輸送用機器    +2・08%
    5繊維製品     +1・84%
 
 株高の恩恵をストレートに受ける証券・保険、そして中国をはじめとする新興国のインフラ投資や消費活性化の恩恵を受ける鉄鋼・輸送用機器・繊維製品と、ある種当然の業種ばかりが上位を独占しました。

 一方で、昨年末の過度な物色から一転して今年は地味な存在だった電力株ですが、これは昨日大きな動きがありました。各電力会社の株は、軒並み売られたのです。もちろん下落率も1位です。以下は、主な電力会社の下落率です。

    四国電力    −3・87%
    九州電力    −3・32%
    北海道電力   −5・08%
    中国電力    −4・67%
    関西電力    −4・34%
 
 なお、北海道電力の株価下落率は、東証上場およそ1700社のなかで第2位、中国電力は第5位、関西電力は第9位と、特に下落が目立ちました。一方そんななか、最も下落率が低かったのは中部電力で、ここの昨日の下落率は「−0・52%」で済んでいます。

 この中部電とそれ以外の電力会社の違いは、一目瞭然です。昨日の円安は、常識的な目で見れば、誰がどう考えても中国にあることは明らかであり、そしてそうである以上、今後益々円安が進むこともまた明らかです。それは即ち、火力発電の燃料費が高騰することを意味します。しかし、今後たとえ電力料金を値上げするにしても、世論の反発を受けて、いくら経産省といえでも電力料金の大幅な値上げは難しい状態です。そんななか、中部電に関しては、昨年夏にダイヤモンド・オンラインが報じたように、外国相手に商社抜きで交渉を行い、従来よりも大幅に安い値段での天然ガスの輸入に成功しています。昨日の電力株の下落率の違いに、このような背景があるのはまず間違いありません。

 ところで、昨日発表された様々な統計のなかで、最も重要なものといえば、何よりも財務省が発表した日本の2012年の貿易統計です。既に大手新聞各紙も報道しているように、1980年の2兆6129億円を大幅に上回り、6兆9273億円という巨額の赤字を計上しました。そしてこのうち、実に3兆5213億円が中国向けの赤字です。また大手新聞各紙は、この中国向け輸出の大幅な低迷と併せ、天然ガスの輸入が前年比でおよそ25%上昇したことも、このような巨額の赤字につながったと報道しています。

 このことについては、この貿易統計が発表される以前から、経済学者や金融アナリストの間でも盛んに話題になっていました。つまり、原発が停まったことを受けて日本が輸入する天然ガスの量が飛躍的に増え、それが貿易赤字をかつてないほど膨らませることにつながっている、なので安全が確認された原発から速やかに再稼働すべきである、というものです。

 しかし、それはまったくの間違いというものです。彼らはいったい何を言っているのでしょうか? とりわけ金融アナリストに関しては、数字マニアと言っていいほど、何かにつけて数字を出してはこれこれこうすべきであると論じる人々ですが、しかしこの件については、天然ガスの輸入に関して、昨年1年間で具体的にどれだけの金額が増えたのかはっきり言うべきなのに、まったく言わないのです。この数字は、財務省が発表する平成23年の貿易統計と、平成24年の貿易統計を較べれば、誰にも解ります。以下は、過去2年間における日本が輸入した天然ガスの金額です。

     平成23年   4兆7871億円
     平成24年   6兆0014億円

 という訳で、原発の停止を受けていかにも巨額の金額が国内から新たに流出したように言っておきながら、実際のところ天然ガスの輸入で増えた赤字は、1兆2141億円に過ぎないのです。一方で、中国向けの赤字はいくらだったでしょうか? 3兆5213億円です。しかもこのうちの大部分は、尖閣問題により日中関係が悪化した9月以降のものです。つまり、天然ガスの輸入で増えた分の赤字は、日中関係を改善することでまったく問題なくなるわけです。それどころか、日中関係を改善すれば、天然ガスの輸入増に伴う赤字分の数倍に及ぶ金額が、日本に入ってくることになります。そうである以上、この貿易統計を理由に原発の再稼働をすると言うのは、まったくの誤りです。

