ひょっとしたら1953年以来・・・? まさに記録的な上昇相場

 先月の解散・総選挙以来、完全にアメリカのヘッジファンドをはじめとした外国人投資家の猛威に曝された東京証券取引所ですが、12月29日金曜、今年の取引の最終日である、大納会を迎えました。通常なら、投資家は年末休暇に入り、取引は閑散とした薄商いになるのが普通なのですが、しかし依然として外国人投資家による売買は活発で、昨日の売買代金も1兆4746億円にのぼり、大納会としては異例の金額が投入されました。

 異常を示すのは、なにも取引額の多さだけではありません。金曜の日経平均株価は前日から0・70%上昇し、終値で1万394円を付け、今年最高値で取引を終えたのですが、しかし日中の取引に関して言うと、日経平均は下落でした。つまり、この大納会でもまた、株価上昇は、外国時間でのものだったのです。国内の個人投資家が寝ている間、シカゴ先物市場などで日本株が買われ、そして東証の取引が開いた午前9時から午後3時の間で下がるというのは、もはやなにも珍しいことではなくなりました。

 しかし、金曜に関しては、それだけではありません。CSの株式市場分析専門番組「ラップ・トゥデイ」で相場解説を行った日経CNBCの瀬川剛経済解説員によると、朝方、日本株に対し、ヨーロッパの証券会社から、かなりまとまった額のバスケット買いが入ったそうです。そしてそれは、どうやら年金基金などであるらしいのです。アメリカのみならず、ヨーロッパの年金基金もまた、CTAに運用を託す存在の1つなのですが、瀬川さんによると、これまで日本株に積極的ではなかったヨーロッパ系の年金までもがついに動いてきたということで、この様子では、年明け以降、外国からの更なる買いが日本株に入ることはほぼ間違いない情勢です。

 この一連のことは、為替相場からも窺えます。というのも、株と同様に、円相場の急激な変動もまた、日本時間における深夜から朝方にかけてが多いのです。ここ2日間でも、27日未明に、円が急激に売られ円安が進みました。そして昨日28日も、朝の7時から8時頃の間に、急激な円売りが仕掛けられているのです。メディアにおいては、円安は、安倍氏のこの発言を受けて円安が進み・・・、あるいは麻生氏のあの発言を受けて円が売られ・・・、などと言われますが、しかし実際に急激な円安が進む時間というのは、これら自民党の要人が寝ている時間が殆どです。なので、自民党幹部の発言を受けて為替相場がそれに反応したという類の解説は、どうにも当てはまらないのが実情と言わざるをえません。もし本当に自民党幹部の発言を受けて円が売られるなら、こんな夜中や明け方になる筈がないのです。これまで何度も申し上げてきたように、株式市場だけでなく、為替相場も完全にヘッジファンド、とりわけCTAの支配下に入っていますので、安易な報道を鵜呑みにしないことが大切です。

 ただ一方で、そうはいっても、この年末の時期だけは国内の個人投資家の物色が盛んになる時期でもあるので、だから東証の売買においては、どのへんがヘッジファンドによるもので、どのへんが国内の個人投資家によるものかは、かなり慎重に見極める必要があります。

 で、金曜の相場内容ですが、売買代金や売買高に関しては、相も変わらず、証券とメガバンクへの物色が大変に盛んです。とにかく、上位は軒並みこれら金融株が独占しています。しかし、その一方で、株価上昇率では異なる様相を見せました。以下が、業種別騰落率の上位3業種です。

    1ゴム          2・27%
    2その他製品     2・09%
    3輸送用機器     1・64%

 これらはいずれも、電力(原発)・不動産・金融・ゼネコンなどとは違い、日常生活にとって、また実体経済にとって、欠くべからざる業種ばかりです。いずれも地味な業種ばかりですが、しかしこのような業種が伸びることこそ、経済にとっては重要です。

 業種別騰落率というのは、どれだけの金額がつぎ込まれたかとは違います。業種全体としては他と比べてあまり多くの金額が投入されていなくても、上昇幅が大きいところが上位に来るのです。もちろん、売買高・売買代金の上位がそのまま業種別騰落率の上位に来ることもよくあるわけですが(その典型は、狂気的な展開になった先週の相場です)、しかし昨日は、取引額の多い業種と、上昇幅の多い業種がまるで違いますので、このへんの地味なところの上昇は、国内の個人投資家によるものである可能性は十分です。

 一方で、気になる電力株ですが、これは金曜は下落率で1位でした。ところで、電力株が下落率で1位だったのは、なにもこの日だけではないのです。実は、水曜と木曜も、電力株は下落率で1位でした。ただ、どうも前の2日間と昨日では、同じ下落率1位でも、その内容に違いはあるようでした。と言いますのも、水曜・木曜の電力株のチャートを見ると、あまり投機的な売りの気配を感じないのです。まったく感じないわけではないのですが、いかにもヘッジファンドの手口という痕跡があまりないのです。自然に下落している感じです。一方で、金曜に関しては、下落率も水曜・木曜よりずっと多いですし、下落するときの曲線もかなり急なものがあります。ただ、この電力株に関しては、年明けにも大きな動きがあることは十分予想されます。

