日本株上昇にまつわる、メディアが報じないもう1つの嘘、及びまったく知られていないヘッジファンドの狙いについて

 最近の急激な株価上昇について、これが自民党政権に対する期待の表れだという大手メディアの報道は一切嘘であり、実態はアメリカのヘッジファンドを主力とした外国人投資家を儲けさせるためのものだということは、これまで何度も繰り返し語ってきたことですが、これが嘘であるというのは、他にもう1つ理由があるのです。つまり、二重の嘘があるということです。そして更に、嘘とか何という以上の更なる懸念材料も本格化してきました。しかし、これらについては後で詳しく述べるとして、まずは12月21日金曜の相場について見ていきます。

 この日の取引において、日経平均株価は右肩下がりで下落し、1万円を割り込みました。しかし、この株価下落自体は、日本の経済・政治状況とは、基本的には何の関係もありません。というのも、この日は、世界的に株価が下落しているのです。フランス、ドイツ、イギリス、アメリカ、中国、韓国、台湾、すべて下落しています。これは何かというと、ひとえにアメリカの「財政の崖」と呼ばれる問題によるものです。いわゆるブッシュ減税と呼ばれる富裕層減税の期限が来年の年明けにも切れるのに併せて、このままだと1兆200億ドルもの巨額の歳出削減が自動執行される問題です。これを回避すべく、オバマ政権と共和党が先月以来ずっと協議を重ねてきたのですが、日本時間で金曜の朝、議会での採決の延期が決まり、今後のアメリカの財政問題への懸念が俄かに高まったことを受けて、世界的に株価が下落したのです。

 とはいえ、だからこれは衆院選とは何の関係もないかというと、これがそうとも言えないのです。日経平均株価が1万円を回復した今週水曜は、本来なら年次ベースで戦後最悪の貿易赤字となることが確実となった貿易統計の発表を受けて、通常なら株は下がる筈のところを、貿易赤字の最大の原因である日中関係の悪化から目を逸らすべく無理やり株価を上げたもので、これは近いうち株はいったん下がるだろう、それも早ければ翌日にも下がるだろうと言い、そして実際その翌日に株は下がったのですが、しかし1万円を回復した水曜の株価上昇は、2011年3月16日、福島第一原発の建屋が吹っ飛び株が大暴落したその翌日以来のとんでもない大金がつぎ込まれるという異様なもので、いくらなんでも上がり過ぎでしたので、木曜日の下落だけではまだ十分ではないのです。その分を、アメリカの「財政の崖」にかこつけて、これまた目くらまし的に下げさせた感が濃厚にあります。

 というのも、金曜の下げは、単に下がっただけではないのです。夜間取引(つまり外国時間の取引)ではない、日本時間の下げ幅としては、実は金曜が今年最大だったのです。そして、投入された金額も、1兆9056円という大規模なもので、2兆円を突破した今週水曜と木曜を除けば、これも今年最大です。そして、アメリカのヘッジファンドであるならば、共和党オバマの唱える富裕層増税に応じないで採決を延期するという情報は、既に以前から入手している可能性は極めて大きいわけで、そうであるならば、貿易統計が発表された水曜に大幅下落する筈だったものを、木曜の日銀金融政策決定会合と、金曜の共和党の採決延期を目くらましとして下落させたと見ることは十分可能に思います。

 そんななか、金曜の東証でも、やはりというか、動きの目立つ業種は当然ながらありました。それは何かというと、「銀行−不動産」のペアです。昨日は、売買高において、東証1部上場全1700社のうち、1位:みずほFG、2位:三菱UFJ、3位:三井住友FGと、メガバンクが上位を独占しました。そしてそれに合わせ、三菱地所三井不動産住友不動産は、いずれも株価は大幅上昇です。という訳で、業種別騰落率において、不動産は当然ながら1位でした。

 実は、解散・総選挙が決まって以降、銀行株・不動産株の株価上昇率は、日経平均の上昇率をはるかに上回るのです。物凄い勢いで上昇しています。言うまでもなく、「銀行−不動産」といえば、まず日本において80年代に、そして21世紀に入るとアメリカやユーロ圏やドバイなどで、立て続けに不動産バブルを引き起こしてきたセクターですが、解散・総選挙が決まって以降、この「銀行−不動産」のペアが物凄い上昇をしているのです。しかも、上がっているのは、これら財閥系だけではないのです。金曜、CSの株式市場分析専門番組「ラップ・トゥデイ」において、個別銘柄の解説を行った日経クイック・ニュースの古門記者が言うには、東証マザーズジャスダックなどに上場している不動産株のチェックもしたうえで、彼はこれら一連の不動産株上昇について、「やり過ぎ」だと看破しました。

