東南アジア経済は絶好調ムード! 及び中国景気回復の効果について

 昨日、自民党が緊急経済対策として20兆円規模のものを用意すると発表がありましたが、しかしその具体的な内容はまだ何も決まっていないので、株式市場では特にこれに関する反応はありませんでした。

 さて、その東証の昨日の取引ですが、これは一昨日に引き続き2日連続の下落となり、日経平均終値は前日からマイナス0・86%の1万508円で取引を終えました。しかし、昨日は中国・韓国・オーストラリア・ブラジルが、いずれも株価下落しています。これは要するに、昨秋以来どこも急ピッチで株価が上昇してきたため、調整的な売りが世界各国で起こったものと思われます。つまり、この下落は単なる一服であり、依然として今後は株価上昇の気配が漂って居るということです。

 と言いますのも、たとえば一昨日、東証では、昨年来高値を更新した銘柄が実に290もあったのです。そして昨日はそれよりはずっと落ちたものの、それでも130の銘柄が高値を更新しました。昨年来高値、あるいは年初来高値を更新する銘柄が1日に100以上も出るというのは、そうそうあるものではないのです。このことは、売買が依然活況を呈していることを如実に物語るものです。

 実際、売買代金においても、昨日も1兆8725億円と、2日連続で2兆円に迫る驚異的な金額です。2日間の合計金額が3兆7000億円を超えるというのは、明らかにバブルです。

 で、その具体的な内容ですが、売買代金の上位は、またしても1位:オリコ、2位:アイフル、3位:三菱UFJ、4位:野村証券、そして6位:みずほと、相も変わらず金融株への物色が盛んです。ただ、株価の上下に関しては、上がったところ、下げたところ、それぞれまちまちです。

 下落に関しては、昨日は不動産セクターがかなり値を下げました。不動産の下落率は、全業種中で1位です。以下は、主な不動産株の下落率です。

   住友不動産    −5・23%
   三菱地所     −4・47%
   三井不動産    −3・68%

 ただ、以前にも申し上げたように、昨年来、不動産の上昇は異常極まるもので、不動産全体の上昇率は実に+80・13%ですから、これはいくらなんでも株価は上がり過ぎなので、調整的な売りがある程度入るのは当然と思われます。

 ところで、ここで、昨年の11月半ば以降の株価の上昇について、整理してみたいと思います。この間の株価の上昇は、主に次の3つのタイプに分けられると考えられます。

  1アベノミクスによる内需系癒着産業(電力・金融・不動産・建設・ゼネコンなど)
 
  2世界経済の変化による産業
    a円安恩恵企業(自動車、電子機器メーカーなど)
    b新興国のインフラ投資・資源需要、及び消費の活性化による恩恵産業(海運・機械・商社・鉄鋼・繊維など)
  
  3その他

 という具合で大別できると思うし、実際そうした方が、今後についての把握もしやすいと思います。

 ちなみに、昨日は、自動車・電子機器メーカーも下落しました。これは何故かと言いますと、一昨日、88円台から87円台後半まで戻った為替レートが、昨日は更に87円台前半まで戻ったからです。いくら中国をはじめ新興国が勢いづき、世界同時株高が進行しているとはいえ、9月末に78〜77円台だったレートがたった数ヶ月で88円台まで行くというのは、いくらなんでも行き過ぎです。なので、この自動車・電子機器メーカーの下落も先程の不動産の下落と土曜に調整的なものですが、とはいえ、こちらの場合は、行き過ぎた円安が調整されたことを受けてのものと解釈されます。

 ところで、日本・中国・韓国などは昨日は小幅ながらも一様に下落した株価ですが、一方で東南アジア諸国は違います。東南アジアに関しては、ベトナム・フィリピン・タイ・インドネシア、といずれも株価は続伸しています。特にフィリピンに関しては、昨年来高値どころか、史上最高値を更新です。まさに絶好調といった感じです。

 この東南アジア市場に関して、CSのアジア株専門番組である「ASIAエキスプレス」で昨日、注目すべき情報が幾つもありました。それについて報告します。

 まずフィリピンですが、昨年1年間のフィリピン株は、実に33%も上昇したそうです。これは非常に驚異的な数字です。そしてGDP成長率ですが、まだ第4四半期(10−12月)のGDP数値は出ていないもの、しかし第3四半期(7−9)の成長率は実に7・1%を記録し、これはアジア地域全体では中国に次ぐ高成長です。しかもフィリピンは、つい先頃人口が1億人を超え、更に上昇傾向にあるため、市場の拡大とも相俟って、より一層のビジネスチャンスが見込まれます。

 一方で、東南アジア最大の2億4千万人の人口を誇るインドネシアですが、ここはいち早く2012年のGDP成長率が発表され、6・3%の成長という数字が出てきました。2億4千万人の規模で6・3%ですから、このインドネシアもまた、将来的に極めて有望という訳です。

 とはいえ、アジアで最大の注目といえば、なんといっても中国です。昨日、番組では、大和証券キャピタルマーケット香港リミテッドの田中道生さんによる電話リポートがありまして、それによると、「昨年第4四半期(10−12)から、中国の景気回復はマーケットの共通認識となっています」ということです。香港では、昨年12月の消費は前年同月比で9%を超える大幅な伸びだったとのことで、そしてこれには、中国本土からの観光客による消費が数字をかなり押し上げているそうです。

