何故解散・総選挙はあの時期だったのか? 少なくとも、ヘッジファンドだけは解っていたことから・・・

 昨日、東京証券取引所では、今年最初の取引(これを大発会と言います)が行われました。日経平均株価は昨年末の大納会(12月28日)の終値から2・82%上昇し、1万688円で今年最初の取引を終えました。

 既に新聞等で大々的に報じられているように、この日、日経平均株価は、ついに東日本大震災が起こる以前の水準を回復しました。年明け最初の取引で、いきなり震災前の水準を回復し、いよいよ日本経済も自民党政権のもとで本格的な成長に向けて・・・、などと報道されているわけですが、しかしちょっと待て、なのです。

 年明け初日に震災前の水準を回復、とはあまりにも出来過ぎでないか? 何かおかしいのではないか? そう疑問に感じた方も大勢いるのではないかと推察します。実は、これはヘッジファンドによって意図的につくられた可能性があるのです。つまり、「日経平均株価、ついに震災前の水準回復」というニュースをわざと新年の取引初日に持ってくることで、自民党に対する期待を昨年末だけで終わらせることなく、今年の自民党政権に対する期待ムードを煽ろうという画策があったかもしれないということです。そうして、震災によって生まれた東北・北関東各地の被害や被災者の方々のことも忘れさせ、日本経済の成長に向けていよいよ今年自民党政権が・・・、ということムードをつくるための相場操作が行われた形跡が、昨年最後の取引となった大納会の日にあったのです。

 実は、大納会の12月28日、取引の途中で、日経平均株価は震災前の水準まであと1円のところまで行ったのです。しかし、あと1円で震災前の水準に届く・・・、というところから、何故か株価は急速に下落して午後3時の取引を終えたのです。ところが、既に申し上げてきたように、日本株の取引というのは、東証が開いている時間だけではないのです。何度もご紹介したシカゴ・マーカンタイル取引所、この取引所こそ時間外取引日本株を売買するヘッジファンドの根城のようなところなわけですが、このシカゴ先物市場では、12月29日から31日までの間も、日経平均先物の取引が行われていました。そして、日経平均が震災前の水準まであと1円まで迫りながらその後は下落して以降、このシカゴ先物市場において、日経平均先物は、3日連日で上昇しているのです。

 日本株は、東証の取引が開いていようといまいと、そんなことは関係なくその取引はアメリカのヘッジファンド支配下にあることは既に何度もお伝えしてきたことですが、大納会の12月28日、日経平均はたまたま震災前の水準まであと1円まで迫って、そしてその後はたまたま下落して、そうしてその後の夜間取引において、日経平均はたまたま上昇して震災前の水準を超えて、そして昨日の東証における大発会を迎えました、ということがあるのでしょうか? あるかもしれませんが、しかし偶然にしては出来過ぎです。

 もちろんこのことの判断は皆様1人ひとりにゆだねます。とはいえ、結果的に、自民党に対する期待を昨年末だけで終わらせることなく、今年の自民党政権に対する期待ムードを煽り、しかも震災によって生まれた東北・北関東各地の被害や被災者の方々のことも忘れさせ、日本経済の成長に向けていよいよ・・・、ということムードは見事に形成されてしまいました。実際、NHKなどは昨日、そのような報道を思いっきり行っています。

 さて、ここからは昨日の取引の内容に移りますが、これが大発会にとっては異例尽くめのものとなりました。昨日1日の売買代金は、恐るべきことに1兆9516億円にのぼり、2兆円まであと一歩という驚異的な額を記録しました。そして年末にお話しした200日移動平均線からの乖離率ですが、昨日の株価大幅上昇により、この乖離率も更に上昇し、なんと17・29%となり、まさかという感じですが、1953年以来の30%台に向けて一直線というまさにバブル的な様相です。

 一方で物色の中身ですが、売買高においては、1位:みずほ、2位:オリコ、3位:三菱UFJ、4位:アイフル、そして6位:野村証券と、軒並み金融株が上位を独占しました。また業種別騰落率でも保険が「+5・53%」で2位に入り、この保険会社も株・債権の取引を数多く行っているところで、実質的には金融株です。そして、業種別の4位には電気・ガスが入りました。という訳で、主な物色の傾向は、昨年末から基本的にはまったく変わっていません。

 ただ、その一方で、昨日は自動車セクターの上昇も目につきました。以下が、その主なところです。

   トヨタ    +6・36%
   ホンダ    +3・97%
   日産     +5・30%
   マツダ    +6・32%
   スズキ    +7・93%

 という訳で、いずれも大幅な上昇です。言うまでもなく、この大幅上昇の原因は、円安です。ついに円は対ドルで87円台まで行きましたので、ここまで急激に円安が進行すれば、当然ながら輸出企業の株価は上がります。

 ところで、本日は、これら自動車をはじめとした、大手輸出企業の株価についてお話ししようと思います。これまで何度も繰り返してきたように、解散・総選挙以降、株価上昇の最大の牽引役となったのは、電力・金融・不動産・ゼネコン株なのです。これらの株価の上昇、これらの銘柄への物色は実に凄まじいものがあったわけですが、しかしこれらは基本的には内需産業です。いくらなんでも、これらの業種が上がるだけでは、解散時に8000円台だった日経平均が1万688円まで上昇することはありません。日経新聞が独自に選定した225銘柄による日経平均の主力は、あくまでも自動車をはじめとした輸出企業です。ここの株価が上がらないことには、いくら内需系の癒着産業の株価が上がろうと、日経平均のこれほどの上昇はありえないのです。そして、日中関係がまったく改善していない以上、これら輸出企業の株価上昇は、ひとえに円安にあります。というより、円安、ただこれだけです。電力・金融・不動産・ゼネコン、ここの株があまりにも買われ過ぎたために目立つことはなかったのですが、自動車をはじめとし、ユニクロを展開するファーストリテイリングに至るまで、大手輸出企業にしても、解散・総選挙以降、いずれも株価は上昇していたのです。