 それにしても、また不動産バブルですか? あんたらそれ以外に儲け方知らないの? と突っ込みたくなってくるのですが、しかしこれが株式市場において起こっている現実です。という訳で、自民党政権誕生を受けて最初の1週間が終わったわけですが、何より目立ったのは、電力・ゼネコン・銀行・不動産、これらの株への物色です。なるほど、確かに自民党さんが選挙ポスターで仰っていたように「昔の日本を取り戻す」という公約は、見事に厳守している模様です。ただし、その約束した相手というのは、日本国民ではなく、アメリカではありますが・・・。

 さて、そして次に、冒頭に述べました、メディアが報じないもう1つの嘘についてです。実は、日本株の急上昇については、単にアメリカのヘッジファンドが荒らしまわっているという以外に、もう1つの顔があるのです。

 どういうことかといいますと、実は、11月半ば以上、株価が急激に上昇しているのは、日本だけではないのです。この間の動きに関して、最近僕は【新たなマネーゲームの始まりか? 金融マフィアの動きと衆院選の裏にあるもの】というタイトルのレポートをこのブログに上げまして、それが11月半ば以降における一連の金融関連のレポートの最初だったわけですが、そこにおいて、ちょうどこの解散・総選挙が決まったあたりから、ジャンク債と呼ばれるギリシャ国債やスペインの不動産などにヘッジファンドが投資をはじめているということ報告しました。そうして債務危機にある南欧諸国の資産価値が安定することを受けて、11月下旬以降ヨーロッパ株が徐々に押し上げられ、12月に入るとフランス株・ドイツ株は立て続けに年初来高値を更新しているのです。

 そしてまた、アメリカでもこの時期株価が上がっています。アメリカはオバマ再選を受けて、株価は急落したのです。そのまま暫く株価は低迷していたのですが、その後はこのアメリカ株も上昇を開始し、いまでは大統領選挙以前の水準まで戻っています。

 更に、中国株も上がっています。中国は最大の輸出先がユーロ圏であるため、昨年夏のユーロ危機が起こって以降、中国株は絶不調であり、今年に入っても右肩下がりに下落していたのですが、この中国株も、11月下旬から突然上昇し始めました。

 そして、上昇に転じてからの中国株の上がり幅と、その同じ時期から1万円を突破した今週水曜までも日本株の上がり幅というのは、共に10%弱であり、つまり日本株と中国株は、ほぼ平行して上がってきたのです。一方で、日本株が1万円を突破した水曜の翌日には、フランスとドイツがまたしても今年の年初来高値を更新しました。

 という訳で、日本株上昇が、自民党政権に対する有権者の期待の表れというのは嘘であるのは、第一に、その株の買い手は日本人ではなくアメリカのヘッジファンドであることであり、そして第二に、解散・総選挙以降株価が猛烈な勢いで上昇しているという表現ではなく、「11月半ば以降」という視点で言えば、この株価の上昇は日本だけにとどまるものではなく、実は日中欧米で世界同時株高が進行していることにも気付きます。

 株価など、ヘッジファンドが釣り上げようと思えばいくらでも可能なわけであり、重要なのは、その株価上昇に対して、市場やメディアが納得する状況をつくり出すことです。つまり、別に衆議院が解散せず野田政権のままでも、日本でもあるレベルまでは同じように株を猛烈に上昇させることは可能であったわけですが、とはいえ、それではいくらなんでも、日本株急上昇のためには、どうにも不自然です。

 そうであるならば、野田首相(当時)によるあの不可解な突然の解散は、やはり外部的要因、つまり外からの圧力によって仕組まれたものであることは、極めて濃厚に思います。(但し、この解散は、単に株価を吊り上げるためだけに仕組まれたものではないことも明らかですけど)

 また、不可解な解散というなら、日本は衆院選真っ只中にあったためまるで注目されていませんが、この間、実はイタリアのモンティ首相も突然辞任しています。しかも、その後任として政権を担うべく、ベルルスコーニが動き出しているともっぱらの噂なのです。もしベルルスコーニが政権の座に帰り着くようだと、突然の辞意・解散という経緯から、日本で自民党が返り咲いたのと、まったく同じということになります。

 そして、ヘッジファンドによるギリシャ国債購入から中国株上昇など、これら一連の動きは、すべてアメリカ大統領選でロムニーが負けたことを受けて突然始まったものなのです。この背景にあるものを読もうとしたのが、件の【新たなマネーゲームの始まりか? 金融マフィアの動きと衆院選の裏にあるもの】です。よろしければ、ご参照してみてください。

