原油価格は今年、年平均では過去最高の高値で推移する見込み

 日経平均株価は昨日、2・86%も上昇し、1万913円で取引を終えました。物凄い上昇なのですが、しかしこれは何ら驚くに値しません。というのも、前日報告したように、一昨日の取引終了後、シカゴ・マーカンタイル取引所の夜間取引において日経平均先物は急上昇し、朝を迎えた時点で既に1万900円前後で推移していたからです。

 つまり、東証の取引が開く朝9時からは、あまり値段は動いていないのであり、昨日大幅上昇したといっても、日経平均自体は、その殆どがシカゴで上昇したものなのです。そして、シカゴ市場での上昇が、円安と連動してのものなので、その点では、昨日の株価上昇も円安が要因だったともいえるわけですが、とはいえ、最大の上昇要因となったものは何かと考えた場合、その要因は円安ではないのです。

 日本企業で円安の恩恵を最大に生かし株価を上昇させる業種といえば、当然ながらその代表格は自動車です。ところが、円安を受けて日経平均が大幅に上昇した割には、昨日自動車は、大して上昇していないのです。以下は、主な自動車大手の昨日の株価上昇率です。

   トヨタ     +2・14%
   ホンダ     +3・15%
   日産      +1・15%

 日経平均自体が3%近くの大幅上昇をしている以上、その要因が円安であるならば、これら自動車大手は本来ならもっと株価は上昇していなければなりません。だが、実際のところは、それほど上昇していないのです。ならば、昨日特に株価の上昇が目立ったのはどの業種だったのでしょうか? 以下は、大手海運3社の昨日の株価上昇率です。
 
   川崎汽船   +13・07%
   商船三井    +8・00%
   郵船      +5・69%

 一目瞭然で、海運の物凄い上昇が解ります。川崎汽船が2ケタの伸びを見せたため、郵船の「+5・69%」が大した伸びではないように感じるほどですが、しかしそれが錯覚であるのは、自動車大手の株価上昇率を比べれば明らかです。ちなみに、以下は、昨日の業種別騰落率の上昇上位5業種です。

   1海運      +8・02%
   2保険      +5・51%
   3鉄鋼      +4・79%
   4電機機器    +3・87%
   5機械      +3・38%

 という訳で、全業種中、海運の伸びは突き抜けているわけです。これがここまで伸びるということは、当然その理由は世界貿易の更なる活発化が見込まれるからに他なりません。そして、海運株をここまで急上昇させることのできるとところといえば、もちろん中国です。ちなみに、昨日はアジア全体がほぼ株価は全面高といった様相でした。以下は、昨日の日経新聞電子版の記事です。なお、記事の見出しには、「アジア株16時 ほぼ全面高、中国の景気回復好感 好決算も支え」という文字が躍りました。
   
 「18日のアジア株式相場はほぼ全面高の展開だった。前日の米国株式相場の上昇が買い安心感につながったうえ、中国政府がきょう午前中に発表した2012年10〜12月期国内総生産(GDP)などの主要経済指標が、景気の回復を示したのも好感された。12年10〜12月期の好決算を発表した銘柄への買いも活発だった。香港、タイ、インドの指数が昨年来高値を、インドネシアやフィリピンは過去最高値を上回る場面があった」。

 「中国の景気回復期待は上海や香港、シンガポールを中心に銀行、不動産、商品関連銘柄などの上昇につながった。上昇率の大きさが目立った台湾では、好決算を発表した半導体受託生産会社(ファウンドリー)最大手のTSMC(台湾積体電路製造)への買いなどが上昇をけん引した。また、インドでは前日に続き、政府がディーゼル価格の引き上げを容認したのを受けた、資源・石油関連株の急騰が目立っている」。

 記事にもあるように、昨日は中国の10〜12月期のGDPが発表されたのですが、中国の四半期ベースの成長率は、2010年末に、リーマンショック後に行った4兆元の景気対策(つまり補助金などの期限)が切れたことの反動と、その後のユーロ圏債務危機による輸出の減速を受けて、過去2年間はずっと前年同月比でマイナスで推移していたのですが、それが昨年10〜12月、ついにプラスに転じたのです。もちろん、これは昨秋以来発表されている様々な経済指標から当然予想できたことですが、しかしこの数字が出たことは、あらためて広く市場に安心感を与えると共に、今後に向けて更なる期待を抱かせるものであったことは間違いありません。香港・タイ・インドが昨年来高値を更新し、インドネシアとフィリピンに至っては、史上最高値を更新しているわけで、相当に強烈です。