 さて、ここで衆院選投開票以降、及び今年全体の取引の総括を簡単にしてみます。

 まず衆院選の投開票以降ですが、年末としては例のないほど大規模な金額が投入されたこの9営業日の取引のうち、下落したのは、20日と21日の2営業日だけでした。つまり、日銀の金融政策が発表された20日と、アメリカでオバマ政権と共和党の協議が決裂した21日だけが下落したわけで、しかし21日の方に関しては、アメリカの「財政の崖」をめぐる懸念から、アメリカ、ヨーロッパ、アジアと株価は全面安でしたので、なのでこれはいかにも日銀を悪者扱いしようと言わんばかりの感じです。

 そして今年全体の取引の総括ですが、日経平均株価は、今年23%上昇しました。もちろん、その上昇分の殆どは解散・総選挙が決まって以降のことです。ところで、株価は上昇したといっても、具体的にどの業種が特に上昇したのでしょうか? 以下は、今年上昇した業種の上位3位です。
 
      1証券・商品     101・49%
      2不動産        80・13%      
      3その他金融     55・15%

 ちなみに、5位には、保険が入っています。保険会社というのは、顧客から得た保険金を株や債券などに運用していますので(ご存知の通り、東電をはじめ各電力会社の大株主として原発にマネーを供給してきたうちの1つこそ、保険会社です)、だから保険会社の株も、実質的には金融機関として買われています。

 という訳で、自民党政権を受けて日本経済再生が期待されるなどと大手メディアでは盛んに報道されているわけですが、しかし実際のところ、最も株価が上がっているのは、これら金融・不動産株なのです。これではたして本当に日本経済は良くなるのでしょうか? 多くの雇用が生み出されるでしょうか? およそそういう期待が持てないところこそが最も株価が上昇しているのです。

 ちなみに、上昇上位に電力株はまったく入っておりませんで、それどころか電力株は下落率で第3位なのですが、これはもちろん、再稼働できたのが関西電力大飯原発だけで、あとはすべて原発は停まっているからに他なりません。つまり電力株は、11月までの下落があまりに大きかったので、いくら解散・総選挙が決まって以降、強烈に買われたからといって、それが年間を通した上昇に反映されるには至っていないわけです。ただ、これは裏を返せば、もし今後再稼働するのであれば、現在の電力株はかなり割安ということでもあるわけで、メガバンクや保険大手がかなり物色されたことから見ても、今後警戒は必要です。

 さて、ここで来年の相場展開の展望を少し見ておきたいのですが、そこで出てくるものこそ、今回のタイトルに挙げた「1953年以来?」というキーワードです。

 株価を見るうえでは、様々なテクニカル指標があるのですが、そのなかに、200日移動平均線からの乖離率、というのがあります。これは何かと言いますと、過去200日間の日経平均株価の平均値を算出したうえで、その過去200日の平均と、現在の株価がどの程度違っているかという指数です。この数字が大きいほど、株が上昇し過ぎ、あるいは下落し過ぎ、という目安になります。

 という訳で、右肩上がりで経済が成長した高度成長期は、この200日移動平均からの乖離率も、かなりのものがあったのです。しかし、高度成長が終わり、低成長を迎えて以降は、極端な乖離はあまり見られないようになりました。

 ところが、解散・総選挙以降、猛烈な株価上昇を受けて、この200日移動線からの乖離率も日増しに大きくなっているのです。

 株価については、今後株はこんなに上がるぞという強気派のアナリストと、その逆の弱気派のアナリストに大きく分かれるのですが、ついに年金基金までもが日本株に資金を投入したことを受けて、弱気派でさえ、来年春頃には日経平均は1万2000円を超えてくるだろうという見方が支配的です。問題は、来年春頃に日経平均が1万2000円を超えてきた場合、その際の200日移動平均線からの乖離率は、いったいどの程度かということです。

 これについて、木曜の取引終了後、前述の瀬川さんが、非常に気になることを言いました。木曜の取引終了時点で、日経平均の200日移動線からの乖離率は、13・36ポイントなのですが、もし来年の春前に1万2000円を超えるようだと、その乖離率は、過去最大の乖離率を記録した1953年以来の30ポイント台に近づくというのです。

 1953年というのは、高度成長が始まって間もないときです。なので、この時期に30ポイントというのは解ります。しかし、現在の日本は、今後何が起ころうと、1950年代のような成長などあり得るわけがないのです。にも拘わらず、株価だけはその1950年代の上昇と同じレベルで上がっていくかもしれない、それがいまの相場なのです。

 ちなみに、昨日の大納会では、この乖離率も更に上昇しまして、14・12ポイントを記録しました。言っておきますが、いまの日本経済の潜在成長率を考えれば、この14・12ポイントというのも既に異常なのです。もし今後、本当に30ポイントに向かっていくようなことがあったなら、極めて危険ということを意味します。