日経平均株価1987年以来26年ぶりに10週連続プラスですが、一方で・・・

 昨日日経平均株価は、先週金曜の終値からマイナス1・52%の1万747円で取引を終えました。ただ、これについても相変わらず注釈が必要です。というのも、ここ最近乱高下が激しい円相場ですが、金曜の取引終了後、夜間に円安が進み、それに合わせシカゴ・マーカンタイル取引所日経平均先物は急上昇し、1万1000円前後で揉み合うところまで行ったのです。ところが、月曜朝9時の東証の取引開始を狙い撃ちするかのように、その時間から急激に円高が進行したのです。それを受けて日経平均も大幅下落し、午後3時の取引終了時の値は、1万747円となりました。

 しかし、その後、夜間取引時間になると再び急激に円安に振れ、それに併せて日経平均先物も上昇し、深夜2時頃の値段は1万800円を超える水準で取引されるという展開です。

 先週あたりから、東証の取引時間中に円高が進んで株価が下落し、夜間の外国時間になると円安に振れて株価が上昇するという傾向がしばしば見られるようになりました。もちろん仕掛けているのはアメリカのヘッジファンドなわけで、マネーゲームの典型です。このように推移する株価には、市民生活にも実体経済にもなんの意味もありません。そうである以上、株に関しては、益々細部の内容を詳細に見る必要が出てきます。

 とりわけ昨日に関してはそうなのです。といいますのも、日経平均自体は大幅下落であったものの、しかし東証1部上場全企業を通して見ると、値上がりした銘柄が877、値下がりした銘柄が690、変わらずが133となっていまして、値下がりしたところより値上がりしたところの方が多いのです。また、昨年来高値を更新した銘柄が197もあります。日経平均そのものは大幅下落なのに、値下がりより値上がりの方が多く、新高値を付けたものが197もある・・・、という実に不可解なことになっています。

 それと較べて大変解りやすいのが中国株で、昨日上海総合指数はプラス0・47%上昇です。上海の場合、東京のような訳の解らない乱高下が少なく、緩やかにジワジワと上昇している印象です。そして以前、上海市場には人民元建てのA株とドル建てのB株の2種類あるとお伝えしましたが、昨日のB株はA株をはるかに上回るプラス3・03%の上昇です。このように、ドル建てのB株が人民元建てのA株の上昇を上回るというのは、昨秋以降の上海における一貫した特徴です。

 さて、ここからは昨日の東証1部の取引を具体的に見ていきます。まず売買代金ですが、これは1兆7949億円です。相変わらず物凄い金額ですが、とはいえ、それでも今年には入っては最も少ない金額です。これについては、主に2つ理由が考えられます。まず1つは、日銀の金融政策の発表を翌日に控えているということで、若干様子見ムードが漂ったということです。メディアはあたかも、日銀は自民党の要求を呑むかのような報道をしていますが、しかし実際に日銀がどのような政策を発表するかは、現時点ではまったく解らないのです。取引に参加している人間は、ヘッジファンドだろうと国内の個人投資家だろうと、日本の大手メディアの報道などは一切信用していませんので、ある程度様子見ムードになるのは当然です。
  
 それともう1つは、アメリカ特有の理由です。昨日アメリカは、キング牧師の誕生日ということで休日でした。市場では、これも若干影響したのではないかと言われています。とはいえ、それでも1兆7949億円というのは、相当にとてつもない金額です。

 ところで、日経平均は大幅に下落した一方で、値上がりした銘柄の方が値下がりした銘柄よりも多かったということですけど、これは、ある程度まではその理由は解っています。実は、昨日の下落分のうち、実に4割ほどが、ファーストリテイリングファナックによるのです。この2社だけで、日経平均を60円ほど下げてます。しかし、以前お伝えしたように、ファナックは昨年末に、上場来高値を付けたほど強烈に値上がりしていたのであり、またファーストリテイリングにしても、アジア市場での好調さから売上の通期見通しを上方修正するなどがあり、ここの株価の上昇も強烈なものがありました。という訳で、昨日の日経平均下落に関しては、あまりにも上がり過ぎたところが下がったという部分は相当あるように思います。一方で、もちろんそれ以外の要素もあります。

