中国経済をどう読むか? エネルギー問題の観点からpart1 自動車から見る原油の動向

 いま、そして今後暫くの間、原油をはじめ鉄鉱石や燃料炭など、様々な資源価格の動向の鍵を握る最大の要素は、中国です。資源価格は、欧米の不動産バブルとリーマンショックによって異常な乱高下をしましたが、とはいえ、中長期的なスパンで見ると、殆どあらゆる資源の価格が上昇傾向にあります。その理由は、何よりも新興国の成長による需要の増大であり、そしてその最大のところこそ、中国です。中東の政変などを除けば、資源価格は、中国の成長の度合いと、更にそれを利用しての投機筋、これですべて決まるといっても言い過ぎではないぐらいです。

 ところで、その中国経済ですが、これについては、昨年来、もはや中国がこれまでのような高成長を遂げる時代は終わった、中国経済は大失速した、中国経済は危ない、中国はリスクだらけだ・・・、そのような声は枚挙に暇がありません。しかし、これははたして本当なのでしょうか? 本当に中国の成長は鈍化しているのか、このことは、詳細に検討されなくてはなりません。中国経済については、これまで何度も言及してきましたが、ここであらためて、中国経済の「いま」と「今後」を見ていきたいと思います。

 中国経済に対して、本格的な失速が言われるようになったのは、いまからおよそ1年前です。それは何よりも、2010年の中国のGDP成長率を受けてなされました。この年の中国のGDP成長率は9・1%だったのですが、この数字をもって、中国の成長はこんなにも鈍化した、もはや以前のような高成長は期待できないという論評はことのほか多かったのです。

 しかし、そのような中国経済に対する評価が全くの誤りであり、デタラメであることは、過去30年の中国経済の平均成長率から明らかです。既に何度も申し上げてきたように、1978年に改革開放路線が始まって以降、2009年までの中国の1年あたり平均成長率は、9・9%でした。およそ30年、平均で9・9%の成長率だったところが、一昨年9・1%になったからといって、それで何故中国経済失速とか、中国はもう駄目だとか、そういうことになるのでしょうか?

 そもそも、リーマンショックが起こる以前の数年間は、欧米の不動産バブルを受けて世界経済全体が狂っていたのであり、そうである以上、この間の11%とか13%という中国の成長率もまた、実力以上のものがあったのです。このバブルに沸いた数年間を物差しにして9・1%だから中国経済は失速したなどというのは、明らかにおかしいのです。

 そして、78年の改革開放路線のスタートから30年以上も経てば、普通は成長も少しは緩やかになるものです。これは別に失速とかそういうことではなく、当たり前のことです。しかし、それよりも重要なのは、成長率をパーセンテージで見るとその成長は鈍化しているように見えても、成長する過程で分母がドンドン大きくなっているため、成長率は下がっても、成長の絶対値は下がってはいないということです。

 これも以前お話しした例ですが、たとえば、年収300万円の人が、10%給料が上がったとします。一方で、年収500万円の人が、8%給料が上がったとします。どちらの方が、より多く金額が増えてるでしょう? 答えは、後者です。年収300万円のところから10%給料が上がった場合、上がり幅は30万円ですが、一方で、年収500万円のところから8%給料が上がった場合、その上がり幅は、40万円なのです。

 中国の成長も、これと同じです。GDP300兆円から10%成長するのと、GDP500兆円から8%成長するのでは、500兆円が8%成長する方が、成長の絶対値は上なのです。GDPが300兆円のとき10%成長する場合、成長の絶対値は、30兆円です。一方で、GDPが500兆円のとき8%成長する場合、成長の絶対値は、40兆円です。つまり、成長のパーセンテージ自体は下がっても、しかしパイが大きくなっているから、成長の絶対値そのものの上昇は、500兆円が8%成長する方が、上なのです。という訳で、中国の成長は、全然止まっていないのです。むしろ加速しているのです。

 去年の中国経済は、最大の輸出先であるユーロ圏の景気後退が大ダメージになり、去年1年間のGDP成長率は7%台と推定されていますが、今年は8%台の半ば以上に戻してくると見られています。という訳で、いま8%の成長率があるならば、10%あたりで推移した10年ほど前のときよりも、パイの拡大は大きいのです。このことは、それだけ経済規模が拡大している以上、そのぶん資源に対する需要も増すことを意味します。つまり、資源価格は、今後確実に上がるということです。

 では、次に、もっと具体的に見ていきます。原油の需要といえば、何よりも自動車です。2010年、中国の自動車販売はうなぎ上りに上昇し、これまで新車販売で長らく1位だったアメリカを抜き去り、世界最大の自動車市場となりました。しかし、その後は、大幅に伸び悩んだ、というのが大手メディアや経済学者、金融アナリストの見方です。そうして、自動車に関しても、もはやこれまでのような伸びは期待できないとまことしやかに囁かれるようになりました。しかし、これは本当なのでしょうか? リーマンショックのあった2008年を除く、過去10年を詳細に見てみます。

 2002年から2007年までの6年間で、中国の新車販売台数は、700万台伸びました。6年で700万台です。ところが、リーマンショックの後、2009年と2010年のたった2年間で、中国の新車販売台数は、実に900万台も伸びたのです。2年で900万台、とてつもない伸びです。パーセンテージにすると、2009年が45・4%、2010年が32・4%という、まさに驚異的な伸び率です。ところが、これが翌年の2011年になると、伸び率は一転して2・4%へと落ち込んだのです。確かに、これだけを見ると、2011年の中国における新車販売は明らかに失速ですが、しかし、これは2011年に失速したというよりは、たった2年間で900万台も上昇した2009年と2010年の伸びがあまりにも異常過ぎた、そう見るのが自然ではないでしょうか? 