 一方で、夜間取引時間中に起きた円安と日本株の上昇は、もちろん中国のGDP速報値が発表される前のことなのですが、しかし円相場に関しては、これまで経済学者や金融アナリストたちがまったく指摘してこなかった、ある相関関係が存在します。
 
 円の対ドルのレートは、一般的にはアメリカ国債の利回りと相関が強いとされています。それは以前、僕も指摘した通りなのですが、実は、アメリカ国債よりも、もっと強力にシンクロしているものがあるのです。それは何かといいますと、答えは、円と人民元のレートです。

 実はここ数年、円と人民元のレートと、円とドルのレートは、その推移が、驚くほどそっくりなのです。これは、数年タームで見たチャートだけではありません。為替相場には、分刻みのチャート(一分足チャート)、週単位のチャート(週足チャート)など、様々なチャートがあるのですが、一分ごとの推移を見ても、週間ベースでの推移を見ても、円と人民元のレートの推移と、円とドルのレートの推移は、驚くほどそっくりなのです。さながら、双子ように瓜二つのチャートになるときも珍しくありません。

 既に申し上げたように、中国は株だけでなく、人民元も急上昇中で、今年に入っても立て続けに史上最高値を更新しています。その円と人民元のレートの推移が、円とドルのレートの推移とそっくりである、これは決して偶然ではありません。円ドル相場は、今週半ばは激しく乱高下したわけですが、この間、円と人民元のペアも、円とドル同様に、激しく乱高下したのです。

 ちなみに、僕はいまだ、経済学者や金融アナリストのなかでこの指摘をした人を1人も知りません。はたして気付いていないのか、それとも大したことではないとして顧みないでいるのか、そのへんは定かではありせんが、しかしこのような相関関係があるのは、厳然とした事実です。はたしてこの関係が今後もずっと続いていくのかどうかは未知数ですけど、しかし現在は、明らかに「円・人民元」と「円・ドル」という2つの通貨ペアは、密接な関係があるのです。

 ところで、世間では、アベノミクスという名のもとに、とかく円相場と株価の推移にばかり目が行きがちですけど、一方で、いま最も注視すべきなのは、原油価格です。ニューヨークの原油は、昨日も小幅ながら着々と上昇し、1バレル95ドルの後半まで来ています。このままでは、春を待たずに1バレル100ドルを突破するのは、まず確実です。そして、今年が例年と違うのは、過去に何度かあったような、価格が高騰した後反動として急激に下落することが、ほぼありえない見通しだということです。にも拘らず、圧倒的多数の経済学者や金融アナリストは、この深刻さをまったく認識していません。ただ、それについては後で触れるとして、まずは歴代の原油価格の推移から見ていきます。

 オイルショック以降、つまり1980年以降、アメリカで不動産バブルが過熱する以前の2003年までの24年間、原油価格の年平均は、1バレル15〜38ドルの間で常に推移してきました。事態が変わったのは、アメリカで不動産バブルが過熱する2004年からです。そこからリーマンショックが起きる2008年までのわずか5年間の間に、原油価格はかつてないほど急激に上昇します。以下は、2004年以降の原油の年平均価格の推移です。

  04   41・44ドル
  05   56・44ドル
  06   66・05ドル
  07   72・28ドル
  08   99・59ドル
  09   61・69ドル
  10   79・40ドル 
  11   95・14ドル
  12   94・14ドル

 見てお解りいただけるように、リーマンショックが起きるまで恐ろしい勢いで上昇した原油価格は、リーマンショックを受けてその後2年間は下落したものの、11年から再び高水準になったことが解ります。さて、かつて原油が1バレル90ドル台で推移するなどありえなかったことが、過去2年間では何故起こったのでしょうか?
 
