アベノミクスの要の1つ「官民基金(ファンド)」は、経産省の天下り先をつくるためのもの

 景気対策の名のもとに打ち出さるアベノミクスのなかに、「官民基金(ファンド)」の創設というものがあります。これについて、楽天証券の客員研究員で経済評論家の山崎元氏が、「官民基金の真の目的は、経産省天下り先づくり」と看破し、自民党の政策を強く批判しています。

 以下は、ダイヤモンド・オンラインで連載している山崎氏のコラムから、要点を抜粋したものです。

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 安倍政権の具体的な政策構想の中で「官民基金」という言葉が最初に出てきたのは、選挙期間に入る前から語られていた、円高対策としての官民共同出資の「外債ファンド」構想だったろうか。

 その後にも、製造業の「ものづくり」であるとか、科学技術であるとか、様々な対象について官民基金の構想が打ち出されており、『日本経済新聞』の1月8日朝刊トップには、「官民基金 成長戦略の柱」との見出しが打たれるに至っている。

 しかし、そもそも外債投資が儲かる環境ができるなら、民間の資金は放っておいても外債に流れるだろう。「官」が絡む意義はどこにあるのか。また意義があるとすれば、それは特定の民間主体に対する利益供与にならないのか。

 そもそも、「ファンド」には誰が出資できるのか? また、利益はどう分配されるのか? 損失が出た場合はどうなるのか? リスクの負担は、いつどのように決まるのか? ファンドを運用するのは誰で、その費用負担はいかほどか? 

 ――などなど、具体的なファンド像を考えると、多くの疑問が湧くと共に、率直に言って「怪しい権益」の臭いがする。

 政府は、官民基金を「民間企業の投融資の呼び水」とするために創設するつもりのようだ。

 この場合、「政府」という曖昧な主語の中身は、「半分は政治家で、半分は官僚集団だ」というくらいに考えておくといいのだろう。彼らは何を考えているのだろうか。

 日経の記事には「政府系金融機関普通株優先株や返済順位の低い劣後ローンなどリスクが高めの資金を供給することで、民間金融機関による出資・融資の呼び水とし、民需や雇用への波及効果を高める狙いがある」(1月8日朝刊)とある。

 これは、民間金融機関に代わって政府がリスクを負担するということなのだろう。貸し倒れのリスクが減る、ないしなくなるのなら、金融機関は融資を増やすだろうから、理屈上この措置には、マネーサプライを増やす効果があり、デフレ対策にもなる。一面の筋は通っていると言えようか。

 しかし、これは金融機関側に大規模なモラル・ハザードが発生しかねない、「リスク(負担)の形を取った利益供与」であり、仕組みとしては、「危険」である以上に「汚い」(意図的な不正が働きやすい)種類のものではないか。

 悪知恵の働く金融機関なら、新規の儲け話に乗るだけでなく、不良な融資債権のリスクを「官民基金」に移転する方法も考えるだろう(方法を考えることは、若手金融マン読者には“いい練習問題”になるのではないか)。

 まさか、金融機関に儲けさせることが基金設立の目的ではあるまい。しかし、基金が金融機関にとって「濡れ手に泡」的な儲けの場になる可能性は否定できない。

 この辺まで考えると、「官民基金」の正体が見えてくる。

基金によっては、主に関係する官庁が経産省だけではないだろうが、本ケースでメリットを受ける典型的な官庁という意味で名前を挙げさせてもらうなら、「官民基金の真の目的は、経産省天下り先づくりだ!」と言ってみたい。

 そう考えると、全てがスッキリわかるような気がするが、いかがだろうか。

 「天下りだ」と批判するだけでは、天下りはなくならない。これは、第一次安倍政権でもそうだったし、先般までの民主党政権でもそうだった。経験則的に見て、「官民基金」が設立される公算は大きい。

 ならば国民としては、次善の策として、官民基金が「ひどく汚い」ものにならずに済むように、チェックの勘所を押さえておきたい。

 そもそも損益の負担が曖昧にされていて、「後出しじゃんけん」的に決まるような可能性はないか。明白な利益が大きいほど、あるいは、裁量的な損益配分の操作の余地が大きいほど、官民ファンドは、参加者ないしは参加候補者(金融業界など)に対して「権益」を持つことになる。

 国民の大切なお金をリスクに晒す官民基金にあって、監督が必要なことは当然だが、たとえば、官民基金天下りトップの出身官庁がおざなりな検査と監督を行うような仕組みにならないか、監督体制の(国民による)監視が必要だ。

 はっきり言うなら、こんな筋悪の仕組みはつくらないのが一番良いが、できてしまった場合、国民は官民基金をしっかりと監視する必要がある。

 まったく、油断も隙もない。

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 http://diamond.jp/articles/-/30291

 ちなみに、僕はこれまでのマーケット・レポートにおいて、東証の取引における金融株の物色の凄まじさについて繰り返し言及してきましたが、過熱する一方だった金融株の高騰の背景には、このような癒着が容易されていたというわけです。

 バブル的な勢いで買われてきた金融株の動向からは、この癒着が、いかに大きな権益であるかが、容易に想像できるというものです。というより、毎日の取引を詳細にウオッチしていてこそ、はじめて解るカラクリですね。

 という訳で、今後も東証における金融株の動向は厳しくチェックする必要があるようです。