日本株について騙されないための基礎知識

 日本株については、欧米と比べてリーマンショック以降最も落ち込みが激しかったのは日本であり、これは民主党の政策が駄目だったからだとまことしやかに言われています。リーマンショック以降、日本株の落ち込みが欧米と較べて最もひどかったのは事実ですが、しかしだからといって、それは民主党の責任ではありません。もちろん民主党を誉める気はありませんが、しかし、上述のようなロジックは明らかに間違っているのです。一言でいうと、リーマンショック以降の日本株低迷の原因は、自民党にあるのです。しかしそれについては後程詳細に論じるとして、まずは水曜と木曜の相場について見ていきます。
 
 はじめに水曜ですが、この日も株価は上がりました。日経平均終値で前日から1・49%上昇の1万240円、売買代金は1兆3222億円です。年末の最終週でこの売買代金は相も変わらず異常な金額なのですが、しかしこの日は、それまでとは少し様相が異なります。というのも、この日は、欧米や香港の市場が休場だったのです。

 これまで何度も申し上げてきたように、解散・総選挙が決まって以降、日本株を押し上げてきたのはアメリカのヘッジファンドを中心とする外国人投資家であり、株価上昇もが外国時間でのことが多かったわけですが、水曜に関しては違うのです。とはいえ、だからといって外国人投資家が取引にまったく参加していなかったかというと、これがそうとも言えないのですが、しかし、参加していたとしても、これまでのような活発なものではないと推測されます。つまり、水曜の1兆3222億円に関しては、解散・総選挙の決定以降、ヘッジファンドの猛威のなかでひたすら売りに回っていた国内の個人投資家が、まさにこのときだけは! という意気込みで取引を行った部分が相当にあるのです。

 ならば、それまでと較べて、何か相場に変化が見られたのかというと、これがあったのです。水曜は、海運株の物色が突き抜けて目立ちました。この海運というのが何を意味するかということについては後で述べるとして、まずは個別に見ていきます。以下は、この日上昇した主な海運業の値上がり率です。

       郵船      +4・81%    
       商船三井   +7・45%
       第一汽船   +16・12%
       乾汽船     +16・97%
       飯野海運   +18・31%

 郵船の株価上昇率が小さいものに映るほど、物凄い上昇なのです。という訳で、海運は、業種別騰落率においても、当然ながら第1位です。

 ところで、この海運とは何なのか? 海運というのは、いわゆる景気敏感株、つまり世界景気の動向に左右されやすい株の筆頭格と謂われています。それはもちろん、海運という業種が、主に貿易にまつわる物流を担うものであるためです。だから海運は、世界経済が好況のときに買われ、世界経済があやしくなると売られます。そのため、海運株は今年、ユーロ圏の債務危機を受けて、値下がり率でずっと1位だったのです。しかしそれが水曜は、物凄く買われたのです。

 この海運株の上昇は、言うまでもなく、自民党政権誕生とは何の関係もありません。海運株が買われるか売られるかは、とことん世界貿易の先行き次第なのです。そして、後で見ることですが、海運株は、この翌日の木曜にも買われています。

 ところで、ここで既に気付かれた方もいると思いますが、現在、世界貿易が活況を呈するかどうかの鍵を握っているのは、中国です。中国経済が上向くことは、様々な国へ波及効果があり、貿易が活発化するのです。そして僕はこれまで何度も、中国の景気減速は既に底を打っており、今後中国経済は緩やか上昇基調に入るだろうと申し上げてきました。この海運株の物色は、明らかにそれを反映したものと思われます。ちなみに、上海の市場において、この日は最近好調の中国株もまた上昇したのですが、日経新聞電子版に、次のような記事が掲載されました。