 ただ、このような中国人観光客による消費の活性化というのは、なにも香港に限ったことではなく、広く東南アジアにまで共通していることで、これら各国では、いずれも中国人観光客が消費押し上げの大きな原動力になっているという点では一致しており、中国の景気回復は、実に多くの国に波及効果をもたらしています。

 そう考えるならば、尖閣問題によって、中国人観光客がぱったりと止まってしまった日本は、まさにこのような中国経済回復効果に関して、唯一蚊帳の外にいると言わざるを得ません。

 ちなみに、中国経済回復の恩恵を受けているのは、なにもアジア諸国だけではありません。実はアメリカもそうです。

 日本では殆ど知られていませんが、尖閣問題によって日本車が中国でシェアを大幅に落とした分をいったいどこが持って行ったかというと、尖閣問題以降中国で最も新車販売が増えたのは、韓国車でもドイツ車でもなく、アメリカ車です。このことは、中国自動車工業協会が発表するデータから、はっきりと窺えます。

 またアメリカは、観光でも中国に猛烈なアピールを行っています。この冬、アメリカは中国人観光客をアメリカに呼び寄せるべく、大キャンペーンを展開中です。これについては、日本在住の中国人ジャーナリストの莫邦富さんがダイヤモンド・オンラインで連載しているコラムの12月27日付けの記事に掲載されました。莫さんよると、アメリカは中国人観光客を誘致すべく、「あの手この手でアピールしている」というのです。以下は、コラムからの引用です。

 「アメリカの中国語紙『世界日報』によれば、今年、元旦や春節アメリカで過ごす中国人観光客向けツアーの内容は、一段とアメリカ色の強いものになっている、という。これまでのようにディズニーランドでの年越しといったことではもう満足できない観光客も少なくなく、旅行業者は航空母艦での年越しディナーや、クルージング、NBA(バスケットボール)観戦、パサデナでのローズパレードなどといった行程を増やして、観光客を引き付けようと考えている」。

 「今年の9月に、旧ソ連製の未完成の空母『ワリヤーグ』を購入して、国産の推進システムなどを取り付けるなどして改修した中国初の空母『遼寧号』が海軍に正式に就役し、艦載機の離発着テストも成功したばかりだ。それで否応なく中国国内では空前の空母ブームが巻き起こった」。

 「空母での年越しディナーといったアイデアは、明らかに中国国民の間にある空母ブームを狙ったものだと私は思う」。

 「その作戦は見事に成功したようだ。アメリカの旅行業者の関係者によれば、今年は中国からの300名の観光客が春節の大みそかにサンディエゴ空母博物館でアメリカ式のディナーを楽しみ、春節にはNBA観戦をするという。ツアー料金も航空代金を含むものと含まないものの2種類を用意している」。

 「同記事によれば、アメリカを訪れる中国人観光客のニーズはどんどんユニークなものとなっており、とりわけ春節期間は、アメリカの記念日やセレモニー、スポーツ観戦などさまざまなイベントへの参加を希望している、という。こうした観光客のニーズを満たすために、旅行社では1枚600元〜700元(1元は約13円)もするNBAのチケットを代理購入することもある。また、グラミーやオスカーの受賞式への参加に興味があり、ボックス席の予約を依頼する観光客もいるそうだ」。

 「以前はそれほど注目されていなかったパサデナローズパレードも最近、結構人気があり、今年はパレードが見える一泊1000元もするホテルの予約や、安くて100元、高いものだと500元以上のスタンド席チケットの購入を求め、元旦に世界中の観衆とともにパレードを見ることに意義を感じる観光客も増えている、という」。

 という訳です。それにしても、アメリカは石原慎太郎氏をヘリテージ財団に呼んで尖閣問題を煽り、そうして日中の緊張を高めておきながら、自分たちは軍産複合体の産物である空母を使って中国相手にカネ儲けをするとは・・・、と思うと愕然とするのですが、それはともかく、香港や東南アジアのみならず、アメリカの自動車業界や観光業界も、中国の景気回復を完全に熟知していることは、まず間違いないと見ていいでしょう。

 ちなみに、これに関しては、中国経済とは最も密接な繋がりのあるユーロ圏も、この中国経済の回復は当然承知していると見るべきでしょうし、ましてや、中国に原材料など様々なものを輸出しているオーストラリアやブラジルなどは、もちろん知っているに決まっています。

 そうであるならば、先程紹介した香港の田中さんの電話リポートにあった「中国の景気回復はマーケットの共通認識となっています」というのは、実は世界中の共通認識である可能性が極めて濃厚であり、そんななか、ただ日本だけが、中国経済は駄目だとか危ないなどと勝手に思い込んでいるということは、十分にあり得るわけです。

 そうであるならば、早急に中国経済に対するポジティヴ・キャンペーンを行い、いま政治が行うべき最大の経済対策は、日中関係の改善であるという世論を、なんとしても巻き起こさなくてはなりません。