 ところで、先程語ったように、日中欧米で世界同時株高が進行しているなら、ひょっとしてこれは来年世界経済は上向くという前兆なのか? そう疑問に思う方がいらっしゃるかもしれませんが、その可能性は十分あるのです。それは何よりも中国です。中国の景気減速は既に底を打っています。そして、中国の状況が好転することは、芋づる的に波及して世界貿易を活発化させる可能性があるのです。おそらくマクロ経済指標では結構いい数字が出てくるでしょう。しかし、それと人々の生活が良くなるかはまったく別です。そもそも、マクロ経済指標が好転することが、市民生活には何ら直結しないということは、既に日本においても小泉〜安倍政権時代に実証済みです。企業は儲かっても、それが市民には還元されないということです。それともう1つ、今後世界で起こりうるのは、資源や食糧価格の高騰です。企業収益が賃金に反映されず、ただ物価だけが上がるという、経済用語で言うところのスタグフレーションの深刻化が懸念されるのです。

 ともかく、何度も申し上げましたように、ユーロ圏で暴れまわっているのがヘッジファンドなら、日本株を買い漁っているのもヘッジファンドなのです。こいつらが儲かるというのは、そのぶん市民は貧しくなるというのと同義です。

 そして、このヘッジファンドをめぐる動きとして、12月20日木曜に、無視できないニュースが飛び込んできました。それは、ICEインターコンチネンタル取引所が、NYSEユーロネクスト取引所を買収した、というものです。これについて解説します。

 ICEインターコンチネンタル取引所というのは、2000年に出来た新しい取引所で、原油取引の指標である北海ブレンドや、天然ガス、農作物先物などデリバティヴ(金融派生商品)を主に扱うところで、いわばヘッジファンドの巣窟のようなところです。それが、ニューヨーク証券取引所などを運営する伝統的なNYSEユーロネクスト取引所を買収したのです。これにより、220年に及ぶニューヨーク証券取引所の独立に終止符が打たれました。

 この買収は、つまるところニューヨーク証券取引所を手中におさめ、そうしてヘッジファンドの更なる勢力拡大を狙ったものです。ICEインターコンチネンタル取引所というところは、もう1つのヘッジファンドの巣窟であるシカゴ・マーカンタイル取引所と様々な面で争っているのです。そして実は、夜間取引時間(つまり外国時間)に日本株を大量に買い漁っている根拠地こそ、このシカゴ先物市場なのです。そして、このシカゴ・マーカンタイル取引所こそは、世界の取引所のなかで、最も規模も大きく、利益率も高いところなのです。そのシカゴ・マーカンタイルに対し、遅れをとっていたもう片方のICEインターコンチネンタルが追いつき、追い越すべく、今回の買収に踏み切ったのです。

 つまり、この買収を受けて、明らかに、ヘッジファンドたちによる利益を求める競争が、今後益々激化することが予想されるわけです。なにしろ、220年に及び独立を保ってきた伝統あるニューヨーク証券取引所を、最も強欲なマフィアが買収してしまったのですから。このことは、これまでシカゴから日本株を大量に買い漁ってきた別の勢力のヘッジファンドを当然刺激するでしょう。

 そして実は、去年の春以降、外資による証券取引所の買収工作そのものが世界的に活発化しているのです。しかし、たとえばドイツ証券取引所買収に際しては、ヨーロッパ委員会がその買収案件に対し独占禁止法に違反するという判決が出してこれを阻止し、あるいはトロント証券取引所では、国益を守るという理由でカナダ人の株主たちが抵抗して阻止し、またオーストラリアの証券所は、これも国益を守るためにと政府が買収を阻止しました。

 一方で、今回、ついにニューヨーク証券取引所は、ヘッジファンドの手に落ちたのです。そして今後、もしヘッジファンド東京証券取引所の買収に乗り出したとしたら、どうなるか? 東証が買収を仕掛けられる可能性は、十分にあります。そうなったとき、日本の株主や日本政府は、それを阻止できるのか? ヘッジファンド東証の買収に乗り出してきたとき、自民党国益を守るとしてこの買収を阻止できるのか? 今後の国政選挙において、我々日本の有権者は、そのことも十分踏まえたうえで、投票に臨む必要があるでしょう。

 ただし、ヘッジファンドの狙いは、この程度にとどまるものではありません。もっと恐ろしいことを企んでいます。しかし、それについては、また後日お伝えしようと思います