ジム・ロジャーズが語る、非常に鋭い世界経済の今後

 凡百のエコノミストが、日本とアメリカの景気については楽観的な見方をしながら、中国に対しては危ないというなかで、世界的投資家のジム・ロジャーズは、それとはまったく正反対の見方をしています。ここにポストするのは、昨年末、2度に渡ってダイヤモンド社のザイ・オンラインに掲載された彼のインタビューから、特に注目に値する発言を抜粋したものです。彼によれば、アメリカと日本の今後には殆ど展望を見いだせないが、しかし中国は成長するというものです。更に、原油などの価格も上昇するとも言っています。是非多くの方に読んでいただきたく思います。
 
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 過去から学ぶと、アメリカは大統領選挙が行われる年は必ずと言っていいほど財政支出が最大限行なわれるから、そのしわ寄せは選挙の翌年や翌々年にやってくるのです。

 景気サイクルで見る限り、来年、再来年にはアメリカの景気はもっと悪化するでしょうし、景気が悪化すれば、景気刺激策のために更にドル札は刷られ、債務は膨らみ続けるでしょう。政府が発表する「失業率」の数字も簡単に信じてはいけない。

 これから、日本もアメリカ同様に景気は悪化するでしょう。

 更なる金融緩和に向かおうとしている今、投資資金の流入先は紙幣から物質、原油、コメ、金や銀などのコモディティ(商品)になります。

 もともと需要増供給減の為に需給が崩れて物価が上昇してきているのに、金融緩和で更なる物価の上昇に向かうでしょう。

 衰退していくアメリカでは無くて、台頭してくる中国のことをもっと学び、上手に商売や投資をするべきでしょう。

 実際のアメリカと日本の経済は最悪の状態で本来なら投資する対象ではないです。

 アメリカの債務は歴史上最悪で、とてもじゃないけど投資の対象にならない。アメリカ歴史のなかで最悪なのではなく、世界最悪の債務国なのです。

 日本は対外債務が少ないにしろ、国民に対する債務が非常に大きいという意味では安全資産だとは言えません。繰り返して言いますが、私は米ドルと日本円を保有しているが安全だからじゃない。皆の安全だという思い込みが解けるころには、私は既にこれらの通貨を保有していないでしょう。

 次に世界経済を握るのは、アメリカや日本ではなく、中国でしょう。もちろん、中国は反日運動を起こして中国国内の日本の工場を破壊したりしていますが、それは過去数百年起こってきたように一部の政治家が煽って、民衆は煽動されているだけです。そもそも中国人は日本の文化が好きですし、歌だって、ファッションだって漫画だって、日本のことはなんでもよく知っていますよ。小さな島々のことで戦わずに、中国とは良好な関係をキープするべきでしょう。

 日本人の皆さんも、今、アメリカから学ぶべきではありません。中国から学ぶべき時がやってきたのです。

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 なお、インタビュー全文をお読みになりたい方は、こちらからアクセスしてください。
 http://diamond.jp/articles/-/27927
 http://diamond.jp/articles/-/28214

 ところで、ジム・ロジャーズが語った、アメリカの雇用に関して、失業率の数字を信じてはいけない、ということについて、注釈したいと思います。

 これはどういうことかと言いますと、失業率というのは、職を求める人を分母とし、そこから計算がなされるのですが、しかし現在アメリカでは、あまりに長い失業から、職を得ることをあきらめる人が続出しているのです。このような、失業中だけど職探しを放棄した人というのは、失業率を算出する際にカウントされないのです。このことは、アメリカ在住のジャーナリストなどは既にかなり指摘しているのですが、しかし日本のメディアではなかなか取り上げられません。ジム・ロジャーズが失業率を信用するな、というのも、このことです。

 アメリカの雇用の本当の実態については、月間ベースで発表される非農業部門の新規雇用者数と、週間ベースで発表される新規失業保険申請件数、この2つで判断するべきなのです。つまり、実数です。パーセンテージで表されるデータではなく、あくまでも絶対数を通して見るべきなのです。それ以外に、雇用環境の正確な状態を把握する術はありません。

 ちなみに、アメリカの雇用が本当に回復するためには、この非農業部門の新規雇用者数が、20万人を超える数字を出し、しかもそれが毎月続かなければならないとされています。

 そして、去年のアメリカにおいて、このように毎月20万人以上のペースで非農業部門の新規雇用者が増えるなどということは、まったく起こっていないのです。毎月20万、これが雇用回復の最低ラインであるならば、年次ベースで言うと、最低でも240万人必要になります。では、実際にどうだったのでしょうか? 以下は、日経新聞電子版1月5日の記事です。

 「米雇用の回復ペースが鈍っている。2012年の非農業部門の雇用者数の増加数は、183万5000人と前年の184万人よりやや少ないペースにとどまった。08年の金融危機後に失った雇用の半分強が回復したにすぎず、抜本策が先送りされた財政問題が雇用の先行きに影を落とすとの声も多い」。

 という訳で、最低ラインの240万人にまったく届かないどころか、若干ながら前の年を下回っているのです。にも拘わらず、日本の大手メディアでは、アメリカの雇用は回復していると報道しているのです。こんなバカな話はありません。

 ジム・ロジャーズは、このことを警告しているわけです。そして、以前お伝えしたことですが、アメリカのFRBは、この雇用を回復させるためという名目で、昨年12月にQE3・5(量的金融緩和の第3・5弾)とも呼ばれる、悪名高い大規模な金融緩和を開始したわけです。しかし実際のところ、このように過剰供給されたマネーは、雇用創出には使われず、投機筋のもとへ行くわけです。ここから、ジム・ロジャーズの言う、更なる金融緩和が原油などの価格を高騰させる、というところにつながるわけです。

 そうやって投機筋が、ガソリン価格や穀物価格などを実需以上に吊り上げることは、消費者にとっては負担以外のなにものでもないので、当然ながら、そのぶん日用品以外への支出を抑制させ、ひいては景気を悪くし、そしてそのことがより一層雇用環境を悪くする、という悪循環に嵌りこむことになるわけです。

 だから、ジム・ロジャーズはアメリカ経済の今後について、悲観的な見方をしているわけです。

 ちなみに、経済統計によると、アメリカでは小売業の売上高は堅調なので、だからアメリカの消費は底固いとも言われているのですが、しかしこの数字にもトリックがあります。確かに小売業は全体としては堅調なのですが、しかしよくよく詳細に見てみると、高級アパートなど富裕層向けの小売は上昇しているけど、中間層・低所得層向けのスーパーなどは下落している例が多いのです。

 つまり、マクロ的にはアメリカの消費は堅調なのだけれど、しかし格差の拡大は着々と進んでいるということです。