アメリカの金融マフィアが東京証券取引所の買収に乗り出したとき、日本は国益を守るといってこれを阻止できるのか?

 昨日の日経平均株価は、前日の終値からプラス0・09%上昇の1万609円で取引を終えました。しかし、昨日に関しては、これは何の意味もない数字です。というのも、猛烈に株価が乱高下しているからです。

 一昨日、日経平均は大幅な下落となりましたが、しかしその後、円が再び円安に振れたことを受け、夜間取引時間に、シカゴ・マーカンタイル取引所日経平均先物が急上昇し、その流れで昨日朝9時の東証の取引開始を迎えました。しかし、そこから株価は非常に乱高下したのです。強烈に上昇したかと思えば、その後今度は強烈に下落するという具合で、夜間取引時間の値動きから続けて見ると、日経平均のチャートはさながら「W」のようなかたちを描きました。そしてその後、昼休みを境に、株価は猛烈に下落し、午前中1万700円近辺にあったものが、一度は1万400円台前半まで下落したのです。しかしその後、為替相場でまたしても動きがあり、午後2時頃からとんでもない勢いで円安が進みました。それを受けて株価も再度急上昇し、午後3時の取引時間終了時には、1万609円の値をつけたのです。

 そしてその後、円安は更に進み、それにあわせて、シカゴ・マーカンタイル取引所日経平均先物はグングン上昇し、日本時間の深夜2時頃には、1万800円を超えます。つまり、たった12時間ほどで、日経平均は400円ほどの大幅な上昇をしたことになるのです(このような現象を、株式用語で急反発と言います)。その後もシカゴ市場で日経平均先物は更に上昇し、朝6時から7時頃になると、だいたい1万900円を挟んでもみ合うという展開です。

 という訳で、はっきり言ってメチャクチャです。株価とは、本来は企業収益、世界経済の先行き見通しなどから判断されて値が動くものですけど、しかしこのように、1日、2日の間でこれほどまで株価が乱高下するというのは、マネーゲーム以外のなにものでもありません。そして、このような株価の乱高下の要因になっているものこそ、為替です。つまり、まず為替相場を操作することで、それに合わせて株式市場でのマネーゲームも展開されるという、一体型のものです。そうであるならば、これら一連の売買を仕掛けているのがCTAであることは、まず間違いないでしょう。もとより、シカゴ市場での日本株の値動きと為替の値動きがほぼ一体となっていることからも明らかです。

 さて、ここからは昨日の取引の内容を具体的に見ていきます。これほど株価が乱高下したので、取引に投入された金額もハンパではありません。昨日の東証1部の売買代金は、実に2兆224億円にのぼりました。SQ算出日を除くと、今年最初の2兆円ということになります。何度も言っていますが、このSQというのは無視して構わないので、実質的には今年最初の2兆円到達ということです。

 ところで、一昨日は太陽光発電関連の株価が異常に上昇したわけですが、昨日は、情報通信分野の上昇が目立ちました。この情報・通信も含め、以下は、昨日の業種別騰落率の上昇上位5業種です。

    1情報・通信   +1・32%
    2金属製品    +1・25%
    3ゴム      +1・05%
    4医薬品     +0・97%
    5輸送用機器   +0・95%

 衆院選以降、情報・通信が上位5位に入ることはこれまで一度もなかったのですが、それが昨日はいきなり上昇率の1位となりました。他は、昨秋以降着実に株価を伸ばしている業種ばかりです。まず医薬品に関してですが、これは今年に入ってからも下落したのは一昨日の1日だけで、それ以外は毎日必ず上昇しています。日本の高齢化に伴う医療費の増加を考えれば、当然というものでしょう。

 そして、それ以外の金属製品・ゴム・輸送用機器ですが、ゴムというのは、当然ながらタイヤを含みます。金属製品・タイヤ・輸送用機器とすれば、これは文句なしでアジアの新興国の社会インフラ投資に対応するものです。これらの業種の株価が、今後持続的に上昇していくだろうということも、至極当然というものです。

