11月半ば以降、ここまでの相場について総括する

 昨年11月半ばに衆院が解散して以降、一般的にはアベトレードと呼ばれる相場がずっと続いてきました。しかし、そのなかで最大の注目イベントであった日銀の金融政策決定会合が終了したことで、これまでアベトレードと呼ばれた相場はいったんリセットだという声が市場でも聞かれるようになりました。今回は、11月半ば以降の相場について、幾つかの観点から振り返ってみようと思います。しかしその前に、まずは昨日の取引の模様から見ていきます。

 一昨日、日銀の金融政策が発表されて以降、急激に下落した株価ですが、その流れは昨日も続き、終値ではマイナス2・08%の1万486円となりました。これは今年最初の取引である1月4日の大発会に付けた1万688円を202円下回るもので、もちろん今年の安値です。ただ、言うまでもなく、これは正確には、株価が大幅に下落したというより、元に戻ったというべきです。と言いますのも、これまでの株価の上昇は、ちょっと行き過ぎのものであったからです。株価の上昇というのは、普通は調整を挟みながら上昇していくのですが、しかし11月半ば以降、まったく調整がなく一本調子でここまで株価が上昇するというのはいくらなんでも異常です。なにしろ、先週まで日経平均は、実に1987年以来となる26年ぶりの10週連続プラスだったわけで、このような相場展開がいささか狂気的なものであったことは間違いありません。

 また、それに併せて円相場も急激に動きました。日銀の金融政策が発表される前は90円あったレートも、その後急速に円高に振れ、一時は97円台目前まで行きました。僕は以前から、昨秋以降の円安の最大の要因は、なんといってもヨーロッパの債務危機のピークアウト、及び中国の景気回復への期待であり、安倍発言によるものではないと繰り返し指摘してきました。一方で、いくら中国をはじめ諸外国の景気が回復しているにしても、この短期間でここまでの円安はいくらなんでも行き過ぎであり、11月半ば以降を起点にすれば、およそ9円進んだ円安のうち、6〜7円は中国などの景気回復によるもので、残りの2〜3円は日銀への金融緩和期待などによる行き過ぎたものだろうと論じてきました。そして今回、日銀の金融政策の発表を受けておよそ2円ほど円高に振れたところを見ると、僕の読みはドンピシャリで当たっていたことになります。

 ただ、基本的な軸としては、2011年の夏に深刻化した南欧債務危機を受けて景気が低迷した国々の景気が回復してきたことと、都市化政策を掲げる中国への期待が、昨秋以降の相場の最大の駆動力ですので、長期的なトレンドで見れば、今後も円安基調で進むと見て間違いないと思います。それを裏付けるデータは、ここに来て益々あちこちから出てきているのです。その1つが、「2011年5月以来〜」というものです。昨年12月の中国のPMI製造業景況感指数が、2011年5月の水準まで回復したということは以前お伝えしましたが、今週に入っても、まずドイツでは、ZEW景気予測指数というのが、2011年5月の水準に回復したというニュースが発表されました。このドイツのZEW景気予測指数も、それまでずっと落ち込んでいたところ昨秋から急回復してきたのですが、このほど発表されたデータにより、これも2011年5月、南欧債務危機が深刻化する以前の水準まで回復しました。

 また昨日は、オーストラリアでも、こちらは株価が2011年5月の水準に回復しました。オーストラリアは、主要な輸出先であった中国の低迷を受けて株価も低迷を続けていたのですが、しかし中国経済の急回復を受けて、オーストラリアの株価もまた2011年5月の水準を取り戻したのです。

 ちなみに、その中国ですが、上海総合指数は昨日も小幅ながら上昇し、プラス0・24上昇となりました。特にドル建てのB株の上昇は凄まじく、昨年12月以降だけで、上海B株は実に40%も上げています。ちなみに、中国企業の株価を見る場合、香港に上場している企業もあるので香港市場もチェックする必要があるのですが、香港は昨日こそ株価を下げたものの、しかし一昨日は昨年来高値を更新しており、依然上昇機運を保っています。

