突っ込みどころ満載だった朝日新聞12月29日朝刊1面の記事をカットアップする

 日本の市民のなかには、原発については嘘を書く新聞も、経済については真実を伝えていると思っている方は殊のほか多いようです。ところが、大手メディアは、経済についても真実を伝えていません。このブログでは、このことについて再三指摘してきたわけですが、今回、朝日新聞12月29日朝刊1面の記事を題材に、メディアが経済に関していかに真実を伝えていないかを、具体的に見ていきたいと思います。僕のブログを毎回読んでいただいている方にとっては、既にお馴染みになったことの繰り返しになりますが、しかしあらためて問題を整理するという点で、有用となる部分もあろうかと思います。

 まず最初に問題とするのは、以下の部分です。

 「今年の日経平均は、欧州危機や日中関係の悪化が響き、ほぼ1万円割れの水準が続いていたが、11月中旬以降、自民党安倍晋三総裁の『大胆な金融緩和』発言で流れが一変。『海外投資家が日本株にこんなに注目しているのは(バブル崩壊後の)この20年間で初めて』(JPモルガン証券のイェスパー・コール氏)といい、株価は昨年末と比べて1939円(23%)も高くなった。12月の日経平均の上昇幅は10%。米国の0.5%、ドイツ、フランスの3%程度と比べ、日本株の上がり方は際だつ」。

 ここだけで、幾つもの真実が隠蔽されています。まず、これを読むと、ドイツ、フランスの株価は低調のように映ります。しかし、ドイツDAX、フランスCAC40、いずれも、12月になって何度も今年最高値を更新しているのです。ちなみに、記事中に「11月中旬以降」とありますが、それで言うならこれら、ユーロ株についても、この時期からの値上がり幅について言及しなければフェアではありません。実は、「11月中旬」から株価が急上昇し始めたのは、日本だけではありません。ドイツ、フランスもそうなのです。11月半ばからの2週間で、ドイツ、フランスは、いずれも株価が7%上昇しています。これに記事中にある12月分の「3%」を加えるなら、ドイツ、フランスともに「11月中旬以降」で10%上がっているわけです。

 しかし、もっと問題なのは、中国が抜けていることです。実は中国もここ最近、株価は絶好調であり、しかもその上昇幅は、日本株よりも更に上なのです。12月に入って以降、中国株は14%上げています。くわえて、実体経済の回復を伴っているという点において、中国株の上昇は、単に数字が上がっているだけでなく、内容も伴ってのものなのです。

 これら一連の要素を勘案すれば、記事中にある、「日本株の上がり方は際だつ」というのが、いかに恣意的なものか明らかです。

 さて、次いで記事は、円安の話題へと続きます。

 「円も売られ、28日午後5時現在の円相場は1ドル=86円31〜33銭と2年4カ月ぶりの円安水準に。対ユーロでも1ユーロ=114円36〜40銭と、1年5カ月ぶりの円安となった」。

 この円安については、連日どのメディアでも、そしてどの経済学者や金融アナリストも、一様に「自民党安倍晋三総裁の『大胆な金融緩和』発言で流れが一変」して円安になったと伝えていますが、これはとんでもないデタラメです。現在の円安が始まったのは、9月の終わりからです。円は、ドルに対しても、更にはユーロや韓国ウォンに対しも、いずれも下落しているのですが、この流れは9月終わりからのものです。このことは、チャートを見れば、誰にでも解ります。

 アメリカ大統領選を受けて11月上旬にいったんドルが売られたことを除けば、9月終わり以降、ここ3ヶ月、一貫して円安が進んでいるのであり、安倍氏の発言とは、何の関係もありません。この円安は、ここ数か月の間に起こりつつある、世界経済の変化によるものなのです。

 一方で、記事はその後、住宅ローンの話題に移ります。

 「ただ、景気対策で財政が悪くなるとの見方から国債は売られ、長期金利はこの半月で0.7%前後から0.8%前後に上がった。その影響で、大手銀行は1月から住宅ローンの金利を一斉に引き上げる」。

 言うまでもなく、これは銀行と不動産市場についての記事ですが、ところで、ここ最近急激に上昇した日本株ですが、具体的にはどのような銘柄が買われ、どのような業種がより大きく上昇しているのでしょうか? 実は、東証1部では、売買高・売買代金の上位に連日、三菱UFJ、三井住友、みずほといったメガバンクが入ってきたのです。メガバンクに対する物色は凄まじいものがありました。もちろん株価も上昇していまして、これら大手銀行株は、軒並み3割前後上昇しています。