 ちなみに、強烈に値上がりしたところといえば、今年に入ってからは何といっても海運ですけど、これは昨日もそれほど値下がりしていません。商船三井に至っては株価が上昇しているほどです。という訳で、海運株に関しては、依然堅調に上昇傾向にあると見て間違いないと思います。

 続いて、業種別騰落率です。これも実は全体で見ると妙なことになっていまして、個別銘柄に関しては値下がりより値上がりの方が多いのに、しかし業種別で見ると、33業種中29業種が値下がりなのです。つまり、先程のファーストリテイリングファナックのように、一部特定の企業の株価が強烈に値を下げて、全体の足を引っ張ったという見方がひとまずできるものの、しかしそれだけではないということです。業種別の上昇上位のランクを見ると、このことがよく解ります。以下が、昨日上昇した4業種のランクです。

    1石油・石炭    +1・72%
    2鉱業       +0・72%
    3空運       +0・07%
    4小売業      +0・03%

 空運と小売業に関しては、この数字ではとても上昇したとは言えないわけで、実質的に昨日上昇したのは、業種別では石油・石炭と鉱業だけ、ということになります。石油・石炭に鉱業とくれば、要するに資源関連企業です。つまり、世界的な資源価格の上昇に併せて昨日の東証でも資源関連が上昇し、一方でそれ以外の業種は下落した、というのが大まかなガイドラインなわけです。これは要するに、国民生活にとっては最悪に近いパターンです。

 実はここ最近、ニューヨークとロンドンでも、エネルギー関連企業の株価が上昇傾向にあるのです。ニューヨーク・ダウもここ最近はそれなりに株価が上昇していますが、しかしよく見るとエネルギー関連企業と、それからウォール街の銀行ですね。JPモルガンやゴールドマン・サックスなど、このへんは決算の内容が非常によく、相当に儲けているようなのです。つまり、「銀行−資源」ペアが非常に活況を呈しつつあるわけです。これは大変に困ります。なお、この資源価格に関しては、また後程論じます。

 一方で、以下は、昨日の売買高の上位10銘柄です。

   1マツダ
   2みずほ
   3ミヨシ
   4井筒屋
   5オリコ
   6ソニー
   7アイフル
   8三菱UFJ
   9新日鉄住金
  10東芝

 金融株とマツダに関してはお決まりの銘柄ですが、それ以外は違います。一言でいうと、建設関連が上位10銘柄から姿を消していることが解ります。ちなみに、ソニー東芝に関しては、先週金曜もこのランクに入っています。この中で、特に注目すべきはソニーです。

 先週金曜からの売買代金を見ると、個別銘柄では、ソニーがダントツで1位なのです。先週金曜以降、ソニー株は実に2000億円以上売買されています。もちろん株価も大幅上昇です。しかし、だからソニーが復活してきているのかというと、そうではないのです。近年ソニーは本業の電機産業がまったく駄目で、収益を上げているのは、ひとえにソニー銀行などの金融業なのです。電機部門はまるで冴えず、毎年大量のリストラを行っています。という訳で、ソニー株の上昇も、金融株の上昇と見るのが正しいと思います。

 さて、ここでいよいよ、今回のレポートのタイトルに上げた話題へと移ります。昨年11月半ば以降、日経平均株価は毎週上昇を続けてきたわけですが、先週の取引が終了した時点で、日経平均は実に10連続でプラスとなりました。これは、1987年以来、実に26年ぶりのことです。この10週連続プラスを受けて、市場関係者の間では喜んでいる輩も多いわけですが、これは明らかに異常です。というのも、アメリカが不動産バブルに沸き、120円といういま以上の円安になったときでさえ、日経平均が10週連続でプラスになることなどなかったのです。1990年代半ば、円は対ドルで70円台になりましたが、しかし21世紀に入りアメリカで不動産バブルが起こり、円は対ドルで120円まで行きました。現在の円相場が90円に行くか行かないかというラインであることを思えば、当時の円安は大変なものです。しかし、それほどの円安になっても、日経平均が10週連続でプラスなどにはならなかったのです。にも拘らず、いま日経平均は10週連続でプラスになっている。