 実は、この2年間の異常な伸びには、カラクリがあるのです。2008年のリーマンショックを受けて、中国政府は4兆元(当時のレートで57兆円)という大規模な景気刺激策を行ったのですが、このなかに、自動車の購入に関して、3種類の補助金があったのです。

 つまり、こういうことなのです。自動車が欲しいと望む市民は大勢いるところに、政府から巨額の補助金が出た、ならば今のうちだ! と言わんばかりに市民が自動車の購入に走ったのです。要するに、これはかつて日本でもあった家電エコポイントなどと同じなのです。補助金があるうちに買っちゃえと、そうして需要が先食いされただけなのです。だから補助金が切れた2011年には、その反動で新車販売が急ブレーキしたという、ただそれだけなのです。

 言うまでもなく、この需要の先食いによる反動は、2011年の1年だけで消化し切れるものではありませんので、2012年の新車販売にも影響しています。ただ、その反動も、そろそろ切れてくる頃です。景気の回復とも相俟って、今年の中国の新車販売は、その伸び率を再び上昇させるでしょう。

 そもそも、『週刊ダイヤモンド』2011年1月21日号によると、中国の場合、人口1000人あたりの自動車所有数は、まだ47人に過ぎないのです。「47/1000」、これがこのままで行くわけはありません。この数字は、いずれ「100/1000」になることは間違いありませんし、もちろんもっと上昇していくでしょうが、しかし中国の場合、なにしろ13億人もいるのです。自動車所有のパーセンテージちょっと上がるだけで、よそとは比較にならないほど所有される絶対量も増えます。それは即ち、石油への需要もそれだけ増すということを意味します。これは当然ながら、原油価格を押し上げます。

 いずれは電気自動車が大幅に普及し、ドライバーは自宅の太陽光パネルで充電して運転する時代が来るでしょうが、しかし、そのような状況が多数を占めるのは、残念ながら2020年以降とならざるを得ないのが現状です。当分の間、自動車の燃料は石油に頼らざるをえません。特に、これから中間層が増大するという新興国の場合は尚更です。そして、今後自動車の普及が加速するのは、なにも中国だけではないのです。急激に成長を続ける、タイ、インドネシア、マレーシア、インド・・・、これらの国々でも、自動車の普及は飛躍的に拡大する一方なのです。

 この自動車需要の伸びを、別の角度から見てみます。自動車需要を正確に把握するうえでは、タイヤ・メーカーからの視点も欠かせません。何故なら、タイヤのない自動車というのは、絶対にありえないからです。タイヤが伸びることは、即ち自動車が伸びることでもあります。

 タイヤ・メーカーは現在、ブリヂストンミシュラングッドイヤーという3強を中心に、熾烈なシェア合戦が展開されているのですが、この業界では、ここ数年、中国や東南アジアを中心に、新工場の建設ラッシュと言っていい状況にあります。それはもちろん、新興国での自動車需要の増大を見込んでのものです。

 たとえばミシュランによると、世界の乗用車タイヤ市場の総需要は、2010年には12億本だったものが、2020年には18億本へと上昇すると見込んでいます。つまり、1・5倍になる計算です。これはどういうことかというと、乗用車の需要も、1・5倍になるということです。言うまでもなく、その最大の要因は、新興国での需要の増大によるものです。

 しかし、タイヤ・メーカーが生産するタイヤというのは、単に乗用車用だけではありません。鉱山車両用の超巨大タイヤも重要です。このタイヤの発注元というのは、もちろん資源メジャーや商社などですので、この方面の需要がどれだけ伸びるかは、資源採掘がどれだけ活況を呈しているか、つまり資源価格がどれだけ上がるかの直接的なバロメーターとなってきます。

 この鉱山車両用の超巨大タイヤというのは、非常に高度な技術を要するので、現在は、業界1位のブリヂストンと、業界2位のミシュランが、ほぼ独占している状態にあります。そして、ここ数年は「資源採掘が活況を呈していることから、注文はひっきりなし」ということです。ブリヂストンが昨年発表した中期経営計画によると、この鉱山車両用対タイヤも、その需要は、今後5年でおよそ1・5倍になると見込んでいます。それはつまり、資源採掘現場の活況も、1・5倍になるということです。もしこのペースで鉄鉱石をはじめとした資源価格が上昇したら、大変な資源高になるわけですが、資源価格の場合、実需に投機筋が上乗せして、更に価格を吊り上げるので、原油価格などは、数年後には、1バレル180ドルなどという恐ろしい値段になることも想定おく必要があるかもしれません。

 そして、タイヤに関してはもう1つ、トラックや建設機械など、物流・インフラ関連のタイヤも忘れてはなりません。何より、中国中西部をはじめ、東南アジア、インドなどにおいて、インフラ投資が本格化するのは、むしろこれからなのです。そして、このインフラ分野そのものも、今後の資源価格に直結します。

 という訳で、次回は、中国のインフラ投資を中心に、今後の資源価格の動向について見ていきたいと思います。