 「26日の中国・上海株式相場は小幅に3日続伸した。上海総合指数の終値は前日比5・521%ポイント(0・240.%)高の2219・132だった。前日に2・5%高となった反動で、銀行株中心に売りが先行する場面も目立ったが、不動産関連株が大きく上昇し、相場全体を押し上げた。中国の『都市化』推進による投資拡大期待などが支えとなった。深セン市場では時価総額上位の不動産最大手、万科企業がきょう売買を停止した。深セン香港ドル建てB株市場への上場を香港上場に切り替えるとの観測が浮上し、将来の株式転換で利ざやを得ることができるとの思惑が台頭。上海の米ドル建てB株指数や深センA株指数の押し上げにつながった」。

 「万科はきょう『株価に影響する重大な発表がある』として売買を停止した。中国では19日にコンテナ大手の中国国際海運集装箱(中集集団)が、深センB株を香港上場に切り替えた。香港での初日の株価は深セン市場での最終取引の終値を大きく上回り『売買が低迷する深センB株市場から香港上場に切り替える道筋がついた』(東洋証券上海代表処首席代表の張岫氏)と受け止められた。万科深センのA株とともにB株市場でも株式を上場しており、売停をきっかけにB株を香港上場に転換するとの見方が浮上した。不振のB株の取引が香港に切り替わることで、売買が盛り返し、資金調達手段が拡充できるとの期待もある」。

 ここにも日本の海運株上昇に繋がる材料があるのですが、一方で、見過ごせないのが、
またしても中国で不動産株が急上昇したこと、更に大手不動産の間で、香港ドル建て市場へ上場を切り替える動きがあるということです。

 以前から僕は、ヘッジファンドは中国で不動産バブルが起きるのを狙っているだろうとずっと言ってきたわけですが、捨てておけないのが、この香港ドル建て市場への上場の動きです。実は、香港ドルというのは、過去にヘッジファンドに狙われたことがあるのです。もしこのまま中国の不動産大手の間で、香港ドル建て市場への上場が進むようだと、香港ドル経由で、ヘッジファンドが中国の不動産市場にマネーを投入してくる可能性があります。なので、このへんの動向は、今後注視したいと思います。

 そしてその翌日の木曜ですが、この日も日経平均株価は上がり、前日から0・91%上昇の1万322円で取引を終えました。そして売買代金はなんと1兆6146億円。年末もいよいよ大詰めのこの時期にこの金額は、確実に異常です。この木曜に関して、年末休暇に入っている筈の外国人投資家がどれだけ取引に参加していたかはまだ解りません。一昨日同様に、国内個人投資家が巻き返しの買いを活発化させた可能性も十分にあるのです。それについてはいずれ解るので、年明けにも報告できればと思います。

 さて、その木曜の取引の具体的内容ですが、これについては、業種別騰落率の上位を見るのが1番解りやすいです。以下が、上昇上位5業種です。

     1パルプ・紙     +3・53%
     2海運        +2・58%
     3証券・商品    +2・55%
     4水産・農林    +2・19%
     5移動用機器    +2・03%

 証券・商品を除けば、衆院選の投開票以来目立っていた電力・銀行・建設・不動産などがまったくないことが解ります。ちなみに、移動用機器というのは、具体的には自動車などです。水産・農林の上昇というのがいったい何なのかは僕にもよく解らないのですが、パルプ・紙、海運、自動車が揃って上位に来ているところを見ると、やはり今後の貿易の活性化を見据えての買いではないかと推察されます。

 そして、もう1つ注目なのが、工作機械大手のファナックです。ファナック株も木曜は買われまして、しかもこれが、年初来高値更新どころか、上場来高値を更新したのです。ファナックというのは、今季の業績は減益が見込まれているのですが、それは今年前半の世界景気の低迷の影響を過剰に受けてのものと推察されます。しかし、ファナックは、工場における商品製造の要である工作機械において、抜きん出た技術的優位性を持っている企業です。今後、仮に中国で反日感情が高まる時期があったとしても、そんなこと関係なくファナックの技術は中国も使わざるを得ないという技術的な事情を、この企業は持っています。だからファナック株というのは、一部アナリストの間では、短期の景気低迷や日中関係の悪化などに関係なく、長期的に保有する銘柄として推奨されているのです。そのファナックが年初来高値はおろか上場来高値を更新してきたということは、この点もやはり中国経済の成長期待を受けてのものと推察されます。