 更に、原油も上がっています。月曜はキング牧師の誕生日ということで休場だったニューヨーク市場ですが、3連休明けの昨日、ニューヨークの原油も上昇し、1バレル96ドル台に乗せて火曜の取引を終えました。

 という訳で、世界的には、全体として株高・資源高の流れはまったく変わりありません。なので、円相場も、これまでのような急激なものではないにしろ、しかし今後もジワジワと円安方向で進むことが予想されます。また、それを受けて、円安恩恵の大手輸出企業、そして新興国の社会インフラ投資拡大の恩恵を受ける企業の株価も、全体としては今後も上昇していくでしょう。

 ちなみに、相場展開としては、次のことに注意しておく必要もあります。以前お伝えしたように、とりわけ1月に入ってからは、週の半ばに円高基調になりながら相場が乱高下し、そして金曜になると円安になって株も上がり、週末には更に円安・株高になるという傾向です。これはまた、週の半ばにおいても、日本の取引時間帯は円高基調であり、外国時間帯では円安基調という傾向があります。ヘッジファンドなどはチャートを元にしたテクニカル分析などは特によくやるので、全体の循環としてこのように相場が展開している感はあります。言うまでもなく、これは典型的なマネーゲームです。

 さて、ここからは昨日の取引の内容を具体的に見ていきます。といっても、昨日に関しては、殆ど内容らしいものはありません。というのも、昨日は全33業種すべてが下落したからです。しかもその下落の仕方というのが、これまで値が上がり過ぎていたところほど下げているというものなので、このあたりは特に言うべきことはありません。なお、昨日の売買代金は、1兆7636億円でした。これは、今年のなかでは最も少ない金額なのですが、しかしそれでも依然としてとんでもない規模の額です。

 一方、以下は、昨日の売買高の上位10銘柄です。

   1みずほ
   2ミヨシ
   3ティアック
   4マツダ
   5あおぞら銀行
   6三菱UFJ
   7アツギ
   8三井住友建設
   9野村証券
  10オリコ

 1月半ばまでとは違い、段々と見慣れない名前の企業も上位10銘柄のなかに出てくるようになりましたが、しかし本来株式市場とはこういうものです。とはいえ、依然としてみずほ、三菱UFJ野村証券、オリコ、という金融株に関しては、相変わらず物色が盛んです。特にみずほに関しては、これは今年に入って殆どの日で売買高の上位1位か2位に名を連ねているので、先頃朝日新聞に掲載された元経産省の有力官僚がみずほコーポレート銀行に天下ったという件と、そして山崎元さんや安東靖志さんが指摘した、アベノミクスの要の1つである官民ファンドは主に経産省天下り先をつくるためのものであるという警鐘を鑑みれば、このみずほフィナンシャル・グループの動向は非常に気になるところです。

 ところで、メディアといえば、例の日銀の問題について、あらためて触れないわけにはいきません。それは主に2つあります。まず、ここ最近、特にヨーロッパから、日本における政治の中央銀行への圧力について強く憂慮する声が発せられています。

 まずは21日にドイツ連銀のバイトマン総裁が、次いで翌22日にはECBのアスムセン専務理事が、いずれも自民党による日銀への圧力に対して、相次いで深刻な憂慮や懸念を表明しました。しかし、そもそも、これはヨーロッパのみならずアメリカにしてもそうですが、政治の立場にある政府要人が自国通貨の為替レートについて具体的に言及するなど殆どありえないのです。にも拘わらず、自民党は、安倍総裁・麻生財務相・甘利経済財政相・石破幹事長などが、為替相場について連日具体的な発言を繰り返しました。日銀への圧力以前に、そもそも政治家が為替レートにこれほど言及すること事態が異常なのですが、しかしもっと異常なのは、そのような発言について、何ら批判精神を持たず、政府あるいは与党幹部の発言をそのまま垂れ流すメディアです。このようなメディアの姿勢は大問題です。これでは、日本の大手メディアは、政府や霞ヶ関などの広報機関に過ぎないことになります。

