円安は9月終わりからの一貫したトレンド、安倍発言による問題のすり替えを暴く

 衆院選の投開票から怒涛の相場展開になった先週から明けて、東京証券取引所は今年最後の週に入りました。しかし、東証の売買は、依然として異様な様相を呈しています。

 三連休を挟んだ週明け初日の火曜、東証1部の売買代金は、1兆1532億円でした。2兆円前後で推移した先週の水・木・金曜から比べれば、ほぼ半分に減少したかたちです。しかし、これだけなら事前に予想された通りなのです。と言いますのも、この時期、最大の投資家である外国のヘッジファンドはクリスマス休暇に入るので、最終週に売買代金が落ちるのはいつものことです。

 とはいえ、年末としては、この1兆1532億円という金額も十分に異常な額です。昨年同時期の売買代金と比較してみます。昨年の最終週5日間の売買代金は、4000億〜6000億円の間で推移しました。つまり、平均をとれば5000億円あたりなわけです。にも拘わらず、今年は最終週に入ってもいまだ1兆円を超えている、これは明らかに異常です。

 ちなみに、クリスマス休暇は、なにも最終週からとは限りませんで、通常なら、ヘッジファンドはその前の週から徐々にクリスマス休暇には入るものなのです。ここで、最終週の1つ手前の水・木・金曜の売買代金について、去年と今年を比較してみます。
 
              水曜       木曜       金曜
   2011年    6765億円   7654億円   7265億円
   2012年   2兆888億円  2兆856億円 1兆9056億円

 昨年はさすがに例年に比べると少なめで、それ以前はもうちょっと金額は多かったのですが、とはいえ、それでも今年の年末の売買代金がいかに異常なものかがお解りいただけるかと思います。

 そして、その流れがこの最終週に入っても続いているのです。

 さて、そこで火曜の日経平均株価ですが、これは先週の終値から140円(パーセンテージにすると、1・41%)のプラスという大幅上昇となりました。ところが、東証の取引時間中である朝9時から午後3時までに限っていいますと、株価は下落しているのです。火曜は、朝9時の取引開始時点で、いきなり先週の終値から152円のプラスで始まりました。しかしその後、取引期間中、日経平均株価は緩やかな右肩下がりに下落して、結局終わり値では140円のプラスとなったのです。

 つまり、またしても株価が上昇したのは夜間時間、つまり外国時間なのです。シカゴ先物市場をはじめとする外国で値が上がっただけで、日本時間の取引においては日経平均株価は下落です。このことから、クリスマス休暇に入っていながら、それでもなおアメリカのヘッジファンドを中心とした外国人投資家によって東証の売買が支配されていることが如実に出た数字です。

 さて、次いで個別銘柄ですが、これも先週、というより解散・総選挙が決まって以降のトレンドと、なんら変わりがありません。以下は、売買高の上位5銘柄です。

       1みずほFG
       2三井住友FG
       3シャープ
       4野村証券
       5東電

 つまり、金融株であり、ジャンク債(それはイコール投機的対象なわけですけど)であるシャープ株であり、東電株です。

 一方で、建設セクターの上昇幅も大きいです。火曜は、株価上昇率の2位に新日本建設、3位に東京建物不動産、4位に日本コンクリート工業が入りました。これらはいずれも、10〜20%台の物凄い上昇率です。また、ここまで派手ではないものの、大成建設大林組前田建設など、ゼネコンの代表格も堅調に株価が上昇しています。

 そして業種別騰落率で言いますと、1位:証券・商品、2位:不動産、3位:その他金融、4位:建築、という具合になっていまして、旧来型癒着産業の代表格がズラリと上位を独占しています。

 ところで、不動産といえば、僕は先週、ヘッジファンドは中国で不動産バブルを起こしたくて起こしたくて仕方ないだろうと書きました。この秋の一連の経済指標から、中国経済が底を打ち、じわじわと上昇気配に入っているのを受けて、既に鉄鉱石などの価格も上昇しています。そして中国株自体も、先月終わり頃から、急速に上昇していることもお伝えした通りです。その中国株ですが、いったいどのような株が買われているのでしょうか? 実は25日火曜の日経新聞電子版に、中国で不動産株が急伸しているという記事が載ったのです。以下に引用します。

 「25日の中国・上海株式相場は大幅に続伸した。上海総合指数の終値は前日比54・558ポイント(2・52%)高の2213・611だった」。

 「政府が進める経済政策である『都市化』を材料視した買いが続いた。中国メディアが『都市化が今後10年で40兆元の投資につながる』と報道。業績拡大が見込める不動産株が急伸したほか、建材株やインフラ関連株に買いが波及した」。

 「保利房地産や金地集団といった不動産株が急伸。建機大手の三一重工や建設大手の中国建設などインフラ関連株が高い。上海浦東発展銀行、中国平安保険、中信証券など金融株が上昇」。

 これは、一連の動向をチェックさえしていれば、ヘッジファンドなら当然予想することです。ただ、もちろんまだまだバブルには遠いです。しかし、僕は中国での不動産株急伸は、年が明けてからだろうと読んでいました。なので、この展開は、僕の予想した以上のスピードで事が進んでいることを意味します。言うまでもなく、いくら来年中国の不動産が活況を呈しようと、それでもまだバブルではありません。しかし、ヘッジファンドが中国で不動産バブルが起きることを願っているのは、ほぼ間違いありません。