 さて、ここで冒頭に挙げた、日本株について騙されないための基礎知識ですが、今日は2つ挙げておきたいと思います。

 まず、リーマンショック以降、欧米と較べて日本株の落ち込みは最も激しかったということですが、それは確かにそうなのです。しかし、リーマンショックを基準にするなら、それ以前についても言及しなければフェアではありません。

 アメリカでの不動産バブル過熱を受けて、だいたい2003年の後半から、日米欧のいずれも株価上昇局面に入りました。そしてそれは、サブプライム問題が深刻化する2007年まで続きました。では、この2003年後半から2007年にかけて、はたして日米欧のどこが最も株価を上げたしょう? 実は、これは日本なのです。つまり、アメリカの不動産バブルの恩恵を最も受けたのは、日本株なのです。

 という訳で、日本株については、次のことこそ真実です。

 日本株は、アメリカの不動産バブルに乗ってどこよりも猛烈に株価を上げました、だからバブルが破裂した後、リーマンショック以降の下落もまたどこよりも強烈でした、というただそれだけなのです。これが日本株の真実です。

 そうであるならば、これほどまでアメリカの不動産市場と連動する経済をつくったのは、はたしてどこの政党でしょう? 言うまでもなく自民党です。という訳で、リーマンショック以降・以前という文脈で言うならば、日本株の下落がアメリカの不動産バブル崩壊の直撃を受けたものである以上、当然ながら、その原因をつくった自民党こそ、日本株下落の大きな要因と言わなければなりません。この点で、民主党には何の責任もありません。もちろん民主党を誉めるつもりは全くありませんが、しかしあれほどのバブルが崩壊した以上、そう簡単に元に戻るわけがないのです。

 そしてもう1つ。日本株に関しては、89年のときと較べて日本株はこんなにも下落してしまった一方で、欧米はどこも89年よりも株価は高い、だから日本株ももっと上がらなければいけない、などというとんでもないことを言う人もいます。80年代後半というのは、何よりも日本がバブルにあったわけで、つまりあの時の日本株自体、実力以上の高値にあったのでこのようなロジックは話にならないわけですが、こういうロジックについては、時価総額を見ろ、というのが1番です。

 日本株については、とかく日経平均ばかり取り上げられるわけですが、この日経平均というのは、日経新聞東証1部のなかから独自に選定した225銘柄の平均です。この日経平均ではなく、東証1部全体の時価総額で見るとどうなるかということです。

 21世紀に入って以降、東証1部の時価総額が最も大きかったときは、2007年の前半、つまり第1次安倍政権時代です。このとき、東証1部全体の時価総額は、582兆円ありました。これは年次ベースで見ると、日本がバブルの絶頂期にあった89年に次ぐ、歴代2番目の額です。では、その第1次安倍政権時代、日本経済は良かったのでしょうか? まったく良くなかったのです。良いどころか、むしろ格差が拡大する一方でした。だからその年夏に行われた参院選において自民党は大敗し、その後安倍氏も首相を辞任したのです。

 株に関しては、日経平均東証1部の時価総額など、もはや実体経済とは何の関係もないのです。真に株で見るべきは、業種別の上昇率をはじめとしたもっと細かい部分であり、日経平均がどれだけ上昇しようと、東証1部の時価総額がどれだけ大きくなろうと、実体経済とは何の関係もないのです。

 という訳で、日本株上昇を理由に、第2次安倍政権を持ち上げる声に対しては、上述した2つのことを突くのも有効に思います。

 ともかく、普通に考えれば、いま日本が最も真剣に取り組むべきは、何よりも原発の問題であり、日中関係の問題です。そして、脱原発を決め再生可能エネルギーの普及を拡大させることが多くの雇用を生み、また友好的な日中関係を構築することが貿易収支を改善することは、もはや明らかなのです。