中国経済をどう読むか? エネルギー問題の観点からpart2 インフラ投資編

 今年3月から本格的にスタートする周近平・李克強体制ですが、中西部の開発と都市化を目的とした大規模なインフラ投資を行うことは、既に既定事実となっています。上海などの沿岸部や首都の北京はかなり開発が進んでいるものの、それに比べると中西部は開発も都市化も大幅に遅れているので、これは当然行われるべき施策です。ここで、まずは中国中西部の現在の状況を確認してみたいと思います。まず、以下は、中西部の主な地域の成長率です(数字の出所はニッセイ基礎研究所)。

   四川   +13%
   湖北   +12%
   重慶   +14%
   貴州   +14%

 見ての通り物凄い成長率です。中国全体のGDP成長率と較べると明らかです。このことは一方で、本格的な発展が行われるのはまさにこれからであるということを意味するものでもあります。続いて、以下は、1人当たり年間総生産です。こちらは、上海・北京の2大都市との比較で見てみます(同じく数字の出所はニッセイ基礎研究所)。

   四川    4000ドル
   湖北    5000ドル
   重慶    5000ドル
   貴州    2000ドル

   上海   12000ドル
   北京   12000ドル

 これも見てお解りの通り、中西部の1人当たり総生産は、上海や北京と較べると、各段の違いがあります。ちなみに、湖北・重慶は、だいたいタイとほぼ同レベル、貴州は、フィリピンとほぼ同レベルです。この圧倒的な地域間格差は、もちろん何とかしなければならないので、新指導部は、中西部の開発と都市化に乗り出してきます。
   
 ただ、実は上海や北京にしても、この1人あたり総生産は、実はブラジルとほぼ同レベルなのです。つまり、なんだかんだ言いながら、上海や北京も、いまだ高成長の途上にあるのです。実際、インフラ投資の案件は、中西部の開発と都市化だけではなく、他にもあります。その代表格が、鉄道網です。

 中国の高速鉄道の建設・開通は、これからが本番です。それはまた、地下鉄にしても同様です。上海にしても、まだまだ整備すべき地下鉄の路線というのは、たくさんあるのです。なにしろ上海だけで人口は2400万人ほどいますから、これは台湾全体とほぼ同レベル、あるいは別の言い方をすると、ベルギーとスウェーデンノルウェーの全人口を足すと、現在の上海の人口とほぼ同数です。

 ちなみに、実は鉄道事業も、2011年の夏から、急速に落ち込んだのです。これはたまたまユーロ圏の債務危機が深刻化した時期と一致するのですが、しかし両者はまったく関係ありません。鉄道事業が落ち込んだ理由は、何よりも2011年7月に起こった高速鉄道脱線事故です。中国当局が証拠隠滅のため車両を地下に埋めたとか、そういうことでも話題になった例の事故です。あの事故で、高速鉄道などは一時凍結になったのです。ただ、これには別の側面もありまして、『週刊ダイヤモンド』1月21日号によると、この事件を受けて「人民解放軍と結び付きが強く聖域だった鉄道部にメスが入った」とあります。中国の鉄道部(日本的に言うなら鉄道省)というのは、どうやら軍との関係が密接らしく、そして当時共産党指導部と軍は、裏で緊張関係にありましたので、軍の勢力を削ぐために、これを機会に鉄道部の予算を減らしたという側面も窺えます。しかし、新たな指導部の発足も決まり、軍が新指導部の人事その他(?)に影響力を行使することもないので、鉄道事業も元に戻るということです(ただ、言うまでもなく、色々報道されてはいるものの、しかしこの裏事情の真相は、外からはまったく解りません。ただ、鉄道事業の予算が戻るのは間違いないことです)。

 ともかく、こういう次第でありますので、今後中国は、あの広大な中西部の開発と都市化から、各種鉄道網など、その他諸々すべてを合わせると、物凄い規模のインフラ投資の案件に溢れています。これらの事業を行うことは、当然中西部の人々の所得を大幅に押し上げることはもちろん、様々な経済活動も活発になるので、トラックなどの運搬車から乗用車なども格段に増えます。中国の人々が豊かになること自体は大変喜ばしいのですが、しかし一方で、これらが着々と進むことは、当然ながら原油価格の高騰につながります。