 本来、政治と為替は別であり、また政治と中央銀行の政策も別です。にも拘わらず、政治家の為替についての発言も、そして更に政治による中央銀行への圧力も、何ら批判精神を持たず、検証もせず、ただ垂れ流すというのは、完全に政治の広報機関に過ぎないのであり、権力の監視という本来やるべき役目をまったく行っておりません。物事の検証、権力の監視というやるべきことを行わず、ただ特定の政治家や特定の機関からの情報を垂れ流す、これは検察報道や原発事故の報道で盛んに見られたことですが、同じことが、経済報道についてもなされているわけです。そうである以上、今後の日本経済において、その最大のリスク要因はメディアである、と言えなくもないのです。

 そもそも、日本においては、いまだ白川方明という名前自体が殆ど知られていません。一方で、白川総裁は昨年、米フォーブス誌が選ぶ、世界に影響力のある人物ランキングで、日本人最上位にランクされたのです。かくも国際的な評価の高い中央銀行総裁について、肝心の自国では殆ど名前が知られていない。この責任も、もちろんメディアによる部分は大きいです。

 さて、ここからは昨年11月半ば以降に行われた東証の取引の内容を総括します。まず、以下は、この間における株価騰落率の上昇上位5業種です。

     1証券・商品   +58・26%
     2海運      +57・67%
     3鉄鋼      +44・62%
     4保険      +41・56%
     5輸送用機器   +40・61%

 1・4位は金融であり、2・3・5位は、新興国、とりわけ中国の景気回復や今後の社会インフラ投資の恩恵を受ける業種です。とはいえ、単に11月半ば以降といっても、12月までと、今年1月以降で区切ると、そこには明確な違いもあります。昨年、上昇率では1位こそ証券・商品でしたが、2位は不動産でした。しかしその不動産は、今回上位5位から姿を消しています。その一方で、今年に入ってからは、海運株の上昇が極めて顕著です。

 不動産に関しては、日本がそもそも低成長&人口減少局面であることを考えれば、80%以上も株価が上がった昨年末にかけての動向こそおかしいのです。

 それに対して、海運株は違います。既に何度も申し上げてきたように、海運というのは、貿易における物流が最大の業務であり、したがってその株価は、必然的に世界貿易の展望によって左右されます。海運株というのは、世界貿易の進展に伴い、上がるときは持続的に猛烈に上がるのです。もちろんこのことは、世界貿易が低迷したときの下落もまた激しいことを意味します。なので、昨年夏までは、海運の株価下落率は全業種中1位でした。また、それを受けて、川崎汽船商船三井日本郵船という大手3社を別にすれば、中堅の海運業者のなかには、財務状況がかなり逼迫したところが幾つもありました。しかし、海運というのは、株価が上がるときは、持続的にグングン上昇していくのです。これは、過去の傾向からはっきりしております。また、世界貿易と連動している以上、必然的に、原油など資源価格の上昇とも連動する傾向があります。

 そして現在、資源はいずれも上昇する一方であり、しかもその最大の要因は、中国をはじめとした新興国の社会インフラ投資にあるのです。そしてこの社会インフラ投資というのは、不動産バブルのような一過性のものとは違い、計画的に行われるものであり、長期持続するものです。そのため、海運株は今後も、総体的には、確実に上昇基調で行くものと思われます。また、鉄鋼や輸送用機器も、このような需要の増大と共に、円安も後押しして、株価は以前上昇傾向にあると言えるでしょう。

 しかし、だからといってそれに関する業界全体が恩恵を受けるとは限りません。世界貿易の活発化は、一方で、世界規模での業界の再編を促し、そのことは、日本国内におけるこれら大手企業の下請けに影響を与えます。とりわけ製造業に至ってはそうであり、つまり、これらの業界に関して、大手企業の収益は向上しても、その陰で下請けの倒産や事業内容の転換などが起こることは当然予想されるわけです。なので、日本経済は、様々な業界の見通し、及び為替や資源価格の見通しという点から、マーケットの動向を注視する一方で、各業界の中小下請けの今後に十分注意を払う必要があるでしょう。下請け各社においては、この世界経済の転換を受けて、大幅な収益増になるところもあれば、逆に倒産に追い込まれるところも出てくるのです。また、これを受けて、労働市場も変化する恐れがあります。という訳で、様々な領域において、より緻密な対応が必要になってくるでしょう。