 しかし、上昇幅に限っていえば、不動産のそれは、銀行株を更に上回ります。日経平均株価は今年23%上昇しました。もちろんその上昇の殆どは解散・総選挙以降のことなのですが、そのなかで、不動産株の上昇は実に80・13%にのぼり、全業種中第2位です。

 という訳で、大手銀行と不動産は、この衆院選に関する相場での株価上昇で笑いが止まらないわけですが、一方で、市民にはその恩恵はなく、それどころか、これら業者は「1月から住宅ローンの金利を一斉に引き上げる」のであり、むしろこのあたりの業種の株価上昇は、市民にとっては逆にマイナスなのです。国債が売られ、国債長期金利が「0.7%前後から0.8%前後」に上昇したのは、記事中にある財政への懸念からだけではありません。これまではリスク回避の姿勢から国債に逃避していたマネーが、一連の株高を受けて国債から離れ、これら銀行株・不動産株へと流れたことによるものでもあるのです。

 さて、最後は、安倍氏が再々日銀に要請している、次の部分です。

 「安倍首相は『2%の物価目標でインフレ(物価上昇)期待を起こす』と繰り返すが、足元のデフレは根深く、期待が起きる気配はみえない」。

 これのいったい何が問題かと言いますと、デフレと物価上昇の問題が、根本的に解っていないということです。世間では、日銀の金融政策によって2%の物価上昇が達成されたなら、それはデフレを克服することになるのだが、しかし現在のデフレは極めて深刻なのものであり、本当に期待できるだろうか? というような空気であろうかと思います。ところが、もしも日銀の金融政策でこの物価上昇率2%が達成されると、デフレよりも更に深刻な景気の低迷を迎えるのです。

 もし経済実態(つまり企業の収益力や労働環境など)がいまのままで、ただ日銀の金融政策だけで物価上昇率2%が達成されたらどうなるかと言うと、その場合、物価は上がるけど、しかし給料は上がらない、という状況になります。つまり、数字のうえで見かけ上はデフレではなくなるものの、しかし景気そのものは悪くなるのです。これを経済用語でスタグフレーションと言います。

 しかも、日銀が超大規模な金融緩和を行うと、それだけ円は大幅に安くなるので、円の価値の下落を受けて、外国から天然ガスなどを買う際の輸入価格が相当に上がります。つまり、日銀が2%の物価上昇が達成されるまで無制限の金融緩和を行うことは、それだけ電力料金の引き上げにつながるのです。

 という訳で、もしもスタグフレーションにより人々の生活がより一層苦しくなったところに、そこへ円安→燃料輸入価格高騰から生じる電力料金の値上げが起こると、どうなるか? 解りますよね。つまり、この日銀への自民党の圧力は、原発再稼働どころか新原発建設へ向けての布石です。

 以上が、朝日新聞12月29日朝刊1面の記事に関しての、注釈です。お解りいただけたでしょうか? 新聞が真実を伝えないのは、なにも原発のことだけではないのです。それは、経済についても同様なのです。言っておきますが、このような情報操作は、なにもこの日の朝日新聞の記事だけではありません。各新聞、至るところ、このような隠蔽に溢れているのです。とりわけ、中国経済に対するネガティヴな記事は、ひどいものがあります。中国については、悪い情報ばかりをワザと拾って記事にしているような感じさえするほどです。しかし、実際の中国経済は、大手メディアが伝える以上に、ずっと底力に満ちたものです。格差の拡大、大学生の就職難、汚職・・・、そんなものは、ヨーロッパにだっていくらでもあるのです。つい最近も、ドイツ銀行で脱税疑惑が起こり、しかも政治によるもみ消しまでなされたとして、ヨーロッパではかなり話題となりました。

 ところが、ドイツについては世界経済の優等生としていい話題ばかりが踊り、中国経済については、逆に悪い話題ばかり記事になりがちなところが、日本のメディアです。という訳で、是非皆さんも、メディアが報道する経済の情報を鵜呑みにせず、批判精神をもってこれに当たってください。

 原発については、多くの市民がその報道の嘘に気付き、自ら情報を発信し、それを共有していくようになりました。しかし今後は、経済に関しても、そのような動きが広がっていかなくてはならないのです。