 11年に関して言うと、これは単純にアラブの春が原因です。チュニジアジャスミン革命は、その後エジプトに飛びし、相次いで長期に渡る独裁政権を打倒した後、更に拡大し、まずリビアでの民衆蜂起につながります。そして野火のように広がる民主化の波が、もし湾岸のバーレーンサウジアラビアにまで飛びししたらいったいどうなるのか・・・、という懸念というか恐怖を呼び起こします。この恐怖こそ、この年の原油価格高騰の最大の原因です。もっとも、このような観測は、その後スペインとイタリアで債務危機が発生し、そうしてユーロ圏全体が景気後退したことを受け、更にそれが中国の減速にも繋がったために、夏以降原油価格は相当に下落しました。

 一方、12年の高騰は何かというと、これはまず1月に起こったイラン問題です。イラン問題が緊迫化し、それを受けてホルムズ海峡封鎖という噂が急速に広まったことを受けて、11年の夏以降安定していた原油価格は再び上昇したのです。そして2月になると、今度はECB(ヨーロッパ中央銀行)が、危険水域にある南欧諸国の国債を安定させるべく、物凄い規模の金融緩和を行います。このECBの大規模極まりない金融緩和から国債価格が安定して一時的にかなり株が上昇し、そしてこの株高を受けてそれに釣られるように原油も更に上昇していったのです。しかし、その後はイラン情勢が安定し、一方でユーロ圏もECBの緩和効果が切れたりするなどして債務危機が再び深刻さを増し、ユーロ圏全体の経済が低迷したため、原油はまたも下落したのです。

 にも拘らず、ここに来てまたしても原油が上がってきたわけです。重要なのは、今回の原油の上昇が、不動産バブルによるものでもなければ、中東情勢の著しい緊迫化によるものでもないということです。今回の原油高騰はひとえに、中国を中心とした新興国の経済が急ピッチで上昇してきたことが、何よりも原因です。しかもそれに加えて、去年のようなユーロ圏の失速も今年はまず起きないだろうというのが確実視されています。

 つまり、現在の原油価格の上昇は、中東情勢緊迫化のような一過性のものではなく、中国をはじめ成長する新興国の持続的な実需に根差したものでありつつ、くわえて大幅に下落するようなリスクが見当たらないのです。とりわけ昨年12月以降の原油は、上海総合指数を構成する2つ(人民元建てのA株とドル建てのB株)のうち、人民元建てのA株との連動性が高いように思われます。それは即ち、目立った下落がなく、長期に渡り持続的に上昇していくだろうということです。

 かつて、原油価格が年平均で1バレル90ドルを超えたのは、過去に08年・11年・12年のたった3回しかありません。しかしその3回はいずれも、急ピッチで上昇した後、急ピッチで下落したのです。だから年平均では90ドルを超えても、100ドルには到達していないのです。一方で、現在原油価格は、既に95ドルの後半まで来ています。これが春前に100ドルを超えて、そしてその後も下落しないようならば、今年の原油の年平均は、史上初めて1バレル100ドルを突破するわけです。しかし、中国の今後の成長期待と、それから例のジム・ロジャーズの見通しを併せるならば、今年の原油価格の年平均は、1バレル110ドルに到達する可能性さえ十分あるのです。

 にも拘わらず、大多数の経済学者や金融アナリストたちは、何故このことに気付かないのか? それは、原油価格年を年平均で見ないからです。彼らは、その時そのときの原油価格しか頭にないのです。だから、現在95ドルといっても、そんなの2008年には一時140ドルを突破したとか、2011年には110ドルまで行ったとか、そこから較べればいまの原油価格は別に大したことはないと判断するのです。しかし、過去にそのような高値を付けたのは、1年のうちでも、ほんの短い時間に過ぎず、その後は反動からかなり下落しているのです。原油に関して真に重要なのは、一時的にいくらまで高騰するかではなく、持続的にどのような値段で推移するかなのです。それを考えるならば、今年の原油価格は、年平均では史上最高値で推移する可能性が極めて濃厚です。

 原油は、様々な商品価格に影響します。電力、ガソリン、灯油、化学製品・・・、その他実に様々なものの値段がこの影響を受けるのです。これは当然ながら、企業にとってはコスト増であり、また家計にとっては消費の抑制を促します。にも拘わらず、自民党は、更なる円安誘導を企んでいるのです。するとどうなるか? デフレから脱却するどころか、その逆に、企業も家計も、これまで以上にやりくりに苦しみ、そうして国内景気はより一層冷え込みことは明らかなのです。

 いま、何よりも注視すべきものは何のか? 疑いなく、原油であり、為替である筈なのです。そして、今後の原油価格がどうなるかの指標として、何よりも大事になってくるのが、中国株の動向であり、人民元の動向であり、また日本では、海運株の動向なのです。そして、株式市場の精密な分析が重要なのも、まさにこれを見定めるために他なりません。このような観点から、総合的にマーケットをウオッチしていき、更にその情報が広く伝わることは極めて重要であるに思います。