 一方で、次のようなことを言う論者もいます。昨年末以降、円相場は一貫して円安基調である以上、昨年と同じ量の天然ガスを輸入するにしても、為替レートの違いから今年の方がより赤字幅は大きくなる、だから今年に関しては安全が確認された原発から速やかに再稼働すべきである、というものです。しかし、これも完全に間違いです。というのも、一連の円安の最大の要因は何かと言えば、それは中国経済の上昇にあるからです。円相場に関して、これまで大手メディア・経済学者・金融アナリストたちは、この円安は一様にアベノミクスによるとデタラメを言ってきました。そんななか、先日日銀の白川総裁が毅然とした態度でアベノミクスを否定し、今までよりも更に禁欲的な金融政策を発表しました。にも拘わらず、昨日からまたしても円安になっています。この円安が、日銀への金融緩和期待によるものではないことは明らかです。しかし、それでもまだ原発を再稼働せよと言う紋切型同盟の論者たちは、この円安が中国の景気回復にあることを認めません。

 昨日進んだ円安の理由について、これら紋切型同盟の論者たちは一様に、財務省の中尾財務官の発言、更には内閣府の西村副大臣の発言を上げています。まったくもって驚くべき発想です。既に以前申し上げたように、為替市場において世界で最も強力な影響力を与えるアメリFRBバーナンキ議長でさえ、ドル安誘導効果は4〜5円しかないのです。それも1・2か月かけて4・5年です。にも拘わらず、紋切型同盟の論者たちによると、日本の財務官や内閣府副大臣は、たった1日で2円も相場を動かすことができるというわけです。まったくもって驚くべき発想と言わざるを得ません。

 言うまでもないことですが、政治家や官僚に、円安へ誘導すべく為替を操作することは出来ません。それが出来ないからこそ、自民党は日銀に圧力をかけていたのです。しかし白川総裁は、そのようなアベノミクスを毅然として否定しました。にも拘わらず、昨日もまた円安が進みました、しかも相場が円安へと進む少し前に、中国のPMI製造業景況感指数の発表があり、中国経済が更なる上昇を続けていることが製造業の景況感からも確認されたのです。そうである以上、この一連の円安の最大の理由が、中国経済の上昇にあることは、疑いがないのです。

 そして、円安の理由が中国経済の上昇にある以上、円安による天然ガス輸入価格の上昇をもって原発の再稼働を主張することに、なんら根拠がないのは明らかです。何故なら、円安によって確かに天然ガスの輸入価格は上昇するものの、しかしその円安の原因が中国経済の上昇にある以上、天然ガス輸入コストの増大をはるかに上回る金額を、中国向け輸出によって稼げるからです。

 つまり、尖閣問題によって悪化した中国との関係改善がなされるならば、原発を再稼働しなければならない経済的理由などなくなるのです。明らかなのは、再稼働反対と日中友好はセットであり、それこそが、何よりも日本の貿易収支を改善するのです。

 そしてまた、原発を再稼働しなくても電気が足りるということは、既に証明されています。電気が足りるにも拘わらず原発を再稼働することは、日本人の人命と、日本の国土と、日本近海の水産資源を危険にさらすだけなのです。これらを危険にさらしてまで再稼働をする理由などどこにもないのであり、あらゆる点から考えて、原発は再稼働すべきではありません。

 しかし、それでもなお紋切型同盟の論者たちはこう言うかもしれません。たとえ貿易面では中国向け輸出で稼げるとしても、しかしそれとは別に各家庭や企業向けの電力料金は上がる、これはいったいどうするのか、と。もちろん、答えは決まっています。発送電分離です。発送電を分離し、電力料金に市場メカニズムを導入すれば、電力料金は下がります。円安によって高くなる分のコストは、発送電を分離することで、お釣りが来るほど安くできます。実際中部電力は、この春から電力料金を値下げする方針です。発送電を分離すれば、電力市場にも競争原理が働き、更なる値下げが可能でしょう。

という訳で、原発を再稼働する理由などというものは、ただ原発を再稼働したいと願う者たちの空想のなかにだけあるのです。現実の世界においては、原発を再稼働する理由など、どこにもありません。