 一方で、売買高の上位は、相も変わらずという銘柄がズラリと並んでいます。以下が、昨日の売買高の上位10銘柄です。

   1みずほ
   2シャープ
   3マツダ
   4オリコ
   5三菱UFJ
   6アイフル
   7長谷工
   8野村証券
   9NEC
  10三井住友建設
 
 ご覧の通り、NEC以外は、何ら変わり映えのない銘柄ばかりです。ただ、このNECがこれだけ物色された理由というのも、日経クイックニュースによると、ひとえに昨日野村証券がNECの株価目標を引き上げたことによるということなので、これも野村絡みの物色といっていいでしょう。

 それにしても、以前報告したように、自民党政権誕生以降、野村証券は裏で盛んに暗躍しています。先日もブルーグバーグで安倍政権が米国債を中心とした大規模な外債購入のファンド設立を行うという報道がなされましたが、そこでも野村証券の名前は何度も出てきました。いったい野村証券は裏で何を画策しているのか、大変気になるところです。

 ちなみに、右寄りの論調が多い日本の経済誌、及び経済系ウェブ・マガジンのなかで、最も、というか唯一リベラルな姿勢を取っているのが、『週刊ダイヤモンド』とダイヤモンド・オンラインですけど、その『週刊ダイヤモンド』が昨年9月に、「墜ちた金融 証券・銀行の大罪」というタイトルの特集号を出しているのですが、その殆どは野村証券批判です。30ページに及ぶ特集記事のうち、野村証券と関係のない記事は8ページだけで、とにかく野村証券を徹底批判するために特集を組んだと言わんばかりの内容です。

 この特集を読むと、野村証券というところは、さしずめ日本金融界のゴールドマン・サックス、あるいは日本金融界の東電、とでもいうような印象を受けます。それほどに、野村証券という会社の体質というものは、目に余るものがあります。ちなみに、『週刊ダイヤモンド』は一昨年11月には、「野村争奪戦で幕が開く! 金融大波乱」という野村証券に絞った特集を出しているのですけど、これら一連の記事を読む限り、野村証券が、民主党政権のもとで、確実に弱体化の一途と辿っていたことが窺えます。「野村争奪戦」というのは、つまりどこかが野村証券を買収するのではないかということです。かつて日本金融界のガリバーと言われた野村証券は、弱体化する一方だったのです。そのジリ貧だった野村証券が、自民党政権誕生と共に完全に息を吹き返し、裏で盛んに暗躍しているというのが実情です。なので、ここ最近の野村証券の暗躍は、非常に気になるところです。

 一方で、アメリカの金融マフィアの動きも気になります。昨年末、ヘッジファンドの巣窟であるICEインターコンチネンタル取引所が、NYSEユーロネクストを買収した件については、このレポートでも報告しました。そしてICEによる買収は、ICEのライバルであるシカゴ・マーカンタイル取引所をかなり刺激した筈であり、いずれはこちらも大規模な買収を仕掛けるであろう、その際、東京証券取引所が買収されるという可能性も十分にあるとお伝えしましたが、このICEによるNYSEの買収は、どうやら想像以上の刺激となっている模様です。以下は、日経新聞電子版1月11日付けの記事です。

 「昨年12月20日、世界最大のデリバティブ取引所運営会社シカゴ・マーカンタイル取引所(CME)グループの本拠地シカゴに『氷(ICE)ショック』が走った。アトランタのエネルギー取引所ICE(インターコンチネンタル取引所)がNYSEユーロネクストを買収し、NYSE傘下の欧州第2位デリバティブ取引所、ロンドン国際金融先物取引所(LIFFE)を手中に収める。CMEも狙ったといわれるLIFFEを足がかりに欧州市場を固め、エネルギーから金利へと商品群を広げて清算事業でもCMEと競合する。急速にグローバル化を進めるICEと追撃を受けるCME。次の一手を探った」。