 また、かなり大規模なインフラ事業が山積しているので、鉄鉱石をはじめとした鋼材などの価格も同様に高騰します。中国の鉄鉱石の輸入量は、21世紀に入った当初は、年間9000億トンに過ぎなかったものの、それがリーマンショックの起きる2008年には、実に4億トンを超える量にまで急拡大しました。ユーロ圏の債務危機が深刻化する2011年夏の少し前の時点で価格を整理してみますと、鉄鉱石は、5年間でおよそ3・5倍になったのです。その後ユーロ圏の失速から中国の輸出鈍化もあって価格は下落しましたが、しかしここに来ての中国経済の急回復を受けて、既に原油価格も上がってきていることですし、鉄鉱石の価格も、今後は以前のように猛烈なスピードで上昇していくことが予想されます。

 これは、なにも中国だけが要因ではなく、ASEAN諸国も見逃してはなりません。2015年のASEAN経済共同体の発足に向けて、ASEAN諸国も、国家を縦断・横断する様々な開発案件が目白押しです。それは、高速道路から、鉄道、港湾、ガス・パイプランなど、実に多岐に渡ります。無論、これは2015年では到底終わりません。むしろ2015年から本格化すると見るべきです。そして、この中国とASEANだけで20億人もの人口がいるのです。そこに更にインドまで加わると、30億人を超えるわけで、そうである以上、これはとんでもない規模で今後インフラ投資が行われることを意味します。

 日本をはじめG7諸国が、20世紀において大量生産・大量消費の経済モデルを行い、そのモデルによる成長が広く市民にも恩恵を与えた大きな要因の1つに、資源価格の安さがあります。当時は、原材料・燃料価格が非常に安く手に入ったのです。また、だから通貨安(日本で言うなら円安)である方が、国民経済にとっても良かったのです。しかし、もうそんな時代はとっくの昔に終わりました。今後、20世紀のような価格で資源が手に入ることは、絶対にありません。そうである以上、これからの産業のあり方は、低エネルギー・高付加価値の製品を生み出すようなものへと、脱皮していく必要があります。そしてこのことは、デフレ脱却のための要の1つでもあります。

 アメリカで金融危機が起こる以前、円は対ドルで120〜110円という円安であり、その円安にのって、第一次安倍政権の07年には戦後最高の輸出を記録したにも関わらず、何故デフレを脱却できなかったのか、その理由の1つが、原材料・燃料価格の高騰です。当時は、欧米の不動産バブルに乗って原油価格が急騰し、08年の福田政権時代には1バレル140ドルを超えたほどです。

 第一次安倍〜麻生政権下での自民党の2度の国政選挙大敗の真の原因は、資源価格がこれほどまで上昇する一方であったにも拘わらず、しかし旧来型の経団連依存の産業構造にべったりで、そうして大量生産・大量消費型の産業構造を変えるための策を施さないどころか、むしろ経団連への依存を強化し、資源高に対応できる低エネルギー・高付加価値の商品製造という産業的な脱皮に向けて何もやらなかったことにあるのです。だから当時の日本は、円安による輸出増の恩恵を受けることなく、逆に原材料・燃料価格の高騰から、企業物価と消費者物価の乖離が著しくなり、不況がより深刻化したのです。民主党政権時代は、アメリカの停滞の始まり、そしてユーロ圏の失速などが重なり、一旦資源価格は安定しましたが、今後、この問題は再び浮上するどころか、資源価格の高騰は、むしろこれからが本番です。何故なら、今後起きる価格上昇は、いつか破裂する不動産バブルではなく、長期的なヴィジョンで行われるインフラ投資によるものであるからです。

 そうである以上、低エネルギー・高付加価値の創造という産業への脱皮を、少しづつでも着実に行っていくことは急務です。そして、このような産業への脱皮をはかるうえで、最大の推進役となるが、女性の持つ発想を生かすことであるのは明らかであり、だからこそ政治は、女性がもっと社会進出できるよう環境を整備する必要があります。一方で、どう考えてもアジア諸国は発展するのですから、とりわけ日中友好は何よりも大切にしつつ、アジア諸国向けの輸出で稼いだ外貨が市民の生活の押し上げにつながるよう、税制の抜本的な改革も不可欠です。