 ちなみに、この1987年以来の10週連続プラスを受けて、市場関係者の間では、次のようなことも言われています。いわく、当時は、1985年のプラザ合意により株式市場は円高不況にあった、しかしそれが1987年から変わった、そしていまもまたここ数年の円高から脱却し、当時と同じように10週連続でプラスになった、なので今後は日本の景気も良くなる・・・、このようなことがまことしやかに言われています。しかし、だから日本経済が良くなるとは、とても言えないのです。

 それは何より、資源価格の高騰です。1987年、このとき原油ははたしていくらだったでしょうか? 1987年の原油価格の年平均は、1バレル19・19ドルです。一方、現在の原油価格は、1バレル95・56ドルです。端数を切り捨てれば、当時は19ドルだったものが、いまは95ドルになっているわけです。つまり、5倍です。この26年の間に、原油の値段は5倍に膨れ上がっているのです。もちろん、天然ガスや、鉄鉱石などの鋼材や、銅など、様々なものの価格も強烈に上昇しています。一方で、日本人の平均給与は5倍になったでしょうか? なっていません。給料はろくに上がらないどころか、デフレのため最近は下がる一方です。それに対して、原油など原材料・燃料価格はこれほどに上昇しているわけです。

 以前から坂本龍一さんは、原発がエネルギー問題であるというのは間違いで、真のエネルギー問題は石油なんだと常々語っていらっしゃいますが、それは経済的にもまったく正しいのです。ちなみに言っておきますと、20世紀も終わりに近づいた1999年の時点における原油価格の年平均は、1バレル19・17ドルです。つまり、1999年の原油価格は、1987年の価格と、殆ど同じわけです。という訳で、より正確に言うと、原油価格は、過去26年で5倍になっているのではなく、過去14年で5倍になっているのです。そしてもちろん、1999年の時点で日本は既にデフレであり、当時からいまに至るまで、日本人の平均給与は下落し続けているのです。

 つまりこの間、原油は5倍になっているのに、給料は上がるどころか逆に下がっているのです。これで生活が良くなるわけがないんです。これを解決するにはどうすればいいのか? 答えは決まっています。エネルギー問題の観点から言えば、太陽光や風力などで発電した電気を使い、そこに電気自動車を蓄電池として使いながら、その電気自動車を日常の足とする、これが経済的にも環境的にも最も利益となるのです。そのうえで、従来の大量生産・大量消費型の産業システムから、低エネルギー・高付加価値型の産業へとシフトしていく必要があるのです。

 ちなみに、この資源価格と給与とデフレの関係に関して、他の主要国はデフレになっていないではないか? だからそれをもってデフレについて論じるのはおかしいという反論があるかもしれませんが、しかしこれがおかしくないのです。他の主要国は確かにデフレになっていませんが、その代わり、スタグフレーションがジワジワと進行しています。スタグフレーションというのは、物価は上がるけど、しかし給料はそれに見合うほどには上がらず(それどころか場合によっては下がり)、そうして物価の上昇が深刻な不況を招くというものです。その典型がアメリカです。アメリカの経済は、明らかにスタグフレーションに陥っています。アメリカは物価は上昇していますけど、給料は上がっていません。それどころか、アメリカの平均給与はここ数年下落しているのです。だからアメリカでは、中間層が急速に没落しつつあるのです。このスタグフレーションというのは、インフレというほどには物価が上がりません。まさに先進国特有の病状です。そして、重要なのは、デフレよりもスタグフレーションの方がより深刻だということです。

 日本の場合、いまはまだデフレで済んいるのです。ところが、今後更に資源価格が上昇し、一方で円安も過度に進むようだと、日本もスタグフレーションになりかねません。だからこそ、日銀は極力抑制的な金融政策を行うとともに、民間経済は、低エネルギー・高付加価値型の産業へと変えていく必要があるのです。