 「『ICEの買収報道を聞いてすぐ、CME株を全部売り払った』――。匿名を条件にこう話すのは元CME幹部の某氏。『ICEのジェフリー・スプレッカー最高経営責任者(CEO)は優れた思考力を持つ起業家。彼が絶対的なボスであるICEの動きは速い。対して今のCMEは取引所内の政治が邪魔をして動きが鈍く経営陣も弱い』。買収発表の日、CME株価は51ドル40セントと前日比2・3%下がり、ICEの株価は130ドル10セントと1・41%上昇した。某氏は今後CMEの株価は38ドルまで下がると予想する。CMEの株主が同様の不安を抱き、経営陣に新たな買収戦略を求めてもおかしくはない」。

 という訳で、今後シカゴ・マーカンタイル取引所も当然動いてくるだろう、ということで、記事では、いったいどこが買収の狙いになるのかということになっていきます。そして、この記事は、次の内容で特集を結んでいます。

 「隠れた焦点はアジア。米シラキュース大学で20年以上デリバティブを教えるジェフ・ハリス教授はICEの次の狙いは最も成長が期待できるアジアの取引所買収だと断言する。『ICEはすでにCMEのエネルギー市場に食い込んだ。今後、CMEとICEはコカ・コーラペプシのような業界2強になり、買収ターゲットはアジアに移る』(ハリス教授)」。

 「日本では年初に総合取引所の日本取引所グループが誕生した。その日本を含め、アジア市場でCMEとICEが覇権を争う日はいずれやってくる。海の向こうの取引所の再編とどう向き合うのか。日本に残された時間はそう長くないのかもしれない」。

 記事中にあるように、東京証券取引所大阪証券取引所は合併し、今年から日本取引所グループが発足したのですが、もちろん大きいのは、大証ではなく、東証の方です。東証が自己防衛あるいは規模拡大のために大証と合併したと見るのが、まず普通です。そして、このような取引所の買収・合併を受けて、東京工業品取引所の社長が次のように言っています。以下は、日経新聞電子版1月5日付けの記事です。

 「東京工業品取引所の江崎格社長は4日、日本取引所グループへの合流について『2013年半ばまでには判断したい。どんなに遅くとも年内には結論を出す』と語った。一方で『(シカゴ・マーカンタイル取引所グループなど)海外の取引所との連携強化も選択肢にある』と述べた」。

 以前申し上げたように、シカゴ・マーカンタイル取引所こそは、どこにも増してヘッジファンドの巣窟であり、CTAの根城です。そして、ここ1日、2日の間、円相場を操りながら日本株を乱高下させて大規模なマネーゲームを行っているのも、この取引所なのです。

 そして、これも以前お伝えしたことですが、一昨年の春以降、世界的なレベルで取引所の買収が多発しているのですが、一方で、ドイツ、カナダ、オーストラリアのように、買収をはね返した例も幾つもあるのです。ドイツでは、裁判所がストップをかけました。またカナダの場合は、トロント証券取引所の株主たちが、外資による買収から国益を守ると連帯し、それにより買収を防いだのです。そしてオーストラリアは、政府が国益を守るためにと、これを阻止しました。

 証券取引所という場所には、莫大な額のカネがあります。東証に関しては、1部だけで、その時価総額は300兆円を超えます。このような多額のカネが動く証券取引所というのは、疑いなく日本社会全体の財産なのです。しかし、G7に関しては、ニューヨークもパリもロンドンも既にヘッジファンドの手に落ちています。一方で、フランクフルトやトロントのように、これを阻止したところもあるのですが、いずれにしても、買収工作自体は仕掛けられているのです。そんななか、東京だけがいつまでも買収工作から無縁でいられるわけがないのです。

 東京証券取引所も、いずれ必ず外資による買収工作が仕掛けられるというのは、当然想定されるべきことです。そのうえで、カナダやオーストラリアのように、国益を守るためにとこれを阻止できるのか、我々は、その方法を真剣に模索しなければなりません。