 ところで、本日は、これとは別に、別の重要なことについて指摘しておかねばなりません。それは、為替についてです。先週僕は、現在の円安は9月から始まっていると言いました。これはチャートを見れば、誰にでも確認できます。円安は、解散・総選挙後の安倍発言を受けて始まったのではありません。10月に入る少し手前、9月終わり頃から始まり、それ以降はほぼ一本調子で円安なのです。例外は、11月上旬で、この時期だけは円高ドル安に触れているのですが、これはアメリカ大統領選を受けてのものです。この11月上旬を除けば、円は9月終わり以降、この3カ月間、ずっと円安なのです。という訳で、いかにも安倍発言で円安が始まったかのように言うメディアの報道も、経済学者や金融アナリストの解説も、全部デタラメです。チャートを見れば誰にも解ります。円は9月終わりからほぼ一本調子で、円安です。

 つまり、安倍発言による円安は、まだなんです。なのに、この円安が自民党安倍総裁のものだとして、安倍発言によって日経平均株価が上昇しているように言われる。そうして日経平均株価の1万円回復も、安倍総裁の手柄であるかのように報じられる。これは間違いです。もっとも、株価が上がっていると言っても、その業種といえば、電力・銀行・不動産・ゼネコンが筆頭ですので、およそろくなもんじゃないわけですが、それにしても、メディアや経済学者のデタラメは度が過ぎます。

 安倍総裁は、今後更なる円安を起こそうとしているのです。そのための、日銀への圧力です。

 現在起こっている円安は、安倍発言とは何の関係もないのです。当たり前です。いくら安倍総裁が日銀に圧力をかけているとはいえ、白川総裁をはじめ日銀の金融政策決定会合のメンバーがその圧力に屈するかなど、誰にも解る筈がありません。ましてや、衆院選の投開票以前においては、安倍氏は元衆議院議員に過ぎません(衆院選に当選するかさえ決まっていない状況です)。そんな人物が日銀に圧力をかけたからといって、それが為替相場を動かすなどありえません。

 つまり、この9月終わりから始まった円安は、完全に外部要因からなのです。最も有力な理由は、中国の景気回復です。9月終わりというのは、中国の経済状況が上向き始めた時期とちょうど一致するのです。そして、以前お伝えしたように、中国経済が上向くことは、中国に鉄鉱石などの原材料を輸出しているオーストラリアやブラジルなど他の新興国のGDPも押し上げるのです。すると、世界経済の低迷を受けて一時円に避難していたマネーが、新たな投資先を求めてよそへ出ていくのです。こうして、円安が進むわけです。

 だから、実際、円はドルに対してだけでなく、ユーロに対しても、更には韓国ウォンに対しても、すべてほぼ一本調子で下落しているのです。つまり円は、ここに来て、あちこちの通貨に対して、軒並み下落しているのです。にも拘らず、安倍総裁は、更により一層の円安へと導こうと日銀に圧力をかけているわけです。もし実際にそんなことが起きたら、それこそ日本経済にとって致命的です。為替というのは、触れるときには、必要以上に急激に円高にも、円安にも触れる傾向があります。もしも今後、極端に円安に振れるようなことがあると、当然ながら原油天然ガス・石炭などの輸入価格もそのぶんだけ上昇します。それはすなわち、電力料金も急上昇する可能性を孕んでいるということです。そうなれば、これは原発再稼働・新原発建設へ向けての恰好の世論誘導となってしまいます。

 世界経済の展望から今後を考えれば、せっかく中国が上向いてきた以上、日本にとって最も重要な経済パートナーは中国であることを改めて再認識し、そうして日中関係の改善こそ最大のテーマとならなければなりません。ところが、メディアや経済学者の間では、中国経済はもう駄目だとか、駄目とは行かないまでもかなり危ういとか、中国に対してのネガティヴ・キャンペーンばかり目につきます。

 とはいえ、もちろんリーマンショック以前のような、13%とか、15%などという高成長はもうありません。しかしここで重要なのは、リーマンショック以前の中国の成長率も、欧米の不動産バブルを受けた異常値であって、つまりバブルに乗って実力以上に成長していたということです。だからその後の中国経済の失速も派手に映るわけで、そこに権威ある学者がもっともらしい解説をすれば、いかにも中国の経済はもうおしまいとなってしまいます。しかし、これは間違いです。昨年来の中国経済の失速は、最大の輸出先であるユーロ圏の低迷を受けて輸出の伸びが鈍化したものであり、中国内部の問題から景気が減速したわけではないのです。

 中国について真に考えるべきことは、中国経済回復を受けて、原油をはじめとした資源価格上昇のリスクにどう対処するかなのです。そのためには、資源輸入国の日本の場合、ある程度円高の方がいいわけです。そして円高になっても、中国との関係が良好であることの方が、貿易収支にとっては間違いなくプラスです。

いま日本経済のために何よりもやるべきことは、9月になされた尖閣国有化以来関係が悪化し、いまもって日中首脳会談実現のメドさえまったく立っていない現状を打開し、一刻も早く周近平との会談実現に向けて動くことです。しかし現在は、円安や日銀の話題で、日中関係のことは完全にどこかへ行っています。だから、まずは中国経済に対するネガティブ・キャンペーンを排し、中国経済のポテンシャルを見詰め直しながら、今一度何が重要かを再確認することです。脱原発日中友好以上に重要なことなど、どこを探してもある筈がないのです。