 問題は、これまで何度もお伝えしてきたように、この一連の円安の出発点は9月終わりであり、そこからほぼ一本調子でずっと円安が続いているにも関わらず、何故大手輸出企業の株価上昇も、それが如実になったのは、11月半ば以降からであったのか? ということです。言うまでもなく、これは解散・総選挙が決まって以降の安倍発言とは何の関係もありません。これまで何度も申し上げてきたように、円安は、中国をはじめとした外部環境の変化、つまりグローバル経済の変化によるもので、安倍氏の発言など何の関係もないからです。では、それなら何故大手輸出企業の株価上昇が顕著になったのも11月半ば以降だったのかと言いますと、それはひとえに、各企業が算出している想定為替レートにあります。

 大手輸出企業にとっては、為替次第で売上も収益も変わるため、通期業績見通しを立てる際、必ず各企業が独自に想定した為替レートをもとに通期業績見通しの数字を出すのです。そして、大手輸出企業が当初想定していた今季の為替レートは、概ね79〜80円の間なのです。

 昨年9月の時点で、円は対ドルで77円から78円あたりだったのです。なので、その後いくら円安が進んで77円が80円まで行ったとしても、それは所詮各企業が想定した範囲内なのです。80円というあたりでは、株価を押し上げる材料にはならないのです。為替の変動によって大手輸出企業の株価が上がるためには、円が対ドルで81円、82円まで行き、しかも今後暫くは円高にならずこの円安の傾向が続きそうだ、という状況にならなければならないのです。そして、円安がこのような状況まで進んだときこそ、解散・総選挙の決定直後のことなのです。

 解散・総選挙が決まってすぐ、安倍氏は大規模な金融緩和発言を行いましたが、しかし繰り返しますが、実際の為替は、安倍発言などには関係なく相場は動いていました。だから同時期にフランス株、ドイツ株の上昇があり、更に中国株の大幅な上昇が起こり、またニューヨークの原油価格も上昇していったのです。

 という訳で、安倍発言など為替の実態には何の影響も及ぼさないものであった以上、たとえ野田政権がいまだに続いていようと、大手輸出企業に関しては、いまとまったく同じように株価は上昇していた筈です。そして、言うまでもないことですが、為替相場を牛耳っているのもまたヘッジファンドなのです。とりわけ、CTAの支配力は絶大なものがあります。

 そうである以上、アメリカの金融マフィアは、円が対ドルで日本の大手輸出企業の想定レートをはっきりと超える水準になる時期が11月半ば以降になるといことを“誰よりもよく解っていた筈”です。

 当時、野田首相が何故あの時期に衆議院を解散したのか、あの突然の解散の理由はいまもって不明です。但し、経済を理由に民主党政権を打倒し、そうして経済への期待から自民党が政権を取るうえでは、11月半ばという解散時期は、これ以上ないほど絶妙だったと言わざるをえません。何故なら、日経平均の主力である大手輸出企業の株価上昇が顕著になるのが、まさにこの時期からだということは、“解る者には事前に解っていた”からです。しかも、解散が決まって以降、安倍氏が真っ先に行ったのは、円安誘導のための発言です。そしてこの発言を受けてメディアが、経済学者が、金融アナリストが、一様に円安は安倍発言によるという大本営発表大本営解説を行ったのです。これで、殆ど勝負は決まったと言っていいのです。

 何故当時野田首相はあのタイミングで解散したのか、そしてまた安倍氏は何故解散・総選挙が決まって以降、真っ先に円安誘導に向けての大胆な金融緩和発言を行ったのか、いまだに不明であるわけですが、しかし、あの衆院の解散や安倍氏の発言に関係なく、いまと同じように円安はその後も続いたであろうことは、その後の中国株の上昇と、ニューヨークの原油価格の上昇などから明らかです。更に為替相場を牛耳っているのは、アメリカのヘッジファンドであり、そして霞ヶ関は、一にも二にも対米従属なのです。

 ちなみに、たとえば自民党政権になっても、輸出の増加により日本の景気が良くなるならばそれでいいではないか、という声も聞こえてきそうですが、しかし残念ながら、それはまずありえません。既に何度も申し上げてきたように、小泉〜第一次安倍政権時代、円は対ドルで120〜110円という今以上の円安であり、そしてその波に乗って、07年に日本の輸出は過去最高の80兆円を記録しました。また、それを受けて、東証1部全体の時価総額は582兆円まで膨らみ、年次ベースでは89年以来戦後2番目の水準にまで達したのです。しかし、それでも景気は悪くなるばかりでした。だからその年の参院選において、安倍自民党は大敗したのです。

 この理由は、ひとえに税制にあります。いまの日本の税制は、輸出で稼いだ外貨が市民に還元されるようなものではないのです。税制改革をしない限り、どれだけ輸出が増えても、それが市民に還元されることはありません。もし輸出主導による景気回復をしようとするなら、まず経済が上昇軌道に乗ってきた中国との関係を改善したうえで、併せて大胆な税制改革をする必要があります。しかし、それを行う様子は、まったくありません。なので、このままでは、円安による輸出増は、すべて大企業の懐に収まるだけで、逆に内需は、原材料価格の高騰から、これまで以上に冷え込むという予想にならざるをえません。しかし、これを回避するための施策は明確なのです。既得権を剥ぎ取り、物事を公正でオープンにすること、そして平和と友好を促進すること、すべてはここにあります。